アインズは護衛を連れ、かつて〈ダークエルフ/闇妖精〉達が暮らしていたというトブの大森林の魔樹ザイトルクワエがいた場所に来ていた。
かつて魔樹ザイトルクワエに食い荒らされ枯れ木ばかりが目立っていたのは昔の事、巨大な〈魔樹ザイトルクワエ〉の黒焦げた死体は片付けられ、広場と成った其処には森と見紛う様な巨大な樹で出来た構造物が建っており、エルフツリーの魔法で創られた複数の樹が組み合わさり一本の巨大な樹と成り、柱や梁が床や天井を規則正しく円を描く様に並んでいる。
巨大な樹の根元の地面には、苔や草が絨毯の様に生えており、樹への出入り口付近にはアウラの魔獣が門番代わりに数体ほど寝そべっていた。
其処では、〈ウッドゴーレム/木動像〉達が絶え間なく働き、ダークエルフ達が監督して、ナザリックの〈アッシュールバニパル/最古図書館〉で手に入れた高層木造建築物の図面を元に、魔法や此の世界独自の技術を併用する形でラナー王女が図面を引いた超巨大積層エルフツリー集合建築物を建てようと、漸く高層階まで届いていた。
黄色いヘルメットを着用したアウラとマーレがアインズが現れた事に気付き、何は置いてもと言う感じでアウラがマーレの首根っこを引っ掴んで風の如く樹の壁を次々に飛び移り、アインズの元へ降り立ち挨拶した。
「あっ、アインズ様。ようこそダークエルフの都市へ」
「お姉ちゃん痛いよ。アインズ様、よ、ようこそお越し下さいました」
大洞窟に住むダークエルフ達は、〈魔樹ザイトルクワエ〉の黒焦げの死体と〈常闇の竜王〉を倒したと聞かされ、魔導国の強大さに恐れおののき恭順することにしたそうだ。
魔導国からのダークエルフへの魔導国加入関係の書類は、同じダークエルフだからというアインズの考えでアウラとマーレに任せていたら、何やら「王の相」だとダークエルフ達が言いだして、二人の飛び抜けた実力もあり、あれよあれよという間にアウラとマーレの二人にダークエルフ達の王様に成って欲しいと言い出した。
「王の相」とはエルフ族に伝わる両眼が異なる瞳の色をしている事だそうで、エルフの王もこの「王の相」だそうだ。
いや、アウラとマーレは、緑と青のオッドアイだがキャラ作成で目立つからって理由で、ギルドメンバーの「ぶくぶく茶釜」さんが製作したのであって別に「王の相」とは関係が無いんだがな。
結局、デミウルゴスの民を穏やかに支配する実験に付き合う形で、アウラとマーレはダークエルフの双子の王様と成る事となった。
「うむ、ダークエルフ達の支配は上手くいっているようだな。お前達がダークエルフ達を支配すると決まってナザリックの財貨と資材を存分にダークエルフの都市に注ぎ込んだからな。上手くいって貰えて良かったよ」
「えへへへっ、アインズ様!樹の中をご案内致します」
「ご、ご案内致します。アインズ様」
樹の中は、細かく区切られているようで中央部が吹き抜けに成っており吹き抜けから太陽が覗いていた。
アインズの赤黒い眼光を放つ髑髏の魔術師姿を見たダークエルフ達は、畏れ敬いつつ片膝を付き、アインズが恐ろしいのか顔から緊張のあまり冷や汗をかきながら深く礼をした。
アインズは、変声の喉飾り(チョーカー)を起動して声を賢者風に変え、ダークエルフ達に声を掛ける。
「良い、顔を上げ、作業に戻りなさい」
アインズがそう言うとダークエルフ達は、慌てて其の場を離れて行く、遠巻きに作業をしているようだが、そんなに髑髏の魔術師姿が怖いのか?
