宿屋の個室にて皆を集めて兜を外し、赤黒く光る眼光を宿す髑髏のアインズの口から愚痴が零れた。
「オリハルコンくらいには成ると思ったが、こんなものか」
「ミスリルとは無礼極まります」
「いいのだ、ナーベ。今頃、生き残った墓地の兵達が私の戦いを街中に触れ回り、我が名声を高めているだろう。計画通りだ」
そうでも考えないと気分が沈んで落ち込んでしまうからな。
アインズは戦いの前にエントマから《メッセージ/伝言》をもらい、「今は忙しい。時間が出来たなら私の方から連絡を取る」と断っていたが「畏まりました。では、その際はアルベド様にお願いいたします」と言われていたのを思い出して連絡を取るため片手をこめかみに当てた。
「そうだアルベドに連絡せねばならなかったな。《メッセージ/伝言》」
〈アインズ様、シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました〉
「はぁ?」
アインズは驚きのあまり赤黒く光る眼光が消えてしまうほど驚いた。
「守護者シャルティアが反旗を翻したとの報告があり、私は何故なのか確かめるためにナザリックに戻らねばならない。ナーベは外で待つセキフと共にここで待機だ、冒険者組合から何か連絡が無いとも限らないからな。死の宝珠とニニャは一緒に付いてこい、ナザリックで部下になったと挨拶せねばなるまい」
アインズ達は転移してナザリックへ行き、死の宝珠とニニャが挨拶しているのを聞きながら、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを受け取り中へ転移して行く、やがてナザリック地下大墳墓最奥にして心臓部たる玉座の間の入り口についた。
入口は5メートル以上はあるだろう巨大な扉、その右側には女神が、左側には悪魔が異様な細かさで今にも動き出しそうな彫刻が施されている。
玉座の間へ入ると壁の基調は白で、そこに金を基本とした細工が施されている。天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアは七色の宝石で作り出され幻想的な輝きを放っていた。壁にはいくつもの大きな旗が天井から床まで垂れ下がっている。
中央には真紅の絨毯が敷かれていて、その先は玉座に続く階段まで延びている。十数段の階段を上がった先にはサインが施された真紅の巨大な布がかけられていて、その前に水晶で出来た玉座であるワールドアイテム【諸王の玉座】が鎮座していた。
玉座の左隣ではスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがゆらゆらと空中に浮いている。アインズ達が姿を見せるとスタッフに組み込まれた7つの宝石が輝きだした。
玉座の横に立っている純白のドレスをまとった美しい黒髪の女性が一礼して話しかけた。
「お待ちしていました、アインズ様。そちらの者たちは誰なのでしょうか?」
「お初にお目に掛かります。アインズ様の部下になったニニャといいます。アインズ様の奥様にお会いできて光栄です。」
『初めましてアインズ様の部下になった死の宝珠です。アインズ様の正妃様、よろしくお願いいたします』
「まあまあ、奥様、正妃ですって。おほん、アインズ様の~」
「違う、違うぞ。奥様では無いぞ。守護者統括のアルベドだ。まったくアルベドもしっかりしろ」
「はっ、申し訳ございません」
アルベドは悪魔であり、瞳は金色で瞳孔は縦に割れ、頭から突き出した山羊のような角、腰から漆黒の天使の翼が生えている。今は翼がまるで叱られた犬のように縮こまっているのが見えた。
ニニャと死の宝珠はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見て何か言葉を交わしている。
アインズはマスターソースを見てみるかと玉座に腰掛け声を上げた。
「マスターソース。オープン」
「それでシャルティアが反逆したという根拠はこれか?」
ナザリック地下大墳墓の管理メニューが広がりシャルティアの欄の名前が通常の白色でなく黒字に赤の縁取りになっていた。
「連絡が途絶えた為、リストを調べました所、このような異変が。同行した『ヴァンパイア・ブライド/吸血鬼の花嫁』2体は死亡してしまったようです」
「シャルティアも死亡した可能性は」
「恐れながら死亡の場合は名前が消えて一時的に空白になります」
アインズは片手を顎に当てて考えていた。
そうだよな、この表示はユグドラシルだと第3者による精神支配の結果、NPCが一時的な敵対行動を取った場合の物だ。しかし、ありえない。アンデッドのシャルティアには精神支配を無効化するスキルがある。
「この世界にはユグドラシルには存在しないタレントや武技といった特有の能力がある。それらの影響下に置かれている線もあるか?死の宝珠よ、どう思う。答えてみよ」
『はい、その可能性は十分ありえます。他にも私が昔に聞いた話では、世界に匹敵する魔法アイテムや世界の始まりから伝わる魔法があるそうで、それらは通常では考えられない凄まじい力や不可思議な現象を巻き起こせたそうです』
アインズは思わず玉座から立ち上がって驚きを露わにしていた。
「なにっ。そうか世界に匹敵するアイテム、つまりワールドアイテムか!世界の始まりから伝わる魔法というのは分らないな、この世界特有の魔法か?シャルティアはタレント、武技、ワールドアイテム、世界の始まりから伝わる魔法のいずれかの影響下にあるということだな」
「わかりかねます。ですがシャルティアが反旗を翻したのは事実。討伐隊を至急編成される事を進言いたします」
