無自覚中学生芹沢さん。   作:バナハロ

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すみません、1年くらい前に書いてなんか出来が微妙な気がして自動投稿一年後に設定して放置してて知らない間にその期間が過ぎて投稿されていたことさえ気付いていませんでした。


自由人と好奇心旺盛が噛み合うともはやテロリスト。

 中学において、部活への所属は仲良い友達を作るための第一歩である。それは、退部さえしなければ三年間同じ組織に所属するわけだから、照れ臭い言い方をするならば絆が芽生えるからだろう。逆にそれで大して仲良くなれなかったら、そもそも合わないと見える。

 だから、中学に入ったら妹の面倒を見るために部活には入らないと決めていた少年は、何処か去年度のクラスメートとは壁を感じていた。みんな放課後は遊びに行けないし、給食の時間で盛り上がるのも初めての部活の事。会話には入れないのだ。

 それでも、決してコミュ障なわけでは無かったので「どんな事してんの?」とか「最近どうなの?」とか質問で会話に混ざっていたが、自分の事を話す機会はなかった。

 だが、その壁を忘れさせるほどの友達が最近出来た。今日も、その子と遊びに行く予定である。朝早起きして、朝食を済ませて、歯磨きをして、着替えてボールを小脇に挟んだ。

 

「じゃあ、今日もサッカー行ってきます!」

「何言ってんたバカ! 今日から始業式だろうが⁉︎」

「えっ?」

 

 父親に言われてカレンダーを見ると、本当に始業式の日だった。しまった、毎日楽し過ぎて忘れていた。

 

「えー、マジかよ。俺友達と約束しちゃったよ」

「いやそのお友達も親に止められてるから絶対! 良いから準備しろ。俺ももう出るからな!」

「うぇーい」

 

 ただでさえ朝の慌ただしい時間帯に悪いことしてしまった。親は父親しかいないので、自分がしっかりしないといけない。

 

「じゃあいって来ます。……ちゃんと学校行けよ?」

「分かってるから」

 

 それだけ話すと、親を見送った。まぁ、確かに妹を送るのは大事なことだ。仕方ないので自分も制服に着替えに行く。

 妹はまだ寝ているのだろうか? と、思いながら妹と自分の共通部屋に入ると、起きて着替えていた。

 

「おっすー。起きてんなら、朝飯あるから早くおいで」

「いやん、おにいちゃんのえつち」

「それ言うならえっちな? 何処で覚えて来るのそういうの」

「きのう、好きなユーチューバー? の人の切り抜きどうが見てたら、横から流れて来るコメントに『えつち』ってことばがたくさん流れて来た」

 

 ユーチューバーか……と、小さくため息。自分もたまに見るが、サッカーとかカブトムシ系のそれくらいでゲームとかはあまり興味ない。

 ついでに言うならば、妹の着替えを見てエッチとか言われる筋合いもない。

 

「まぁ、なんでも良いから早く着替えて。遅刻するよ」

「サッカーしに行こうとしてた人にいわれたくない」

 

 最近、妹が生意気になって来て困る。この野郎、毎日小学校に義務付けられている集団登校の集合場所まで送り迎えしてくれている人への言葉がそれか、と。

 

「良いからあくしろ。俺も着替えるから」

 

 そう言いながら私服から制服に着替えようとすると、また後ろから余計な言葉が飛んでくる。

 

「ろしゅつきょう!」

「だから何処で覚えんのそういうの⁉︎」

「メタルギアサカッド」

「なんだそれ」

 

 適当な話をしながら、朝の準備を終えた。

 

 ×××

 

 小学校から、朝は近くに住んでいる学生と一緒に登校することが義務付けられているのだが、大体の生徒は通りごとに集まっていくのに対し、うちのアパートがある通りに近くに住んでいる子供がいないため、隣の通りに顔を出さないといけない。

 妹と一緒にその場所まで歩くが、いつも一番最後になってしまうのは致し方ないのだろう。

 その際、その集合場所には親御さん達も集まり、自分はその代理だ。

 

「おはようございまーす」

「おはよう、澤木くん。久しぶりね」

 

