闘技場は久しぶりに武王と戦う者が現れた事で大盛り上がりだ。
多くの人が観客席を埋め、立ち見が出来ている程に人気の試合に成っていた。
そんな中、モモンから最前列の指定席を確保して貰い座っているのはワーカーチームの「フォーサイト」と「漆黒」の魔術師達の面々で、この戦いを見る為に暇を作って見に来ているのはアルシェだ。
「漆黒」の魔術師達は、それぞれ今回の戦いを楽しみにしていたのかアンデッド討伐は中止して見に来ていた。
ソアがナーベに御世話されてたり、ニニャが両手に串焼きと果実水を持ってすっかり見物気分だ。
アルシェが「フォーサイト」のヘッケランへと顔を向け勝敗について聞いた。
「どうモモンさんは勝てると思う?みんなの意見が聞きたい。私は勝って欲しい、モモンさんの勝利に賭けた」
「難しいな。だが俺達もモモンの勝ちに全財産の9割を賭けたぜ。今回は勝ち負けだけの賭けだしな。これで勝てたらワーカーは引退だな。俺たちは王国のカルネ村って所に引っ越すが、アルシェは帝国で勉強するんだろ、仕方ないか貴族に戻れたのもアルシェのワーカーでの働きぶりから宮廷魔術師フールーダから勧誘されたんだしな、帝国に義理を返さないといけないもんな」
「うん、帝国で働かないといけない。フールーダ様にも目を掛けてもらって高弟に入れて貰った。モモンが勝てば皆は引退か。寂しくなる」
「おっと、モモンが勝つとは決まってないぜ、なんせ相手は武王だ。だが武王相手でもモモンなら何とかしちまうんじゃないかって思えるんだ」
闘技場では両選手の品物が大量に売られており、ハムスケに乗ったモモン人形やモモンなりきりグッズに武王の彫像、小さな木製の武王の槌などが売店で飛ぶように売れていた。
ソアも人形の胸を押すと「モモン参上!」と喋るモモン人形を買って胸に抱えてご満悦だ。
そろそろ開始の時刻だろう、闘技場に「漆黒」のモモンが現れ、武王ゴ・ギンは、身長は2メートル後半以上で魔法を施した全身鎧を装備して魔法金属で製作された巨大な棍棒を持って現れた。
両者共に観客に片手を振って歓声に答えている。
闘技場にある魔法の拡声器で声が響き渡った。
「武王ゴ・ギンと挑戦者、アダマンタイト級冒険者の「漆黒」のモモンです。なおモモンは此の戦いで、勝敗に関わらず其の日限りで帝国を出立するそうです。それでは両者共に握手して離れた状態で銅鑼が鳴り戦闘開始です。戦闘時間は1時間です。戦闘終了時には銅鑼が鳴りますので両者共に戦闘は辞めて下さい」
モモンは、武王ゴ・ギンの大きな手と握手して、さすがウォートロールはデカいなと感心していた。
さて武王は、名前の長さで強さを判別するのか?
「武王、名前の長さで強さを判断しないのか?前に会ったトロールは判断していたが」
「ハッハハハ、名前など強さの前では些事に過ぎない。そもそもモモン、名前の長さは同じだろう。しかし良くぞ其処まで鍛え上げたな。これでは俺こそが挑戦者のようでは無いか。では存分に戦おう」
「ああ、挑戦者として胸を借りよう」
モモンと武王の両者が離れ、距離を充分に取ったと見做された時に大きな銅鑼が闘技場全体に鳴り響き、戦闘の開始の合図だ。
モモンは、戦士としての強さも手に入れる為に大部分のスキル、魔法、アイテムを自らに縛りを入れて使わない様にした。
トロールは再生を阻害する炎、酸に弱い、そのためスキル〈太陽の爆発〉を最初に放てば此方の勝利は容易く手に入るだろう事は間違いが無いのだが、それでは駄目なのだ。
モモンは、まず合図の銅鑼が鳴った直後に武技を唱えた。
「〈武技・領域〉、〈武技・漆黒付与〉、〈武技・七彩強化〉、〈武技・黒曜石剣の円陣〉、……〈武技・閃光走破〉!」
モモンが双大剣を振ると空中に黒く輝く3つの黒曜石の剣を創り出し、モモンの頭上を取り囲むように並んでいる、そして一瞬体が武技によって七色に光輝き、武王を目掛けて目にも止まらぬ疾走を見せた。
武王は、其れを待ち構えて逆襲技を狙っているのか近づいて来ない。
〈武技・黒曜石剣の円陣〉によって創り出された3つの黒曜石の剣が空中を舞い、武王に襲い掛かる。
武王は余裕を持って魔法金属で製作された巨大な棍棒で襲い来る黒曜石の剣を次々に打ち落とした。
