バハルス帝国の学問の中枢部ともいえる帝国魔法学院、そして帝国における魔法の真髄であり、魔法武具の生産、新魔法の開発、魔法実験による生活レベルの向上研究などが執り行われている帝国魔法省、リ・エスティーゼ王国と比べて魔法にも力を入れている帝国だ。
現在、帝国魔法省の幾つもの塔が立ち並び、高い石塀に囲まれた建物のとある一室、応接室にてモモンが主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインに会っていた。
アダマンタイト級冒険者に会えると、冒険の話や詳しい新たな魔法の話ができるかもしれないとフールーダは、急な訪問でも会ってくれたのだ。
主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインは、 髪も雪のように白く長い老人に見え、瞳は鋭く叡智の輝きを宿している。
純白のゆったりとしたローブを纏い、小さな水晶球を無数につなげたネックレスを首から下げ、全ての指に無骨な魔法の指輪を嵌め、身長の半分ほどの長さがある白髭を、その手で梳りながら応接室に設えられたソファーに座っていた。
モモンは、ナザリックの情報からフールーダが魔法を求める求道者の側面を持つと聞き、椅子に座るとおもむろに〈探知系から完全に身を隠す指輪〉を外すことで、その迸る凄まじいまでの魔力の奔流をフールーダに浴びて貰い、自らの実力を理解して貰った。
「モモン様、御願いです。何卒、私をあなた様の弟子にしてください!」
おお!いきなりだな。弟子とか、こんな御爺ちゃんを弟子にするなんて何をどうすれば良いのだ?
這いつくばって靴を舐めそうな勢いで迫って来たので慌てて言葉を切り出した。
「弟子か。お前は何を私に差し出せるのだ?例えば……」
「全てを捧げます!!そう、私の持つ全てを御身に支払います!私はモモン様の偉大な魔法の力に魅せられ、その力の一端、モモン様の叡智、魔法の技を伝授して頂きたいのです。何卒、お許しくださいますよう、お願いいたします」
(モモン様、死の宝珠です。この御老人、タレントがあるとはいえ見る目がありますね。モモン様、喋っても宜しいでしょうか?)
死の宝珠が無詠唱で《メッセージ/伝言》で話しかけて来たので、後で機会を作ってやるから、そこで話しなさいと言っておいた、
まあ事前に調べていたフールーダのタレント「看破の魔眼」で実力差が分かるとしても全部かぁ、この御爺ちゃんも思い切ったことを言うな、……「見る目がある」か、まあ話が早くて助かるが。
「私は、冒険者をやっているが実は異形種で〈オーバーロード/死の支配者〉だ。このように骸骨の姿をしたな」
モモンは、そう言いながら兜に片手を当てると白い光が頭を包み、赤い眼光を宿した骸骨の頭が現れた。
「オーバーロードという種族は聞いた事がございません。その叡智は、やはり人以上の存在の方でしたか。私の思いは変わりません。どうか魔法の叡智を、極致を、技術を私に伝授して貰えないでしょうか」
「ほほう、異形種でも気にしないか。私の真の名は、アインズ・ウール・ゴウンだ。お前を弟子にしてやろう。だが私は人に教えた事が無い、お前に教える事はできないが、私の魔法の技をその目で見て学ぶ事を許可しよう。それと拠点の図書館の本を読み研鑽を積むことも許可しよう。さて指輪を2つ授けよう。これが〈リング・オブ・サステナンス/維持の指輪〉と〈転移の指輪〉だ、〈維持の指輪〉は食事・睡眠が不要になる指輪で、お前の修行の助けとなろう。時々は外して食事や睡眠を楽しみなさい。〈転移の指輪〉は魔力を込めれば拠点に転移できる物だが、拠点の部下にお前の事を伝えなくてはいけない為に3日後の夜に使うようにせよ。それと転移の時期は夜間に誰にも見つからないように使用しなさい、昼間は当分の間はバハルス帝国で仕事をするようにせよ。いきなり帝国から、お前を引き抜いても困るだろうしな」
