モモンは、王都にあるロ・レンテ城の王の間にてレエブン候の後ろで特別に護衛の為に立っていた。
まったく護衛の為とは言え、王の間だから素手で御立派な服を着て参加しろとはな。
モモンは、今はレエブン候から与えられた非常に凝った装飾の最高級の服を着て、偽の英雄の顔を晒して素手で護衛の任を与えられていた。
王の間という事で今回は特別に希望する貴族に一人の護衛を付けて良いと王から許可を貰った貴族達が慌てて護衛を探して傍に仕えさせている。
辺りを見渡すと貴族達の後ろに明らかに雰囲気が違う者達が立派な服に身を包み、王族の前という事で素手で貴族達を護衛をしているのが見て取れた。
そろそろだなと腕に巻いた帯状の時計に目をやると、王の間の中央で旋風が巻き起こり、そこから黒山羊頭で黒い礼服に赤いマント、胸には煌びやかな勲章が沢山ついた男が現れた。
黒山羊頭は靴を揃えると両手を広げて声を高らかに上げた。
「リ・エスティーゼ王国の王よ!魔皇ヤルダバオトが来たぞ!犯罪組織〈八本指〉が隠した悪魔像は見つけられましたか?見つけられたなら此処に出しなさい」
「貴様、悪魔だが何だが知らないが無礼な、殺してやる」
「木っ端貴族共が五月蠅いですね。『王家以外の者は跪け、声を立てるな』」
貴族達や護衛達がスキル〈支配の呪言〉の効果で跪いて辺りが静かになった頃、モモンは立ったまま黒山羊頭の悪魔ヤルダバオトに声を掛けた。
「おい、この奥義(スキル)は時間経過で解けるんだろうな。私の護衛対象が跪いてしまって困るんだがな。私の護衛対象はレエブン候なんだが彼だけでも解いてくれないか?」
「おお、私のスキル〈支配の呪言〉を素の能力で撥ねのけるとは素晴らしい。いいでしょう、『レエブン候は自由にして良い、ただし会談が終わるまで喋るのは禁止だ』」
レエブン候は立ち上がり腕を振るって黒山羊頭の悪魔ヤルダバオトを指差して何かを伝えようとしているが、何となくは分かるが、はっきりとした事が分からないので困るな。
「レエブン候、落ち着いてください。追加の依頼なら正式な文書で交わして頂かないと困ります」
レエブン候は、それを聞くとガックリと肩を落として項垂れてしまった。
すまないな、此処は分からない振りをしてないとデミウルゴスの計画を邪魔してしまうからな。
「さて、そこの方も別に邪魔はしないようですし、先を続けますよ。王よ。悪魔像を出しなさい。出さないと王都に我ら悪魔の軍団が攻め込みます」
「悪魔像は無い。犯罪組織〈八本指〉の拠点を探したが見つからなかった。本当に悪魔像は、犯罪組織〈八本指〉が隠しているのか?」
「くどい!渡さないと言うのなら、我ら悪魔の軍団はリ・エスティーゼ王国に宣戦布告する。夜を楽しみたまえ。『自由にして良い』では、さらばだ」
黒山羊頭の悪魔ヤルダバオトは旋風と共に掻き消え、貴族達は自由になりモモンを糾弾し始めた。
「何故、あの悪魔ヤルダバオトを自由にさせたのだ。この国の為に戦うべきだろう」
「無理ですね、装備も無いし。そもそも護衛の依頼で、こちらを攻撃していないのに戦う契約になってないのですから。後、私は旅の冒険者で此の国の為に戦うべきと言うのは的外れです」
「さてレエブン候、追加の依頼書を作成して冒険者組合を通して私に依頼をして下さい。まあ魔皇ヤルダバオトの討伐又は撃退になるのでしょうが」
「ああ、分かったよ。まさか言葉を喋らせないとはな、まあ喋れたとしても君は依頼書が出てないと断っただろうな」
「ええ、口約束を信じるほど馬鹿ではありませんから」
モモンは、王の間を出た所でモモン一行と合流して装備を整え、レエブン候の護衛を務めていると冒険者組合の封書が届き中身を確かめ皆にも(もちろん死の宝珠にも見てもらった)見て貰い問題無いことを確かめた。
「魔皇ヤルダバオトの討伐又は撃退、及び悪魔の軍団への攻撃要請ですね、その他の事は冒険者の判断に任せると書いてますね。そろそろ日も暮れる、悪魔が言っていた夜を楽しむ時間がやってくるので王都の警備兵達は街外からの襲撃があれば防衛して貰い、我々は護衛を他チームに引き継いで街中を警邏するぞ」
