魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女のボランティア

 その日、ジャンヌは妖精界にある自分用の執務室で、1人の魔法少女が来るのを待っていた。

 

 椅子に座り、治療に関する書類を珈琲を飲みながら捌いていく。

 

 世界有数の回復魔法の使い手であるジャンヌは魔物の討伐数こそ少ないが、その能力から10位以内に入っている魔法少女だ。

 

 強さの面ではランカー最弱だが、世界に対する貢献度では魔法少女の中でもトップクラスとなる。

 因みに彼女の下に当たる9位の魔法少女は戦闘能力こそ高いのだが、書類関係や魔法局と妖精局の仲介など、戦闘以外の仕事が多すぎる為に、9位からランクが上がっていない。

 

 ジャンヌは書類を適当に放り投げ、楓から渡されたイニーフリューリングの情報を端末で読む。

 

 彼女は1週間ほど前に記録を初期化されたはずなのに、既にC級の魔物の討伐を複数行っており、既にランキングが上がり始めている。

 

 プロフィールの欄は相変わらずだが、愛称の欄にイニーが追加されていた。

 ジャンヌは、確かにイニーフリューリングは長いと思っていたので、自分もイニーと呼ぶかなと考える。

 

 イニーの記録の初期化にあたって、楓が結構な無茶をしたのを、ジャンヌはタラゴンから聞いた。

 魔法局はイニーに対して不正だなんだと叫んだり、魔法少女は魔法局に属するべきだとか好き勝手言っていた。

 

 楓はそれに対して馬鹿な事を言ってるなら日本の魔法局を潰すと脅し、イニーの件を有耶無耶にした。

 結果的にイニーの功績の初期化は妖精側にも何故か認められ、ランキング18位から転落して新人に逆戻りする形となった。

 

 ジャンヌは既に52位まで上がってるイニーのランキングを見て思案する。

 

 ジャンヌが初めて見たイニーは死体同然の状態だった。

 腹には大きな穴が開き、あちこちの骨は砕けており、更に全身火傷と多量の失血。

 

 心臓が動いていることには驚いたものだった。

 魔法少女だから生きていられたのか、イニーだから生きていられたのか……。

 

 その時のことを思い出し、ジャンヌは少し笑う。

 

 仕事柄色々と酷いものを見てきたジャンヌだが、イニーは1位2位を争う酷さだった。

 死体でならそこまでおかしくないが、生きている者ではそうはいないだろう。

 

 死んだ者を治せないのは今も同じだ。

 だが死んでなければ治すことができる。

 

 ジャンヌは回復魔法を使える者の要因を調べたことがある。

 ただの好奇心で調べ始めた事だったが、回復魔法を使える魔法少女には共通している点があった。

 

 それは……。

 

 部屋に4回のノック音が響く。

 ジャンヌは思考の海から抜け出し、どうぞと返事をする。

 

 扉が開き、白いローブを身に纏い、フードを被った少女が入室する。

 

「やあ待ってたよ。今日はよろしく頼むよ、イニー」

「……部屋の掃除をしていいですか?」

 

 ジャンヌの部屋に入ったイニーはあまりの散らかりように、挨拶より先に片づけを申し出た。

 

「ふむ。これでも少し前にタラゴンが掃除してくれたんだがね……」

 

 散らばった書類に、食べ終えたお菓子の袋やその他諸々で、部屋は酷い有り様だった。

 

 幸い時間には余裕があり、イニーはテキパキと片付けていき、最低限ソファーの周りと、テーブルの上を綺麗にした。

 

 イニーは備え付けられてる台所で珈琲を淹れ、ジャンヌと自分に配膳する。

 

「すまないね。自分でもやろうとは思うのだが、中々手が空かなくてね」

「助けてもらった礼だと思ってください。それで、今日は何をするのですか?」

 

「そう言えば君は新人だったね。なら、私がやっている無料治療会の説明を軽くしよう」

 

 楓考案のこの治療会は、始めてから5年程経っている。

 通常の怪我や病はもちろん、魔力による特殊な変異や病気も治している。

 

 治療会を始めた理由は、人口の低下による医師の減少や、薬などの物資が足りなくなってきたからだ。

 

 一応治療会をやる時は各国で許可を取ってからやっており、文句を言われることはない。

 だが魔力には上限があるので、治せる数には限りがある。

 

 なので、心無い言葉を投げかけられるのは日常茶飯事だ。

 やれ俺を先に治せだ、やれ子供が可哀想ではないのかと言われれば、精神的に辛いだろう。

 

 それに耐えられず、ジャンヌの下を去った魔法少女はかなり多い。

 ジャンヌ自身はその事に対して何も感じていないが、ひたむきに治療を続ける様子から聖女と呼ばれることもある。

 

 治療会自体は準備された会場で、来た人順で治していくだけだ。

 そして魔力が切れればそれで終わりとなる。

 

 一応警護用に魔法少女も配備されており、念のためランカーも1人は配備される。

 