「はいっ、ありがたく指輪を頂戴します。弟子にして頂き真にありがとうございます」
フールーダは2つの指輪をまるで神からの贈り物を受け取ったかのように、静々と手を上げ指輪を頂いた。
モモンは、骸骨の頭に片手を当てると白い光が頭を包みこみ、頭を覆う目元に隙間がある兜を被り、おもむろにフールーダに噂を流すように命令した。
「私は、王国のカルネ村から北東の平野にある大墳墓の遺跡の主で今回、遺跡の隠蔽を解き、周囲の国がどのように対応するのかが見てみたいのだ。だからフールーダには、それとなく帝国に大墳墓の遺跡の場所を教えて欲しい。フールーダは求められれば助言する事は許そう、だが此の国が下手を打っても余計な手出しはするな。大墳墓との交渉を上手くやれば同盟国又は条件付きの属国、交渉に失敗すれば戦闘になり無条件降伏すれば属国として生かしておいてやろう」
「ははっ、アインズ・ウール・ゴウン様!了解いたしました」
「さて、堅苦しい話は此処までとしよう。死の宝珠よ、話しても良いぞ」
『はい、御老人。フールーダ殿、初めまして死の宝珠といいます』
死の宝珠に対して知性あるアイテムを始めて見たフールーダは、ニニャから黒宝珠の杖を受け取り、あれこれと杖に嵌め込まれた宝珠を調べながら死の宝珠と話していた。
死の宝珠は、フールーダがデスナイトを支配できない事を嘆いている事を知ると様々な知識を授けて、帝国の主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインは興奮した口調で驚嘆の声を上げていた。
「おおっ、なるほど。このように術式が変化するのか実に、実に興味深い」
『はい、私の術式の試作開発は貴方が使う術式の試作開発とは異なりますので些細な違いは有りますが、おおむねの理解は其れで良いかと試作開発魔法には限定と私が呼んでいる技法を使い、増強で強化すればデスナイトを使役することは十分可能です。ですが、そんな事をせずとも貴方は既に第六位階を使えますので冒険で己の力を磨き、魔法強化系スキル《オーバーマジック/魔法上昇》を使えば大儀式でデスナイトは容易に操れましょう』
「ほほう、魔法の奥義(スキル)にそのような物があったとは知らなかった。素晴らしい、知識がどんどん増えていくのが嬉しいぞ、しかし冒険か、宮廷魔術師の身では難しいですな」
『それなら、戦闘の勘が鈍るので、あまり御勧めできませんが大墳墓にある闘技場にて訓練を積まれると良いでしょう。実戦さながらの訓練を積めます。もし死んでしまう事があっても復活できますので安心ですよ』
フールーダは冒険に出れなくても闘技場で訓練できると聞き、喜んでいるようで顔を綻ばせていた。
モモンは、そろそろ話を変えようと以前に帝国魔法学院に通っていたと言っていたアルシェについて話を向けた。
「さて話は済んだか?それでは話をしよう。この帝国で色々手助けしてもらった子がいてね。その子はアルシェ・イーブ・リイル・フルト、以前は帝国魔法学院に通っていたが、親が貴族を辞めさせられた所為で学院を辞めてワーカーチーム「フォーサイト」のメンバーになっていたよ。この子を元の貴族に戻して貰えないか?ああ親は、禄でなしと聞いているから領地の仕事をさせるなら代理人にさせるべきか、それともアルシェへの家督継承を勧めるかだな」
「いつの間にか辞めていたアルシェですか、先が楽しみな子でしたが貴族で無くなった所為で学院を辞めてワーカーになっていたとは……。いいでしょう、アルシェの将来の為にも皇帝に貴族にして貰えないか聞いてみます。アルシェが帝国魔法学院に復学を望むなら無料で迎えましょう」
