望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

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第13話:横浜基地ブリーフィング

――カイエン達が横浜基地への出発と時を同じくして、横浜基地某所では基地司令パウル・ラダビノッド准将が副司令香月 夕呼に最後の確認をしていた。

 

「本当にこれで、良かったのかね?」

「お気遣いありがとうございます。しかし、現状において大隊規模のA-01を有機的に運用可能な指揮官は彼女しか居ません。先の明星作戦及び京都奪還戦で第1~第9までの全中隊は全滅しました。なんとか先日任官した者達を加えて部隊を再編成したものの、大隊長や大隊長教育を受けていた衛士は軒並みKIA、第9中隊の伊隅がなんとか生き残りましたが、彼女に大隊規模の指揮が可能な視野はまだ備わっていない」

「そこで、急遽大隊長経験者の彼女がカムバック、かね」

「流石に第三世代機の慣熟をしていないのでCPでの指揮となりますが、彼女の言葉には皆従順に従うでしょう」

「確かに、あの大隊は皆彼女の教え子でもあったな」

「ええ、先日任官した新任少尉達も彼女の教導を受けています。教導の質が良いのか、任務の難易度を考慮した場合、生還率は他の部隊と比較して20%程高い数値を示しています」

「仕方がないこととはいえ、そのような優秀な教導者すら戦場に送り出さなければならないとは……つくづくソ連領北部と鉄原ハイヴのBETA牽制に戦力の大部分を割かれている事が悔やまれる」

 

――ラダビノッド司令の言葉は人材育成の重要性を認識した者だけが言える言葉であった。教導者や教師等教育に携わる者を消耗させる事は、すなわち次代や次々代に社会を支える人材の喪失を意味する。末期的な地球の情勢を悔しい思いで述懐することしかできなかった。

 

――ラダビノッドの述懐を聞きつつ夕呼は作戦に対する断固たる決意を語った。

 

「しかも、我々が今回の作戦に割り込んだ以上、九州奪還はあらゆる犠牲が生じても必須事項です」

「そこまでの事があの九州にあるのかね」

「九州に“ある”のではなく、“赴く”ですわ。1ヶ月前の異常な光景は基地司令もご覧になりましたでしょう?」

「日本政府がWILLと呼称しているメガフロートが突然現れ、いくつかのアドバルーンを上げ、帝国連合艦隊第2戦隊が赴いた」

「そして、数日後にはなんと空に浮かんだ。現実的に考えてあんな物を作る技術は地球上に存在していません。しかしながら、今現在相模湾沖に存在している。少なくともあれはなにか特別なものであることはわかります。そして今回そのWILLから輸送艦が派遣され、戦力を九州まで運搬する。WILLを支配している者が何者かはまだ判明していませんが、その人物や技術と接触するまたとない好機であることは間違いありません」

 

――夕呼はそう言い、悪者の笑みを浮かべるのであった。その笑みが感情を押し殺した結果であることはわかったが、付き合いが半年程度のラダビノッドにはその真意を掴むことはできなかった。

 

「では、辞令の授与は博士が直接行ってくれたまえ」

「……ご配慮ありがとうございます」

 

――ラダビノッドとの打ち合わせを終えた香月 夕呼は居室に神宮寺 まりもを呼び出した。

 

「香月副司令、神宮寺軍曹がいらっしゃいました」

「わかったわ、ピアティフ。まりもが入室したら、あなたは席を外して頂戴」

「了解しました」

 

――そう答えるとピアティフ中尉は神宮寺まりもと入れ替わるように退室した。

 

「神宮寺軍曹入室します。博士、今回はどの様な御用でしょうか」

 

――神宮寺まりもは教本に載せても全く遜色のない敬礼を行ったが、その敬礼を見た香月夕呼はため息をつきながら答えた。

 

「ハアッ あのね~まりも、ココは私と貴方の二人っきりよ」

「しかし……」

「二人っきりよ」

 

――そう夕呼が念をおしていうと、まりももため息をつきながら応対する。

 

「ハアッ 夕呼突然呼び出して何の用? 私これでも新任少尉達の出撃準備を手伝っていたんだけど」

「あなたも出撃よ」

「え? 私、次期候補生の受け入れ準備もあるし、だいたい階級が足りないわよ」

 

――まりもから階級という単語が出てきたことで夕呼は悪巧みが成功した時の笑顔を浮かべながらまりもに答えた。

 

