オーバーロードと死の宝珠   作:NEBUSOKU

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カッツェ平野の合戦  1

 カッツェ平野と呼ばれる場所は、いつもの霧が晴れ、赤茶けた大地を晒して草木があまり生えない平坦な地域だ。

 危険なアンデッドが出没する地域と知られ、近隣のヴァディス自由都市では王国と帝国の双方が冒険者を使いアンデッド狩りをしている。

 リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が兵をカッツェ平野北西部に集めているのは、ナザリック地下大墳墓へと侵入して狼藉を働いたとして、ナザリックがリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国に対して戦いを叩きつけ、ナザリックに負けたら王国と帝国の両国は無条件降伏しろと宣戦布告したからだった。

 リ・エスティーゼ王国は、ナザリック地下大墳墓へと侵入した貴族達が何人も行方不明になり、第一王子まで居なくなった事で国が総力を挙げて戦うべしと気運が高まった所に、ナザリックの宣戦布告を不気味な幾つもの顔がくっ付いた悪霊が届け、バハルス帝国では二人のダークエルフの子供達が竜に乗り、降り立った皇城の中庭で大地震を起こして、ナザリックの宣戦布告を書かれた紙と共に言い渡した。

 両国は、長年戦争状態にあり、一時的とはいえ同盟関係になるのは無理かと思われたが、帝国の皇帝ジルクニフのナザリックの脅威に対して、両国が手を取り合わなければ不味いとの考えで帝国側の大幅な譲歩により連合軍ができあがった。

 王国側は30万人、帝国側は8軍中の7軍を動員して7万人、遠くに布陣するナザリック地下大墳墓軍は多くても数百人程度の兵が動員されているようだ。

 

 今、その平地は、周囲には急造の柵が作られ、中心部に幾つもの軍用天幕が並び、帝国の軍人達や王国の兵士達が忙しく戦の準備に取り掛かり隊列を作っていた。

 

 連合軍の軍事顧問となった漆黒の戦士モモンは、現在、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の軍議の為に軍用大天幕に呼ばれ円卓に着いていた。

 円卓の正面には、周辺の地図及びナザリック地下大墳墓と連合軍の布陣の様子が《フライ/飛行》を使った斥候魔術師によって克明に描かれており、ナザリックは軍を薄くばら撒く様に見ようによっては半包囲しているようにも見えるが、兵自体の数も少ない様で300人から400人程度しかおらず、兵同士の隙間が大きく、幾らでも間を抜けて敵本陣へ襲撃を掛けられるだろうと帝国第二軍のカーベイン将軍は分析していた。

 王国のレエブン侯の配下、平民軍師が顎に手を当てて首を傾げながら言った。

 

「これは明らかに怪しい動きです。相手は人間では無くアンデッドなのだと言うことを忘れずにしたほうが良いでしょう。軍事顧問のモモンさん、何か気付いた事があれば教えてもらえないでしょうか?」

「そうですね、この拡大された絵によると、まず兵一人一人が〈デスナイト/死の騎士〉と呼ばれる伝説のアンデッドです。力は、王国であればガゼフ殿と同格かと思われます。そしてデスナイトが騎乗しているのは恐らく〈ソウルイーター/魂喰らい〉かと思われます。そいつは即死のオーラを放つので気の弱い者なら死んでしまうでしょう。アンデッド達が各々距離を開けているのは即死のオーラが発動しても、オーラが被らない様に効率的に被害を連合軍に与える為かと思われますね」

 

 300人以上のガゼフが仮定とはいえ死を周囲にばら撒くソウルイーターに騎乗していると聞き、円卓は騒然となった。

 リ・エスティーゼ王国のランポッサⅢ世は苦々しい顔で第2王子ザナックと相談している。

 

「どう思う、ザナックよ。率直な意見を言いなさい」

「そうですね。私には戦の事は良く分かりませんが、最悪に備えるべきかと」

 

 消極的な王族たちに、物量で勝てると見込んだ貴族たちは口々に言っている。

 

「そんな馬鹿な事はありません。モモンがアンデッドを見間違えたかアンデッドの軍勢に恐れをなしたのでしょう。我らで片付けますので、ご安心ください」

 

