店から少し歩いたところに一面芝生に覆われた広場が在る。俺と高野さんは少し丘陵になった樹の根元に腰を降ろした。
天気も良くて、風もちょうど良いくらいの風が吹く気持ちの良い日だ。
「ここ、気持ちいいですね。風も優しくて、日差しも直射日光じゃないので、のんびりできそうです」
「そうだな、読みかけの本持ってくればよかった」
そう言った高野さんは笑っていた。つられて俺も微笑んでしまって、それに気付いて恥ずかしさでそっぽを向いてしまい、高野さんに怪しまれて顔を覗き込まれた。
「な、何でも無いです」
高野さんは、ふ〜んとだけ言って、ゴロンと寝転んでしまった。
俺は買ってきた物を袋から出し、珈琲を一口飲んだ。
「あ、旨っ!!」
「え?そんなに美味いの?」
「はい、飲みやすいんですけど、う〜ん、なんて表現すれば良いんですかね?コクっていう訳じゃないんですけど、深みがあるっていうか豆が良いのかなって感じで、でもすごく飲みやすいです」
「俺の分頂戴」
そういうと俺から自分の分の珈琲を受け取り、一口のんだ。
「旨っ!!」
「でしょ!」俺は笑顔で高野さんにそう答えた。
「やばっ、あの店豆も売ってたよな?帰り買って帰ろうかな?」
「あ、俺も欲しいです。帰り寄ってみましょう?!」
互いに笑顔で話していた。心に穏やかな風が吹くのが分かった。そのせいか、俺は調子に乗ってしまい・・・。
「あ、あの、高野さん、さっきの話なんですが、、、、例えばどんなものなら。。。。」
恥ずかしさと、何を言われるのか分からない恐怖で俺は俯いたまま聞いた。
「あ? あ〜、、、。あれ。そうだな・・・・・・何が良いかな!?」
高野さんの顔を見なくても、どんな表情してるか、今の顔なら想像が付く。
やっぱりニタッてしてる!!!!!! ムカつく!!!!
でも、高野さんは直ぐに優しい顔になって、笑ってくれた。
「お前と一緒に居られればそれで良いよ!」「なんも要らん。あ、でも、お詫びのキスならいる!」
やっぱりニタッと笑っていて、ムカつく!!
俺はその場の苛立ちに任せて、高野さんに顔を近づける。キスをしようと顔を傾けると
「フガッ!」「なにするんですか?!」高野さんの手が俺の顔面を塞いで、遠ざけようとしている。
「冗談ならやめろ、冗談じゃないなら、こんなことするな!」
高野さんの声は、明らかなイライラや怒りを含んでいて、俺は後ろに体を無意識に引いていた。
また俯いて「すみません」とだけ謝った。でも、俺は誤りたかったわけでも、冗談でこんなことをしようとした訳でもなく、高野さんがちょっと驚いてくれて、それで、ほんのちょっと触れたかっただけで・・・・・。
俺が調子に乗ったばかりに、いい雰囲気だったのが台無しだ。せっかく楽しく喋れていたのに、、、。
そもそも高野さんも高野さんで、俺を挑発すればどうなるかくらい予想が付くだろうに・・・・・。そう思ったらイライラしてしまい、心にもないことではなく、本音が出てしまっていた。
「そもそも、高野さんがキスの謝罪なら受けるって言ったんじゃないですか! なのに何なんですか?」
高野さんは一分にも満たない時間俺を見つめ、ため息をして答えた。
「お前さ、謝罪のつもりでキスしようとしてたの? それとも別の意味もあってそんなことしようとしてたの?」
俺はその問いにドキッとした。この人、本当に鋭い。
「確かに、俺は小野寺とキスしたいよ。何なら今すぐにだって抱きたいよ。だけど、体だけ奪ったってしょうがないだろう。そんなんじゃ、前の状況と何ら変わらない。俺は、お前の心が欲しいんだよ。心と体が揃って俺のものにしたいんだ。なのになんでお前は俺にそんな仕打ちするの?」
俺が答える前に高野さんが話しだした。その話も、正直俺の心を抉るようなもので、、、、。
俺は、高野さんの問になんて答えればいいか分からずに、高野さんの両腕を掴んで、何度もグラグラと揺すっていた。その間、何度も何かを発しようとしたけれど、どれも言葉にならなかった。そのうち、涙が出てきた。
「律?! ごめん。そんな責めたつもりはなかった。ただ、お前が俺の気持ち試すような事するから、辛くて、、、本当にごめん」
高野さんは俺に頭を下げて謝ってくれたけど、高野さんが謝らなきゃいけないようなことは何もなくて、むしろ俺が謝らなきゃいけないのに・・・。
俺は高野さんの腕を掴んだまま、暫く動くことが出来なかった。謝ることも、何かを言うことも出来ず、ただ俯くだけだった。