やはり〈武技・黒曜石剣の円陣〉は見破られたか、黒曜石の剣は迎撃に弱く脆く砕けやすい性質を持つので、当たれば良いなと思い発動したが相手の手数を減らせたので良しとしよう。
モモンが武王に近づき武技を放とうとしたが、武王が地面を抉るように巨大な棍棒を叩きつけ散弾のような土砂をモモンに浴びせた。
目くらましか?それとも攻撃か?〈武技・領域〉で武王の場所も……分からない。
土砂の所為で目の前は塞がれるし〈武技・領域〉の範囲内は、散弾のような土砂を感知してしまい役に立たない。
くそっ、〈武技・領域〉対策と言う訳か。
数瞬の間に何処から打ち込まれてるのか分からない、嵐のような棍棒の連続攻撃にモモンは打ちのめされた。
武王が止めとばかりに武技攻撃に移った。
「〈武技・流水加速〉、〈武技・神技一閃〉!」
「〈武技・無敵要塞〉!」
モモンは、〈武技・無敵要塞〉で双大剣を交差して跳ね返そうとしたが、武王の〈武技・神技一閃〉の棍棒は正面の〈武技・無敵要塞〉の交差した双大剣の寸前で、ゆるりと棍棒の軌跡が曲がりモモンの脚を狙ってモモンの脚を圧し折るかのように振り抜いた。
モモンは下半身に痛撃を受け、地面を何度も転がり闘技場の壁まで吹き飛ばされ壁にめり込んだ。
観客達から歓声が爆発した様に沸き起こり、モモンに賭けていた者達の悲嘆の声が聞こえて来た。
痛たた、此れは良いのを貰ったな。
アンデッドの基本能力で、クリティカルヒット無効と肉体ペナルティ耐性があるせいで多少はマシとは言え体力が少し削れたぞ。
〈武技・無敵要塞〉は、本来は剣や盾でなくては発動できないわけでなく、やろうとすれば手だろうと鎧だろうと発動できる物だが、発動が非常にシビアで少し攻撃が当たる瞬間がズレるだけで不発になってしまう。
さっきの散弾のような土砂攻撃で〈武技・領域〉が発動限界に達してしまったようで切れてしまった。
また発動しても土砂攻撃で簡単に〈武技・領域〉対策ができてしまうから発動できない。
めり込んだ壁に手を掛けモモンが出て来ると武王は其れを待っていた。
闘技場では選手が復帰するまで待つと言う掟は無い、武王はモモンを追い詰めると掟破りの大技を繰り出して来るのではと警戒していた。
モモンは壁から抜け出ると武技を使いジグザクに疾走し武王の側面に迫る。
「……〈武技・閃光走破〉、〈武技・閃光走破〉、……〈武技・星震脚〉!!」
闘技場の地面をモモンの片脚が凄まじい勢いで踏み抜き、周囲の地盤を激しく揺らし、闘技場全体が揺れ動き観客達が悲鳴を上げ、闘技場の地面は地割れを起こし、人が居れば落ちてしまう程に罅割れ崩れた。
だが武王は此れが読めていたのか空高く跳躍して地割れを避け、モモンが片脚を地盤にめり込ませていて隙があると判断したのか武技を繰り出した。
「〈武技・即応反射〉、〈武技・剛撃〉、〈武技・強殴〉!」
武王は、〈武技・即応反射〉で跳躍中のバランスの崩れた体を、無理やりに攻撃に適した姿勢に戻し、〈武技・剛撃〉でダメージ上昇を狙い〈武技・強殴〉で攻撃したのだ。
「〈武技・パリィ〉!」
モモンは、武技により片手の大剣で棍棒を巻き取り捌いたが、武王は棍棒を取り落とさず、だが武技によって右手の棍棒を大きく振り抜いた状態で地面に降り立とうとしている。
モモンが武王が武技により隙が出来た事を見落とさず、片脚を地面から引き抜き地面に降り立った武王に迫り連撃によって止めを刺そうと武技を声に出した。
「〈武技・星光連撃〉!」
マントが広がり攻撃を繰り出そうとした瞬間、武王の左手の拳がモモンの大剣を持った右手首に痺れるほどに叩き込まれモモンの双大剣を構えた姿勢が崩れ、〈武技・星光連撃〉が不発に成ってしまった。
「武技は姿勢、地面の状況、武器の構えに影響される。それが強大な武技であればあるほどにな。だから武技を使う時は其れに注意せねばならんのよ」
武王は、崩れた姿勢を戻しながらモモンに武技の使い方を注意した。
さすがは闘技場の覇者、武王という訳か武技の事をよく分かっている。
今までのモモンの闘技場での戦いは全て見られて武技は対策済みというわけか。
なら、此れはどうだ?