「まったく、ダークエルフの民達にも困った者です。私達の至高の御方であるアインズ様に対して怯えるなんて」
「まあ、仕方なかろう。誰しも髑髏姿は怖い物だ。じきに慣れるだろうよ」
「アインズ様が仰るなら間違いないですね。えっと第1層と第2層は居住区になってまして第1層が単身世帯で第2層に家族世帯が住んでます。超巨大積層エルフツリー集合建築物は大きいんで居住区は大部分余ってますが、その内にダークエルフ達の暮らしも安定して人口も増えるでしょう。今は、農作業の魔導具や農作業機具を置いてます」
エレベーター代わりの《フライ/飛行》が付与された発着場から、上層の第3層へアインズとアウラとマーレは飛ぶ。
第3層は、床全体が巨大な土の入ったプランターに成っており、ダークエルフ達が食べるトブの大森林産の食べられる草や果樹が植えられており、トブの大森林で仲間にした〈ドライアード/森精霊〉やトレント達が畑の栄養価回復の魔法を使って土地を常に肥えさせ、ウッドゴーレム達が丹念に如雨露で水をやり、鍬を使って土を掘り返して苗を植え、鋤で土の掘り起こしをしたり、剪定鋏を使って果樹の無駄な枝葉を切り落として手入れしているようだ。
「第3層から第4層までは栽培層で果樹や畑で食べられる草なんかを植えてます。ここではナザリックで実験して生える事を確かめた特殊な果樹である〈黄金の知恵の林檎〉や〈豊穣の米〉などの種を植えて様子を見てますが芽が出ているのを確認したので大丈夫だと思います。第5層から第6層は牧畜層でナザリックの第6階層に住んでる鹿や山羊や牛、それに鶏の魔物を畜産してますが世話をしてるウッドゴーレムが齧られて使い物にならなくなるのが数体出たので、今度から不壊の付与をしたウッドゴーレムを配置する事にしました」
「うむうむ、順調そうだな。不壊の付与したウッドゴーレムなら齧られても大丈夫だな」
「はいっ!」
第3層の栽培層と第5層の牧畜層を見終えて、《飛行》が付与された発着場に行き、第7層へ、此処では茸や薬草などが、床を地面に変えられ其処に朽木が不朽の付与を施した木を組み合わせた物に立て掛けられており、ウッドゴレーム達が茸を収穫しているのが見られる。
マーレがアインズに説明している。
「だ、第7層と第8層は薬草層で、ダークエルフ達の薬師頭が率いる薬師衆が使う茸や薬草を栽培しています。充分に増えたら魔導国との取引品目に加えるかもしれないです。壁や天井や地面の下の床部分は、不朽の付与を施してあるので茸が生体の樹に生える事は有りません」
「茸か。マイコニド達の茸は確か効能が高いが、栽培中はマイコニド以外には毒になる胞子をばら撒く物があったな。ダークエルフ達の薬に使える弱い効能の茸や薬草も錬金術では必要となるだろう。取引品目に加わる日を待ち望んでいるよ」
建設途中の第10層と屋上の枝葉層は飛ばして第9層へ《飛行》が付与された発着場で飛んだ。
此処では、沢山のダークエルフ達が働いていてアインズ達を見て、手が止まったのでアインズが「良い、作業を続けよ」と言って収めた。
第9層は、ダークエルフのドルイドがエルフツリーの魔法を使い、魔法によって床から生えた人間大の棒の様な物からウッドゴーレムを取り出している。
取り出したウッドゴーレムに対して、横に控えるダークエルフの魔術師が〈不朽〉や〈硬化〉や〈火炎耐性〉や〈再生〉等の付与を行って製品化したウッドゴーレム達を《飛行》が付与された発着場近くに移動させて列を作っていた。
「第9層と建築中の第10層はウッドゴーレム製造層です。どうやら大洞窟に住んでたダークエルフ達はウッドゴーレムをエルフツリーの魔法を使って量産できるらしく、安価な労働力としても使えるので魔導国に輸出しています。今度は鉄巨兵並みの大きさの木巨兵を創ろうって提案しています。でもルーン技術や錬金術を使用しないので単なるゴーレムにしか出来ないのが残念です」
「ウッドゴーレムを量産か、素晴らしいな。ゴーレムは疲労も老化もしない為に門番や警備兵や労働者として非常に重宝されているが、ゴーレムという存在は非常に稀であると考えられており、現地では通常は、ウッドゴーレム作成に高位の魔法使い複数人を一年は拘束しなければならない。これは現地では、ゴーレム作成技術が確立されていない為だ。製作には時間と手間と費用が非常に掛かるが、ダークエルフの秘術エルフツリーの魔法で時間を大幅に短縮して、創るのも熟練のダークエルフが二人も居れば創れる訳だな。アンデッドに拒否感がある者でも多少レンタル料が高くてもウッドゴーレムを使えるという事か、選択肢が増えるのは良い事だ。木巨兵か改善案を考えてみよう。死の宝珠やナザリックの知恵者達なら良い案が浮かぶかもしれんな」
アインズは、アウラとマーレに別れを告げナザリックに帰還し、ナザリックの宝物殿へとナザリックの全てのギミック及び解除方法を熟知する戦闘メイドのシズを連れて、宝物殿の罠を潜り抜けて行く。
宝物殿では、〈常闇の竜王〉の塒に転がっていた玉石混淆の大量の武具や金貨や宝物に埋もれる様に、宝物殿領域守護者のパンドラが涙を流しながら羽の生えた人形像を握りしめていた。
