アインズは、ダンジョン探索に向けて溜まった仕事を片付け、モモンとして「漆黒」の冒険者パーティーを率いてアーグランド評議国の首都ドラゴンズブレスを目掛けてゴーレム馬を走らせていた。
アーグランド評議国は、リ・エスティーゼ王国の北西にあり、無数の山脈が走る場所にある都市国家だ。
多くの山脈を越え、行商くらいしか使わない細道を通り、ようやく西側は青々とした海に廻りは山々に囲まれた盆地に築き上げられた都市国家、アーグランド評議国の首都ドラゴンズブレスに辿り着いた。
通行門では多くの列が並び、門の横手には検問所が設けられており、オーガの門番が何人か並んで行商や冒険者や旅人のチェックを行っていた。
違法な荷物の運搬や他国のスパイの発見などを目的に様々な多種族の人々に話しかけている。
猫獣人の行商人達が違法な食材を持ち歩いていたようでオーガの門番に厳しく糾弾されている。
「おいおい、食べたらキマッちまう月砂糖を中に入れて売り捌こうなんて、ふてえ野郎だな」
「これは私達が個人的に使う物でして決して売り捌こうなんて、……ところで幾らで買います?」
「買わねーよ!売りたいなら街の外で売るんだな。街には入れられん。次っ!」
猫獣人の行商人達がぶつくさ言いながら列の脇の出店が並ぶ隙間に出店を広げ、麻薬もどきの食材を売りに出している。
死の宝珠が無詠唱の《メッセージ/伝言》でモモンに豆知識を教えてくれた。
(猫獣人の行商人達が売り捌く食材は多くの国で違法ですが、良い錬金素材になります。買っておくとンフィーレアへの良い土産にもなりますし、ナザリックで研究するのも良いかもしれません。この食材、月砂糖は猫獣人の国ではありふれた食材で此れを使った彼らの郷土料理は他種族には強烈な効果を体験出来るそうです)
「ふむ、月砂糖は良い錬金材料になると聞く、あるだけもらおうか」
「はい、毎度あり。こんだけ大量に買って頂けるなんて安くしときますよ」
モモンは大量の金貨と引き換えに月砂糖を手に入れ、オーガの門番に見つからない様にマントの中の中空の闇の中へと次々と入れていく。
列に並び、出店の品を吟味して、あれやこれやと、色々な物品を見ている内にモモンの番がやって来た。
「人間の冒険者とは珍しいな。お前は先程出店で違法な月砂糖を買ってただろう。通せんな」
「私の手には月砂糖なんてありませんよ。どうぞマントの中もお調べ下さい。なんなら鎧も脱いで御見せしましょうか?」
「……無いな。いや連れに持たせたのに違いない。連れを調べるぞ」
「みんな、マントを広げて見せてあげなさい。さて此処にアーグランド評議国永久評議員ツァインドルクス=ヴァイシオンの書状があるんだが通して貰えないかな?」
「な、なに、通っても良いぞ。ただし違法食材の売買は、見つかれば例え永久評議員の書状があっても捕まるからな。街の中で売るなよ」
手には持ってないとも、インベントリボックスに隠しているだけだからな。
錬金材料として使うから街中では売らないので、そんな顔で見ないで欲しいね。
アーグランド評議国の中に入ってみると他の諸国とは違い、屋根の雪を下ろす為か急角度の屋根に成っており、建物と建物の隙間も雪を掻き出しやすくする為なのか広めの小道に成っていた。
王国の北西の山中の盆地にある都市国家の所為か此処では雪が積もるようだ。
建物の2階部分に赤線が入っていたので道中の町人に聞いてみると、あの赤線は雪があの位置まで積もった記念につけたのだと聞いたので自然の恐ろしさを忘れない様に残しておく遣り方に感心していた。
大通りはリザードマンの戦士団やゴブリンの商人にオーガの兵士などの様々な多種族が行きかい、人間種もエルフやドワーフも含めれば10人に1人の割合で見かけるのだが、人間種の冒険者は「漆黒」の冒険者パーティーのみで、珍しいのかジロジロと見られながら一行は冒険者組合を目指した。
ハムスケを外へ停め、冒険者組合の中に入ると廻りの冒険者は皆、亜人や獣人だ。
此処では人間種の冒険者は居ないようだな。
まあ、うちの冒険者パーティーも俺とニニャはアンデッドだし、ナーベはドッペルゲンガー、ソアは人形の遠隔操作、サルビアさんは1kmもある肉の沼だし、一見すると人間種のパーティーに見えるから此の反応なんだろうな。
