〈エルフ/森妖精〉の少女ルーギちゃんに案内され、エイヴァーシャー大森林の奥、エルフ達が住まうエルフツリーが群生するエルフの王国の王都までモモンの冒険者パーティーとスレイン法国兵達は攻め寄せていた。
エルフの王都近くの三日月湖の辺りは、エルフツリー以外の樹木は伐採され開けているが、その分エルフツリーは伸びのびと生い茂って成長しており、5階建てのビル程もある巨大なエルフツリーが其処彼処に生えて、木々の間を吊り橋が渡っているのが見える。
モモン達はエルフの王国のやる気なさそうな兵達をアウラのスキル〈影縫いの矢〉でエルフ兵の足元の影を射抜いて金縛りにしたり、マーレの魔法《トワイン・プラント/植物の絡みつき》でエルフ兵の足元の草をのたうつ鞭にして鎖のように絡みつかせ捕縛していく事で無力化している。
無力化したエルフ兵達はスレイン法国兵の監視の元、天幕に小分けにして手を後ろに廻して縄で固定して座らせていた。
エルフ兵達は、エルフ王に無理矢理戦わされていたのか捕縛された後は素直に此方の指示に従っている。
「ふう、これで此方も片付いたわ。貴方の言う通りに無力化して転がしといたから、後で法国兵が回収するでしょう。あとはエルフツリーの王城ね。……エルフの小娘のルーギっていうのも此方の、いや貴方の言う事には従って積極的に同胞を狩っては無力化しているようだしね。貴方の人徳?魅力かしら?ルーギも、よく働いてくれているわ」
アンティリーネは肩に十字槍に似た戦鎌を担ぎ、いたる所に金色の十字の模様が装飾された白い鎧の兜を脱いで、モモンに話しかけた。
「ええ、彼女達、エルフの民はエルフの王の暴政に苦しんでいますから機会があればこうも成りましょう。エルフの兵達に簡単に聞いた所、王は彼らの娘や妻たちを勝手に使って片っ端から子作りを行うそうで、出来た子供は前線に送っているそうですからね。相当に恨まれていますよ」
モモンはアンティリーネに、そう説明しつつ、エルフツリーの王城を眺める。
王城から一人のエルフが〈プライマル・アースエレメンタル/根源の土精霊〉に乗り、王城を包囲するスレイン法国の兵士達を薙ぎ倒し、吹き飛ばしながら悠然と此方へと向けて歩いて来た。
モモンとアンティリーネの周囲にも吹き飛ばされて飛んできたスレイン法国兵達が、他のスレイン法国兵に慌てて後方へと運ばれている。
「どうやら、エルフの国王の御出ましだ。スレイン法国の兵士の皆さんはエルフの国王に手出しせずに周囲のエルフ兵達の無力化を御願いします!エルフの国王は私達モモンの冒険者パーティーとスレイン法国のアンティリーネさん、エルフ国の少女ルーギちゃんで挑みます!」
「ふん、ようやく御目見えね。暗殺してやろうかって思ってたけど此れだけの人員が揃っていれば真正面から打ち破る方が早いわ。いくわよ、モモン」
モモンがスレイン法国の兵士達に語り掛け、アンティリーネがモモンへ発破を掛けてエルフの国王に斬りかかろうとした時に、機先を制するように〈根源の土精霊〉に乗ったエルフの国王が口を開いた。
「スレイン法国との戦争で、子供が力に目覚める素晴らしい状況だと喜んでいたが此処まで攻め込まれるとはな。ふむ、女は攫って私の子を孕んでもらおう。男は殺す。ダークエルフの、……ほほう「王の相」が出ているでは無いか、これは良さそうだ。後はスレイン法国の女と、なんだ失敗作が反乱でも起こしたか名前は何だったか、まあ良い。殺して弓を返して貰おう」
ルーギちゃんが体に合わない大きさの弓を掲げてエルフの国王デケム・ホウガンに向けて、自分の名前すら憶えて貰っていない事に怒りを滲ませている。
モモンはルーギちゃんの頭を撫でて、ルーギちゃんの怒りを鎮めながら、アウラとマーレに子供を孕めなどという戯けた事を口にするエルフ国王デケムに頭にきながら話しかける。
「……はぁ、随分と余裕だな。お前にも自分が召喚した精霊〈根源の土精霊〉が消滅した事が分かった筈なのに倒した私達に向けて殺すだと?自分が殺されるとは思わないのか?」
「どうせ卑怯な手を使って精霊を消滅させたのだろう。私が居る限り卑怯な手は使えん。私の使役する此のベヒーモスが貴様らを叩き潰す。ゆけ、ベヒーモス!」
通常は使役できない高位精霊〈根源の土精霊〉を使役するとはスキルか魔導具の力でも借りているな。