「ンッ、アインズ様ッ。これは素晴らしい物です。この素朴な人形がワールドアイテムの〈二十〉の一つである【光輪の善神(アフラマズダー)】ですよ!効果は、超大な効果範囲を持ち世界一つを覆うほどの大きさ、効果範囲が可変な様で範囲に絞れば効果も極大化するでしょう。カルマ値がマイナスの対象に強大な効果を発揮するというものです。此れを〈常闇の竜王〉が使わなかったのはアイテムの効果を知らなかったか、〈常闇の竜王〉自身がカルマ値がマイナスの対象に含まれるからでしょうね。あの方は他人を奴隷としてしか見なかったようですし」
「ほほう、ワールドアイテムの〈二十〉の一つか。ナザリックはカルマ値がマイナスな者が多いから、此れはペストーニャ、いやセバスに装備させるか。〈常闇の竜王〉の宝物の鑑定、ご苦労だったな、パンドラ。褒美をやろう」
「褒美ですか。あの此方へ来てください」
「なんだ?」
パンドラは、アインズに耳打ちする。
「アインズ様を父上と呼ばせて下さい」
「はぁ?何を。……褒美だったな。うーむ、確かに私の創造物でも有るお前の事は大切だが息子か。良し、いいだろう。だが、私的な場では息子と父親の関係だが、お前の事は表向きは此れまで通りだ。それに私の息子としてナザリックの危機の際には一番危険な任務に就いてもらうぞ。それで良いのか?」
アインズもパンドラに顔を近づけて、小声で戦闘メイドのシズに聞こえない様に念を押して置いた。
「ンンッ、感謝致します!それで結構です!ラララ~」
急にパンドラは身を起こすと大仰な手振りで歌を歌い始めたので、どついて止めた。
パンドラは、どつかれた頭を抱えて座り込んでいる。
「痛いです。アインズ様」
「うるさい!俺は、お前に俺の前では一々仰々しいオーバーなアクションとポーズを取るなと言ったよな。まったく嘆かわしい」
「すみませんでした。アインズ様」
「……ふぅー。すまん、シズ、耳を塞いでくれないか?聞かせたくない話をするのでな。もし聞こえても此処での話は忘れてくれ」
「はい、分かりました」
シズが耳を塞ぐのを確かめてからアインズは、パンドラに言う。
「私は昔にお前を創造した。だが設定した物以上の物が見たいし聞きたいのだ。私の息子なら父の想像を超えてみろ!」
「はい、畏まりました。このパンドラ、父上の想像を超える舞台役者としての力を磨いてみせます!」
その後、アインズは抱き着いて来たパンドラを引き剝がして、ナザリックの執務室に戻り、鉄巨兵の量産計画の冊子を読み、色々な方式を検討した結果を踏まえてフットペダルとレバーによる簡易操作を採用すると書かれていた。
まあ、簡単操作でも魔法や武技は鉄巨兵経由で使えるが、全身装着式の鉄巨兵は細かな操作が出来て周囲の状況が文字通り手に取る様に分かるので熟練者なら全身装着式の鉄巨兵の方が有利に動けるだろう。
全身装着式の鉄巨兵も少数は創っておくように指示しておいて、書類に押印しておいた。
アインズは仕事が終わったので、執務室の机に座り〈常闇の竜王〉の〈録画〉を見て戦闘を振り返っていた。
〈常闇の竜王〉は初見殺しの技が多く、階層守護者相手でも優位に立て勝率も高いだろう。
何も知らずに、まともに戦えば負けていたのは此方かもしれんな。
だがシャルティアのスキルで放った〈清浄投擲槍〉は良く効いていたようで、〈常闇の竜王〉が絶叫を上げているからシャルティアが天敵か。
今回は、事前に録画を見て皆で訓練後に非実体に効果がある装備品を身に付け、全員で一気に攻めたのが良かったな。
アインズは、もう一度最初から〈録画〉を見直そうと持ち主にのみ見える眼前に浮かぶ半透明の板の文字に触れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
此処は、其処かの山の大洞窟に作られた巨大な遺跡、其処の飾り立てられた大台の上に白金の外皮鎧を身に纏い鱗を生やした竜が寝そべっていた身を起こし頭を上げた。
竜は遠くを見て、何かを感じ取ろうとしていた。
世界が揺らめいたように響いたかのように感じるのだ。
「世界が悲鳴を上げた?いや何者かが始原の魔法を使ったか?竜では無いな、……確かめる他無いか」
白金の竜、〈プラチナム・ドラゴンロード/白金の竜王〉である最強格の竜の一体、ツァインドルクス=ヴァイシオンが、ため息を1つつくと、再び、ある方角を睨み、考え事に耽る。
自らの始原の魔法《竜感覚》に何が掛かったのかを想いながら。
・高層木造建築物
2024年現在では日本で11階の木造建築物があります。
・【光輪の善神(アフラマズダー)】
ワールドアイテムの中でも使い切りであるが故、凶悪な効果を持つ二十種類の内の一つ。
世界一つを覆うほどの効果範囲を持ち、カルマ値がマイナスの対象に強大な効果を発揮し天上から眩い光線が放たれる。なお効果範囲が可変で範囲に絞ればダメージが極大化する。
オリジナル設定
〈常闇の竜王〉がワールドアイテムを持っているそうなので登場しました。
アフラマズダーの姿をしており、羽の生えた人形像です。
使うと光輝き、カルマ値がマイナスの対象に立って居られない程の重圧と暫く持続性のダメージを与えて、時間が来れば持ち主の手を離れ、どこかの宝箱か宝物庫に転移します。
・《竜感覚》
オリジナル始原の魔法
元ネタは、原作WEB版で登場した〈ドラゴン・センス〉です。
国を超えるほどのかなりの広範囲を感じ取れるので始原の魔法なのではと設定しました。