浮遊都市エリュエンティウの天使達や戦乙女達を滅ぼした事をアインズとツアーが始原の魔法《竜感覚》で確認してから半壊した天空城の城内に入り、宝物庫の中へ、宝物庫の中は様々な武具が壁面を彩り、彫刻された人の大きさ程の宝石や色々な宝石片で作られた造花などが飾られていた。
だが宝物庫の中のユグドラシル金貨は大きく見積もっても5億枚程度、金貨の山5つ分が精々で、此れでは浮遊都市エリュエンティウを守護する天使一人を再生するだけで金貨が吹き飛んでしまう。
アインズは階層守護者達を含む異形の兵達を集めた。
「金貨以外の飾られている武具や装飾品は全てナザリックへ運べ。ツアー、後で話がある」
「なんだい、アインズ?」
アインズがナザリックの階層守護者達や精鋭部隊に指示を出し、ツアーを連れ、城の外の荒れ果てた庭園で話し始めた。
「……という訳だ。問題は少ない、試す価値があると死の宝珠やパンドラからも了承を得ている」
「君は責任取れるのかい?少なくとも私は此のままにすべきだと思うがね」
「なに、幾つか切り札はある」
アインズはセバスに戦いが終わったのでナザリックから救護班を呼ばせ、地上部分の都市の住民をセバスが戦闘メイドを指揮して救護活動を任せると言っておいた。
セバスや戦闘メイド達以外のナザリックの階層守護者達や精鋭部隊達は召喚生物で運ぶ人数を増やし、武具や宝物をナザリックへ《ゲート/転移門》を使って輸送し、倒された天使達や戦乙女達が身に付けていた装備もできるだけ回収して《転移門》へ持ち込んだ。
倒された狂った天使の一人が持っていた本【無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)】は、パンドラの鑑定によりワールドアイテムと判明していた。
内容は今までに世界で使用された位階魔法と超位魔法の全てが記載されて、持ち主の職業と魔力量により一日に一回、魔導書の中の使用できる魔法を魔力消費無しで使用できるという物だ。
使用できる魔法とは魔導書の中で濃く表示され、使えない魔法は薄く表示されている事をアインズとパンドラが手に持つ事で判明した。
だがアインズは絶大な魔力量を誇り、今では職業も職業「レジェンダリー・ジーニアス」のスキルで自在に変更可能だし、ほぼ全ての魔法を行使可能と分かった。
使えない魔法は女性の性別で唱える魔法やアインズがまだ使用できない職業に由来する魔法の様で此の点は、《タレント・トランジション/異能移行》で手に入れたンフィーレアのタレント「あらゆるマジックアイテムを使える」を使用すれば発動制限を無視して使えるので、改良の余地がありそうと判明し、此の本はアインズが持つ事となる。
夜通し、ナザリックへの輸送任務を熟し、そろそろ夜が明けようとする頃に全ての宝物を運び込んだとの報告がアインズにもたらされる。
アインズは、崩壊した天空城の城内の崩れた天井から朝日に照らされ、天空城の大広間でナザリックの階層守護者達や精鋭部隊とツアーを集め、話しかける。
「ご苦労だったな、皆の御蔭で浮遊都市エリュエンティウから宝物をナザリックへと運びこむ事が出来た。感謝している」
「有難き御言葉、感激の至りで御座います」
「うむ、セバスの救護活動は既に済んだか?」
「もうしばらくお待ちください。地上都市が崩落しており救護に時間が取られております」
「そうか、ナザリックから〈ヘビーアイアンマシーン/重鉄動像〉の持ち出しも許可するので終わり次第、ナザリックへ帰還せよ。終了限界は今から3日とする。3日後の日没までに帰って来るのだ。帰れない場合は連絡せよ」
「はっ、畏まりました」
セバスにデミウルゴスから非難の視線が注がれたが、セバスは意に返さず片膝を付いたままでアインズに礼を述べた。
「皆を集めたのは訳がある。私は此処の天使達や戦乙女達を復活させようと思うのだ」
「そんな、危険で御座います。襲い掛かって来た者を復活させて何になりましょう。捨ておくべきです」
「アルベド、彼らは有り得たかもしれない未来のお前達の姿と思えないか?私を失い、道標を、守るべき者を、失ってしまったお前達は将来こう成らないと自信を持って言えるか?私はな、彼らに機会を与えてやろうと思う。言葉を尽くすが、その機会の手を掴むかは彼ら次第だ」
「御身を守る為に我らを御使いください。話は我らに守られた中でも出来る筈、アインズ様は御強いですが不意を討たれればどうなるかは分かりません。何卒宜しくお願い致します」