「階級? そんなことなら既に解決済みよ。“少佐”殿」

「は?」

「だから、あんたは今、現時刻をもって少佐に復帰なの」

「えぇぇぇぇぇぇ、夕呼! 階級っていうものはそんな簡単に変更するようなものじゃないわよ!」

「だって、今あんたに少佐の階級が必要だからしょうがないじゃない。だいたい、訓練校の教官になる前は少佐だったんだから、単なる復帰でしょう」

「でも……」

「はい、これ辞令と命令書。基地司令の署名入りよ。普通の軍曹相手じゃありえないわよ~。この部屋を出たらピアティフから階級章を受け取っときなさいね」

「ぐ……はぁ、わかったわよ」

 

――なおも食い下がろうとするまりもに、夕呼は止めのセリフを使い反論を封じた。こうして神宮寺まりも少佐は大隊長として九州奪還作戦に従軍することとなった。

 

「ああ。それと、私からの命令で、作戦の第一優先目的はあんた達を九州まで安全に載せてってくれる船の戦力調査だからね。」

「え?」

「なんでも、その輸送艦のオーナーは『お客と積荷の安全は保証する』と豪語したそうよ。良かったわね」

「ちょっと。どういう事なのよ!」

「詳細はその命令書を読んでね。あと、読み終わったらソコのシュレッダーを使って完全に廃棄してね。ソレ、A級の極秘文書だからこの部屋からの持ち出しも厳禁よ」

 

――そう言い残して夕呼は、困惑したまりもを放置したまま部屋出ていくのであった。

 

 

2000年3月22日 AM09:00

 

 

――巡洋輸送艦イールはWILLから出発した後も潜行したままで横浜基地へ向かっていた。

 

「マスター。ソロソロ・横浜基地ニ・連絡ヲ・入レル・時間・デス」

「ん? そうか、バスクチュアル本艦の前進を一旦止め、飛行状態に移行してホバリングしておいてくれ」

「イエス・マスター」

「アトロポス、浮上したら横浜基地の管制を呼び出してくれ。事前の打ち合わせでは海側の第一滑走路に向かえば良いはずだが、変更もあるかもしれない」

「了解いたしました。マスター、管制の呼び出しを開始いたします。」

 

――横浜基地の管制官は海中から浮上し、空中に浮かぶ巨大なイールの様子を呆気にとられながらもなんとか第一滑走路まで誘導する事に成功した。イールのタラップから地上に降り立ったカイエンとアトロポスを出迎えたのは伊隅みちる大尉と涼宮遙中尉であった。

 

「ようこそ、横浜基地へ。私は伊隅みちる大尉です」

「私は涼宮遙中尉です」

「こちらこそ、出迎えご苦労。俺はWILLのダグラス・カイエンだ。こっちは俺のパートナーのアトロポス」

「初めまして伊隅大尉、涼宮中尉、アトロポス・ライムです。よろしくお願いいたします」

 

――みちる達はカイエンの外見年齢に似合わない尊大な態度とアトロポスの優雅なそぶりが非常に対照的であり、我儘坊ちゃんと振り回される従者を幻視した。

 

「貴艦での輸送と九州上陸部隊合流後の事前ブリーフィングの準備は完了しております。会場までご案内いたします」

「了解した」

「お願いいたします」

 

――そうしてカイエン達を伴ってみちる達は出撃する部隊の士官たちが集まったブリーフィングルームに向かおうと踵を返し、暫く歩いているときカイエンが遙を見ながらアトロポスに声をかけた。

 

「アトロポス、どう診断する?」

「そうですね、私の見立てでは、過去に重症を負ったと推察します」

「なるほど、じゃあ後遺症か?」

「怪我の内容によります。後遺症が残るレベルであれば、一見して怪我をしたことがない外見が気になります。あるいは……」

「あ、あの本人を目の前にして勝手に討論を始めないでください」

「ああ、すまんね。なんとなく中尉の歩調に乱れを感じてしまってつい原因に興味がでたのでね。」

「不快な思いをさせて申し訳ありません」

 

――頭を下げるカイエンたちに驚いた遙だったが、素直な態度に好感を持ち、謝罪を受け入れた。謝罪後は談笑しながら基地内を進み、ブリーフィングルームに到着した。

 

「カイエン司令、こちらがブリーフィング会場になります。それで、大変申し上げにくいのですが、お腰の物はこちらでお預かりしてもよろしいでしょうか。軍規ではブリーフィングルームなど人の集まる施設では武器を持ち込まないようになっておりまして……」

「会場を出たら返してもらえるんだろうな?」

「もちろんです」

 