 春休み以来だからか、そんなことを言われる。隣の通りに住んでいるからゴミ出しとかですれ違うこともないし、本当に久しぶりではある。

 

「お久しぶりです。すみません。お待たせして」

「良いのよ」

「じゃあ、おにいちゃん。いってきます」

「おー。気を付けろよ」

 

 それだけ話すと、小学生達は一列になって歩いて行った。一昨年までは、自分のあの列の中にいたのを思い出す。

 

「じゃあ、俺も中学あるんで」

「うん。あとは任せて」

 

 一応、親達は子供達が通りから抜けていくまで見守ることになっているのだが、こっちにも事情があるので解散。ちなみにこの時間、自宅に近い小学校に通うのに最適な時間で出るわけだが、自宅から遠い中学に行くのでは割とギリギリなのだ。

 それでも、少なくとも小2まではこうして見送りをしないといけない決まりである。

 だから、せめて連れて来るまではやる事にしている。

 そのまま小走りで学校に向かっていると、ふと通り掛かったいつも遊んでいる公園の中で……いつも遊んでいる少女が、私服で待機しているのが見えた。

 

「あ、遅いよ! ……って、なんで制服?」

「今日から学校だからだよ!」

「え、明日からじゃないの?」

「残念でした! 本日です!」

「……あー」

「いや『あー』じゃないでしょ……」

 

 と、思いつつも、だ。自分も人のこと言えない。なんなら自分は来週からだと思っていた。

 

「ええ〜……もっとサッカーやりたかったのにー」

「またやれば良いじゃん?」

「だって、また妹ちゃんの送迎でしょ?」

 

 そう言われればそうだった。今日から放課後はあまり時間が取れない。3年生になれば妹も学童に通わなくても済むのだが……と、ため息を漏らす。

 

「ちなみに、学童の送り迎えが終わったらどうするの?」

「家でダラける。妹は友達と遊びに行くかもなー」

「じゃあ、私も行く!」

「え、いやいいよ。来ても制服でサッカーやることになるよ?」

「じゃあ、そっちだけ着替えたら?」

「逆に君は制服で遊んで良いの?」

「私は気にしないよ」

 

 いや、絶対にやめた方が良い。制服のシワや汚れは取るのが大変なのだ。私服とは訳が違う。

 

「じゃあ、一旦解散してからまた集まるか。時間決めて」

「まぁ……君がそう言うならそれでも良いけど」

「よっしゃ。てか今更だけど、今日始業式だしそんな時間掛からんでしょ」

「あ、そうだね」

 

 だから、今日くらいはたっぷり遊べる……と、そこで気がつく。そうだ、今日は始業式だ。

 

「ていうか、時間!」

「あ、そうじゃん。着替えどうしよう」

「あー……じゃあもう今日はジャージで良いんじゃね。一人はいるじゃん、朝練あって制服持ってこないでそのままジャージで来ちゃう人」

「何も持って来てないよ」

 

 それについては心配ない。自分は絶対にいつか必要になるモノはあらかじめ持っていくタイプだからだ。

 無言で鞄から、自分のジャージと体操服が入っている服を渡した。

 

「ほれ」

「良いの?」

「良いよ」

「やったー。ありがとう。じゃあ着替えちゃうね」

「いやここで着替えんなよ? うち近いからそこで着替えな」

「あそっか。じゃあそうする」

 

 そんなわけで、二人で一度アパートに戻った。

 

 ×××

 

「で、お前ら仲良く遅刻して来たわけね」

「「すみません」」

 

 始業式中の体育館の外、渡り廊下にて、担任でこの前お寿司を奢ってくれた数学教師に説教を受けていた。

 

「ったく……せっかく同じクラスにしてやったのに、あんまり後悔させないでよ? 馬鹿騒ぎして管理が面倒になるリスクを背負ってあげたんだから」

「え、先生がそうしてくれたっすか?」

「なんで?」

「二人とも仲良さそうだったから。部活に入ってないみたいだし、中学って同じ部活の人同士で結束固かったりするでしょ? 今年はスキー林間もあるし、せっかくなら楽しんで欲しいから」

「「せ、先生……」」

 

