ローブル聖王国とスレイン法国の間に広がる巨大な丘陵地帯を人々はアベリオン丘陵と呼んだ。
かつてアベリオン丘陵では、様々な亜人種が存在し戦いを繰り広げ覇権を競っていた。
突如として総勢10万超の亜人の軍勢がローブル聖王国へ侵攻を開始していたのは昔の話、現在は逆にアベリオン丘陵の亜人達はローブル聖王国軍に攻められ〈オーク/豚鬼〉や上半身はウナギに手がはえたような姿で下半身は藍色の蛆虫のようにぬらぬらとしている〈ゼルン/藍蛆〉といった亜人達から迫害や御方に従属しなかった所為で酷い目にあった者達が人間側に付き、反攻に加わっていた。
既に亜人連合軍十傑の「螺旋槍」や〈ゾーオスティア/獣身四足獣〉の「黒鋼」ムゥアー・プラクシャーが、打ち取られたとの報告が亜人連合軍総指揮官にして亜人連合軍十傑の一人、「七色鱗」のロケシュの耳にも届いていた。
「七色鱗」のロケシュは、〈ナーガラージャ/蛇王〉という亜人の種族で蛇に鱗の生えた体と腕が出来たような外見を持ち、鱗は虹色の光彩を放ち、怪しく濡れたように煌めいていた。
鱗の硬度は竜にも匹敵し、鱗の上から魔法鎧と大盾を持てばアベリオン丘陵で最も堅牢な存在と言われている。
ローブル聖王国軍に攻められ後が無い「七色鱗」のロケシュは、亜人連合軍の大天幕で平伏し、何十もの垂れ幕越しに声を掛けた。
「御方様、亜人の死体約500体、人間の死体約1000体、どれも五体満足な死体に御座います。お納め下さい。亜人連合軍は敗走を重ね、人間共は此処まで攻め寄せています。何卒御力を貸して頂けませんでしょうか?」
「此の〈怪力の宝玉〉を飲み込めば、お前の力は遥かに上がる筈だ。お前のしたいようにするが良い」
「はっ、有難き幸せに御座います。此れで人間共を蹴散らして御覧に入れましょう」
「七色鱗」のロケシュは、垂れ幕の前に置かれた深皿の中の黄色い飴玉のような宝玉を手に取ると、立ち上がり大天幕を出て行った。
「その力を使いこなせるかは、お前次第だがな」
「七色鱗」のロケシュが去った後に垂れ幕の中から声が響いた。
アベリオン丘陵に攻め寄せたローブル聖王国軍は、冒険者部隊とアンデッドの仮面兵達を前面に神官団や聖騎士団が騎馬突撃で亜人達を蹂躙していた。
亜人達の連合軍は、十傑の残りが冒険者チーム〈蒼の薔薇〉や〈漆黒〉の手により、ほぼ片付けられた事もあり、士気が底辺すれすれで散発的な反抗しかできなくなっていた。
モモンが亜人の一人を袈裟斬りで斬り飛ばすと、〈漆黒〉の魔法使い組に向けて爆裂系の範囲魔法を遠距離に向かって亜人達に対して唱えるように言おうとした時に、鎧を着た蛇に手が生えた〈ナーガラージャ/蛇王〉達数十体が、虹色の鱗を持つ一回り大きな個体と共に現れる。
「猛者の様だな。我が名は、「七色鱗」のロケシュ。最後の亜人連合軍十傑の一人にして亜人連合軍総指揮官だ。いざ尋常に勝負。かかれ皆の者」
「私の名は冒険者モモン。皆、雑魚は任せた」
モモンは、〈武技・閃光走破〉と唱え、後方に土埃を残し大きく踏み込んだことで土が捲れ上がったかと思えば、「七色鱗」のロケシュの眼前まで瞬時に移動し、美麗な模様の入った双大剣【世界意志(ワールドセイヴァー)】を大きく振り上げていた。
モモンが双大剣【世界意志】を振り下ろすと、驚きで大きく目を見開いた「七色鱗」のロケシュは両手に持った三叉槍〈デハイドレーション・デザート〉で受け止め後方に跳躍して距離を取り、三叉槍の力を解放して叫ぶ。