 なぜそこまで厳重なのかと言えば、過去に指定討伐種(悪落ち魔法少女)の襲撃を受けたからだ。

 

 その時は一般人の多大な犠牲が出てしまい、ジャンヌも魔力が残っていなかったため、何もできなかった。

 警備に数人の魔法少女が居たが、なす術もなく殺されてしまったのだ。

 直ぐに他の魔法少女達が駆け付けたが、指定討伐種(悪落ち魔法少女)は逃げられてしまい、後味の悪い事件となった。

 

 その事件以降は警備にもしっかりと力を入れるようになったのだ。

 

「こんなところかな。理解できたかね?」

「おおよその部分は理解できました」

 

 ジャンヌはその様な事をイニーに説明した。

 だがイニーは先日アクマから、ランカーが来ることは聞いていたが、結局誰が来るかは話してもらえなかった。

 そのことを、今の内に聞いておこうと、イニーは思った。

 

「ランカーの方は誰が来るのですか?」

「おや? 知らなかったのかね? 今日は……」

 

 ジャンヌが名前を言う前に、扉が開く。

 

「待たせたな」

 

 白いパイロットスーツの様な衣装を纏った魔法少女。

 グリントがそこに立っていた。

 

「やあグリント。今日はよろしく頼むよ。そんな訳だイニー。今日の護衛役のグリントだ」

 

「イニー? ああ。そう言えば回復魔法が使えるんだったね」

 

 グリントはイニーの隣に座り、お菓子をつまむ。

 

 本当は4位のグリントではなく6位のフルールと呼ばれる魔法少女か、5位のタラゴンが護衛になる予定だったのだが、フルールは指定討伐種(悪落ち魔法少女)の捕獲のため来ることができず。

 

 タラゴンは長い休暇の代償で世界各地を転々としているため、来ることができない。

 

 その他の者も仕事が入っているため、最終的にグリントに白羽の矢が立ったのだ。

 

「役者も揃ったことだし、向かうとするかな」

「もう少しゆっくりとしたいのだがな……。主催はそちらなのだから、従うさ」

 

 イニーは2人が席を立ちあがり部屋から出て行こうとしている間に、カップとお菓子を片付けて、2人の後に付いていく。

 

 放置したまま外に出れば、また散らかってしまう。

 仕方なく片付けたイニーであった。

 

 今回の治療会の会場になるのは兵庫の明石市になる。

 なぜ首都ではない場所で治療会をやるのかというと、これは楓とジャンヌの意向である。

 

 首都ならそれなりに医師や回復魔法を使える魔法少女もいるので、それ以外を希望する楓と、人の少ない場所が良いジャンヌの主張が嚙み合った結果、首都以外からランダムに選ばれている。

 

 テレポーターで3人は魔法局関西支部に跳ぶと、そこには関西支部の局長が待ち構えており、会議室に通される。

 会議室には今回護衛として参加する魔法少女達と、オペレーターが数人いた。

 この魔法少女の中にはスイープも居る。

 

 ジャンヌ達は用意された椅子に座り、早速打ち合わせを開始する。

 

「関西支部では初めてとなるけど、流れは大丈夫かい?」

「はい。前回開催のあった九州支部から流れは聞いていますが……そちらの白ローブはもしかして?」

 

 ジャンヌと流れの確認をしていた局長だが、チラチラと視界に映る白フードが気になり、ついにジャンヌに聞くことにした。

 

「彼女は今回私の手伝いをしてくれるイニーだ。色々とあるようだが、今回はちょっかいを出さないようにね」

 

 ジャンヌは楓からの情報でイニーが魔法局から狙われていることを知っている。

 それは命をというわけではなく、魔法局に所属させる意味で狙われているのだ。

 

 イニーの能力は一般的に、普通の魔法と回復魔法。

 更に転移系と、結界に侵入できることから空間系も使えるのではと思われている。

 

 イニー1人居るだけで他の魔法少女の生存率は勿論、イニー本人の戦闘能力が高いので、どの支部も欲しがっているのだ。

 

 だが支部は良くても、魔法少女の間ではあまりイニーは良く思われていない。

 元をたどれば本人や魔法局が悪いのだが、稼ぎを横取りされているのだ。

 

 一応イニーに助けられた魔法少女もそれなりに居るのだが、魔法少女間ではイニーの評判は良いとは言えない。

 

「分かりました。私も死にたくはないので、あなたには従いますよ。

 それと、東北支部で起きた事件は知ってますか?」

「例の黒い魔法少女の事かな? 話は聞いているが、指定討伐種(悪落ち魔法少女)ではなさそうだし大丈夫じゃないかね?」

 

 先週起きた魔法少女による殺人未遂は魔法少女間では勿論、魔法局の間でもかなりの騒動となった。

 被害者となる魔法少女の証言で、加害者と魔法局の癒着が疑われ、それに伴ってランキング1位の楓が動いた。

 

 瞬く間に癒着していた職員を見つけ出し、物理的に処分した。

 東北支部は当面妖精局からの職員とランキング9位の魔法少女に監視されることとなった。

 

