モモン一行は、フロスト・ジャイアントの案内人により山腹の砦に辿り着いた。
石造りの砦で山の洞窟を埋めるように建てられていて、扉は背の高い人でも余裕を持って通れる高さだ。
砦の幾つかある覗き窓からはドワーフ兵達の慌てふためく姿が伺える。
フロスト・ジャイアントの案内人に別れと礼を述べ、モモンは声を張り上げて〈ドワーフ/山小人〉に言い放つ。
「私はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の使者で、名はモモンと言う。此方に親書があるので確認を願いたい」
「私はドワーフの総司令官だ。親書については中身を検めさせてもらおう。ふむ、摂政会に預けさせてもらう。どうやら客人のようだ。ようこそ、我らの国へ」
モモン一行は、親書を検めたドワーフの総司令官の一声でドワーフ兵達の手で扉が開けられ、総司令官と共に砦内に入る事が出来た。
砦内の通路は、雨などの水対策の為か一旦上がった後に下へと続き、しばらく進むと石畳になり、壁自体も何らかの力で発光していたり、洞窟の割れ目から光が入っていたりと薄暗いだけで歩くのに問題が無いほどだ。
石畳を暫く歩いて行くと地下だからか、街路樹の代わりに石を刳り貫いて造られた様々な彫像が幾つも立っていて目を楽しませる。
ドワーフの住居群も見えてきて、ドワーフの住居は洞窟に住むせいか材木を使わず、岩を組み合わせたり刳り貫いたりして無骨な感じを醸し出している。
ドワーフの無骨な岩を組み合わせた家には、美麗な金属細工の扉に様々な色合いガラスを組み合わせて嵌め込んだ窓が付いており、様々な色彩によって町全体が彩られていた。
「さて総司令官殿、此処には親書を届けに来たのと幾つかの用事を済ませにきたのです。ルーン技術に詳しい方は居られますか?私達はルーン技術に大変興味があるのですよ」
「ルーン?また古い物に興味があるんだな」
久しぶりの客人達を見ていたドワーフ達の中から声を掛ける者が居た。
「ちょっと待ったぁ、ルーンに興味があるだと。儂の名は、ゴンド・ファイアビアド。ドワーフの中でもルーン技術の復興を志すルーン開発家を自認しておる。ルーンに興味があるなら話をしてみないか?」
ゴンドは、ドワーフのビア樽の様な体格で短足、身長は140センチほどでドワーフらしく立派な髭を生やしている。
服装は、これから採掘に出る予定だったのか採掘作業用の軽歩兵が使うような金属製のヘルメットと、丈夫で無骨なデザインの上下一体型の作業着を着て、様々な作業道具の入る革袋を背負っていた。
総司令官からもゴンドは、廃れたルーンの研究を続けている者と確認が取れたので総司令官に別れを告げ、話をするにしても道端ではするものでも無いだろうという事でドワーフ達が、たむろしている酒場にやってきた。
モモンは、酒場の店主に中空の闇の中から城塞都市エ・ランテルで手に入れた酒と野菜を酒場のカウンターに乗せれるだけ乗せてドワーフ国で使える硬貨に換金してもらった。
だが酒場の店主にはドワーフ国では珍しい酒や野菜を喜んで貰えたが、全てを売る事ができず、全て売るには商業組合に行かねばならないよと教えて貰った。
まあ幾らかは換金できた訳だし、此処の酒代は何とかなるだろうさ。
モモン一行とゴンドは酒場の幾つかある円卓に備えられた椅子に座り、酒と摘まみを頼んで話始めた。
モモン一行は、人である為に酔う訳にはいかないという事で果実水を頼み、ナーベとニニャは早速摘まみを摘まんでいる。
ゴンドは、酒を飲みつつモモンに語り掛けた。
「お主らはルーン技術に対して知りたいと言ってたが、正直に言おう。ルーン技術は時代遅れの技術と言われておる。ルーン技術が栄えていたのはおよそ二百年前までよ。二百年前、王都が魔神に攻撃され、王族が討伐に赴いた後に外の技術である〈魔法による魔化技術〉が入ってきた。ルーンに比べて二倍から三倍の生産性があってな、ルーン工匠の適正を持つ者の希少さも相まって、ルーン技術は魔化技術に比べて時代遅れの烙印を押されて、現在はどのルーン工匠も殆どが工房の看板をおろし、日々の生活を送る為に働いておるわ。儂はルーン工匠としての才能は無い徒弟すら務まらん、だが儂はルーン技術が時代遅れとは思わん、祖父や父、そして祖先から続いていたルーン技術に魔化技術とは違った付加価値を付けて、ルーンが淘汰されずに生き残る道を探しておる」
