泣いたプルガルチト   作:三流二式

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チャプター1

 バイオハザードシリーズ。

 

 

 1996年より発売され、2023年の現在になってなお新作が発売される人気シリーズである。

 

 

 そのナンバリングタイトルの4番目。『バイオハザード4』は0からコードベロニカとはゲームシステムが大きく変わり、更に今までウイルスによる生物災害を描いていたのに対し本作では寄生虫による生物災害を中心とした物語となっている。

 

 

 粗削りなシナリオながらそのアクション性の高さで、2005年に発売されたにもかかわらず現在でもデバック活動が盛んな化物コンテンツである。

 

 

 そんなシリーズでも随一の人気作品であるバイオハザード4が、つい最近リメイクされることになった。

 

 

 元々あったバイオハザード4への人気ぶりからか、リメイク作であるバイオハザードRE:4への期待と不安は日々が過ぎるごとに大きくなっていた。

 

 

 そして迎える発売の日。バイオハザードRE:4は万雷の拍手でファンたちに迎え入れられた。

 

 

 オリジナル版を踏襲したステージ、リメイク前を遊んだことがあるからこそ引っかかる仕掛け、新たな空耳等々、期待を裏切ることなくリメイクされた本作は間違いなく傑作と呼ぶべき作品であろう。

 

 

 ただ旧作をプレイしていることが前提なのか難易度が高く、最高難易度のプロフェッショナルは本当に難しかった。

 

 

 無限にリロードをすることが出来るアイテムを入手するために初めからやらされた時は投げ出したくなったほどだ。主に湖の主と籠城戦とトロッコのせいで。

 

 

 バイオハザード4のクリーチャーは先ほども言ったようにプラーガという寄生虫だ。

 

 

 従来のシリーズのゾンビと違い、プラーガは宿主の人格こそ破壊するが知性を損なわずに活動できるので、鎌や鋤、トラバサミやワイヤートラップまで扱うことができ、そのせいで幾多のレオンがあうぅんしたものである。

 

 

 正直一番厄介なのが武器なしの素手だったりするのだが、まあそこはもうどうでもいい話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 このゲームにも当然ボスクリーチャーがいて、寄生虫の影響で巨大化したオオサンショウウオの『デルラゴ』や『エルヒガンテ』、寄生されてもなお理性を失わない(大嘘)『支配種』を体内に宿した4人の幹部たちがいる。

 

 

 その幹部たちの内の一人に『ラモン・サラザール』という人物がいる。

 

 

 こいつはリメイク前と後では結構な違いがある奴だ。

 

 

 リメイク前は家族がいない孤独感に由来する心の隙を突かれてサドラーが率いるロス・イルミナドス教団に入信し、代々地下の底に封印してきたプラーガを解き放ってしまった、この物語の元凶の一人として扱われる。

 

 

 やったことも大ごとだが、こいつの見た目もまあ酷いもので、背丈が子供並に小さいのに顔は深い皺に刻まれ、声はかん高くて喧しい不快感の塊のようなキャラクターとなっている。

 

 

 尤も古臭い手口で逆に反撃を喰らって右腕が取れたり、自立歩行する巨像を走り回らせてウーウ―言わせたり、ナイフを掌に刺されて情けない悲鳴を上げたりそのナイフを投げ返されて情けなく撃退されたり、中々コミカルかつ小物的な言動で、憎めないキャラとして仕上がっていた。

 

 

 リメイク後のサラザールはリメイク前の設定を概ね踏襲しているが、幼いころから狂気を内に秘めている事になり、父親を謀殺し、狂気と哀れさがない交ぜとなった今風なキャラとして登場した。

 

 

 本作のサエラザールは別に右腕は取れないし、ナイフは投げ返さないし、巨像が動かない代わりに火を噴くようになった。馬鹿かな? 

 

 

 挙句の果てに武器商人からあのクソガキ呼ばわりされたり依頼に自画像を汚すように頼まれたり、彼は病で死ぬべきであったと書かれる始末で、リメイク前に比べるとずいぶんコミカルさが減ってしまったように思える。まあそれでも、そのどうしようもなくなった哀れなキャラクター性は好きではあったよ。()()()()()()()

 

 

 前置きが長いって? 

 

 

 ……頼むよ、もう少しだけ現実逃避をさせてくれたっていいだろう? 