 王国を救った恩人の言葉に対して無礼極まりない声を聞いて、モモンの後ろに立っていたソアやナーベは、怒りを堪えるのに必死になり、握りしめた手から血が出ているほどだ。

 ニニャは、そんな二人を抑えていた。

 王国のガゼフは、アンデッドとの戦いを甘く見ている貴族達を見て嘆かわしいと感じ、モモンの方を見て申し訳なく思うのだった。

 王国のレエブン侯や数人の貴族達は集まり、密かに何事か相談しているようだ。

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、片手を両目に当てて空を仰いでいる。

 帝国四騎士は、300人以上のガゼフの時点で、此れは此の戦は勝てないと逃げ出す為の速く走れる馬の用意を従卒に命じていた。

 しばらくの間、皇帝ジルクニフは、空を仰いでいたかと思うとモモンに話しかけた。

 

「モモン殿、どうすれば此の戦に勝てるのかな?」

「それは私にも分かりません。私達一行の力と王国のガゼフ殿と戦士団、帝国四騎士と精鋭の護衛騎士達の力を合わせれば王族と皇帝陛下は逃がせると思います。戦に勝てるかは王国の軍師の方に聞かれた方が宜しいでしょう」

 

 皇帝ジルクニフが王国の平民軍師に目をやると軍師は答えた。

 

「最悪を想定すると勝てません。ですが伝説が見掛け倒しの張りぼての話半分だとしたら勝ち目はあります。まず従軍神官達に弓兵達や魔術師達に《ライオンズ・ハート/獅子のごとき心》と《レジスト・デス/即死耐性》を掛けてもらい、死への恐怖を無くして気を強く持ってもらう事で死のオーラに対して、より耐性を持たせます。弓で集中攻撃後に魔法で集中攻撃する事で、ガゼフ殿並みのデスナイトは倒れるでしょう。騎乗していたデスナイトが滅びればソウルイーターも動揺するはず、魔法の効きは精神力の強さに強く関係すると聞いてますので従軍神官達に対アンデッド魔法を集中的に掛けてもらう事で、精神力が多少脆くなったソウルイーターに対処して貰います。これで包囲網は崩せるので、後は精鋭騎馬部隊で包囲網の穴から急襲して敵本陣を落とし短期決戦を狙います。他の兵士達は、方円と呼ばれる王族や皇帝を中心として円を描くように兵士達で囲む陣形を作り、守りを固めます。もちろん最前線の兵士達には従軍神官達から《レジスト・デス/即死耐性》を掛けてもらって、死のオーラに耐性を持たせ戦いに臨みます」

「短期決戦か、それしか無いようだな。これだけの物量の兵士なら、モモンの見間違いという低い可能性の場合でも精鋭騎馬部隊で急襲する事で片がつくだろう。ランポッサⅢ世殿、それで良いかな」

「うむ、それしか無かろう。皆の者、もうすぐ決戦だ、準備に取り掛かるのだ」

 

 会議場となった円卓は解散され、皆が決戦の為に各々の軍用天幕に戻った。

 モモン一行も軍事顧問として、一つの軍用天幕を貰い受けており、一行が天幕内に入った後に出入り口をハムスケが塞いだ。

 

「殿、ここで言われた通りに通せんぼするでござるよ。誰も通さないでござる」

 

 モモンは、軍用天幕に入った仲間に対して振り返って声を掛けた。

 

「ナーベとソアは先程の貴族共の戯言を良く我慢したな。偉いぞ。ニニャも良く二人を宥めてくれたな、ありがとうな」

 

 三者の頭のそれぞれに手をやり、サラサラとした髪を撫でてやるとナーベとソアとニニャは頬を染め、口元が緩んでいるようだ。

 

「ニニャ、籠手を私に、代わりの籠手を用意したので此れを付けなさい」

「はい、どうぞ此方です」

 

 モモンがニニャから鋼鉄の籠手を受け取り、中空から似た鋼鉄の籠手を取り出しニニャに渡す。

 モモンが魔導具を懐から出して発動させると、天幕自体に魔法が掛かり、中の音が外に漏れる事は無くなった。

 

「さて、出て来い。パンドラ、此処からは、お前がモモンの影武者と成り、ナーベとソアとニニャと共に王族と皇帝を守ってやれ。王国の貴族のレエブン侯とその貴族一派、ガゼフとクライムとブレイン。帝国では帝国四騎士とフールーダと高弟のアルシェに気を配り大怪我をしないようにしろ。私が手を掛けて育てたり恩のある者もいるのでな、その者達は死ななければ良い。ある程度の時間が経てば包囲に穴を開けて脱出するようにせよ」

 

 第9位階魔法《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》で姿を隠して、今までモモンに従っていたパンドラズ・アクターは術を解き、モモンの前に片膝を地面に付け現れた。

 パンドラは、ドッペルゲンガーの能力でモモンの姿に一瞬にしてなり、モモンの前で片膝を付いている。

 