「ルーン技術に何か利点は無いのですか?」
モモンがゴンドに酒を注ぎながら尋ねるとゴンドは答えた。
「利点か、魔化技術に比べて時間は掛かるが材料代が掛からんな」
「それは素晴らしい。是非ともルーン技術者をアインズ・ウール・ゴウン魔導国に招聘したくなりました。それでルーン魔法についてですが何か御存知ありませんか?」
「ルーン魔法?ルーンにそんな使い道があったのか、此れならルーン技術が生き残れるかもしれん、どんな魔法なのだ」
「うーん、御存知ないようですね。この本を手に入れましてボロボロで読めませんがルーン魔法と読める文章がありまして此処です。何処ならルーン魔法が知れそうですか御存知ありませんか?」
「うむうむルーン魔法と書いてあるな。ルーンについてなら元王都のフェオ・ベルカナにある、かつての王城の宝物庫ならルーンの技術書に魔導書なんて物があるかもしれん。だが今の王都は、二百年前の魔神の攻撃で放棄され、現在は王都の街は〈クアゴア/土掘獣人〉に占領されて、王城は竜王の一族の塒になっていると聞くぞ」
「王都ですか。クアゴアってのは何ですか?」
「クアゴアはドワーフと敵対関係にある種族よ。奴らは食べた金属で強さが決まるらしくてなドワーフとは鉱脈を荒らす獣と忌み嫌われておる。地底で生活しモグラに似た獣人で身長は140センチぐらいか、爪が鋭く武器は持たないな。全身の体毛は金属鎧に匹敵する硬さで、金属武器での攻撃に耐性があるのか剣で斬り付けるよか木の棍棒だとかで殴りつけると効果があるな。魔法を使ってる奴は見た事がないし、太陽には滅法弱いな盲目になってしまうようだ。後、雷に弱いらしいな。たまに街の外の大裂け目の吊り橋にクアゴアが出て来るが吊り橋前の大裂け目の砦に備えた《ライトニング/雷撃》と同じような効果のあるマジックアイテムを配置して迎撃しとるよ」
クアゴアか、ユグドラシルには居なかったし聞いた事もない種族だ。
ドワーフの国では、ルーン技術やクアゴアなど未知の存在を知ることが出来て胸が高鳴るな。
「なるほど私も知らない種族ですね。興味深い。街の外の大裂け目という物について教えてください」
「大裂け目か。この街の西側に広がる巨大な裂け目でな縦六十キロ以上、横幅は一番狭くても百二十メートル以上は有る大きな裂け目よ。いまだ深さを誰も知らん程でな、探査チームを2度送ったが誰も戻って来なかったそうだ。それで大裂け目に吊り橋をかけて普段は通行しとるのよ」
「ほほう、なるほど大裂け目の深さは誰も知らないのですか?それなら私達アダマンタイト級冒険者チーム〈漆黒〉が調査しましょう。さあ皆、探索に行くぞ。ゴンドさん我々はいずれ王都にも調査に赴く予定です。その際には同行してルーンの技術書や魔導書の探索を手伝って頂けませんか?」
「そりゃ願っても無い話だ、是非とも王都に同行させてもらおう。お前さん達は大裂け目の底に潜るつもりなら儂も行こう。なにかドワーフでも出来ることがあるはずだ」
モモン一行とゴンドは、大裂け目前の砦に着き、砦を守るドワーフ兵や砦に帰っていた総司令官に話を通し、大裂け目の底へ潜る事となった。
ゴンドが不安そうにロープを取り出しているが、モモンがそれを止める。
「ゴンドさん、大裂け目の深い底へ行くのに縄は要りません。ニニャに頼んで魔法《レヴィテート/空中浮揚》を使い、空中を浮揚して底まで下ります。後、探索チームが帰って来なかった事を考えると有毒ガスが底に溜まっている事が考えられます。今から皆に水中呼吸の指輪を渡すので付けて下さい。ハムスケは、尾に水中呼吸の腕輪を付けておけ」
「おお、これは凄いな。プカプカ浮いとるわ」
「殿、尾に付けたでござる。いつでも大丈夫でござるよ」
皆、水中呼吸の指輪を装備して魔法《空中浮揚》も掛かっている事を確認して崖をゆっくりと下りて行く、まあ俺には水中呼吸の指輪はアンデッドだから必要ないんだが、ゴンドの目もあるし一応着けておいた。