「喰らえ、デハイドレーション・デザート!」
「くっ、避けろ」
モモンは、三叉槍から前方へ吹き出した黄色がかった突風を横に避けるが、慌てて避けた〈漆黒〉の魔法使い組の後ろにいた他の冒険者達に突風が襲い掛かる。
黄色がかった突風をまともに浴びた冒険者達は、急速に干からびて骸骨に皮が張り付いたような顔で倒れていく。
「くそっ、此れも避けられたか。ならば此れまでよ、御方様の力を見るが良い」
「まずい、何かする気だ。殺せ!」
モモンが後ろを振り返って叫ぶと、ナーベが魔法を唱え「七色鱗」のロケシュに向けて手を伸ばすと肩から手先に掛けて稲妻が迸り放たれた。
「《ドラゴン・ライトニング/龍雷》!」
竜にも似た白き雷撃がのたうちながら「七色鱗」のロケシュに向かっていくが、供回りの〈ナーガラージャ/蛇王〉が2体立ちはだかるように魔法を受け止め、白煙を上げながらロケシュを守りきり死んだ。
「すまん、此れで仇を取らせて貰うぞ。……我に最強の力を」
「七色鱗」のロケシュは倒れた仲間を見て、謝ると懐から取り出した黄色い飴玉のような宝玉を口に放り込むと喉を鳴らして飲み込んだ。
飲み込んだ途端、みるみる体が膨れ上がり身に付けた魔法の武具以外は破れていく、持っていた大盾は魔法が付与されて無かったのか中央から割れて地面に落ちている。
9m近くまで大きくなった「七色鱗」のロケシュは、戦場に轟く吠え声を上げて近くの亜人に喰いつき貪り喰らい始める。
亜人達は、見境なく襲いだした巨大ロケシュに驚き慌てて止めようとするが、大きな三叉槍に纏めて吹き飛ばされた。
「どうやら力を求めるあまり正気を失ったようだな。軍勢同士がぶつかった状態で正気を失った巨大な敵とはな。普通なら放っておいて飲み込んだ宝玉の効果が切れるのを待つんだが、そうもいかないだろう。巨大化したロケシュを討ち取るぞ。魔法使い組は、左右に分かれて相手の腕を狙って魔法を唱えて腕を使い物にならなくするんだ。ハムスケは、私と一緒に敵の注意を引きつつ攻撃せよ。サルビアさんとネイアさんは、後ろで援護して下さい。行くぞ!〈武技・階層〉、〈武技・戦士職段位上昇Ⅴ〉、〈武技・七彩強化〉、〈武技・黒曜石剣の円陣〉、〈武技・漆黒付与〉、〈武技・早足〉!」
モモンは、〈武技・早足〉で強化された移動速度で駆け抜け、巨大ロケシュに近づくと背中の双大剣が手も触れてないのに抜かれ踊るように空中を飛んだかと思えば、モモンの頭上に浮かぶ黒曜石の3本の剣と同じく巨大ロケシュの顔を何度も突き刺し始める。
「〈武技・星光連撃〉!」
モモンのマントが大きくはためくと同時に、星空の光の如く剣閃が瞬き両手に持った双大剣【世界意志】による無数の斬撃が巨大ロケシュの下半身の大部分を斬り飛ばした。
巨大ロケシュは、大きな叫び声を上げ、辺りは血煙が舞い細かな無数の肉片を地面に落としたが、既に巨大ロケシュの肉体は再生を始めており、抉り取った腹から沼から出る泡の様に肉が盛り上がっている。
「まるで〈トロール/妖巨人〉の再生能力だな。巨大な体では大して傷を与えられないか……」
巨大ロケシュが、空を舞い飛び顔面を突き刺す双大剣と黒曜石の3本の剣を羽虫が五月蠅い様に大きな三叉槍で落とそうと無茶苦茶に振り回している。
その一撃がモモンに当たるが、武技を唱えて双大剣【世界意志】を交差する事で巨大ロケシュの三叉槍を高い金属音と共に跳ね返す。