「はっ、畏まりました!ではモモン様ッ!、どうぞ《ゲート/転移門》を御通り下さい」

「任せたぞ。ワールドアイテム以外の拠点のアイテムを使うのを許可するので上手く使え、皆もパンドラを私だと思って行動するようにしなさい」

 

 モモンは、《ゲート/転移門》による黒い靄を潜り抜け、連合軍の反対側、ナザリック地下大墳墓軍の本拠地に転移して、片膝をついた守護者達に片手を上げて簡易玉座まで歩いて腰を下ろした。

 簡易玉座に座ったモモンは、白い光に一瞬包まれると眼光が赤黒く光る骸骨の魔術師の色は漆黒で全体に金細工や肩飾りに宝玉をあしらった豪華なローブ姿に成り、ニニャから受け取った鋼鉄の籠手の偽装を解除して【強欲と無欲】と成った籠手を身に付ける。

アインズは守護者統括のアルベドに話し始めた。

 

「さて予定通りだな。連合軍の作戦は、耐性魔法を掛けて一点突破で騎乗兵を破り、本陣に精鋭騎馬部隊で急襲を駆けるという物だ。レベル差で耐性魔法の効果は激減するのだから騎乗兵を打ち破るのは、ほぼ無理だろう。念の為に攻撃を受けた騎乗兵は、ある程度の移動を許すので蹴散らせてしまえば良い。そもそもデスナイトが倒れても精神作用無効のあるソウルイーターは、大して動揺もせずに兵士達に突っ込んで即死のオーラをばら撒けば相手の作戦は終わるだろう。特に問題は無いように思うが、何か問題はあるか?」

「いいえ、ございません。シャルティアにより《ゲート/転移門》を使った転移による残り100名の騎乗兵の完全包囲の輪も作り上げる計画も順調です」

「では行くか。お前達守護者は、私の攻撃の後で散り散りになった兵達に攻撃を加えよ。あらかじめ言っておいた者達は殺すなよ、怪我程度なら構わないがな」

「はっ、畏まりました。存分にお楽しみ下さい。アインズ様」

 

 アインズはナザリック地下大墳墓軍本陣を出て、竜王国で手に入れた知識で創り上げた〈宝石の護符〉などを使いつつ、持続時間を延長した数多の補助魔法を自らに掛けてから《フライ/飛行》の魔法で上空高く、雲の切れ間まで飛んだ。

 そろそろかと思い、超位魔法を唱える。

 空中のアインズは、10メートルもの蒼白い球状の立体魔法陣を展開させ、待つ間に魔力を蓄えた〈魔宝石〉を次々取り出し《マナドレイン/魔力吸収》を掛け、自らの魔力を回復させつつ、数十秒の間待ち続けた。

 課金アイテムで詠唱時間を短くする事も考えたが、今は、詠唱時間を短くする課金アイテムが手に入らないし、始原の魔法《竜宝作成》で似たようなアイテムの作成に幾ら経験値が必要になるかも分からないので諦めたのだ。

 どうやら辺りにプレイヤーは居ないようで、防御力の下がった詠唱中の時を狙われれば術が中断してしまう所だったので、このまま詠唱時間は終わりそうで安心した。

 

 それにモモンの影武者となったパンドラにも準備する時間を与えないとな。

 蒼白い球状の立体魔法陣の発光が強くなり、発動条件は整い、合戦の開始の頃合いだ。

 

「跪け、超位魔法《アドヴェント・オブ・ザ・ジャイアント・ゴッド/巨神の降臨》」

 

 アインズの姿が眩しい光に包まれると、雲を突き抜け大地から浮かび上がったユグドラシルでは通常認められない巨大な大きさのアインズが漆黒の後光を背にして足元からは禍々しいオーラを発して降臨した。

 辺りは、急に大質量の物体が現れた事で風が巻き起こり、大地を砂煙が覆った。

 超位魔法《アドヴェント・オブ・ザ・ジャイアント・ゴッド/巨神の降臨》は、身長の制限を取り払い巨大な姿をプレイヤーに与え、力を振るうものだった。

 プレイヤーの攻撃範囲は、持っていたアイテムも巨大になり剣の一振りで広範囲を薙ぎ払えるほどで、魔法自体も大きさに合わせて大きくなり、単体攻撃魔法も範囲攻撃になり範囲攻撃などは広範囲攻撃になる。