崖は発光キノコや大裂け目の上からの光で薄暗くても、モモンの持つ〈闇視〉で周囲の状況は分かるが他の者は見えにくくなっているだろう。
「ニニャ、ランタンを付けて周囲を照らしてくれ。皆は何が起こるか分からないから警戒するように」
「はい、モモンさん。ランタンを付けますので少々お待ちを」
ランタンの光で照らされたモモン一行は、崖を長い時間を掛けて下りて行く、崖を下りる途中で大蛇が数匹襲い掛かって来たがモモンとハムスケに返り討ちにあっていた。
「探索チームは先程の大蛇に襲われたのかもしれません。我々だから倒せたもののレベル20ほどの敵でした。探索チームはレベルが其処まで高くは無いでしょうしロープで下っている所でしょうからね」
「怖いのう、儂、あんなデカい大蛇は見た事が無かったわい。お前さんの言う通りロープで下っておったら一飲みにされちまうわ」
周辺を警戒しながら、暫く崖を魔法《空中浮揚》で降りていくと漸く底が見えてきた。
大裂け目の底には霧のようなガスが充満しており、地面を探ると骸骨となった小動物の死体が幾つも見つかった。
「どうやら地面に流れているのは有毒ガスの様だ。さてナーベ、魔法《コンティニュアル・ライト/永続光》をニニャの杖に掛けておきなさい。周囲を照らしたら探索するぞ」
「はっ、承知しました。《コンティニュアル・ライト/永続光》」
周囲を照らす白い明かりが魔法《コンティニュアル・ライト/永続光》でニニャの杖に灯され、しばらく探索すると広さが1kmは超える巨大な肉色の沼が見つかった。
だが其の沼にモモン一行が近づいた途端、沼から何かが飛び出して来た。
モモンは咄嗟に双大剣で斬り飛ばそうとしたが、飛び出た液体は形を成し肉色から此方そっくりの色合いのナーベとなり此方に語り掛けてきたではないか。
時折、沼の気泡が弾けるような音をさせながら肉人形が語る。
「貴方たちは何故生きている?此処は空気が悪いよ」
「私達はアイテムで呼吸をしているからだよ。何故君はナーベの姿をしてるんだい?」
「貴方たちの姿で話した方が友好的に話せると思ったから此の姿を取った。不快なら別の姿にも成れるよ」
「不快です。この姿は、至高の御方につくら……モガモガ」
ゴンドが居るのに迂闊なことを口走ろうとしたナーベの口元を抑えたモモンは、アンデッドなのに心底疲れたように詫びるのだった。
「失敬、ナーベは黙っていなさい。すみませんが別の姿でお願いします。そうだな銀髪の女性で頼みます」
銀髪、銀目の女性、ナーベはスラリとした美人に創られていたが此方は、モデルスタイルな美人さんで背丈もナーベより頭一つ分大きい身長となった。
服装は一般的な旅装で、背中から肉の管が沼から伸びて繋がっており、喋る言葉もモモンと話して慣れてきたのか沼の気泡が弾ける音が無くなったのが分かった。
肉人形は物憂げな様子で話し出した。
「これで良いのか?」
「ああ良いとも。所で君は此の底で一人で暮らしているのかい?」
「此処では今は一人です。様々な動物がいる場所だったのだけど天然の転移門が閉じてしまってからはガスが溜まって動物達は死んでしまったの。私の子供達も其の時に死んでしまって悲しかったのを思い出したよ」
「子供と言うと君みたいな沼かい?」
「いいや、子供たちは私が様々な死体を食べて体内で合成した命だよ。蝙蝠と百足、蜥蜴と鳥、鼠と蛇。……あら、そういえば其処に居るのは私の娘じゃないのか。鼠と蛇の合いの子を生み出したけど、まだ小さい時に天然の転移門に飲み込まれて生きて帰って来るとは思わなかったのに、こんなに大きくなって、お母さんはとっても嬉しいよ」
「えっ、母上でござるか?なんだか実感が湧かないでござるな。でも確かにトブの大森林に居着くまでの記憶は曖昧でござる。本当なのでござろうか?殿~」
ハムスケがモモンに擦り寄り助けを求めて来たのだろうが、毛がゴワゴワしてて嬉しくない。
ナーベにハムスケがモモンさんに迷惑を掛けるなと怒られているが、ハムスケの親か、どうなんだろう?
