キバッて魔入ります!入間くん   作:MTHR

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相変わらず亀更新で申し訳ございません。
書こうとは思っても、他の2作と違って中々執筆が進まなくていつも遅くなってしまいますが、これからもどうぞよろしくお願い致します。


11話 師団(バトラ)・スプラッシュグリーン

 師団披露(バトラパーティー)の数日前は短縮授業になっている。各師団が、パーティーの準備をするための準備期間だ。

 入間、アスモデウス、クララが所属する魔具研究師団も、部室で本祭では保護者が来てくれる(アスモデウスは母が来るから絶対に止める、キリヲは電話越しでも声が物凄く大きい兄さんが来るらしい)という雑談をした後、師団披露で出し物をするために機材を台車に乗せて、準備会場に向かう。

 会場は既に大勢の生徒で賑わっており、簡易テントやパイプの骨組みが設置されているその光景は、まるで縁日のようだ。

 

「楽しそうですね!」

「うちらも負けてられへんなぁ!」

「目立つ設置をするぞー!」

「おぉー!」

 

 入間達はその光景に盛り上がりながら、魔具研究師団に割り当てられた区画に到着した瞬間、全員黙り込んだ。

 

「「「「……」」」」

 

 狭い。

 その一言につきた。

 魔界武器露店とチョコバババの店の間に配置された区画は、他の師団に割り当てられた物と比べれば、5分の1もない。

 

「ゴブェッ!」

「先輩!!」

「他の5分の1もスペースがありませんね」

「ちっちぇー」

 

 キリヲが吐血し、入間があたふたし、アスモデウスとクララがその狭すぎるスペースに感想を言っていると、別の師団の生徒が通りかかり、入間達魔具研究師団の様子を見て、クスクスと笑いながら声をかけた。

 

「よっ!荷物師団!」

「今年も荷物置き場かぁ!」

「あっ、おおきにー」

「がんばれよー」

「ハハハ!」

 

 慣れた様子で答えるキリヲに、アスモデウスは不機嫌そうな顔で言う。

 

「先輩…馬鹿にされてるんですよ!怒ってください」

「やー、も慣れてしもてて。けど皆には申し訳ないわ。僕のせいで」

 

 するとキリヲは、ヘラヘラした笑顔から一転して、何処か申し訳なさそうな様子で口を開く。

 

「3年やのに位階(ランク)(ベト)やからスペースも予算もよう貰えんで…ほんま堪忍なぁ……」

(……やっぱり、上級生だとしても、位階(ランク)で評価がきまるんだ……)

 

 キリヲの言葉を聞いた入間は、制服につけられた(ベト)のバッジを握りしめた。

 位階(ランク)の上下、つまり実力の差で優劣がつけられるこの魔界(世界)のあり方は、まだまだ魔界の生活に慣れていない入間にとっては思う所がある。同時に、指輪に込められたサリバンの魔力で周りを騙している自分に、少しだけ罪悪感に近い物を感じてしまう。

 

「…大丈夫ですよ!大事なのは披露の内容です!」

 

 しかし、そんな入間の悩みはこの状況においては全く関係ないし、嘆いても区画を広くしてもらえるわけでもない。入間は悩むのを止め、これからどうすれば良いのかを考えることにして、キリヲに話しかけた。

 嘆いたり、愚痴を言った所で、状況が改善される訳でもない。だからこそ動く方がいいと、入間はこれまでの過酷な人生経験で嫌と言う程学んでいたのだ。

 

「例年は、どんな披露を?」

「えーと。新作の魔具を並べて……こんな感じに……」

「ん゛ん゛っ!!荷物置き場!!