 思わず感動して二人ともジーンとしてしまった。ニュースではいじめ見過ごしだの、教員いじめだの流行っているのに、こんな先生もがいるんだな、と目をうるうるさせてしまう。

 でも一点だけ引っ掛かった。

 

「ありがたいんですけど……俺は別に管理面倒にならないですよ。騒がしいのは主にこいつなので」

「私がいても馬鹿騒ぎとかしないっすよ。どちらかと言うとわんぱくなのはこの人っす」

「……はい?」

 

 

 今、聞き捨てならない言葉が隣から聞こえた。

 

「は? お前の方が面倒だろ。人の家にまで付き纏って来た癖に」

「そっちこそ、サッカーやってる時だけやたらと周り見えなくなるじゃん。春休みの間、何回お昼に帰るの忘れてお母さんからお説教きたと思ってるの?」

「それはそっちだって同じだから」

「私は途中で帰ろって言ったもん」

「帰らなかったんだから同じだろ」

「待て待て、待ちなさい。なんで喧嘩腰になるの」

 

 なんでと言われても、納得いかないからである。そのまま隣の少女に詰め寄った。

 

「だいたい、今日忘れ物したのも学校の存在忘れてたのもお前だろ。なんで俺の方がお騒がせ者みたいに言えるんだよお前は」

「どうっすかね? どうせそっちだって忘れてて親に言われたから慌てて準備しただけかもしれないし」

「え、なんで知ってんの? 君、エスパー?」

「当たりなんだ。じゃあやっぱり君の方がしっかりしてない」

「んなっ……」

「や、だからやめなさいっての」

 

 間に入られた後、先生は少し引き気味に続けて言った。

 

「私から見たらどっちもしっかりしてないから、とにかくやめなさい」

「「むぅ……」」

「とりあえず、芹沢も澤木も列に戻りなさい。特に芹沢、あんた今日は良いけど普通、こういう朝礼にジャージで参加とかありえないからね」

「……」

「……」

「……返事は?」

「あ、いやこいつ芹沢って言うんだなって」

「私も。澤木って言うんだこの人って」

「あんたら名前も知らずにあの距離の近さだったんか⁉︎」

 

 いや、そのツッコミは尤もなのだが、名前を言う機会もなかったんだから致し方ない。二人だったから「お前」とか「君」とかでお互いに通じ合えていたし。

 同じことを思ったのか、芹沢と呼ばれた少女も「あー、うっかりしてた」みたいな顔をする。

 

「え、あんたらほんとに仲良いの?」

「そう言われると自信無くなって来たっすね……」

「いや人のジャージ借りといて自信なくなるってことないでしょ」

「まぁそれはそうかも」

「なんなのあんたら」

 

 何にしても、自己紹介はしなくては。こういう時は男からするものだろう。コホン、と咳払いしてから、出会って一ヶ月以上経過して初めての自己紹介をした。

 

「澤木海実。13歳です! 好きなものはサッカーとカブトムシとクワガタとポテトです!」

「芹沢あさひ、13歳っす! 好きなものは虫と体動かす事全般っす!」

「……何あんたら。前世から仲良しだったの?」

 

 趣味はほぼ一致していた。まぁお互いざっくりした言い方しているし、当たり前と言えば当たり前だが。

 

「はい、じゃあ二人とも列に戻って。最後尾で良いから……」

「あさひって言うのか……じゃあ、モーニング芹沢な⁉︎」

「じゃあそっちはオーシャンブルー澤木ね」

「良いから戻れ、あと変なあだ名つけるのはやめなさい」

 

 さっさと帰された。

 

 ×××

 

 ちなみに、あさひの私服は海実の部屋で預かっている。帰りに着替えてもらうから、放課後はそのまま海実のアパートに直行する。

 そして、さらにその前に妹を学童へ迎えに行かないといけない。放課後になって二人で歩きながら、海実はあさひに声を掛けた。

 

「なんかごめんな。妹の送迎まで付き合わせて。親に連絡とかした方が良いよな?」

「平気。うち今日は朝から親が家出てるし。だから私服で家飛び出しちゃったんだよ」

「なるほど」

 

 それはその通りかもしれない。というか、海実も今日は危なかったのかもしれない。親に言われなかったら、妹の見送りを忘れ、他の親御さんに迷惑が掛かっていた説もある。

 