「ふむ、守護者達よ、我を守れ。コキュートスは私の右側、アルベドは私の左側を守れ。私が話しかけている時は武器を相手に向けるな、相手が攻撃してきたら首を刎ねよ。他の者達も緩やかに円になるように陣形を組み、武器を収めた状態で、いつでも攻撃に移行できるような態勢を保つのだ」
階層守護者達の準備を待って、アインズが虚空に向かって始原の魔法《世界完全蘇生》を詠唱する。
《世界完全蘇生》は、死体が何も無い状態からでもレベルダウン無しで復活できる魔法だ。
天使達や戦乙女達の様な都市守護者に金貨の消費無しでも効果が期待できるのでは、とアインズは考えていた。
「復活せよ、天使よ。お前に話がある。始原の魔法《世界完全蘇生》!」
光が集まり、横たわった天使の姿を形作る。
階層守護者達は其れを見て、「流石です、アインズ様」と褒め称えつつも横たわった天使にいつでも攻撃できるように意思を固め、見守った。
「ぐぐっ、此処は、……天空城。私は何故生きて、……体が、……動か、ない」
「どうした。復活直後はまだ体が動かないか?セバス、天使の体を支えて此のシーツを体に掛けてやりなさい」
「はい、分かりました。では失礼します」
セバスに支えられ、シーツを身に纏い片膝を付いた姿勢になる天使、此の天使は最初に本【無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)】を持っていた者、天使や戦乙女の中でも指導的立場にあると考えて生き返らせた。
良く見れば髪も長く、シーツを掛けられる前は胸に膨らみが見えた事から此の天使は女性だろう。
いや、ギルドメンバーの「死獣天朱雀」さんは、元々天使は両性で女性でも男性でもあるとか言ってた気がするがどうなのかな、まあ女性と思って話しかければ良いかな。
「復活おめでとう。さて君達は戦いに負けたのでギルド内の宝物は私達の物となった」
「貴様、それは主様の物だ!返せ、盗人!」
天使がアインズを非難すると不敬と感じたのか階層守護者達が殺気立ち、武器に手を掛ける。
アインズは階層守護者達に目をやり、問題無いと手で合図して、天使に向き直る。
「無理だな、ギルド対抗戦。この場合は全滅判定で負けたのだからユグドラシルではギルド崩壊だ。ギルドも崩壊せず此の程度で済んで良かったと思って欲しいね。……さて本題に入ろう。君を生き返したのは我が傘下、ユグドラシルの〈傭兵〉として加わって欲しいのだよ。勿論、参加して貰えるなら君の部下の天使達や戦乙女達も生き返し、武具も以前よりは見劣りするだろうがナザリックで揃えて見せよう。此の天空城もナザリックの資金と資産を使い、可能な限り復元しようじゃないか。どうかな加わって貰えるかな?」
「私に部下は居ない。皆、志を共にした仲間だったよ。だからこそ皆を代表して言える。主様の居ない世界に意味は無い、私を殺せ。お前などに誰が協力して「傭兵」になどなるか!」
天使が悲痛な叫びを上げるとアインズが其れを宥めた。
「まあ、そんな短絡的に殺せなどという物では無い。此処に〈シューティングスター/流れ星の指輪〉がある。この指輪に願えば大抵の事は叶うだろう」
「……だが主様は何度も生き返って最後に灰になって」
「〈流れ星の指輪〉でも完全に灰に成った者は戻せないのだが、この様に願えば良い。『主様達が、何時の日にか此の世界にユグドラシルアバターで転生して来ますように』と指輪に願いを込めて祈れば良い。もしもお前の主様達が復活されたならばナザリックとツアーの教育係をつけて教育させて貰うぞ。また「八欲王」になって暴れられては困るからな」
転生については、あらかじめ《ウィッシュ・アナライズ/願い分析》で可能かどうかを調べてあったので問題は無い。
アインズがそう言うと、天使は顎に片手を当てて考え込み、顔を上げる。
「そうか、その願いならば叶うやもしれんな。既に〈流れ星の指輪〉は竜達との大戦で使い果たしている。お前、いや貴方様の〈流れ星の指輪〉の御力をお借りするには、どれほどの代償を払えば叶うのでしょうか?」
「生きる事に前向きになったようだな。狂ったような目も落ち着いている。うむ、〈流れ星の指輪〉の代償は100年の間、「傭兵」としてナザリックの軍門に下る事。また目覚ましい働きがあったなら期間の減少も考慮するというのでどうかな?」
「分かりました。大天使ミカの名において貴方様の軍門に加わります」
