オーバーロードと死の宝珠   作:NEBUSOKU

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飛竜騎兵の里 2

 飛竜競争の鐘の音が響き渡り、競争相手の飛竜が飛び去ってからモモンは己の飛竜をおもむろに飛び立たせた。

 アンティリーネがモモンの背中から吹きすさぶ突風に負けない大声で話しかける。

 

「ちょっと出遅れたわよ!何してんの?」

「わざとだよ。若干相手より遅く出発する事で鐘が鳴るより早く出発したって因縁を付けられない為さ」

 

 モモンの乗る蒼黒い飛竜は様々な魔法により肉体強化が施され圧倒的な速さで、直線上の相手の青い飛竜に追いつき、追い抜いた。

 岩山に設置された競争の為の最初の大きな輪を潜り抜け、岩山を回り込むカーブに差し掛かる。

 死の宝珠の言葉を思い出しながら、職業「ドラゴンライダー」や魔法《ライダーレベルアップⅠ/騎手職段位上昇Ⅰ》の効果で蒼黒い飛竜に指示を出すにはどのようにすれば良いのか分かり、体を傾け飛竜の肩を軽く叩いた。

 

「全身を広げろ。両翼を伸ばすんだ!」

 

 蒼黒い飛竜は他の飛竜より大きな両翼を広げ、急ブレーキを掛けつつカーブを曲がる。

 対抗者の青い飛竜は遅れて曲がるが、先行を行くモモンが操る蒼黒い飛竜の広げた翼が邪魔で追い抜けない。

 そのまま岩山に設置された第2の大きな輪を潜り抜け、直線へ飛行させる。

 蒼黒い飛竜の翼が生み出す加速に相手の青い飛竜は距離を徐々に開けられている。

 柱状の岩の山が乱雑に立ち並ぶ場所は、モモンの魔法による飛竜の操縦技術の拙さもあり、岩山の柱の上を大きく飛び立たせ、上空にて、やり過ごす。

 相手の青い飛竜は、最短距離で無数の柱状の岩の山の中を巧みに避け進み続け、モモンの飛竜の加速に負けない飛竜の操縦技術の差を見せつけ、モモンの飛竜に追いつこうとしていた。

 東洋風の6重の塔を急角度で廻る場所に第3の大きな輪が設置され、モモンは一足早く第3の輪で大きく飛竜の両翼を広げ、後方を追いかける青い飛竜を牽制する。

 だが相手の青い飛竜は、前に使った手なので予測していたのか自らの飛竜の翼を畳み、空を飛ぶ矢の如くモモンの操る蒼黒い飛竜の大きな翼の間を擦り抜け、相手の飛竜が先頭になり翼を広げ、此方が相手の飛竜を抜けない様に立ち回っている。

 

「くそっ、上手くいかないか」

「どうするの、飛竜にスタミナ回復の魔法を掛け続けてるけど此れ以上は無理だよ」

「なに手は幾つかある。魔導国は大陸最強の国だ。ぶっつけ本番の飛竜競争でも負けは無いさ」

 

 谷底を通り、台風の様な大風が吹きすさび、風の方向があちこちで変わる難所に来た。

 相手の青い飛竜は速度を落とし、操縦者が風を読んで危ない空路を避けてジグザグに飛んでいる

 モモンは。付け焼刃の「ドラゴンライダー」なので、なんとなく風が分かる程度で此ればかりは長く修練を積まないと風読みなんて無理な事は言うまでも無い。

 

「はっははは、風読み何てする必要は無い!《グレーターフルポテンシャル/上位全能力強化》《グレーターリーンフォース・アーマー/上位鎧強化》《グレーターリージョン・ハードニング/上位部位硬化》《エネルギーイミュニティ・ファイヤー/火属性無効化》、そして私達の飛竜の両足の裏に《ツインマキシマイズブーステッドマジック・ファイヤーボール/魔法二重最強位階上昇化・火球》!」

 

 モモンは、自らが操る蒼黒い飛竜の体に様々な魔法効果を重ねている。

 《上位全能力強化》と《上位鎧強化》で突然の速度上昇に耐えられる飛竜の体に魔法で強化して、《上位部位硬化》で飛竜の下半身を硬化し、《火属性無効化》で火に耐えられるようにしており、飛竜の両足の裏に魔法強化スキルで強化した《火球》を爆発させ、一気に急加速して谷底の大風を突っ切る勢いで相手の青い飛竜を抜き去っていく。