アインズはアルベドを見てシャルティアを仲間達のNPCが討伐することに拒否感を感じていた。
「隊の指揮官は私が、副指揮官としてコキュートスとマーレを同行させます。シャルティアの戦闘力を考えますと、このぐらいは必要かと」
「いや、それは少々早計だ。反旗を翻した理由を確認する方が先だろう」
アインズは玉座に座り物思いに耽った。
他のNPCにも起きうる事なら原因を突き止め対処法を見つけなければ。ナザリックが崩壊する。
アインズは玉座を握りしめ耐えるようにアルベドを見て言った。
「ふー、私や待遇への不満で裏切ったというのであれば、まだ納得がいくというものだが」
「不満?慈悲深きアインズ様にそのような考えを抱く輩など生かして置けません」
アルベドは体を震わせて怒りを露わにしている。
「落ち着け、アルベド。お前たちNPCの性格は、かつての仲間達が創り出した物。お前たちの良い所も悪い所も、みんな、彼らの思いが込められている。私はな、そんなお前たち皆を愛しているのだ」
「だから万が一、シャルティアが裏切った理由がペロロンチーノさんの設定によるものであれば……」
「愛して、愛して、愛して、愛して……」
「おい、アルベド。皆をな、皆をだぞ」
アルベドはアインズに近寄って確認している。自分に取って大事な事なのだ。
「で、ですが、私も愛して下さっているという事ですよね」
「う、うむ、そうだな」
「くぅ~。ああ、アインズ様が私を、私を愛して」
「い、いや、だから、とにかく、まずはシャルティアの居場所を確認するのだ」
「はっ、かしこまりました」
アルベドはアインズの命令を伝える為、玉座の間を出て行った。
死の宝珠は、話が一段落ついたと見てアインズに声を掛けた。
『アインズ様、発言よろしいでしょうか?』
「発言を許す。死の宝珠よ、何か気になる事でもあるのか?」
『はい、玉座の左隣に浮かんでいる杖なのですが、我々が入って来た時に杖の宝玉が光り輝いたのです。これは、このような場合に光る杖なのでしょうか?』
「いや、そんな設定は無かったはずだ。変だな?この世界に来てアイテムの仕様が変わったのか?」
『アインズ様、触れてもよろしいでしょうか?駄目な場合はニニャに触れつつアインズ様が杖に触れて頂きたいのです』
「ふむ、死の宝珠やニニャにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに触れさせる訳にはいかないな。この杖はギルド武器といってな、ユグドラシルではギルドの象徴たる存在で、各ギルドに一つしか所持できない。かなり巨大なデータまで搭載することができるため下手すると比類ない武器にもなるが、これを破壊された場合はギルド崩壊を意味する。だからこそ、ギルド武器はその巨大な性能を発揮することなく、最も安全な場所に保管されることが多いのだ。だがニニャに触れつつ杖に触れるのならば良いだろう」
そう言いつつアインズはニニャの肩に触れ、片方の手でスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに触れた。ニニャの手にある死の宝珠が声を上げた。
『アインズ様、このスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは知性あるアイテムです。私と同種族の者に会えるとは喜びが止まりません』
「なにっ!スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが知性あるアイテムだと。そういえばギルド武器という事で設定魔のタブラ・スマラグディナさんがアイテムの説明欄にびっしり書き込んでいたな。それがこの世界に転移して来てフレーバーテキストが実際に力を得た訳か」
『ギルド武器は最も安全な場所に保管されるのでしたね、でしたらこの武器にも魔法を覚えてもらい、ゆくゆくは幻術で分身か何かを創ってもらう事で外出も出来るでしょう、戦力の強化ができるのでは無いでしょうか?』
「ほほう、分身か。面白い、いずれスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの強化は、してもらおう。まずはシャルティアの居場所を探すのが先だ」
アインズは、アルベドがシャルティアの居場所を見つけるまでスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握り、ニニャに触れる事で死の宝珠とギルド武器の仲を取り持った。
死の宝珠が喋れないギルド武器の代わりに喋ることでギルド武器の自分をもっと使って欲しいという愚痴を聞いて、なだめたり魔法やナザリック地下大墳墓の他階層について質問されたりと楽しい時間を過ごした。
何時間か過ぎた頃、アルベドがシャルティアの居場所を見つけてきた。
・スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン
アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器。本来意志がないアイテムのはずが、アインズの意思に関係なく宝玉が輝き出すなど、転移して意志を持ったような描写がある又、外伝「亡国の吸血姫」で、鈴木悟(モモンガ)にとって最適な魔法を選択してサポートしている。転移後の影響なのか、悟が指示を意識するだけで意思疎通出来ている。スタッフからも攻撃の指示を仰ぐような『感じ』を悟に与えているとあり、この小説では知性あるアイテムとしました。