モモンは、その優れた脚力で跳躍し、遥か空中から地面の武王に向け今まで闘技場で使った事の無い武技を放つ。
「……武王、お前は強かった。〈武技・流星連撃〉!!」
凄まじいまでの斬撃の数、円錐上に現れるは漆黒の無数の刃、それは空気を切り裂き揺らめきを残しつつ無数に地面に降り注ぐ様は、流星群が飛び交うかのように武王に襲い掛かる。
幾つかは〈武技・流星連撃〉の武技の特性上、武王を逸れ地面を切り刻むが、無数の漆黒の刃は武王にも降り注ぎ続ける。
武王は雄たけびを上げ、防御力上昇系の武技を唱えた。
「〈武技・外皮強化〉、〈武技・外皮超強化〉!」
武王は、巨大な棍棒を盾にモモンの〈武技・流星連撃〉を凌ごうとするが腕を、脚を、胸を、頭を防御力上昇系の武技を唱えたにも関わらず、より強大な武技により無数に斬り刻まれ続け、魔法を施した全身鎧は既に大部分が斬り飛ばされ片脚の太腿を斬り落とされた事で勝負は決した。
武王は、棍棒を手に持ち地面に這いつくばりながら落ちた脚の切断面を合わせて再生しているようだが、そんな暇は与えない。
モモンは、地面に降り立つ際に武王に向かって双大剣を武技を唱えつつ振り下ろした。
上段から交差しての斬撃により閃光が煌き、大気を切り裂く強烈な一撃を放つ。
「〈武技・双剣斬撃〉!」
モモンの跳躍の勢いが乗った斬撃により、武王の割れた兜ごと綺麗に頭は3つに切り分けられ絶命した事は明らかだ。
闘技場の観衆は歓声を送り、新たな闘技場の覇者に声援を送った。
武王に賭けていたものは悲鳴を上げているようで此処まで聞こえて来る程だ。
魔法の拡声器で声が響き渡り闘技場での戦いが終わった事が告げられた。
「勝者は、アダマンタイト級冒険者の「漆黒」のモモンです。新たな闘技場の王者の誕生です。規定では王者に成った者は闘技場で負けるまで王者を名乗れるのですがどうなるのでしょうか?……モモン氏には、九代目チャンピオンとして二つ名の「日没王」が贈られるそうです。この日限りで帝国を出立するモモン氏の称号という訳ですね。次のチャンピオンを決める戦いは一年後になるそうです。皆さんは其の日を楽しみにしましょう」
モモンは、魔法の拡声器の声を聴き、ようやく戦いが終わったのだと実感した。
ふむ、武王との戦いは得る物も大きかった。
此のまま武王が死んだままでは勿体ないし、帝国では此れでお別れ出し、……使うか。
モモンは、中空の黒い渦に手を入れると〈願いの杖〉という事になっている黒い丁の字形の杖を取り出し、武王の割れた頭の上空に差し出した。
「《ウィッシュ/願い》、私は此のトロールを復活させよう《リザレクション/蘇生》」
みるみると武王の体中の傷が塞がり、割れた頭も元に戻り、回復した武王は目を覚ました。
「これは?……俺は死んだ筈では」
「駄目ですよ、急に動いては。復活直後は体が怠いでしょう。それにレベルダウンしている筈、鍛えないと元の体に戻れないでしょう。闘技場で鍛えるかカッツェ平野でアンデッド退治するかしないといけないでしょう」
「俺を生かして、モモンに何か得があるのか?」
「いや得なんて。……そうだな、貴方が今以上の力を得た時にまた戦いましょう。貴方との戦いは得る物が多かった。貴方が死んだままなんて世界にとっての損失に思えたからですよ」
「そうか、では鍛え上げてモモンに力と技を見せつけるのが楽しみだな」
モモンと起き上がった武王が握手をして再会を誓った。
間違いなく死んでいた武王が起き上がった事に驚きが隠せないようで魔法の拡声器から声が聞こえた。
「おおっと、頭が割れて確かに命を失ったと思われた武王が起き上がりモモンと握手している。此れは先程、「漆黒」のモモンが黒い杖を使い何事か呟いた結果なのでしょうか、驚くべき事です」
歓声は驚きの声で包まれ、武王が生きていた事への喜びの声や、あの杖を使えば誰でも生き返せるのかと言う声、様々な声に闘技場が湧きたった。
「やったー!モモンさん凄い!」
「当然です。モモンさーんは強いのです」
観客席のソアとナーベはモモンの勝利を両手を上げて歓声を上げていた。
「凄いな、あのアイテムは」
「そうね、復活なんて初めて見たわ」
「凄いなんて物じゃありませんよ。あの黒い杖は」
ワーカーの「フォーサイト」のヘッケランやイミーナはモモンの杖を褒めていたが、神官のロバーデイクは呆れた様に杖の素晴らしさを説いていた。
ニニャとアルシェは、この始末どうするんだと顔を見合わせて相談している。
闘技場は、新たな覇者の誕生と死んだ筈の武王の復活に話題は事欠かなく、「日没王」の二つ名を持つ「漆黒」のモモンが帝国を出立するまで帝都では終わらない喧騒に満ちていた。
・〈武技・領域〉の限界
オリジナル設定
本人を中心に三メートルの範囲内で極限まで攻撃命中率と回避率を上昇させる武技。
不可視となっていても存在を発見できる。
とあるが、回避するのにも限界があるはず、そこで回避限界まで攻撃をするという事で散弾のような土砂攻撃を登場させました。
弓矢や剣などは何回か回避できますが、散弾のような土砂攻撃で攻撃回数を増やし、回避率を上昇させる事による回避の発動限界に達してしまう事で武技の発動時間が切れるとしました。
後は、〈武技・領域〉で感知しても回避できない速度の攻撃や魔法などの範囲攻撃が弱点です。