 この方法は、かつてアゼルリシア山脈のラッパスレア山で〈エインシャント・フレイム・ドラゴン/古老の炎竜〉が使った手を独自に改良した物だった。

 曲がり角に4つ目の大きな輪が設置されており、モモンは即座に飛竜に掛かっている肉体強化系の魔法の維持を切りながら大きな輪を通り抜ける。

 速度が乗ったモモンの飛竜は、そのまま大きく曲がり角を廻ってしまう事で距離を無駄にしてしまい、相手の青い飛竜に追いつかれてしまう。

 第5の大きな輪は、ゴールの位置に設置してあり、スタートとゴールは同一なので遠くで応援する「漆黒」の冒険者パーティーや久しぶりの好敵手の登場に沸いている飛竜の里の人々が見える。

 モモンの蒼黒い飛竜に掛かった肉体強化の魔法の殆どは既に時間経過で剥がれて飛行速度が落ちているが、アンティリーネのスタミナ回復魔法の御蔭か飛竜の両翼には力が漲っている。

 相手の青い飛竜も懸命に翼をはためかせているが、回復役の技量がモモン側に比べて劣っているせいか精彩を欠き、モモンの操る飛竜に追い抜かれてしまう。

 このままいけばモモンの蒼黒い飛竜が勝つだろうと誰もが思っていた。

 

「くっ、《竜感覚》に感ありか。このまま上昇する」

「えっ、何?競争は?」

「それどころではない、天空の遥か彼方から此処へ急降下を掛ける者が居るのだ。迎撃するぞ!」

 

 遥か下で相手の青い飛竜が飛竜競争のゴールでもある第5の大きな輪を潜り抜けるのを見ながら、モモンの操る蒼黒い飛竜は、どんどん高度を上げ、風を切り裂く音と共に雲の切れ間から急降下で巨大な熊の様な体格の黒鱗の飛竜が両翼に付いた刺の様な尖骨に雷を迸らせてモモンの飛竜へ叩きつける。

 

「《ジャイアント・ストレングス/筋力倍加》、《ドラゴニック・パワー/竜の力》、《レジスタンス・フロム・ナチュラル・ウェポンズ/肉体武器耐性》、《グレーターリーンフォース・アーマー/上位鎧強化》、《ブレスウォード/吐息からの守り》、《エネルギーイミュニティ・エレクトリシティ/電気属性無効化》、《エネルギーイミュニティ・ファイヤー/火属性無効化》!」

 

 モモンは、自らの蒼黒い飛竜に肉体強化系の魔法を次々に掛け、モモンの飛竜の数倍はある巨体の雷を付与された両翼の尖骨の攻撃をモモンの飛竜の角で弾いた。

 弾かれた尖骨からは雷が周囲にまるで罅割れの様に雲を駆け巡り、轟音となって辺りに轟く。

 

「どうやら「大暴竜」のようだな、頭を使って飛竜の里が観戦に夢中になる機会を狙ったか」

 

 《電気属性無効化》と《火属性無効化》の両方を唱えた為に耐性値はお互いに削りあい、電気属性や火属性の両方の耐性は、そこそこ上がるに留まっているが《吐息からの守り》も掛けている為に問題は少ない。

 こっちには、アンティリーネの回復魔法もあるし、なんならナザリックの回復の巻物を取り出しても良い。

 「大暴竜」は大きく息を吸い込み、葉脈の様に体にマグマの如き光が煌めき、口中へと光が集まる。

 「大暴竜」は、無数の雷撃混じりの豪炎が纏まり眩い光の如く口中から、モモンの飛竜目掛けて斜めに斬り下ろすように光線を吐く。

 

「《グレーターラック/上位幸運》、《グレーターフルポテンシャル/上位全能力強化》、《パラノーマル・イントゥイション/超常直感》、《ヘイスト/加速》、《多重残像/マルチプルビジョン》、避けろ飛竜!」

 

 モモンが蒼黒い飛竜の肩を叩くと同時に飛竜は、錐揉み回転で豪雷混じりの炎光線を避ける。

 多重残像の効果で複数の飛竜の姿が現れるが、炎光線は分身を次々に切り裂いていく。

 モモンの飛竜は、炎光線が掠ったのか左の翼が肉体強化魔法を掛けていても黒焦げに成り、被膜には穴が所々開いていた。

 

「《へビーリカバー/重症治癒》!これで暫くは大丈夫な筈よ!」

 

 アンティリーネは第3位階魔法《重症治癒》を唱え、モモンの飛竜の左翼の傷は大方塞がり、飛行に問題は無くなる。

 

「ありがとう、アンティリーネ!、さあ反撃だ。《プロトタイプマジック・ドラゴンズ・ブレス/魔法試作化・竜の吐息》!、敵を焼き尽くせ、飛竜よ!」

 