「おい人間が冒険者の真似事か、なんだアダマンタイト?まったく他国は脆弱な人間種にもアダマンタイトの札をやるとは冒険者を舐めてるとしか思えねえ。おい、あんたアダマンタイトの札を捨てて国に帰るんだな!」
モモンの胸倉のマントを掴み言ってきたのは隻眼のオークの戦士だ。
モモンの階級は、既にアダマンタイト級冒険者に戻っていたが、この隻眼のオークは礼儀を知らないと見えるな。
幾ら他国の冒険者とは言え、アダマンタイト級の冒険者の胸倉を掴むとはな。
ナーベが殺そうと腰の剣に手を伸ばすのを片手を上げて止めて、隻眼のオークの体をモモンも胸倉を掴んで持ち上げ、壁際に向かって叩きつける。
壁に座っていたゲラゲラ笑うオークの冒険者達を巻き添えに、隻眼のオークは逆立ちの状態で倒れ、目を回しているようだ。
「黙れ、〈武技・絶望覇気Ⅰ〉。……ああ、お騒がせしました。冒険者組合の方に手続きを御願いします」
〈武技・絶望覇気Ⅰ〉は、廻りを恐怖のオーラで包む武技だ。
元々はスキル〈絶望のオーラ〉だったが武技化する際に魔力を更に消費することで対象を選んだり、相手のレベルが此方のレベルから20を引いた者だったら対象となるが、魔力消費で対象の効果レベルを引き上げてオーラが効きやすくする事も可能だ。
冒険者組合の冒険者達は腰を抜かし、椅子からずり落ちる者、思わず立ち上がって机に足をぶつける者、モモンから距離を取る者に分かれた。
隻眼のオークは、逆立ちの状態で白目を向き、口から泡を吹いてるが痙攣しているので生きてるだろう。
受付の人も大抵は、モモンから逃げ出しているが、一人だけモモンの応対をしてくれた人が居た。
しきりに水を飲んでいるシーリザードマンの女性が受付服を着込み、モモンに対して冷や汗を流しながらモモンに聞き出す。
「きょ、今日はどういった御用件で当組合に来られたのでしょうか?」
「「白金」のリクに会いに来たと言えば分かる筈だ」
「は、はい!「白金」のリク様ですね。確かに承りました。当組合が提携する高級宿屋にてお待ち下さい。すぐに連絡が行くかと思われます」
モモン達は、冒険者組合から高級宿屋につき、ハムスケは馬屋で食事を、モモン達は御茶を高級宿屋のカフェテリアで楽しんでいた。
モモンは人化の指輪を付けて、ソアは第9位階魔法《トゥルー・ポリモーフ/真なる変化》を儀式魔法化により発動させて、人では無くギルドメンバーの弐式炎雷さんの種族〈ハーフゴーレム〉となって御茶を楽しんでいる。
ソアが単に魔法で人化した場合は、遠隔操作が切れてしまい只の赤ん坊の人間が転がっていた。
だが色々試すうちに種族〈ハーフゴーレム〉ならゴーレムでもあり遠隔操作も可能という事が分かり、ソアも食事を楽しめる事が分かったのだ。
今は、ハーフゴーレム化した後に改めて《パーフェクト・イリュージョン/完全幻覚》を使う事で肌の色と質感が変わった事を誤魔化している。
「うーん!温かい御茶は体が温まりますね!とっても美味しいです!」
「そお?御茶はやっぱりナザリックの方が美味しいわよ」
「温かい御茶はそれだけで価値がありますよ。ナザリックから此処までは遠いですし冷えちゃいますよ」
ソアが温かい御茶と御茶菓子を口一杯に頬張り、ナーベが文句を言いつつも御茶を飲み、ニニャがそれを窘めている。
サルビアさんは、御茶の皿や茶器に興味があるようで一通り眺めてから御茶を啜っている。
モモンも久しぶりの素朴な御茶と茶菓子を楽しんでいた。
カフェテリアに白金の鎧を身に纏ったツアーがやって来て近くの椅子に座る。
「やあ、待たせたかな。どうやら御茶を楽しんでいるみたいだから、此のままダンジョン探索について話すよ。御茶を飲みながらで良いから聞いてくれ」
「ダンジョンの場所は此の街から北東の山の中さ、其処の山肌に洞窟が出来てて潜ってみると明らかに人工物の床と天井と壁があったそうなんだ。深くは探索せずにアンデッドやスライムが出て来たんで帰って冒険者組合に報告が入って来たという訳なんだ」
モモンは御茶を飲み終え、ツアーの言葉に答えた。
「アンデッドやスライムはどんな奴なんだ?」