「もう少し俺もしっかりしないとな……」

「ほんとだよ」

「お前が言うな」

 

 そんな呑気な話をしながら、二人でのんびり歩いて学童に向かう。

 春にもなれば、割と日差しは心地良い。それ故に、様々な生き物が色んな場所に出現して来るので、歩いている道を選べば様々な発見があったりなかったりする。

 

「おっ、珍しい。ジャコウアゲハ飛んでる」

「え、どれ……あれ? あれアゲハもどきって言う奴じゃないの?」

「似てるからよく見ないとどっちか分からん。あ、ちなみに知ってるか? アゲハもどきの幼虫って毒入りの草を食うけど普通に成虫になるんだぜ」

「へー、ハブとマングースみたい」

「それな。相性抜群」

「追いかけてみない?」

「いや、妹待ってるから」

「あー……そっか」

 

 そんな話をしながら、また歩く。すると、新たな生命が二人の前を横切る。

 

「あ、アオスジアゲハ」

「マジじゃん。結構見るよな。ナミアゲハより」

「だって、あれ都心の方が多く出るんでしょ?」

「え、水辺でもよくいんじゃん」

「あれ水を飲んでるんだって。だから割といろんなところにいたりするよ」

「へー」

 

 ……困ったことに、こいつと話しながら歩くのは楽しい。お互い、聞いたことある知識を適当に話しているだけなのだろうが、それでも話が合う友達自体、あまり出来たことがなかったから。

 特に、サッカーをやっていた時は基本的にマウントの取り合いが発生していた為、お互いに感心し合うとか、そう言うのはなかった。

 

「……」

 

 あさひが、飛んでいくアオスジアゲハを名残惜しそうに見つめる。分かる。気持ちはすごく分かる。海実も、出来るなら虫を見つけたら追い掛けたいタイプだ。まだ母親がいた頃は、蝶々を追いかけて気が付いたら市を跨いでいてよく警察に保護されていたものだ。

 

「あさひ、もしあれだったら、今日はサッカーじゃなくて虫取りにするか?」

「あー、それもアリだよね」

 

 なら、そうしても良いかもしれない。何にしてもボールは持ち歩く事にして、出かけることになった時のノリで選ぶ事にした。

 さて、そうこうしているうちに学童へ到着したので、妹を引き取ることにした。

 

 ×××

 

 妹を引き取り、自宅に到着した。が、海実は少し気まずそうな表情になってしまっている。何故なら……。

 

「……」

「ねぇ、双葉ちゃん。双葉ちゃんはどんな虫が好き?」

「……っ」

「双葉ちゃん? どうかしたの?」

 

 妹が、海実の背中にやたらと隠れてしまう。元々、コミュニケーション能力はさほど高くなかった。クラスに出来た友達もみんな向こうから話しかけられて出来た子なのだろう。

 それ故に、年上の中学生の女の子と話せるはずがなかった。何にしても、兄貴として妹は助けてやらなければならない。

 

「二人とも、まずは手洗いうがいしろ」

「えー、なんで?」

「あ……は、はい」

 

 小2の妹は素直に返事をしてくれたのに、中2の友人はなんか疑問を持ち始めた。アホなのも大概にしていただきたい。

 

「外に出てたんだから当然だろ」

「でももうすぐ出かけるよね?」

 

 そう言われるとその通りだった。というか、これ以上ない渡り船だ。出掛けてやれば、妹はとりあえず自由である。

 

「双葉、お前今日出掛けんの?」

「う、うん……おともだちの家にいく……」

「じゃあもう家出な。鍵は俺が閉めていくから……」

 

 と、言いかけた時だった。ぐうっ、と妹のお腹から分かりやすい音がした。そういえば、今日は始業式。給食なんて出ていない。何なら、自覚したことで自分たちのお腹も空き始めた気がする。

 

「あー……そういえば、お昼食べてないね」

 

 あさひもそんな事を呟いた。流石に何も食べずに出かけるのは無理だ。とりあえず、冷蔵庫の中を確認する。米は朝炊いて保温にしてある奴がある……というか、こうなってしまうとあさひの分も作ってやらないといけないだろう。