 また例の黒い剣を持った魔法少女の事も話題の1つとなる。

 被害者の魔法少女の証言により、正確な容姿は分かったのだが、名前については無いと答えられたせいで、分からないままだ。

 

 日本は勿論、他国の公式サイト(マジカルン)も容姿を元に検索をかけたのだが、該当が無かった。

 指定討伐種(悪落ち魔法少女)の疑いもかけられたのだが、今の所悪い事はしていないので、噂だけが残ったのだ。

 

 当の本人であるイニーはフードの中が見られない事を良い事に、アクマと会話を楽しんでいた。

 

「用心しといて損はありませんからね。此方の魔法少女達が外側で、白騎士が中で問題ないかね?」

「ええ。患者たちの誘導はしっかりとお願いするよ。それでは時間もあるし、早速行くとしようか」

 

 局長を先頭に会議室を後にする。

 会場までは用意されている車で向かうのだが、警護を担当する魔法少女の一部は走ったり飛んだりして付いてくる。

 

 ジャンヌとイニーは車だが、グリントはリンドに乗っての移動となる。

 この様子は一般のテレビで放送されており、魔法少女や魔法局の宣伝としても使われている。

 

 会場は既に行列と言いたいのだが、これは治療会だ。

 詰めて並ばれでもしたら死ぬ可能性のある者もいる。

 なので間隔は勿論、症状毎に並び方が違う。

 

 一応ここに来ている者には本当の重病者は居ないが、包帯を腕に巻いてたり、肌が爛れている者などが居る。

 ジャンヌとイニー、リンドを降りたグリントは大きなドーム状の部屋に入り、準備をする。

 

 案内は魔法局の者が行い、軽い診察の後にジャンヌかイニーが治す流れとなっている。

 

「今更聞くが、イニーはどれ位までなら治せる?」

「杖無しなので、正確には分かりませんが、大体どうにかなると思います」

「ほうほう、なるほどね」

 

 ジャンヌはイニーの回復魔法について驚きの表情をする。

 回復魔法の素養はある感情が起因しているとジャンヌは考えている。

 それはこれまでジャンヌが見て来た、回復魔法の使い手の統計から出した答えだ。

 

 そして回復魔法の強さはその感情の強さに比例していると考えている。

 ジャンヌも人の事は言えないが、イニーの心に宿る深い闇を思い、少々ニヤけてしまう。

 

「ならば交互に治療するとしよう。一緒にやるよりは効率は落ちるが、魔力の回復を考えれば、そちらの方が良いだろう」

「分かりました」

「私は適当に警戒してるとしよう。何事もなく終わる事を祈るよ」

 

 こうしてジャンヌの無料治療会は始まった。

 朝の9時から始まり、1時間のお昼休憩の後に18時まで治療は行われたのだが、なんと全ての患者を治す事ができたのだ。

 

 今回は欠損持ちの患者が居なかったのもあるが、イニーの活躍の結果だ。

 最初の内はジャンヌと交互に治療していたイニーだったのだが、途中でしびれを切らし、ジャンヌに広範囲回復魔法の使用して良いか聞いたのだ。

 

 ジャンヌはこれに対して面白半分で許可を出した。

 ジャンヌも範囲回復は出来るのだが、半径5メートル程が限度であり、それなりに魔力を使う。

 ならばしっかりと部位や病気ごとに治した方が燃費が良いのだ。

 

 だがイニーは怪我の患者のみだが、まとめて50人ほど治療したのだ。

 これには流石のジャンヌも驚き、大笑いしてしまった。

 

 結果的に外傷系はイニーが担当し、病気や特殊なものはジャンヌが担当する流れとなった。

 その結果どんどん治療が進み、結果的に全員を治す事ができたのだ。

 

 これには関西支部の局長も喜びを隠す事ができず、その場でイニーを勧誘してしまい、グリントに睨まれる結果となってしまった。

 

 久々に面白い事が起きたジャンヌはこの時忘れてしまっていた。

 自分という存在が狙われているということを……。

 こうしてイニーのボランティア治療会は幕を……閉じるはずだった。

 

 帰るために関西支部に車で向かっていたジャンヌ達だったのだが、緊急の連絡が入る。

 

 それはS級以上の魔物の出現を告げるものだった。

 

「みーつけた」

 

 それは誰かの声だった。

 出現場所は兵庫県明石市。

 現在イニー達が居る場所だった。

 

「今度こそ殺してあげるよ……ジャンヌ」

 

 そして……。

 

「ふむ。私とイニーだけが閉じ込められるとは……運が悪いと思わないかね?」

「似たような事が少し前にあったので、何とも言えません……」

 

 車を運転していた運転手は車ごといなくなり、突如展開された結界の中に、ジャンヌとイニーだけが取り込まれたのだった。

 

「まあなんだ。多分巻き込んだのは私だな」

 

 そう、切なげにジャンヌは呟くのだった。

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