さて悪魔は異なる世界から来た存在と言う風にユグドラシルでは設定されていたせいか、ほとんどの悪魔や魔神は倒されると存在を維持できなくなり黒い靄となって消えてしまう。
だから悪魔を倒した証拠が無い、此処はモモンが活躍して悪魔や魔神を倒したことを多くの人に目撃されないと意味が無いな、その点に気を付けて戦うか。
日が落ち辺りがすっかり暗くなった頃、モモン一行が街中を警邏していると通りを一つ挟んだところで剣戟の音が聞こえ、叫び声や怒鳴り声が聞こえて来た。
これは活躍の機会か、大勢いるようだしモモンのリ・エスティーゼ王国の王都の英雄譚の始まりとして丁度良いな。
モモンは、死の宝珠に支援魔法を掛けてもらい準備万端だ。
「皆、助けに行くぞ」
「はい、モモンさーん」
「了解です。モモンさん」
「はい!行くよ!」
「戦いでござるか?拙者の尾の一撃を敵に喰らわせるのが楽しみでござる」
モモン達一行が走って現場に向かうと、そこでは多くの冒険者が倒れ伏して、冒険者達と戦っている様々な悪魔達が居るようだ。
蛙と人を融合させたような〈オーバーイーティング/魂食の悪魔〉、大型の犬に似ているが目は邪悪さに染まり、口からは涎の代わりに炎が噴き出されている〈グレーター・ヘル・ハウンド/上位地獄の猟犬〉、皮膚を全部剥ぎ取られ、代わりにヌルヌルとした黒い液体を付着させた人間のような〈ゲイザー・デビル/朱眼の悪魔〉、身長3メートル程で、爬虫類の鱗に包まれた筋骨隆々の肉体に蛇のような長い尻尾、蝙蝠の翼、頭部は山羊の骸骨でぽっかりと空いた黒い眼窩には青白い炎が猛り狂っていて、太い腕には巨大な大金槌を持っている〈スケイル・デーモン/鱗の悪魔〉などが冒険者達と戦っていた。
〈蒼の薔薇〉のガガーランが悪魔〈アビスデーモン/深淵の悪魔〉と激しい鍔迫り合いをしているのが見えた。
悪魔〈アビスデーモン/深淵の悪魔〉は自分の体躯ほどの斧槍を持ち、4本角の山羊に似た骨の兜を身に付けた灰色の肌の上半身裸で下半身はズボンに靴を履いた黒翼の悪魔だ。上半身には様々な魔法刻印が施され能力値を上昇させているのかもしれない。
「スキル〈二連斬〉!」
ガガーランはアビスデーモンの斧槍の2連撃を交わし、避けているが流石に厳しそうだ。
イビルアイが魔法《クリスタルランス/水晶騎士槍》をティアとティナが手裏剣をアビスデーモンに撃ち出すが、アビスデーモンは斧槍を回転させ飛び道具を打ち砕いた。
ラキュースが〈フローティング・ソーズ/浮遊する剣群〉でガガーランを支援しようとアビスデーモンに向けて叫んだ。
「射出!」
〈浮遊する剣群〉がアビスデーモンに襲い掛かり、アビスデーモンが斧槍で薙ぎ払って〈浮遊する剣群〉を吹き飛ばす。
モモンは、薙ぎ払った直後で態勢が崩れたアビスデーモンに双大剣で一撃を入れ、防御されたものの後退させることに成功した。
「〈蒼の薔薇〉の皆さん。アダマンタイト級冒険者チーム〈漆黒〉のモモンが援護に来ました。もう大丈夫です。ソア、ニニャ、ナーベは他の冒険者達を助けよ、ハムスケは魔術師達の護衛だ」
「おう、モモン。助かったぜ、ありがとよ」
ガガーランは、アビスデーモンが後退した事により一息つけたのか額の汗を拭いながら答えた。
後退したアビスデーモンに好機とばかりにラキュースが大技を繰り出す、魔剣〈キリネイラム〉を腰だめに構えて叫びながら魔剣を振るった。
「超技! 〈ダークブレードメガインパクト/暗黒刃超弩級衝撃波〉!!」
魔剣〈キリネイラム〉の漆黒の刀身には夜空の星を思わせる輝きがあり、魔力を注ぎ込むと刀身が膨れ上がって、地上に無属性エネルギーの大爆発を起こしたのだ。ちなみに叫ぶ必要は無い。
だがアビスデーモンが黒翼を羽ばたかせ空中に避難しており、魔剣〈キリネイラム〉の技が外れてしまった。
アビスデーモンは、空中で翼を羽ばたき魔術師から片付けようとイビルアイに狙いを定めて急降下しつつスキルを唱え斧槍を振るった。
「スキル〈肉体強化〉、スキル〈深淵閃断〉!」
「危ない!イビルアイさん。〈武技・閃光走破〉!」
モモンは、イビルアイを片腕に抱き武技を唱えて、その場から離脱した。
