魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

79 / 250
魔法少女は愚者となる

 アクマはフールから能力を受け取った後、パスが繋がっていることを確認してから、ハルナが偽史郎と呼んでいる男の下に向かった。

 

(早く! もう、一体どこに居るんだ!)

 

 今は1分1秒が惜しい状態だ。時間が掛かれば掛るほど、ハルナの負担が増え、死ぬ可能性が上がる。

 そんな状態での移動時間を、もどかしく感じていた。

 

(――そこか!)

 

 アクマの視界が開け、椅子に座っている偽史郎が現れる。

 偽史郎は椅子に座った状態で、イニーが戦っている様子をモニターで見ていた。

 

 周りには何もなく、暗い空間が広がっている。

 

「来たようだね……そうか。どうやら、フールは逝ってしまったようだね」

「私に全てを託してね。フールはなぜこんなことをしたの?」

 

 アルカナたちの中で一番お調子者であり、ムードメーカーだったフール。

 アクマや、数名のアルカナとは仲は良くなかった。

 だが、負けたり誰かが死んだときに、彼のおかげで立ち直れた者も居た。

 

 フールの事が嫌いだったアクマも、フールの有能さは分かっていた。

 だが、アクマが逃げ出す前の戦いで、フールと主張の違いで喧嘩をし、そのまま別れた。

 

 その時の喧嘩が未だに尾を引いており、アクマはフールを許すことができないでいた。

 

「ああ。と、言うよりは全員だろうね。既に数百戦、数百年戦い続けている。そして、1度の勝利すら得られていない。まともな人間なら、どうにかなってしまうだろう」

「……残り4人しか残っていないのね」

 

 システム的な存在として、アルカナ達が存在していたなら、また違った結果になったかもしてない。

 だが、幸か不幸か。彼ら彼女らには人間の様に人格が与えられ、人間と一緒に暮らしてきた。

 

 その結果、情が芽生えてしまった。

 

 契約した魔法少女と戦い、敗れ、別れていった。

 ……耐える事ができなかったのだ。

 

 アクマは少しだけフールの事を思うが、彼はもう居ない。

 フールが何を思って、アクマに託したのは分からない。

 

 だが彼のおかげで、アクマはハルナを救うことが出来るかもしれないのだ。

 

「ここに来たってことは、気が変わったかね? 逃げ出した分際で」

「私は……私はハルナを死なせたくないだけだよ。戦い何て……もう、失うなんて嫌だから……だから、私とのパスを繋ぎ直して!」

 

 偽史郎はアクマの目を見据え、ため息を吐く。

 

「……次は無いぞ?」

「ハルナが死ぬ時が、私の死ぬ時だよ。もう、私は逃げない!」

 

 それは、アクマの決意であった。

 自暴自棄となり、偶然見つけた人間に、魔法少女としての身体を与えた。

 最後の時を最も大切だった存在と、過ごそうと考えていた。

 

 適当にハルナで遊び、自分の中に空いた穴を埋めようとしていた。

 

 だが、ハルナは戦う道を選び、アクマの思惑通りにはならなかった。

 M・D・Wの時は多少なりとも心が揺れ、結局契約を結び助けてしまった。

 軽口を叩いて魔女の事を気にしてない素振りを見せていたが、内心はいつ魔女が現れるかとヒヤヒヤしていた。

 

 それからも、アクマは色々とハルナに影響され、再び戦線に戻る事を決意した。

 

 アルカナの中で、唯一契約者と共にあるアクマが負ければ、もう偽史郎たちに次の手は残っていない。

 魔女が原初の世界を見つけ出し、その身諸共滅びるのを指をくわえて見てるしかない。

 

「そうか。ならば、今一度力を授けよう。どうか、希望の光となる事を願う」

 

 アクマの上下に魔法陣が現れ、光が溢れる。

 光が収まると、アクマの左腕の甲に悪魔の紋章が一瞬だけ浮かんだ後に消えた。

 

「ありがとう」

「なに、やるべきことをやっているだけだ。魔女さえ倒せれば、過程などどうでも良い」

「ふん。魔女が倒せても、()()()()を倒せないと意味がないじゃないか。それと、ハルナと変な契約をしたみたいだけど、許さないんだからね!」

 

 アクマはそう言い残し、ハルナの所に戻る為、ゲートを出して消えた。

 

 偽史郎はアクマを見送り、再び視線をモニターに戻す。

 そこにはマスティディザイアを囲むように4つの魔法陣を出し、魔法を唱えているイニーが映っていた。

 

「さて、ギリギリ間に合うかどうかと言った所だろうか。奴の目を見て、彼女が壊れなければ良いが……」

 

 イニーが負ければ、偽史郎が取れる手は無くなる。

 残っている3人。イブ(女教皇)エルメス(恋人)サン(太陽)

 既にアルカナたちには、自分の手で戦えるだけの気力は残されていない。

 

 力を取り戻し、フール(愚者)の力を取り込んだアクマとイニーがどれだけ戦えるかは、偽史郎には分からない。

 それでも、マスティディザイアに負ける事は無いだろう。

 

 だが、急に力を手に入れ、マスティディザイアを倒すイニーを見た者はどう思うだろうか?