「うーん、ハムスケは他で見た事が無い種族だし、可能性が無いとは言えないな。えっとハムスケは御婿さんが欲しいそうなんですが創れますか?」
「ああ、できるとも。私の大きな娘はハムスケって名前なんだね。ハムスケの毛とオスの鼠と此の洞窟に居るオスの大蛇の死体を食べれば創れると思うよ」
「こんなに簡単に創れるとはハムスケ、この人は、お前のお母さんだ。まさか見つかるとは思わなかったぞ」
「は、母上でござるか。話したい事が沢山あるでござるよ」
ハムスケと沼の肉人形は今までの冒険の話で盛り上がっているようだが、モモンの話を先にさせて貰おう。
肉人形に名前を聞いてみたが呼ぶものが居なかったせいか無いそうなので、取り合えず皆で名前を考え、無詠唱化した《メッセージ/伝言》で死の宝珠が付けた「サルビア」と言う名に決まり、肉人形も此れを了承したのだった。
「サルビアさん、此処で一人では寂しいでしょう。どうです我々のチームに加わり、別の地域に行って様々な物を見たり聞いたり食べたりしてみませんか?チームに加わるからには戦って貰わねばいけませんがね」
「別の所に行きたいが、此の体では身動きが取れないんだよ。なんせ1kmはある巨大な沼なのだし、このように話せるのは言わば感覚器官を外に出して喋っているような物なんだ。ありがたいけど無理だよ」
死の宝珠が無詠唱化した《伝言》でモモンに、こうすれば良いのではと伝えて来た。
(モモン様、死の宝珠です。〈インフィニティ・ハヴァザック/無限の背負い袋〉を普段から使われていますよね。其の時に手を入れ込んでいると手の分の重量や形態も別空間に存在するせいか無くなっていました。ゆえにサルビアさんの沼部分を〈無限の背負い袋〉に入れ髪を伸ばして入っている部分を隠せば充分普通の人として通用するかと思われます。やってみては如何でしょうか?)
〈無限の背負い袋〉に、そんな使い道があったとは驚いたな。
実際に上手くいくかは試してみないと駄目だが、俺の勘では上手くいく。
「〈無限の背負い袋〉を使いましょう。この中に自らの沼部分を入れ、感覚器官を外に出して下さい。そうそう、その調子です。旅装は此れを着て下さい、いつも変形、変色させた体で衣服を作るのも疲れるでしょう。髪を伸ばして〈無限の背負い袋〉に沼を入れている部分を隠して下さい」
「おおっ、体が軽い。人の体で移動できるとは、なんと素晴らしいことか。うむ、モモンさん、いや殿。貴方と共に行こうじゃないか。外の世界が楽しみだな、ハムスケも良い主を見つけたな、偉いぞ」
「わはははっ、某の主を褒めて貰えて嬉しいでござる。母上も一緒に殿を御助けするでござるよ」
サルビアさんをモモン一行の仲間に加え、帰りにオスとメスの鼠の死体と洞窟に住むオスとメスの大蛇の死体を幾つか手に入れ、中空の闇の中のインベントリに入れておいた。
これでサルビアさんに体内で合成させて貰えば、ハムスケの御婿さんや仲間ができるって訳だ。
魔法《空中浮揚》でモモン一行とゴンドは崖を上っていくと、上の大裂け目前の砦やその前にある吊り橋で騒ぎが起きてるようだ。
風に流れた話を聞いてみると、どうやらクアゴアの大軍勢が襲い掛かって吊り橋で激戦中のようだ。
ゴンドはフェオ・ジュラも他の都市と同じく捨てねばならんのだろうかと嘆いているが、此処はドワーフの国に俺達の強さを見せる良い機会だ。
強さを認められれば、ドワーフの摂政会も王都の奪還に良い条件で賛成してくれるに違いないからな。
「クアゴアの大軍勢に大裂け目前の砦が攻められているようだ。《フライ/飛行》の魔法に切り替えて皆に魔法を掛け直すのはニニャには難しいだろう。魔法《空中浮揚》の上昇量を最大にして、ナーベ、ソアは雷の魔法をクアゴアの大軍勢に打ち続けろ。雷だから吊り橋に影響は少ないと思うが、なるべく当たらない様にクアゴアのみを狙うのだ。ゴンドさんは、済まないが守りながらは戦えないので大裂け目前の砦についたら速やかに避難してくれ」
「おう、分かったぞ。儂らの戦いに参加してくれるんだな。応援しとるぞ」
雷の魔法をクアゴアの大軍勢に撃ち続けるソアとナーベ、魔法《空中浮揚》の上昇量を最大にする為に集中をしていたニニャ、暫くすると漸くモモン一行とゴンドは大裂け目前の砦の崖上に辿り着いた。
ゴンドが砦に避難しているのを見て、クアゴアの大軍勢に向き直ったモモンは、モグラ退治の始まりだと皆に檄を飛ばすのだった。
・《レヴィテート/空中浮揚》
オリジナル魔法、第2位階魔法
接触したモンスター1体もしくは物体1つを垂直方向へ移動させることができる魔法。
元ネタはD&Dにある第2位階魔法《レヴィテート》です。
・サルビア
オリジナル人物
ハムスケの親でドワーフの国の大裂け目に住んでいる全長1キロを超える生物になる予定だったが没にしたと原作者の丸山くがね氏が言っていたので登場させました。
オリジナル設定
肉の色をした沼のような全長1キロを超える生物、感覚器官として人を模した物を出すことが出来て会話も可能です。
幾つかの死体を体内で合成して新たな生物として誕生させる事ができます。
長年の間に種族レベルを積み重ねた事により様々な補助魔法や神官系魔法を使う事ができます。