「〈武技・無敵要塞〉!、デカすぎて要塞で跳ね返しても、よろけもしないか」
ハムスケが前足の爪先を揃えて手刀を作り、立ち上がって両手で巨大ロケシュの背中を削りとる。
「〈武技・双剣斬撃〉!、でござるよ」
「皆、奴は再生持ちだ。炎か酸が有効だろう。魔法で打ち負かすのだ」
「はい、分かりました。《マキシマイズトリプレットマジック・アシッド・ジャベリン/魔法最強三重化・酸の投げ槍》!」
「承知しました。《マキシマイズトリプレットマジック・ファイヤーボール/魔法最強三重化・火球》!」
「いくよ!《ワイデンマジック・ファイヤー・ストーム/魔法効果範囲拡大化・炎の嵐》!」
ニニャが左腕に3本の酸の投槍を投擲し、ナーベが3つの火球を右腕に着弾させ、ソアが炎の嵐で巨大ロケシュを包み込むように命中させる。
巨大ロケシュは酸により鎧の隙間から白煙を上げ左腕が溶けかけ、右腕も火球で焼けて三叉槍を落とし、範囲拡大化した炎の嵐で虹色に輝く鱗も焼け焦げて呻き声を上げている。
サルビアさんが、魔術師組に効果範囲を拡大した《グレーター・マジックシールド/上位魔法盾》や《グレーターハードニング/上位硬化》を掛けて回っていた。
ネイアは精密な射撃で巨大ロケシュの目を狙って撃っており、目を射抜いても即座に再生されているが目くらましぐらいには成っていると信じて撃ち続けている。
巨大ロケシュが大きく喉を膨らませた後に、大量の毒液を宙を舞う双大剣や黒曜石の剣を巻き込みつつモモンを目掛けて放射する。
前方に放たれた毒液放射により、空を舞う双大剣は毒液を浴び地に落ち、黒曜石の剣は全て毒液で溶かされて消えてしまう。
モモンは、〈武技・階層〉で察知した毒液放射から体を横に倒れ込むように投げ出すことで、全身鎧に多少の毒液が付く程度で避ける事ができた。
全身鎧から毒液が放つ白煙が上がるのを煩わしいと思いながら、モモンは中空の闇からタオルを取り出して簡単に拭き取る。
大量の毒液放射に巻き込まれた亜人達や人間の兵達も等しく白煙を上げ藻掻き苦しんでいる。
アンデッドの基本特殊能力で毒無効が有り、黒い全身鎧が猛毒を多少浴びて焦げたものの身体には支障が無かったのが本当に良かった。
あんな毒液なんて浴びたら人化の指輪を付けて人間化していたら酷い目に合ってたな。
モモンは、巨大ロケシュに向けて奥義(スキル)を唱え、炎が纏わりつく片手の大剣で指し示した。
「ハムスケ、今からスキルを放つから逃げろ。……燃え盛れ太陽の炎よ、スキル〈太陽の爆発〉!」
ハムスケが慌てて巨大ロケシュから距離を取ると、巨大ロケシュを中心に攻撃範囲を示す真紅の円が浮かび上がり、数秒後、巨大ロケシュを包みこむような火柱が上がり、戦場の何処から見ても分かる程に燃え盛った。
黒焦げになった巨大ロケシュは、それでも体を崩しながら幾つか焼け落ちた牙で噛みつこうとゆっくりとモモンに近づくが、モモンは双大剣【世界意志】を頭上に構え、武技を唱え振り下ろす。
「此れで最後だ。〈武技・巨神斬〉!」
モモンの巨大斬撃により空の雲が割れ、巨大ロケシュを中心から斬り裂き、大地に大きな地割れを作って双大剣【世界意志】を振り下ろした。
巨大ロケシュは、2つに分かれた体を大きな音と共に左右に倒れながら土埃を巻き起こし、地面に落とした三叉槍が巨大ロケシュが死んだ事で砕けて細かな破片に成る音が響き渡る。