 《竜の吐息》で〈毒の吐息〉が付与され強化されたブレスを「大暴竜」に吐きつける。

 猛毒混じりの炎が「大暴竜」の体を焼き、猛毒が体を蝕む。

 巨大な熊の様な体を猛毒で引き攣らせつつ、辺り一帯に響き渡る吠え声を上げると天空の曇り空から轟雷が幾つも無差別に落ちる。

 モモンの飛竜は、無数の轟雷を大きく避けつつ、猛毒混じりの炎の吐息を吐き続ける。

 轟雷を避けた時、「大暴竜」の雷を纏った尖骨がモモンの飛竜を襲い、大きく吹き飛ばされた。

 モモンの後ろで飛竜に跨っていたアンティリーネが空中へと投げ出される。

 モモンは飛竜を操り、急降下してアンティリーネを両手で受け止め、アンティリーネもモモンの首に両手でしがみついた。

 

「ふうっ、飛行できるとは言え死ぬかと思ったわ。落ちても助けないんじゃ無かったのモモン」

「飛竜競争中はだろ?既に飛竜競争は終わっているから嘘は言ってないさ。そのまま振り落とされない様しがみ付いててくれよ、アンティリーネ」

 

 再び「大暴竜」の体を葉脈のようにマグマの光が駆け巡り、口中から雷混じりの豪炎光線が吐き出され、今度は空中の各所から魔方陣が現れ、巨大な雷混じりの炎弾が次々にモモンの操る飛竜目掛けて飛来する。

 

「《グレーター・ファイアマジックシールド/上位炎魔法盾》!、心配ない、敵の炎の吐息目掛けて突っ込んで口中に猛毒を喰らわせてやれ!」

 

 雷混じりの炎の吐息の中をモモンの操る蒼黒い飛竜は突き進み、モモンはアンティリーネを守る為に覆いかぶり防御魔法を唱える。

 

「少しの間だ。我慢してくれよ」

「……断りなんて言わなくて良いわ」

 

 雷に体を焼かれながらも飛竜は「大暴竜」の口中へ猛毒混じりの炎を吐き付け、猛毒を飲み込んだ「大暴竜」は外皮に喰らった猛毒とは比較にならない毒に空中で体を引き攣らせ悶え苦しむ。

 

「これで終わりだ!、《トリプレットマキシマイズマジック・リアリティ・バイト/魔法三重最強化・現咬》!、両足で敵を引っ掻き、喰らいつけ、飛竜!」

 

 《リアリティ・スラッシュ/現断》の近接版であり威力を強化された《現咬》が3重化され9つの空間を切り裂く白い牙が飛び出し圧倒的な力で前方を嚙み千切る魔法が、モモンの蒼黒い飛竜の両足と牙に付与される。

 モモンが操る雷で焦げつき黒煙を出す蒼黒い飛竜が「大暴竜」に両足で組み付くと白い牙が展開し胸を大きく抉り込む、続いて胸を切り裂かれ怯む「大暴竜」の首に噛みつくと空間を切り裂く白い牙が大きく喉を切り裂き、「大暴竜」は血反吐を撒き散らしながら墜落していく。

 飛竜の里の谷底に轟音と共に「大暴竜」は落下する。

 その後、飛竜の里は飛竜競争の結果、大幅に報酬を上乗せする事が決まったが、「大暴竜」を退治した事と飛竜の里の掟で搭乗者は魔法を相手に使わないというのを最後まで守りぬいた事に敬意を表して、モモンが死ぬまでは報酬を通常通りとする事になった。

 

 中々、上手くいったのでは無いかな。

 後で谷底に落ちた「大暴竜」の死体も回収して、復活後はアウラに預けておこう。

 レベルは程々だが、操る飛竜以外に魔法を使わない戦いの縛りの中でも健闘していた中々に根性のある巨大飛竜だし、殺すには惜しいからな。




・《グレーターリーンフォース・アーマー/上位鎧強化》
 オリジナル魔法
 《リーンフォース・アーマー/鎧強化》の上位魔法、鎧とあるが鱗や皮膚も強化する。

・《グレーターリージョン・ハードニング/上位部位硬化》
 オリジナル魔法
 飛竜の足を硬化させ足裏で爆裂する魔法に耐えさせた。

・《グレーター・ファイアマジックシールド/上位炎魔法盾》
 オリジナル魔法
 《グレーター・マジックシールド/上位魔法盾》の炎版、炎を防ぐ魔法の盾を前面に張り巡らす。

・「大暴竜」
 オリジナルモンスター
 レベル80に近い程の力を持つ巨大な野良飛竜、通常の3倍の大きさを誇り、熊の様な外見をした黒鱗の飛竜です。
 雷を操り、豪炎を吐き出す、魔方陣を使って空中から雷混じりの炎弾を射出する。
 吠え声を上げ、天空から無数の轟雷を呼び出すなど多彩な技を持つ。
 普段は両翼に付いた尖骨で敵を貫き、雷を流し込むことで滅殺していた。
 飛竜の里へは何回か様子見で戦闘を仕掛けており、今回の飛竜競争で隙を見て全力攻撃を叩き込もうと画策していた。
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