 

 

 ダメか? ははは……。

 

 

 俺はため息を吐き、俯いていた顔を上げ、意を決して目を開ける。視界が開け、目の前の鏡に映る自分の顔を見てまた一つのため息を吐く。

 

 

 小柄な体形に皺だらけの顔というアンバランスな容姿、淀んだ瞳は愛を知らない。喜びも悲しみも。あるのは狂気と憎悪とどうしようもない程の渇望だけ。そして声はチョーさんだ。

 

 

 RE:4のラモン・サラザールが、鏡を通して『俺』を睨みつけていた。

 

 

 何だその目つきは? ふざけるなと言ってやりたいのはこの俺だ。この醜い親指小僧(プルガルチト)が。舐めるなよ。

 

 

 鏡に映る()()()()にしこたま毒を吐くと、体を脱力させ、顔を覆う。

 

 

 訳が分からない。頭がどうにかなりそうだった。

 

 

 こうなる前に覚えている事は、プロフェッショナルS+チャレンジでラモン・サラザール戦で詰まり、そのまま寝落ちしてしまったっていう所だけ。

 

 

 気が付けば俺はこうなっていた。

 

 

 直前までラモン戦を何度もやり直していたから、自分がラモンになってしまった夢を見ていると、そう考えるのが一番自然な事なのだろうが、この醜き小男の面のまま一週間が経過すれば、そんな考えも雲散するというものだ。

 

 

 心の整理がつけば、後は何をするかである。

 

 

 現在2003年の一月を過ぎたころだ。つまり泣こうが喚こうが俺の寿命はあと1年ぽっきりという訳だ。

 

 

 何でかって? あのエージェントが仕事をミスする訳が無いだろう? 

 

 

 というか絶対にさせない。彼には何が何でも仕事を完遂してもらう。それがこの借り物の器が()()()()()()を清算できる唯一の道であるから。

 

 

 ならば善は急げである。準備期間は一年だ。そうたったの一年である。その間に、やる事は腐るほどある。ぐずぐずしてなどいられない。

 

 

「くそが……」

 

 

 吐き捨てると、俺はこめかみに親指を当て、意識を集中させた。

 

 

 サドラーの糞だってできるのだ。俺が出来たってちっとも不思議な事ではない。

 

 

 次第に意識がぼんやりとしてきた。それから次の瞬間、腹の内側からグイっと引っ張られるかのような感覚が襲いかかり、目の前が真っ黒になった。

 

 

 一瞬だけブラックアウトした視界が、霧けぶる山道の様に薄ぼんやりと開け、徐々に晴れてゆくと、俺は古城の入り口に立っていた。

 

 

 どうやら成功したようだ。そう思いながら掌を広げる。

 

 

 皺塗れの小さな掌ではなく、若々しく、しかしどす黒い血管が垣間見えるおぞましき人外の手がみえた。

 

 

 俺がやったことはサドラーがアシュリーにやった意識の乗っ取りである。あの時の彼女はまだプラーガが生態でないから一瞬だけしか操れていなかったが、俺が乗っ取ったガナードは成体になっているから、支配種を持つ俺なら完全にコントロール下に置くことができるって訳よ。

 

 

 視線を掌から正面へと移す。視界が広く、今なら何にだってなれそうなほどの多好感と高揚感が、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「やべ、やべ……」

 

 

 頭を振ってプラーガの意思を頭の中から締め出し、俺は目当ての人物がいるであろう場所へと歩き出した。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

「さてと、どこかに店を開けそうな場所はねぇかな」

 

 

 

 黒いフードを被った怪しげな『武器商人』が、重そうなバックパックを難儀そうに担ぎ直しながら、辺りを注意深く窺ってから、ゆっくりと古城の入り口を潜った。

 

 

 その時である。背後から気配が立ち昇り、彼は慌てて背後に振り返った。

 

 

 そこにいたのは黒いローブに身を包んだ、ロス・イルミナドス教団の邪教徒であった。

 

 

「おいおい、一体いつの間に……」

 

 

 呻くように呟きながら、武器商人は後退る。

 

 

 よもや自分たちの行う背信行為が、ついにバレたとでもいうのか? 

 

 

 様々な憶測が脳裏を駆け巡り、そのどれもが最悪のケースへと行きつき、彼は堪らず顔を顰める。

 

 

 と、ここである事に気が付く。

 

 

 邪教徒は現れた地点から一歩も動いていない。それどころか、一言だって言葉を発していないのだ。

 

 

 おかしい。彼は思った。

 

 

 もし邪教徒がこちらを発見しようものなら、いの一番に突撃してくるか、あるいは糞喧しく騒ぎ立てて仲間を呼び寄せようとするのが普通だ。

 

 

 武器商人は訝り、恐る恐るといった感じで、目の前の邪教徒を注視した。

 

 

「おい!」

 

 

 まるでタイミングを見計らったかのように、件の邪教徒は声を荒げた。

 

 

「ひえ!?」

 

 

 思わず身を震わせる武器商人に構うことなく、目の前のおかしな邪教徒は捲し立てた。

 

 

「この糞ったれ! 時間が無いっていうのに何をぼーっと突っ立っていやがる!」

「お、おぉ?」

 

 

 その怒り様は邪教徒の、ガナードの物では断じてない。明らかにもっと他の、別の者の意思を明確に感じ取った。

 

 

「チ、まあいい。本当なら家宅侵入罪で取り押さえてやりたいところだが、今は良い。寧ろいいタイミングだ」

「良いタイミングだあ?」

 

 