実剣でなく光剣の方が良かったか? こちらの実剣は、斯衛軍では基本武装らしいから違和感の無い実剣をあえて選んだんだが、ある意味裏目に出たか? アトロポスの光剣について言及されていないところを見ると光剣についての情報は流れていなさそうでだな。

 

「わかった。重いから気をつけてくれ」

「はい……キャ」

 

――そう言うとカイエンは腰に差していた実剣を片手で涼宮中尉に渡したが、受取った瞬間に取り落としそうになった為、カイエンは掴みなおすことで涼宮中尉を支えることになった。

 

「だから重いと言っただろう?」

「すみません。こんなに重い日本刀とは想像していませんでした」

「こちらの文化を調査した時に知ったが、普通の日本刀は太刀でも1~2kg程度のようだからな、ちなみにこれは日本刀ではなく、スパイドという実剣で重量は凡そ25kg程ってところだ。涼宮中尉、大丈夫か?」

「は、はい。想像より重さが違いすぎて取り落としそうになっただけですので」

 

――カイエンから実剣の重さを聞いた涼宮中尉は、実剣を受け取りギュッと抱きしめる形で握り締めた。

 

 む、涼宮中尉の渓谷に実剣が収まって……うん。エロいなぁ……うぉっ。アトロポス、いきなり後頭部にチョップはひッ……ごめんなさい。

 

「マスター? そろそろ入室しましょう」

「あ、ああ、わかった。伊隅大尉おねがいする」

「え? は、はい。了解いたしました」

「?」

 

――カイエンとアトロポスのやり取りを見た伊隅は、呆気にとられていたが声を掛けられた事で正気にもどり、カイエンたちをブリーフィングルームに案内した。ブリーフィングでは、今朝突然少佐に昇進したばかりの神宮寺まりもが、カイエン達の提出していた作戦概要(90%以上アトロポスが立案)の説明を開始しようとしていた。

 

「それでは本作戦を説明する。今回の作戦の第一優先目的は九州の奪還にある。まず、横浜基地ではWILL所属の巡洋輸送艦イールに乗り込み、海中を潜行し現在日本帝国軍で確保している佐賀関港より上陸し、現在別府~阿蘇防衛ラインで交戦中の戦術機甲連隊ハイドラと合流する。次に……」

 

――今回のブリーフィングで語られた内容の要点を挙げると以下のスケジュールになる。

 ①巡洋輸送艦イール(以後イール)にて佐賀関港に拠点を置いている電撃侵攻部隊のCPを回収

 ②イールをCPとして運用しつつ宮崎から鹿児島⇒熊本の順に制圧

 ③福岡との県境で戦線を構築

 ④下関部隊と侵攻部隊の一斉挟撃で敵主力の福岡在留BETAを殲滅

 ⑤福岡奪還後は福岡⇒佐賀と熊本から八代経由で長崎を挟撃して奪還完了

 ⑥奪還完了後、東日本駐留部隊はイールに乗艦し横浜基地まで移動

 

なお、福岡には軍団規模(約3万)、鹿児島・熊本・長崎・佐賀にはそれぞれに旅団規模(約5,000)のBETAが存在していると想定されている。福岡以外の場所にBETAが少ない理由は、阿蘇・霧島・桜島・雲仙等の火山が密集しており展開できるスペースが足りなかったと考えられている。

 

――ブリーフィング後、イールのコンテナに戦術機108機 内訳(帝国斯衛軍:武御雷12機、瑞鶴24機 日本帝国軍:不知火24機、吹雪12機 国連軍:不知火:12機、擊震12機、陽炎12機) 戦車大隊(90式戦車等計76台)を載せ、別コンテナを宿舎、弾薬庫とした。内訳(第二コンテナ:宿舎兼CP 第三コンテナ:戦車大隊 第四コンテナ:斯衛軍 第五コンテナ:帝国軍 第六コンテナ:国連軍 第七:弾薬庫)コンテナのスペースは大きく、戦術機108機程度であれば1コンテナに収まったが、帰りに乗艦する部隊のスペースも確保している。因に第一コンテナは立入り禁止となっている。(オージェ・アルスキュル1機とE-75が30台、重砲ディグ20台が搭載されている)




BETAの数って原作中では非常に多いと表現されていますが、戦術機との戦力比を見ると少なく感じるのは気のせい?

戦術機:BETA
小隊4機:30~60
中隊12機:60~250
大隊36機:300~1000
連隊108機:2000~5000

大型種の足元に居る無数の小型種を数えていないならある程度納得ですが
もともとはBETAと戦うための適切な戦力比を基準にしているはずなのですが……

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