 それだけが、偽史郎は心配だった。

 

 

 

 

1

 

 

 

 アクマが消えてから約4分半経過し、何とか準備は出来た。

 1回だけヘマをしてしまったが、それ以外は順調と言った所だろう。

 左腕がまた斬り落とされたが、流石に再生する余裕がなく、止血するだけで精いっぱいだった。

 

 だが、その左腕を触媒にすることにより、最も欲しかった時間を稼ぐに成功した。

 

 マスティディザイアの四方と上下に魔法陣を展開し、そこから鎖が出て、マスティディザイアを拘束している。

 持って1分だろうが、それだけあれば十分だ。

 

 詠唱も既に半分以上終えている。

 後はアクマが間に合うかどうかだが……。

 

「終わりなき旋律は世界に満ちる。悲しみを忘れた悪魔は反転する。憐れに踊る天使は許しを請う。抜けた羽は剣となり、咎人の前に突き刺さる。矛盾の邂逅は神を歪め、審判が下される」

 

 鎖に繋がれた状態のマスティディザイアを中心に、円形の魔法陣が5枚展開される。

 

秩序の無い(カオス・エ)世界に救済を(ンド・ワールド)

 

 円形の魔法陣が変形し、無数の黒い魔法陣を作り出す。

 そして、光が降り注いだ。

 

 ふと、ガラスが割れる様な甲高い音が鳴り響いた。

 

 俺の魔法が消え失せ、世界が黒く染まっていく。

 恐ろしい咆哮と共に悍ましい気配が漂い、何が起きたのかを否応にも感じさせた。

 

 遂に顔の拘束具が外れ、マスティデザイアが本気になったのだ。

 

 ああ、戦いとは甘美なものだな。恐ろしく、身体が竦む様な咆哮と気配なのに、胸が高鳴ってしかたない。

 

 右腕と左腕は黒く禍々しくなり、4枚の翼が6枚に増えている。

 鎧の様なものも纏っており、さながら悪魔の騎士と言った所か。

 

 顔は見ない方が良いだろう。目が合えばどうなるか分からない。

 それに、身体の節々に違和感を感じるようになり、魔力が妙に纏まらない。

 これが、アクマがデバフと言っていたものかな。

 

『戻ったよ! ああ、もう頭の拘束具も……って、左腕はどうしたのさ!』

 

(ヘマして斬られたんだよ。回復する余裕すらないからこの有り様さ)

 

 ついでに、ヘマした原因は黒い翼を消したからだ。

 魔力を節約するために消したら、回避が間に合わなかったのだ。

 

 今回だけで2回も腕を落とされるとは思わなかった。

 

(それで、俺はどうすれば良い?)

 

『後20秒だけ待って。フールと合わせて2人分の能力があるから、ハルナ用に合わせるのにもう少し掛かるの』

 

 20秒か……既にまともに魔法を使う魔力は残っていない。

 今展開している”フリューゲル”も持って1分。急な動きをすれば更に縮まるだろう。

 

 先ずは逃げ……。

 

 ――マスティディザイアから距離を取ろうとすると、瞬く間に距離を詰められる。

 

 何とか逃げようとするも、まともに反応することが出来ない。

 

(チッ! 間に合わないか)

 

『クソ! ハルナ!』

 

「うっ……かは」

 

 マスティディザイアの左腕の剣が、俺の腹に深々と突き刺さり、口から血が溢れる。

 何とか魔法を唱えようとするも、身体の力が抜けていく。

 

 そして、視界にマスティディザイアの顔が映る。

 

 赤く光る眼。そして、その顔は俺をいたぶるのが楽しいのか、笑っていた。

 

 何かが脳に入り込むような感じがすると、古い記憶が呼び起こされる。

 

 ああ…………そう………………か。

 

 とても、とても懐かしい。

 忘れたくて封印していた俺の記憶。

 本当の姉である魔法少女が、違う魔法少女に殺された、あの日の思い出。

 

 憎しみが、怒りがふつふつと湧いてくる。

 魔物に弄ばれる人々。有り余る力を振るう魔法少女たち。

 欲に塗れた大人や、他人を顧みない妖精。

 

 そして、様変わりし、壊れていく世界。

 

 呪いましょう。怨みましょう。数多(あまた)の絶望の声を上げて。

 狂いましょう。踊りましょう。世界の嘆きを届けるために。

 俺の意識が()に染まっていく……。

 

『良し、出来た! ハルナ! しっかりして! お願い! 私を1人にしないで……』

 

 ああ、アクマの声が聞こえるわ。

 あなたは今も変わらず、寂しがりやなのね……。

 

(アクマ。早く力を寄こしなさい。まだ……終わるわけにはいかないわ)

 

 マスティディザイアの大砲が()の顔に照準を合わせる。

 

『ナンバーゼロ・愚者(フール)解放(リリース)って唱えて!』

 

 砲身がゆっくりと輝いていき、後数秒もしない内に砲弾が撃たれそうだ……。

 勿体ぶって溜めているのを見ると、あの時の姉の顔を思い出すわね……。

 とても……とても優しそうな顔をしていた……。

 

 ――違う。これは俺でも、私でもない…………混ざっている?