 話が見えてこない武器商人へ、そうだ、とガナードは肯定しながら懐をあさり、武器商人へ向けて放り投げた。

 

 

「何だこりゃ?」

 

 

 受け取った武器商人は投げ渡された物を見て眉を顰めた。

 

 

「そいつは宝物庫の鍵だ」

「へぇえそりゃまた……なんでだ?」

「だからそれを今から説明するんだろうが」

 

 

 苛立ちを隠しもしない声色に毒気を抜かれた武器商人は次第に落ち着きを取り戻してゆき、商人としての顔を取り戻した彼は提示されたビジネスの話に耳を傾け、話の内容を頭の中で反芻し、それからたまげたようにため息を漏らした。

 

 

「ホーそりゃまた願っても無い。だが何故だ? なぜ今になって? 計画はどうするんだ?」

「は、お前がそれを気にするのか? というか、そんな話はどうでもいい。受けるのか受けないのか? どっちだ? さっさと言え」

「そりゃ受けるさ。この糞教団がこの地から消えてくれるのなら万々歳だ」

「そうならそうとさっさと言え。このボケ」

 

 

 邪教徒は唾を吐き、それから自分の首に両手を当て、力を籠めた。武器商人も踵を返した。

 

 

「あぁそうだ、最後に聞いておきたい」

「……なんだ」

 

 首だけ後ろに向け、武器商人は問いかけた。

 

 

「お前は一体誰だ?」

「……はっ」

 

 

 暗い瞳から放たれる疑問の視線を鼻で笑いながら、それは答える。

 

 

「ただのプルガルチトさ」

 

 

 そう言うと、邪教徒は悪魔の如き力で、自らの首をへし折った。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 やるべきことの内の一つはこれで済んだ。

 

 

 後は奴らに任せておけば、この辺り中に武器やら弾薬やらがばら撒かれることになるだろう。それこそゲーム本編のように。

 

 

 次にやるべきことは……。

 

 

 こめかみに当てていた指をどけ、滝のように流れる額の汗を『右腕』が手渡してきたハンカチで拭うと、俺は化粧台から立ち上がり、部屋中央に備え付けられている机の上に置いてある資料と試験管に入っているプラーガの卵を手に取った。

 

 

 資料はサドラー様のお役に立つ新たな従僕を作り出したいと希ったら、気前よくポンと送ってくれた。他ならぬサドラー自身がである。

 

 

 思わず笑ってしまった俺を、誰が咎められる? 

 

 

 あいつは所詮は虫けらに脳味噌を支配された哀れな傀儡人形でしかない。使い捨ての駒が何を企もうがどうでもいい訳だ。それが自分自身の首を絞めるなどと考えもつかないのだ。

 

 

 おかげで俺は堂々とプラーガを使った実験ができる。

 

 

 幸いにして、こいつの小さな脳味噌にもプラーガについての知識や扱い方に関しては必要十分に備わっていた。あとは拷問や他者をいかに害するかの知識がぎっしり詰まっていたが、そんな下らん事はどうでもいい。こいつの人生と同じ位には。

 

 

「さあて、1年でどこまで改良できるかな?」

 

 

 そして始まったせわしない日々はあっという間に月日を飛ばし、ついに1年が経った。

 

 

 昼頃、右腕と左腕に今後のプランを話している最中に、それは起こった。

 

 

 遠く、従属種のプラーガの発する断末魔の高周波が、風に乗って、寝室の窓辺を通り抜けて俺の耳に届く。

 

 

 惨劇の幕がついに開かれたのだ。

 

 

 無意識の内に握り締められた掌はじっとりと汗ばんでいた。緊張で心臓が高鳴り、額には嫌な汗が玉のように浮かんでは流れ落ちる。

 

 

 泣いても笑っても、今日この日ですべては終わる。

 

 

「やってやろうじゃあないか」

 

 

 開け放たれた窓からのぞく曇天へ向けて、宣戦布告する。

 

 

 今日この日で、こいつのしでかした事を全て清算しきる。連綿と続く悪夢の連鎖を断ち切り、この哀れな罪人の哀れな人生の幕を、せめてもの花を添えて終わらせてやるのだ。

 

 

 それが俺がこいつに成り果てた意味だと思ったから。

 

 

 だってそうじゃなきゃ、こいつはあまりにも救いようが無いじゃないか。ずっと、母親以外に何一つ望まれず、実の父にすら生まれてくるべきでなかったと言われ、愛情に焦がれ、友情に焦がれ、誰にも彼にも後ろ指を指されてきた。

 

 

 だからせめて、俺だけでも。

 

 

 俺だけでもこいつの味方になってやろうと思った。

 

 

 だからこそすべてを清算し、終わらせてやろうと、そう思ったんだ。

 

 

 ふと、背後を振り返る。後ろで佇んでいた側近二人が、いつものようにそこにいた。

 

 

 二人の表情は、どこかこちらに笑いかけているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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