あきらかにエルフ国王のレベルよりも〈根源の土精霊〉の方がレベルが高い筈だからな。
自らのレベルより格下の者しか召喚できないというユグドラシルの法則を無視した召喚技術。
しかし〈根源の土精霊〉を使役できる程度で俺達に勝てるとでも思っているとは、頭の中に花畑でも咲いているのかね。
「しばらく時間を稼げ。私がその内に奥義(スキル)を使う」
鞭のように伸びる〈根源の土精霊〉の手を前に出たハムスケが武技を使い跳ね返そうとする。
「御任せを、殿。〈武技・要塞〉でござるよ。……ってあれぇ~」
武技では跳ね返せなかったようで、ハムスケはそのまま吹き飛ばされ、森の木々を圧し折りながら大木に体を減り込ませた。
ナーベの雷、ニニャの火球もルーギちゃんの弓も〈根源の土精霊〉に守られたエルフ国王デケムには効かない。
「スキル〈影縫いの矢〉!」
アウラがスキルを使い、エルフの国王デケム・ホウガンの影に向けて矢で射抜くが、デケムは魔法を使いアウラとマーレを捕らえようとする。
「小賢しい。魔法《グリーンチェイン/緑の鎖》!」
アウラとマーレに植物で出来た緑の鎖が絡まろうとするが、捕まる前に二人は其の場を飛び退いてモモンに報せる。
「すみません、デケムは移動阻害に対する耐性を得るスキルあるいはアイテムを所持しているのか利きません」
モモンは其れを聞きつつ、次から次へと《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》で大剣を創り出し地面へと五芒星を描くように突き刺していきスキルの準備を整えていく。
ちっ、移動阻害に抵抗されたか。
移動を拘束出来れば後は全員でタコ殴りで終了だったんだがな。
まあ良いさ、驚いてくれよデケム。
「デケム、本当の召喚を見せてやろう。我が5つの大剣から生まれ出でよ、スキル〈地球の再誕〉!」
地面に突き刺した5つの大剣から〈根源の火精霊〉〈根源の水精霊〉〈根源の風精霊〉〈根源の土精霊〉〈根源の星霊〉の五体の巨大な人型精霊が生まれ、モモンの指示を待って居た。
エルフ国王デケムは大きく口を開けている。
「……そんな馬鹿な。これは何か間違いだ。そうだ幻覚だ。そうに違いない!」
「〈根源の土精霊〉は相手の〈根源の土精霊〉を押さえろ。他の〈根源の精霊〉達はデケムが逃げ出さない様に廻りを囲むんだ」
魔法を詠唱していたソアが高らかに魔法を発動する。
「いくよ!幻想の竜よ、その力で我を助けよ!出て来い!《オーバーマジック・イリューソリィ・ドラゴン/魔法上昇化・幻想龍》!」
真っ赤な鱗をした火に特化した〈幻想龍〉を呼び出し、ソアは赤竜の頭に乗っている。
赤竜が〈火竜の吐息〉をエルフ国王デケムに吐き出すが、〈根源の土精霊〉が両手を交差して守り切るのだが、デケムは火には焼かれずとも高温で皮膚を焼かれ重度の火傷を負う。
「くそっ、火傷など。魔法《アスペクト・オブ・エレメンタル/精霊の相》!」
《アスペクト・オブ・エレメンタル/精霊の相》、ドルイドの魔法か。
精霊の持つ耐性などを得られ、毒や病気に代表される様々なバッドステータスを無効化、クリティカルヒットの効果も無効化できる魔法だ。
火傷もバッドステータスの一つ、無効化されたな。
モモンの召喚した〈根源の土精霊〉が相手の〈根源の土精霊〉ベヒーモスに組み付き、動きを止める。
モモンが両腰に差した双大剣【世界意志(ワールドセイヴァー)】を抜き放ち、片方の大剣でデケムを指し示す。
「燃え盛れ太陽の炎よ、スキル〈太陽の爆発〉!」
モモンが差し示した大剣が燃え上がり、デケムの足元を中心に攻撃範囲を示す真紅の円が浮かび上がった。
「なっ、これは何だ。貴様何をした?」
数瞬後、デケムを中心に組み合った〈根源の土精霊〉同士を巻き込み、大樹海を貫く大きな火柱が立ち昇る。
デケムの絶叫は、火柱が巻き起こす炎の渦に巻き込まれ掻き消える。
デケムは魔法《精霊の相》で火傷を無効化するが生命力を削られ、か細い呼吸音を響かせて魔法を唱えようとするが、デケムが充分に弱ったのを見て取ったアンティリーネが魔法を使わせる訳がない。
「〈武技・能力超向上)、〈武技・疾風超走破)!」
能力値を増大させ、短期間速度が速くなる武技を使い〈根源の土精霊〉に飛び乗ったアンティリーネが戦鎌で何度もデケムに斬りつけ続け、魔法の詠唱を妨害しつつスキルを使った。