 

「あさひ、もしあれだったら食ってくか? 昼」

「食ってくって……え、作ってくれるの?」

「炒飯で良いなら」

「え……大丈夫なの?」

「? 何が?」

 

 食材費のことだろうか? それなら心配いらない。うちで作る炒飯は野菜オンリーだ。長ネギとにんじんとピーマンを全部細かく刻んでブチ込む。米が入っているから、肉がなくてもそこそこの満足感があるのだ。

 

「いや、海実くんが作ったご飯食べてお腹壊さない?」

「テメェどういう意味だこの野郎」

「火とか通ってないまま出されそうで」

「ブッ殺すぞ! 嫌なら家帰ってから食えや!」

「うーん、それも面倒臭いなぁ……」

 

 こいつ……と、ため息が漏れる。まさか、本気であさひより海実の方がしっかりしていないと思っているのだろうか? 

 

「お前……言っておくけどな、俺はこう見えて親父がいない家を一人で切り盛りしてんだぞ。舐めんなよ」

「? お母さんは?」

「そんなもんはいない」

「なんで?」

「死んだから?」

 

 妹を産んでから2〜3年でいなくなった。共働きでなんとかやって来れていたのに、片方がいなくなってから生活は変わってしまったし、その後すぐにサッカーを辞めた。一応、仏壇もある。

 聞かされたあさひはキョトンとした顔になったあと、面食らったのかより一層間抜けな顔になった。

 

「おー……それはなんというか、あれ……なんだっけ。ごしゅーしょーさまっす」

「え? お、おう?」

「お線香……とかあげた方が良い感じ?」

「あー……うん。じゃあ、仏壇あそこ」

 

 そう言いながら、あさひを連れて仏壇の方に案内する。蝋燭に火をつけてやると、線香に火をつけて2回鳴らして手を合わせ始めた。

 

「……」

 

 この淡白な反応……正直、とても助かる。何せ、自分はもう母親がいないことに慣れた。だが、それでも妹と違ってしっかり母親との日々を覚えているし、思い出すと少しテンションが落ちることもある。

 周囲の人間はそれを話すとみんな同情したがるものだが、それは当時を思い出すからやめてほしかったりするものだ。

 でも、あさひはそういうタイプではないらしい。……単純にあんまり興味がないだけかもしれないが。

 自分もその後に続いて手を合わせた。

 

「じゃあ、飯作るかー」

「ちゃんとお腹壊さないもの作ってね」

「お前後で覚えてろよ」

 

 話しながら、とりあえず食事をする事にした。

 

 ×××

 

「意外と美味しかった……」

「意外とってなんだよ」

 

 作ってもらっておいて相変わらず失礼なことを言われたが、妹も無事に家を出たし、後は楽しむだけだ。

 頭の中を切り替えようと思ったのだが、私服に着替え終えているあさひは相変わらずの間抜けヅラで続ける。

 

「いや、だって海実くんじゃん。サッカーバカで虫が大好きで夢中になり過ぎて何度も親に怒られてる人じゃん」

「世界で一番、お前に言われたくねえよ!」

「でも、本当に美味しかったよ」

「……そりゃどうも」

 

 ちょっと照れ臭い。サッカーの技術を褒められるのは純粋に喜べるのだが、料理を褒められるのは何故か少し気恥ずかしかった。

 ……もう少しちゃんと覚えてみようか? いや、ダメだ。うちの家計的にそこまでの余裕はない。炒める程度で十分だろう。

 

「そういえば知ってる?」

「? 何?」

「セミを揚げるとパイの実みたいな味するんだって」

「へぇ〜……え、なんかやだなそれ……」

「食べてみたくなるよね」

「ならない。絶対にならない」

 

 この子の感性、自分よりおかしい。

 まぁ、そんな事よりも、だ。とりあえず今はお散歩である。どんな所を見て回るか、なのだが、まぁ適当に河川敷あたりを散歩すれば良いだろう。

 

「川沿いで良いか?」

「うん」

 

 そんなわけで、河川敷方向へと歩き始める。一応、近くに綺麗な土手沿いがあるので、そこでのんびりしよう。たまにはそんな遊び方も良いだろう。

 なんて思った直後だった。急にあさひが立ち止まる。

 