アビスデーモンのスキル〈深淵閃断〉により、イビルアイの居た場所は斧槍によって青黒い剣筋が地面を分断し、スキルによる何かを焦がすような音が鳴り響き威力を物語っていた。
アビスデーモンは地上に降り立つと続けて、イビルアイを片腕に抱いたモモンに対して斧槍による回転撃を喰らわせようとしたが、モモンの持つもう片方の大剣でイビルアイへの攻撃は防いだが鎧を削る音が響き渡り完全には防げなかったようだ。
回転撃により兜が割れ、幻術《パーフェクト・イリュージョン/完全幻覚》の効果で額が割れ血に塗れた本物そっくりな顔が露わになる。その顔を間近で見てイビルアイは体を硬直させているようだ。
うーむ、怖がらせちゃったかな。幻術の効果とは言え血を流しているのを見られたのは格好悪い所を見せてしまったな。
モモンは〈武技・閃光走破〉を唱え、後方に退避する事で戦線を離脱してイビルアイに話しかけた。
「大丈夫ですか?イビルアイさん立てますか?」
「は、はい。モモンさん」
モモンは、イビルアイを後ろに立たせるとアビスデーモンに向き直り双大剣を向け武技を唱えた。
イビルアイが両手を組んで、モモンに祈りを捧げているのが目の端に映る。
「〈武技・漆黒付与〉、〈武技・七彩強化〉、〈武技・黒曜石剣の円陣〉!〈武技・閃光走破〉!!」
「……がんばれ、ももんさま」
モモンは、アビスデーモンに〈武技・閃光走破〉で足元に土煙を起こし急接近して、モモンの頭上を取り囲む3つの黒曜石の剣が切り裂く為に舞い踊り、両手の双大剣で斬り飛ばそうとしたが、アビスデーモンは斧槍を巧みに操り、3つの黒曜石の剣は斧槍の平部分で砕かれ、双大剣は斧槍による回転の力で弾き出された。
モモンは、上に弾かれた双大剣をアビスデーモンに振り下ろした。
アビスデーモンは此れを迎え撃つ。
「〈武技・双剣斬撃〉!」
「スキル〈深淵閃断〉!」
斬撃同士が、ぶつかり合い火花を散らし両者一歩も譲らず、モモンが双大剣を勢いよくぶつけて一旦距離を取った。
アビスデーモンがモモンに近づき、斧槍で上段から真向斬りしようと振り下ろしたが、モモンが武技を唱え振り下ろされる斧槍を大剣で受け流す。
「〈武技・パリィ〉、……〈武技・星光連撃〉!」
モモンは、武器を受け流され態勢が崩れたアビスデーモンに〈武技・星光連撃〉を喰らわせたのだった。
モモンのマントが広がり闇夜のように見え、煌めく剣閃が無数に天空の星空の光の如く見えたかと思うと、アビスデーモンは細切れに成り体の大部分が抉られ倒れていた。細切れになった体の破片や倒れたアビスデーモンの体からは黒い靄を出しながら地上で燻って徐々に消滅している。
ふむ、相手の武器が長物のせいか〈武技・パリィ〉で受け流してからの〈武技・星光連撃〉の当たりが浅かったか、外れてたら目立てないから名声を稼ぐのが出来なくて危なかったな。
さて、まだ悪魔達は沢山召喚されて冒険者達と戦っている、デミウルゴスは多く召喚悪魔を倒して欲しいと言ってたから頑張らないとな。
モモンは、懐からハンカチを取り出し額の血を拭っていると幻術《パーフェクト・イリュージョン/完全幻覚》の効果で血が出ていたのが止まり、元の偽装された英雄の顔が現れた。
その時、王都の一角を巨大な炎の壁が取り囲んだ。あの辺りは王都の倉庫街辺りか。
「あれは、……ゲヘナの炎」
モモンの傍に走って来たイビルアイも、その言葉を聞き巨大な炎の壁を見て立ち尽くす。
まだ夜は始まったばかり王都の災難は、まだまだ続く。
・スキル〈二連斬〉
オリジナル設定、この小説では【オバマス】のスキルをこのようなスキルに変えています。
素早く斬撃を2回攻撃するスキル。一日の使用回数が決まっている。
・スキル〈肉体強化〉
オリジナル設定、この小説では【オバマス】のスキルをこのようなスキルに変えています。
肉体能力を一時的に増大させる。一日の使用回数が決まっている。
・スキル〈深淵閃断〉
オリジナル設定、この小説では【オバマス】のスキルをこのようなスキルに変えています。
持っている武器に深淵の力を付与して攻撃する。一日の使用回数が決まっている。
深淵の力とはアンデッドにも効く毒状態に似た焼け付くような痛みを与える青黒い物理的な力の事。