 

「ナンバーゼロ…………愚者(フール)…… 解放(リリース)

 

 最後の気力を振り絞り、アクマの言った通りの言葉を口に出す。

 

 ギリギリ右手にぶら下っていた杖が輝き、私を魔法陣が囲む。

 

 魔法陣にマスティディザイアの砲弾は弾かれ、同時にマスティディザイアを吹き飛ばす。

 腹に刺さっていた剣が抜け、少しだけ血が飛び散った。

 

 魔力が急速に回復し、左腕や傷が治っていき、意識が回復する。

 

 白いローブは青く染まり、マントに変わる。

 消し飛んでいたフードは、二股に分かれた帽子となり、黄色と青の2色に分かれる。

 

 服装も様変わりし、愚者(フール)と言うよりは道化(クラウン)と言った所だろ。

 偽の魔法少女にはお似合いの姿かもな。

 

 そして、木製だった杖が形を変え、2つの水晶の様な球に変わる。

 

 両肩の辺りに片方ずつ浮き、淡く光を放っている。

 

 これが俺の愚者としての力か……なるほど、素晴らしいものだな。

 

 ――そうか、愚者(フール)は俺の可能性と、アクマの意思に賭けたのか……全く、アルカナとは愚かであり、悲しいものだな。

 自我を与えられたばかりに、情など持ってしまって……。

 

『今のハルナだと持って2分だよ。それ以上は身体が持たないからね』

 

(それだけあれば十分だ)

 

 2つの玉を前方に出し、マスティディザイアが撃ち出すレーザーを弾く。

 それからも無数に撃たれる砲弾は、全て意味を成さない。

 

 白魔導師の時なら防ぐこともできず、即死するような攻撃が、今は御覧のありさまだ。

 

 この玉だけで全て防ぐことが出来る。

 

「選定しよう」

 

 球が眩い光を放ち、2つの魔法陣が現れる。

 

「我は愚者。愚かに踊り、笑う者。望むは果て。見出すは可能性」

 

 大砲による攻撃が効かないと判断したのか、マスティディザイアは剣を振りかぶって突進してくる。

 

 しかし、玉から出た2つの魔法陣がマスティディザイアを挟み、拘束する。

 

 あれほど苦戦していたと言うのに、儚いものだ……だが、これでも魔女には到底及ばないのだろう。

 

夢見た愚者は涙した(フール・ザ・レクイエム)

 

 片方の魔法陣から羽が、もう片方から花びらが噴き出し、マスティディザイアを覆い隠す。

 

 苦しいのか、マスティデザイアは咆哮を上げ、もがき苦しむ。

 

『オマエハナンノタメニタタカウ?』

 

 咆哮が頭の中に響いてくる。

 

 それはマスティディザイアの声だったのか、あるいは幻聴なのかは分からない。

 

 何の為に……ね。

 

「そんなものは無いさ。()にはね。戦えればそれで良い」

 

 魔法陣が消え、羽と花が晴れると、そこには何も残っていなかった。

 

 黒く染まっていた景色が晴れ、愚者から白魔導師に戻る。

 そして、シミュレーションから現実に戻る。

 

 俺のポッドの中には夥しい量の血が溜まっていた。

 おそらく、シミュレーション中に起きたダメージがフイードバックしていたのだろう。

 全く、魔女は面倒くさい事をしてくれる。

 

 愚者の能力を解いたせいか、あれ程満ちていた魔力がほとんど無くなり、通常時の1割程度しか残っていない。

 そこまでもフィードバックしなくてもいいと思うが、これではまともな回復も出来ない。

 

 身体はまともに動かないし、視界も霞む。

 何とかポットの外に出ると、機材の整備などをしていた妖精は全員殺されており、誰も居ない。

 

 まだ他の魔法少女たちは目覚めていないようだな。

 

『ハルナ。辛いのは分かるけど、一旦逃げるよ』

 

 まあ、そうなるよな。

 元々この新魔大戦が終わったら居なくなる気だったが、そんな悠長なことも言ってられない。

 

 俺とマスティディザイアの戦いは世界中の人々に見られていた。

 新人が覚醒とは違う力を使い、SS級の魔物を倒したのだ。

 唯でさえ疎まれている俺だ。上の連中が何を言ってくるか分かったものではない。

 

 最悪、魔女の仲間と糾弾される可能性もある。

 

 一旦身を隠し、状況がどうなるか見極めた方が良いだろう。

 

(アクマ……頼んだ)

 

 場所は俺とアクマが初めて会った公園で良いだろう。

 あそこなら誰も来ないし、ベンチがある。

 

 多少寒いが、休むには丁度良い。

 

癒しよ(ヒール)

 

 なけなしの魔力を使って、怪我を治す。

 流石に血に染まったローブを綺麗にする余裕は無いが、仕方ない。

 

 俺の姿が転移によって消え始める。

 そんな時、爆音が鳴り響き、シミュレーター室の扉が吹き飛んだ。

 

 景色が変わる瞬間に、泣きそうなタラゴンさんの顔が、見えた気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。