「? あさひ?」

「よし、じゃあこうしよう。海実くん」

「何?」

「川まで競走。遅かった方が、後でアイス奢り」

「は?」

「よーい、スタート!」

「いやちょっと⁉︎」

 

 急に走り出された。なんだろう、この子。突発的にも程がある。お陰でこちらも大慌てで後を追うしかなくなった。ただでさえお小遣いなんてお年玉以外でもらえていないのに、他人のために使っている金はない。

 

「逃すかこんにゃろっ……!」

 

 慌てて後を追った。だが……速い。本当に女子だよな? と疑いたくなるほど。

 海実だって普段から割と運動しているのだが、そんな自分でも簡単には追いつけない。

 ただでさえフライングされている。ならば……こちらもそれなりのやり方で代行させてもらう。

 

「あさひ! 6時の方向にアキアカネ!」

「えっ⁉︎ 春なのに⁉︎」

 

 振り返った隙を捉えて、横を通り過ぎた。よし、この子やはりアホだ。こんな嘘丸出しの嘘に引っ掛かるとは。

 

「どこどこ⁉︎ どこにいるの⁉︎」

「いるわけねーだろ!」

「……あっ、ずるっ!」

「フライングした奴が言うことか!」

 

 なんて話しながらダッシュ。勝てば良いのだ、勝てば……と、思ったのだが、前を見ると信号である。

 

「あれっ」

「ふぅ、追いついた……ズルするからだよ」

「や、だからお前が……や、もういいや」

 

 疲れたし、一々ツッコミは入れられない。見方を変えれば公平になったとも言える。

 それよりも大事なのは、青になった直後のスタートダッシュである。周囲のあらゆる情報を集めないといけない。そのために、現在青信号になっている歩道の信号へ注目した。点滅し始めている。

 赤になった時点で、次は車道の信号を見る。黄色になった。

 つまり……もう間も無く青になる……。

 

「「ゴー!」」

 

 また、揃って走り始めた。ダッシュで信号を渡り終えた後、少し走れば土手への入り口である。

 そのまま二人揃って走っている時だった。コンクリートから土手に上がるためのじゃり道へ一歩踏み出す。

 当然のことながら、じゃり道はコンクリートより滑りやすいわけで。それが坂道となれば尚更だ。

 

「あっ」

 

 あさひが、足元を滑らせたのが見えて、反射で振り返った。慌てて手を伸ばして、転び切らないように腕であさひを抱える。

 あさひの身体の前に腕を出して、肩を掴むようにしてなんとか転ばせずに済んだ……のだが。

 

「おおっ……危なかった。ありがとう」

「……」

 

 女の子の肩って……なんか思っていたより細いな、なんて思ってしまった。妹を除けば女の子に触れるのなんてこれが初めてなわけだが、こんな華奢な身体でサッカーを今後も続けて平気なのか気になる。

 海実もフィジカルはない方で、体育のサッカーでサッカー部と競り合うと必ず負ける。

 だから競り合いになる前にパスを出すかドリブルでぶっちぎるかの二択を選んでいるわけだが、その自分より細いこの身体でもし今後、競り合うようなことがあったら確実に吹っ飛ばされる気がする。

 

「……海実くん?」

「っ」

 

 ぼんやりしていたからか、むしろ心配そうな声をかけられてしまった。ちょっと照れくさくなって、誤魔化すように注意をしてしまう。

 

「てか、転ぶほど焦んなよ」

「にしても海実くん。腕、意外と硬いね」

「聞いてんのか話?」

 

 なんか腕を離せないな、と思ったら、支えられていたあさひが海実の腕をモミモミと揉んでいた。

 

「……お、おいちょっと。恥ずかしいんだけど」

「あ、でも二の腕はぷにぷにしてる」

「ちょっ、くすぐった……!」

「そういえば、二の腕の感触っておっぱいと同じってほんとかな?」

「何の話⁉︎」

「触らせて!」

「嫌だよ!」

 

 そのまま趣旨も何もかもを忘れて追いかけっこが始まった。

 

 

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