「アンデッドはスケルトンのようで見た事も無い魔法武器を所持してて、スライムの方も黒い体で瞬く間に装備を溶かされたそうだよ」
「ふむ、スケルトンは高位のマスターガーダーかな?スライムの方は、ユグドラシルの最高位難易度のダンジョン内の配置モンスターとして時折見られる〈エルダー・ブラック・ウーズ/古き漆黒の粘体〉のようだな。戦わずに逃げたのは賢明だな。其処のダンジョンはユグドラシルでもクリアが難しい所だ。さてプレイヤーが居るのかというと難しいな」
モモンの言葉にツアーが首を傾げながら、モモンを見た。
「どうしてだい?」
「ダンジョンの維持費さ。私がナザリックと共に転移した際に一番に気にしたのは、ナザリックの罠や出現モンスターによる金貨の消費を抑える為に最低限の防備体制に移行する事だったのだよ。其処のダンジョンは維持費に関係なく強大なモンスターがうろついているみたいだし、プレイヤーが管理するダンジョンとは思えないな」
「ふむ、すると「世界を滅ぼす魔樹」が降臨した様に、其処のダンジョンもユグドラシルから転移してきた可能性も考慮にいれないといけないか」
「まあ、実際に目にしないと詳しい事は分からないがね、さあ、皆も御茶を飲み終えたようだしダンジョン探索に行こうか」
モモンの「漆黒」の冒険者パーティーとツアーが率いる「白金」の冒険者パーティーは馬を走らせ、北東のダンジョンを目指して駆ける。
幾つか山を越え、谷を巡り、丘を乗り越えた先に大きな山の森の中に其の洞窟はあった。
森に囲まれた洞窟がぽっかりと穴を開け、此方を誘う様な風が洞窟に向かって吹いている。
周りの木々もダンジョンの魔力に惹かれたのか、捻じれて洞窟へと引き寄せられたかのように枝や幹が傾いているようだ。
モモン達はゴーレム馬から降り、洞窟へと近づきつつ、ハムスケに声を掛ける。
「ハムスケ、このダンジョンは、お前には狭い。よって此処で私達の荷物番を命ずる。しっかり守るのだぞ」
「はっ、殿。ハムスケにお任せでござるよ。母上も殿を御支えして欲しいでござる」
「任せてよ。ハムスケ、お母さん頑張るよ」
ハムスケが胸を叩き、了承の答えを出してサルビアさんにモモンの援護を御願いしている。
モモンの「漆黒」の冒険者パーティーとツアーが率いる「白金」の冒険者パーティーは荷物を下ろし、ダンジョン探索の為の準備を整えているが、モモンが洞窟の前まで歩く。
モモンは、洞窟の前に立ち、大声でダンジョンの主に声を掛ける。
「おーい!私達はアーグランド評議国から洞窟の調査を頼まれた者だ!責任者の方が居れば声を掛けて欲しい!後、1時間しても返答が無い場合は、私達が此の洞窟の調査を開始することを宣言させて貰うぞ!返答を待つから声を掛けてくれ!!」
モモンがそう言って「漆黒」の冒険者パーティーの荷物を解いて準備を手伝い、落ち着いたので腰を下ろすとキャンプの焚火でサルビアさんとニニャが手早く御茶を入れて、皆に振舞っている。
「白金」の冒険者パーティーのリザートマンの騎士は、有難く頂戴するといって御茶を飲んでいるようだ。
モモンの宣言の後に1時間が経過して更に30分が経過する事で、ダンジョンの所有者は居ないか返事する気が無いかの2択となった。
モモンはキャンプの火を消し、洞窟を目指す。
さてダンジョンの主は居ないようだが、此のダンジョンの難易度は、どの程度だ。
最悪の想定の場合は、逃げ出すことも考慮に入れないといけないな。
・月砂糖
オリジナル食材
元ネタはThe Elder Scrolls(oblivion、Skyrimなど)よりエルスウェーア原産のサトウキビから採取されるムーンシュガー。
悪名高き麻薬スクゥーマの原料。
カジートキャラバン(猫獣人の行商人)がよく販売している錬金材料、食材です。
・〈武技・絶望覇気〉
オリジナル武技
スキル〈絶望のオーラ〉を武技に変換し強化した物。
自らのレベルから20を引いた対象に様々な状態異常(恐怖、恐慌、混乱、狂気、即死)を与えるオーラを放つ、対象を選べることも可能。
集中力を消費、更に魔力を消費する事で対象を選んだり、武技を強化することで対象の効果レベルを引き上げる事も可能。