その後、ツアーが見守る中、次々に天使達や戦乙女達が復活し、大天使ミカの口添えもあり総計30名のレベル100の「傭兵」と彼らが動かす移動要塞「アースガルズの天空城」をアインズは手に入れる事に成功する。
なぜ100年の間に天空城の天使達や戦乙女達を「傭兵」として働かせるのかだが、アインズは100年の揺り返しで新たなプレイヤーが〈流れ星の指輪〉で天空城のプレイヤーの転生を願う可能性を考え、此の期間としていた。
プレイヤーが願うのは、とても低い可能性ではあるが零では無い為だ。
転生で復活したとしてもナザリックやツアーの教育係でしっかり教育すれば「八欲王」には成らないだろう。
「八欲王」に酷い目にあったツアーがアインズに問い掛けた。
「本当に大丈夫かい?「傭兵」というのは顧客を裏切る場合も有る筈だが?」
「問題無い。私は天空城の者達に対価として〈流れ星の指輪〉の使用権を設定してあるからな、傭兵が裏切る場合は金払いが悪い場合だぞ。万が一、裏切っても装備品は此方の用意した等級の落ちる物だ。再度、鎮圧するのにも手は掛からないだろう。もし心配なら此の浮遊都市に鎮圧用の兵を用意しておくのだな」
ツアーは其れを聞き、鎧で腕組みをしつつ唸っていた。
「気にするなとは言わんが、彼らは最早狂う事はあるまい。彼らに必要だったのは己を支配する強大な支配者よ。NPCは基本的に主に仕える事で己の独自性を保っているからな。私が100年の間は彼らを支配し、その後は友好的に彼らと転生した主様たちと付き合えば良い」
アインズの指示により、急遽「アースガルズの天空城」の修復作業が始まり、何週間も掛けて、砕けた石床のブロックを組み直したり、倒れた彫刻を立て直したり、半壊した見張り塔を修復したり、大幅に崩れた天空城をアインズの超位魔法で直したりと大忙しで直し、後で大天使ミカに「アースガルズの天空城」の拠点運営の為のコンソールを開いて貰い、修復された浮遊都市エリュエンティウを再度修復する事で拠点修復費用を大幅に節約する事に成功した。
この方法は、アインズがナザリック地下大墳墓の拠点修復作業の際のちょっとしたテクニックの一つであらかじめ修復する事で費用を節約し、再度、コンソールで修復を指示する事で綺麗に直るという物だ。
だが此の方法は、ナザリックのような様々な職業を揃えてないとそもそも拠点修復が出来ないので戦闘職ばかりだった浮遊都市エリュエンティウでは真似できない遣り方だったのだ。
こうして浮遊都市エリュエンティウの大天使ミカとの間にツアーも交えて「傭兵」の契約書を作り、別れを告げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アインズがナザリック地下大墳墓に戻り、半年が過ぎ去ろうとしていた。
「アースガルズの天空城」と浮遊都市エリュエンティウは、大砂漠の中の浮遊都市直下の都市では都市を維持する「ユグドラシルの税金」が捻出出来ないので魔導国王都エ・ランテルの上空まで移動して「ユグドラシルの税金」を捻出して貰い、浮遊都市直下の住民達も希望者はエ・ランテルに引っ越して貰う事になった。
引っ越して来た浮遊都市直下の住民達には、エ・ランテルと他の都市を繋ぐ街道整備の仕事に取り敢えず付いてもらい道路工事に専念してもらう事となる。
アインズは、超位魔法で呼び出した《エンジェル・オブ・ザ・アポカリプス/黙示録の天使》が都市守護者達20名を相手に暴れまくった事と強敵ワールドチャンピオン「八欲王」を倒した事でレベルが上がり、半年の間に闘技場で戦い抜く事でレベル143と成り、職業「プリミティブキャスター・マスター」が最大レベル5に達し、今後はスキル効果でレベル毎に始原の魔法を一つ別枠で覚えられるようだ。
新たに得た職業「ナザリック・キング(ジェネラル)」も2レベル分ほど上昇させて、指揮官系(ジェネラル)を得た事で、命じた相手が指示に従って行動しようとするとボーナスが入ったり、仲間にバフを与えたりすることができる様に成り、スキル「水星の大鉱石」、スキル「月の剣」を手に入れた。
スキル「水星の大鉱石」は武器を前で交差すると発動する上昇効果で受けるダメージが十分の一ほどになり、一定時間後大ダメージ攻撃に移るスキルだ。
もう一つのスキル「月の剣」は、全ての武器を振りかざすと、武器によって生じた風圧が斬撃となって荒れ狂い、上空も地上も関係ない安全地帯の無い攻撃を繰り出せるという物だ。
ニニャも半年の間にレベルを上げ、とうとう総合レベルでも死の宝珠を越えてしまった。