「スキル〈異端判決〉、スキル〈異端断罪〉。カロンの導きよ、《デス/死》!」
アンティリーネは、スキルにより、自分と同じ神を信仰しない周囲の神官の消費MPをわずかに増加させ、魔法発動失敗確率を上昇させる事により、デケムが回復魔法を唱えるのに成功しても発動に失敗する可能性を増やし、武具のスキルで魔法《デス/死》を唱える。
移動阻害耐性を持っている敵は、大抵死への耐性が大きかった。
デケムには、魔法《死》は効かないかもしれないな。
どうやら魔法《死》は、あの武器に付与されたスキルのようだな。
デケムに《死》が効かないのを見て取ったアンティリーネは、戦鎌に精神を集中させ、自らのタレントを発動させる。
「どうやらお前に死を与えるには此れを使う他ないようね、スキル〈The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である〉!!カロンの導きよ、《デス/死》!」
アンティリーネの背後に十二の時を示す時計が浮かび上がり鐘の音が鳴り響く。
「がぁあ、くそっ、それは何だ。魔法を唱えなくては集中、くそっ、できない」
デケムは削られた生命力を回復させようとするがアンティリーネの戦鎌で斬られ、防御するので精一杯だ。
アンティリーネの背後の時計が、十二の時を数え終え、鐘が再び鳴り響いた。
デケムの体を眩い光が包み、デケムは即死の完全耐性を突破され《死》により、其の体は〈根源の土精霊〉からずり落ち、大地に倒れ込んだ。
デケムが倒れると同時に使役していた〈根源の土精霊〉は崩れ去り、死んだデケムの傍で大きな土山と成り果てるのだった。
「止めは頂いたわよ、モモン。これでエルフ国との戦争は終わりね。次の国王は誰に成るのかしら。まあ誰でも良いか」
スキル〈The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である〉を使うだと、使う前に戦鎌に集中していたように見えたな。
死の宝珠から無詠唱で《メッセージ/伝言》が飛んできた。
(モモン様、死の宝珠です。どうやらモモン様の職業エクリプスのクラススキルではないと思われます。どうやらタレントを使用された可能性が高いです。タレントの内容は一度見たスキルを使用できるか、武器の過去の使用者のスキルを使用できるかといった所です。詳しくはニニャに握手して魔法を使って貰わないと分かりませんが、スレイン法国のアンティリーネが握手に応じてくれるかは難しい所ですね)
なるほどな、タレントか。
此の世界には稀に強力な武器になるタレントを持って生まれてくる冒険者がいる。
そのタレントと冒険者の職業が上手く嚙み合えば、階層守護者にすら攻撃力を発揮できる恐ろしい者が出る事もあるわけだな。
アンティリーネは、デケムに傷つけられた体を《へビーリカバー/重症治癒》で治しつつ、モモンの方を見ている。
モモンは自らの冒険者パーティーからサルビアさんを呼び寄せ、アンティリーネの体を治させる手伝いをさせていた。
なごやかにスレイン法国の兵達は、互いの健闘を褒め称えている。
アンティリーネとの決闘をどうしようかと辺りを見廻すと、デケムの死体が消えている。
「デケムの死体はどこだ!誰か片付けたのか?」
「いいえ、殿。デケムの死体は其処の盛り土の傍から誰も動かしておりません。でも消えてますね。何処に逃げ出したのでしょう」
「くそっ、アンデッド化したのか?それともドルイド魔法の《マーシー・オブ・ショレア・ロブスタ/沙羅双樹の慈悲》を事前に唱えて置いた可能性が高いな。あの魔法は3つの効果を持ち、一定の時間、徐々に体力が回復する事、次が即死に対する完全耐性、最後に体力がゼロになって死亡した際にレベルダウンを引き起こさず復活できるというものだ。おそらく蘇生魔法が発動して復活した後に転移のスキルか魔法か魔導具を使った筈、ドルイド系の魔法詠唱者なら魔導具での転移、奴は拠点に転移している筈だ。エルフツリーの王城を目指せ、エルフ国王のデケムを今度こそ殺すぞ!」
モモン率いる冒険者チーム、スレイン法国のアンティリーネとスレイン法国兵達はエルフツリーの王城へとエルフ国王デケムを討つため進むのだった。