 弱点としては、動作が遅くなり、多少防御力は上がるものの、HPは同じで大きくなった為に当たり判定が大きくなり使えば集中攻撃であっと言う間に沈んでしまう所であった。

 ユグドラシルでは、「神かよ、弱っ!」と言われたもので、何度も運営からテコ入れされた不遇の超位魔法だった。

 アインズは、強さを無視してロールプレイに似合った死霊系統の職業構成を選択していた変わり者だったので、この一見すると強そうだが実際に戦うと弱い超位魔法を覚える超位魔法リストの中から選んでいたのだ。

 

 なぜ習得したかと言うと、なんか昔の巨大ヒーローのようで恰好良いからだ。

 弱かろうが本人が納得していれば、それで良いんじゃない?というウルベルトさんやペロロンチーノさんの了承も得て習得したのだった。

 実際にギルド戦で使うと、速攻で集中攻撃を受けて案の定、地面を舐めるはめになったのは、アインズの良い思い出だった。

 

 だが此の世界では仕様が大分変化しているようで、アインズが巨神化した姿を目撃した連合軍は慌てふためいて恐慌状態に陥り、陣形を崩し周囲のソウルイーターに自ら突っ込み死ぬ者達までいるようだ。

 平民軍師の作戦は、机上の空論に過ぎない。

 圧倒的な力の前では、駒も勝手に動いてしまい作戦は失敗に終わるのだ。

 アインズの巨神化した防御力を突破できる者は居ないだろう事は、先程までモモンとして連合軍で強者を探して確認済みだ。

 

「私は、アインズ・ウール・ゴウンだ。ナザリック地下大墳墓統治者である。さあ連合軍の諸君、私の魔法に、何人耐えられるかな? 《トリプレットマキシマイズワイデンマジック・ニュークリアブラスト/魔法三重最強効果範囲拡大化・核爆発》!!」

 

 魔法が発動し、3重に炸裂して極大なキノコ雲が戦場の連合軍中央に沸き上がった。

 全魔法の中でも最上位の効果範囲を持つ魔法が、魔法強化系のスキルで効果範囲を拡大され超位魔法により更に超広範囲に激しい炎と吹き飛ぶような衝撃波を巻き散らし、術者であるアインズも効果範囲の中に入って影響を受けるが、あらかじめ補助魔法を唱えていたので損害は軽微だ。

 爆炎により焼け出される者達、衝撃波により吹き飛ばされ周囲のソウルイーターの即死のオーラに掛かり死ぬ者達、急激な気圧の変化と体が叩きつけられるような力を受けて生きながら臓物を口から吐き出して死ぬ者達が溢れ返っていた。

 

 くくく、連合軍は6割くらいは死んだか?経験値は、どんなものだろうな。

 さあ【強欲と無欲】よ、存分に経験値を喰らうと良い。

 

 連合軍の死体達から無数の青い透けるような光の塊が現れ、アインズの黒い籠手へと吸い込まれていく、まるで幻想に存在する魔王が人の魂を己が身に取り込むように見えたのだった。

 

「次は、どの魔法を使おうか?悩み所だな」

 

 アインズは、広範囲魔法を連発して次々に雷の滅びを炎の新星を闇の爆発を巨大隕石の落下を発動させ、更に連合軍に損害を拡大させ2割から3割は撃滅し、死体から発した青い光を黒い籠手に吸収させた。

 そしてアインズの超位魔法の効果時間が切れ、巨神化の魔法が収まり、守護者達と部下達がソウルイーターの完全包囲陣形の中に進軍して虐殺を始めたのだった。




・方円(ほうえん)
 陣形の一つ。
 将軍を中心として円を描くように兵士達で囲む陣形を作り、守りを固めます。
 全方位からの敵の攻撃に対処できる防御的な陣形、通常は敵の攻撃に合わせて別の陣形に変える。

・《レジスト・デス/即死耐性》
 オリジナル魔法、第2位階魔法。
 即死に対する耐性や抵抗力を上げる魔法の呪文。
 単純なダメージによる攻撃での死亡は防げない、即死魔法にのみ有効。
 レベル差や即死魔法の強さ(高位階)にも影響を受ける為に、その場合は効果は薄い。
 元ネタはD&Dにある神官の第1位階魔法《レジスト・コールド》、第2位階魔法《レジスト・ファイアー》です。

・超位魔法《アドヴェント・オブ・ザ・ジャイアント・ゴッド/巨神の降臨》
 オリジナル超位魔法
 身長の制限を取り払い巨大な姿をプレイヤーに与え、力を振るうものです。
 武器による近接攻撃も魔法による遠距離攻撃のどちらもが広範囲攻撃となる。
 ただし巨大な体は、動作が遅くなり、防御力は上がるがHPは同じで、当たり判定も大きくなるので集中攻撃に注意しよう。
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