ニニャは総計89レベル、死の宝珠は「八欲王」との戦いで「アンデッドの副官」をスキルで呼び出す代わりに大量の経験値を失っており、総計86レベルとなっていた。
アインズは夜間の執務の後、死の宝珠とニニャに「最古図書館」に連れられていた。
「最古図書館」の実験室、此処では新たな魔法の開発や魔導具の開発などでパンドラやアインズや死の宝珠が頻繁に使用する部屋だ。
今は死の宝珠が〈アンデッドの副官〉スキルで呼び出して既に「八欲王」との戦いでの傷も癒えた〈グリムリーパー・タナトス/具現した死の神〉とニニャに指示して、実験の為に作業机や製作台を片付けて壁の横に置き、中央に背の高いアインズが楽々通り抜けられる大きさの外枠を持つ台座が〈具現した死の神〉の手で設置されていた。
死の宝珠がニニャが持つ黒宝珠の杖からアインズに話しかける。
『アインズ様、御足労有難うございます。さて以前話されていた異世界間の移動門を試作魔法で習得しましたので発動の際にアインズ様に立ち会って頂けたらと思いましてお連れしました』
「ほう、どのような魔法なのだ?」
『はい、《ユグドラシルゲート/世界樹門》と言い、異世界の間に〈門〉を創り出し《ゲート/転移門》のように使用を可能とする魔法に御座います。今回は安全性を考慮して外枠に魔法を張り〈門〉を創り出します。アインズ様にはニニャの右肩を握って頂き、異世界の行きたい場所を思い浮かべながら立っていただけたら助かります』
アインズがニニャに近づき、右肩を握り、「リアル/現実世界」を思い浮かべる。
「リアル/現実世界」は、環境破壊が進んだ酷い場所で外では呼吸ができず防毒マスク無しの外出は非常に困難だった。
「リアル/現実世界」のまともな場所と言うと思い浮かぶのは……
ニニャが死の宝珠に目を遣ると死の宝珠が鈍く光り輝き、ニニャと死の宝珠と〈具現した死の神〉が同調して儀式魔法をニニャが詠唱する。
「いきます。《プロトタイプエクステンドマジック・ユグドラシルゲート/試作魔法持続時間延長化・世界樹門》!」
外枠の内部が渦まく様に闇が広がり、渦巻く闇を蓋にする事で異世界間を区切り、ナザリック側は気圧差や呼吸も問題無くできる様だ。
探査役としてニニャが〈スケルトン/骸骨〉を召喚して闇の中へと進ませるが、ニニャが顔を顰めてアインズの方を向いて謝り出した。
「申し訳ありません。〈スケルトン〉が消息を絶ちました。召喚の糸も切れてしまい何が起こったのか分かりません」
『おかしいですね。召喚された〈スケルトン〉が闇の中に入った途端に消息が途切れるなんて、……今度は非実体のアンデッド、アストラル系の〈ゴースト/幽霊〉を闇の中へ入れて見て下さい』
死の宝珠に言われ、ニニャが今度は〈ゴースト/幽霊〉を召喚して闇の中へ移動させる。
ニニャが目を閉じて、召喚したアンデッドの目を通して異世界の姿を目に焼き付けようと必死になって辺りを見廻す。
「ニニャ、《クリスタル・モニター/水晶の画面》を出して私達にも見せてくれ」
アインズが頼み、ニニャが無詠唱で詠唱して、アインズの目の前にニニャが中継するアンデッドの見た光景が《水晶の画面》に映し出される。
殺風景な部屋に頭部をほとんど覆うタイプのデータロガー(ヘッドマウントディスプレイ)が棚に置かれ、背もたれの付いた椅子、洋服ダンスが見え、壁際にはベッドがあり、其処に眠るのは「鈴木悟(すずきさとる)」だった。
・【無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)】
ワールドアイテム
オリジナル設定
今までに世界で使用された位階魔法と超位魔法が全て記されている魔導書。
一日に一回だけ、魔導書の魔法を魔力消費無しで使用できる。
持ち主の魔力量や職業により、一日に使える魔法の種類が変わる。
此の為、此の魔導書に記された超位魔法は天使が使用する事で《コール・アヴァター/神の化身召喚》しか使用できなかったが他の者、例えばアインズが魔導書を手に持つと使える魔法の数が増える。
・大天使ミカ
オリジナルキャラクター
元ネタは大天使ミカエル、男性姿の天使だがユグドラシルでは女性になってます。
・《ユグドラシルゲート/世界樹門》
オリジナル魔法、前提:《ゲート/転移門》、各種転移系魔法
異世界間の転移門を作成する。
此の魔法は試作の為、あらかじめ外枠と台座を用意しないと不安定で門が崩れてしまう。
完成版では外枠と台座も魔法で召喚される。