「うむ、頼んだぞ。ところで帝国で強い者は、お前以外で何人いる?」
モモンは、現在皇城内の練兵場に招かれ帝国四騎士と相対していた。
練兵場から一段高い場所に客席のような物が据えられ、フールーダと何人かの護衛と共に立ち、大勢の兵士達に向け手を上げて答えているのは皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだろう。
金細工の首飾りや頭飾りを身に付け細かな装飾の入った金細工の服を着ていて、眉目秀麗で金髪に、濃い紫で切れ長の瞳をしているのが分かる、背はすらりと高く、兵士達や将軍に薄く笑みを浮かべて答えている。
わざわざ皇帝が見に来るとはな、フールーダに帝国四騎士が強いと聞いて戦ってみたいと言ってみれば、有名な帝国四騎士と訓練の上とはいえ戦ってみせる事になったのだから気になるのだろう。
見るからに好青年だが多くの貴族を粛清した事から「鮮血帝」と呼ばれ近隣諸国では恐れられているほどだと言う、情報が足りないせいかタレントや希少な職業に付いているという話は聞かなかった。
おそらく帝国を治めている事から「エンペラー」系の職業に就いているのだろう事は、その立ち居振る舞いから見て取れる。
帝国四騎士とは、バハルス帝国の騎士で最強の四人に贈られる称号のようなもので金属製の鎧を着込み、普段は皇帝ジルクニフを護衛していることが多く、その権限は将軍級だとされる。
「雷光」、「激風」、「重爆」、「不動」と称される4人が、それぞれモモンに対して戦闘の準備に余念が無い。
「雷光」のバジウッド・ペシュメルは顎鬚を生やし、事前の打ち合わせでも皇帝ジルクニフと砕けた口調を崩さなかったのが印象に残る男だった。
皇帝が怒らないところを見ると契約か何かでそういう風になっているのだろう、今はグレートソードを構えている。
「激風」のニンブル・アーク・デイル・アノックは、金髪に深い海を思わせる青瞳という端正な容姿で訓練によって培われた身のこなしは騎士とは此のような者であるといった感じだ。
片手剣と盾を持ち油断なくモモンの動向に注意を払っている。
「重爆」のレイナース・ロックブルズは帝国四騎士の紅一点で、長い金色の布とも呼べる豊かな金髪が顔の右半分を覆っている非常に整った顔立ちをした女性だ。
右半分を隠しているのは呪いを受けたからだそうで、今も戦闘前にハンカチで右顔の膿を拭っている。
魔法の長い大槍を片手に持ち、油断なく此方を見ているのが伺える。
「不動」のナザミ・エネックは、盾を両手に2つ装備して、いかにも堅そうだ。
帝国四騎士の前衛を務めるつもりなのか最前線で盾を確認しつつ構えを取っていた。
モモンも帝国四騎士に相対して双大剣を抜き、いつでも戦える構えだ。
今回の訓練では訓練用の剣では無く、実戦形式での本物の剣を使ったものとなるそうだ。
万が一の時も寸止めで済ませるようにとの御触れが出ているが、何人で掛かって来ても良いですよという帝国四騎士を馬鹿にしたような発言をしたモモンを殺す気で来るのが、みえみえだ。
こちらのモモン一行の魔術師達、ナーベ、ニニャ、ソアは皇帝の反対側の練兵場を囲む丘の上で手を上げて歓声を送っている。
魔法が込められた拡声器から声が聞こえる、そろそろ戦いの始まりだ。
「それでは帝国四騎士とアダマンタイト級冒険者モモンとの訓練を始めます。相手が降参と言った場合、気絶して10秒経っても立ち上がらない場合は負けとなります。なお訓練ですが死ぬ危険性もある事は御承知下さい。では3秒後に始めます。3、2、1、0、始め!」
その声を始まりとして「不動」のナザミの右側から、魔法の大槍を此方に向け刺し貫こうと土煙を後方に立て駆けているのは「重爆」のレイナースだ。
「いきますわ!避けられるかしら!〈武技・穿撃〉!!」
うむ、スキル〈太陽の爆発〉で初手から吹き飛ばすのは無しだな。