巨大ロケシュが倒れた事で亜人連合軍は、ローブル聖王国軍に降参を申し出ているが、アベリオン丘陵は魔導国預かりとなることは、既にモモンと聖王女カルカとの話し合いで了承を得ている。
まあ亜人共の管理なんてローブル聖王国に出来るとは思えないし、此の辺が落とし所だろう。
聖王女カルカと神官団団長ケラルトと聖騎士団団長レメディオス、そして護衛の聖騎士達と冒険者モモン一行は亜人達が戦場に設えた大天幕に来ていた。
「此れが御方か?ただの篝火じゃないか」
聖騎士団団長レメディオスが垂れ幕を捲り上げて、篝火を指差している。
すると篝火から声が聞こえ、辺りを息をするのにも疲れるようで、体を押さえつけられるような重苦しい強大な威圧感が突然に漂う。
「……ほほう、亜人達は戦に負けたか」
篝火が喋り出した事に聖王女カルカは、火の姿をしたモンスターかも知れないと考えたが、どう見ても単なる火にしか見えない事に驚いていた。
神官団団長ケラルトと聖騎士団団長レメディオスは、聖王女カルカを守るように聖騎士達と共に篝火の前に立ち塞がる。
「貴方は何者です。名を名乗りなさい。そして貴方が亜人連合軍を創り出したのですか?」
「我が名は魔皇ヤルダバオト。亜人連合軍など奴らが勝手に作ったものよ、私が対価の代わりに宝物を授けてから都市を幾つも攻め滅ぼしてな」
「貴方が亜人達に魔法の武具を配ったのですね。亜人達は、強大な力を手に入れ聖王国に攻め寄せました」
「ふん、私は武具を授ける時に「お前のしたいようにするが良い」と言うだけで人間の都市を攻めろとは一言も言っておらぬぞ。授けた武具で魔物を狩り、アベリオン丘陵の安寧を計れば良い物を奴らは人間を狩る事で縄張りの拡大を狙いおったのよ。さて人間よ、お前達は何を望む。対価を払うならば宝物を授けよう」
「いりません。対価とは生贄ですか?私達、人間は貴方に頼りません。何処へなりと失せなさい」
「くくくっ、対価とは大量の死体だよ。人間よ、今回は断られたが次回に期待するとしよう。漆黒の戦士モモンよ、また会う事もあるだろう」
聖王女カルカがモモンへと振り向くと、モモンはマントを翻しながら篝火に語り掛ける。
「こんな手口で亜人達を手玉に取るとはな。お前を倒す日を心待ちにしているよ」
「はっははは!では、さらばだ」
そう篝火が叫ぶと、一際篝火が燃え盛った後には黒焦げの木材が煙を出しながら鎮火しており、体を押さえつけるような絶大な重圧も解け、聖騎士達は大きく息を吐き出した。
此れでローブル聖王国での冒険者モモンの冒険は終わって魔導国へ帰ってしまう。
聖王女カルカと神官団団長ケラルトと聖騎士団団長レメディオスは顔を見合わせて、どうすればモモンを聖王国に引き留められるか静かに話し合うのだった。
・怪力の宝玉
オリジナルアイテム
飲み込めば自らの力を数倍に上げる黄色い飴玉のような宝玉、再生能力も上がる。
ただし体自体も大きくなる為に当たり判定が大きくなる又、力を上げ過ぎると自我を失って暴れる、戦闘状態が終了したら死亡する危険性があるなど欠点がある。
・三叉槍〈デハイドレーション・デザート〉
オリジナルアイテム
一日一回、此の三叉槍を持った状態でデハイドレーション・デザートと唱えると直線上の敵全てに魔法《デハイドレーション/脱水》の効果を掛けることでレベルの低い敵を脱水で即死させる又レベルが高く抵抗に成功しても乾燥で動きを短時間鈍らせる。
作中では、持ち主が死んだら罅が入り粉々に砕け散る魔法が限定付与されていた。