此方の強さと彼方の強さを同時に理解させないと折角、観戦している皇帝に対して少々申し訳ないからな。
となると〈武技・黒曜石剣の円陣〉も封印しかないな、あの武技では手加減ができないしな。
モモンは冷静に武技を唱え、レイナースを迎え撃つ。
「〈武技・領域〉、〈武技・漆黒付与〉、〈武技・七彩強化〉」
この〈武技・領域〉は凄く便利だ、相手の攻撃が武技の範囲に入ったら分かるのだから反撃が決めやすい、教えてくれたブレインは此れを反撃技に使っていたが単純に攻撃を捌いたり避けるのに有効だ。
モモンは、レイナースの魔法の大槍を武技を唱え、片手の大剣で捌き切り片脚を大きく地面に叩き込んだ。
「〈武技・パリィ〉、……〈武技・国震脚〉」
攻撃直後で武器を受け流されて態勢の崩れたレイナースは、跳躍して逃れようとしたが、武技の発動の方が早く、モモンの周囲の地面は片脚を叩きつけた事で罅割れ石筍が飛び出し、レイナースの脚を傷つけ上空へと打ち上げた。
上空へと打ち上がるレイナースに対して、モモンは〈武技・双剣斬撃〉を剣を寝かせて平部分でレイナースの胴鎧に叩きつけ、レイナースが血反吐を吐きつつ、地面へと体をめり込ませた。
「雷光」のバジウッド、「激風」のニンブルが冷や汗を掻きながら「不動」のナザミの両手の大盾の両側から大剣と片手剣でモモンに連続攻撃を仕掛けるが〈武技・領域〉を使用中のモモンには傷一つつかず、両方からの連続攻撃を紙一重で避けられ続けた。
「〈武技・閃光走破〉!」
モモンは〈武技・閃光走破〉の勢いを利用して片脚で「不動」のナザミを蹴り飛ばす。
両手に大盾を持ち金属鎧を着込んだ重量級の「不動」のナザミが面白いように練兵場の端まで蹴り飛ばされ、両手の大盾は凹み鎧もアダマンタイト製なのだが歪んでいるようでナザミは引っ繰り返り気絶してしまった。
呆けたような顔を浮かべ吹き飛んだ「不動」のナザミを見つめる「雷光」のバジウッドと「激風」のニンブルが、つい言葉を交わしてしまった。
「……おいおい、凄えな。ナザミが蹴とばされたぜ」
「……これは帝国四騎士では釣り合いませんね」
モモンは、隙を見せる二人に対して武技を叩きこんだ。
「〈武技・剛閃撃〉!」
「雷光」のバジウッドと「激風」のニンブルは目にも止まらぬ双大剣の平部分をそれぞれ胴鎧に叩き込まれ地面に叩きつけられ気絶した、此方から見て分かるほどに二人の胴鎧が凹み脱ぎにくくなるほどだ。
辺りは静まり返り、モモン一行のみが両手を上げて喜びを表している。
暑いのか汗を掻いた皇帝が拍手をして、大勢の兵士や将軍が気付いて遅れて拍手を送った。
皇帝ジルクニフは傍らに立つ年若い頃から支えてくれる宮廷魔術師フールーダに相談している。
「……爺、なんだあの強さは、ヴァディス自由都市をアンデッド師団から救った冒険者と聞いていたが、あれがアダマンタイト級冒険者なのか。是非とも部下にしたいが」
「あの方はアダマンタイト級冒険者の中でも特別かと、……部下には成らないかと存じます。金にも地位にも女にも興味が無く、不自由してない方のようですので」
「そうか冒険者だから王国の兵には成らんだろうが注意が必要だな。隠密に周囲を探らせるか?」
宮廷魔術師フールーダは、そんな無謀とも思える策謀を巡らせる皇帝ジルクニフに対して憐憫の目を向けていたが、やがていつもの叡智の輝きを宿した瞳に戻りモモンの方に向き直った。
いつまでも鳴りやまない拍手の雨の中、片手を上げて勝利を喧伝するモモンは、帝国の救護班が帝国四騎士に手当の為に鎧を脱がしたり回復魔法を掛けたりするのを横目で見ながら、これいつまで拍手が続くんだろうと思っていた。
・〈転移の指輪(ナザリック地下大墳墓)〉
オリジナルアイテム
魔力を込めればナザリック近くの地表部に転移できる指輪。