 

 狭い区画にごちゃごちゃに詰め込まれた魔具の山を見てツッコミを入れる。確かに、これでは荷物置き場にしか見えない。どれがどんな魔具なのかも分からないため、これでは客なんて集まらないだろう。

 

「でも、今年は新入団員が入ったし、皆のしたいことも訊きたいわぁ」

 

 キリヲは入間達にそう尋ねると、3人は顎に手を当てて考える。

 

「うーん…僕は……前に先輩がガブ子ちゃん(魔具)でキレイに輝かせた光に感動したので、他の人にも見てほしいです」

「私は、家系の証したる火炎の魔術があれば、お力になれるかと」

「私は、ドーンで、バカーンって、派手なのがいいなー!」

「ハハハ。なんや、まとまりないなぁ」

「ですね。光で、火炎で、ドカーンで、ドバーンで……」

 

 その時、入間の頭にある豆電球がピカッと輝き、脳内にある光景が映し出された。

 思い出すのは、夏の長期休暇を利用して(入間は義理の両親のせいで殆ど学校に通っていなかったが)屋台でバイトをし、日本中の縁日を回っている際に見た、夜空に浮かぶ光の花。つまり…

 

「花火だーーーー!!」

「はな…?」

「えっと、火薬のつまった玉を空に打ち上げて、爆発?させるんですけど…」

「空で、火薬を爆発」

「飛行者を……撃ち落とす…?」

「殺戮兵器!」

「違う違う違う!!」

 

 キリヲ達が花火とは全く別物の何かを想像し、入間はブンブンと頭を降って否定する。

 どうやら、魔界に花火は存在しないらしい。魔界にもテレビだのケータイだの人間界と共通する物が普通に存在しているから花火もあると思っていたのだが、やはり魔界と人間界はあれこれ違うのだなと再認識しながら、入間はなんとか花火を説明しようとする。

 

「観賞用ですよ!光の花を夜空に打ち上げるんです!」

「ほぉ、観賞用!」

「確か師団披露(バトラパーティー)は夜までやってますよね」

「うん。メインは昼で夜は殆ど宴会やけど」

「なら尚更!キレイだしきっと目立ちます!魔具研究師団の事を知ってもらえますよ!それに……」

 

 そこで入間は天を指差した。

 そこには、狭っ苦しい区画とは違う、何処までも広がる魔界の空がある。

 

「スペースも空なら関係ないですし」

「成る程。ええかもなぁ!夜空に花!」

「流石イルマ様!素晴らしい発想力です!」

「はなび!はなびやろう!」

 

 こうして、入間達魔具研究師団の出し物は、魔界には存在しない“花火製作”に決定したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「パジャマ!まくら!その他諸々!さぁレッツ…お泊まり!

「やかましいッ!!」

 

 魔具研究室で、パジャマに着替えてはしゃぐクララに、アスモデウスがツッコミをいれた。

 

 花火の製作を決めた入間達が直面した問題は、師団披露(バトラパーティー)までの時間がないということだ。いまから突貫作業で花火を作るにしても、余程集中しないと間に合わない。

 そこで、入間達は今夜一晩、悪魔学校(バビルス)でお泊まりをする事になった。

 宿泊作業の申請をし、家への連絡をした入間達は、学校から貸し出された4つの布団を敷いていた。

 

「魔くら投げ!悪魔会談!!」

「するか!!」

「その前に、花火の実験しないと」

 

 お泊まりならではの遊びをしたくてはしゃいでいるクララに、入間は先に花火の製作をしようと言う。入間自身、初めてのお泊まりにワクワクしているのは事実だが、本来の目的を忘れて遊んでいるわけにはいかない。

 その時、部室の隅で、爆発が起こった。

 

「キリヲ先輩!」

「や~。また失敗してしもうたわ~」

 

 爆風の中で、キリヲが血を吐きながら起き上がった。

 

「もう少しやと思うんやけど…」

「それより!早く手当てを…!」

「あぁ、怪我はしてへん…って、触った方が早いな。手、出してみ」

 

 キリヲの言葉に首を傾げながらも手を出してみると、見えない壁のような物が、手に当たった。

 

「壁!?」

「僕の家系能力、断絶(バリア)。この魔術のお陰で魔力が少のうても今まで大ケガせんでそれなんよ。まぁ、花火の反動と驚きで吐血はするけどな」

 

 キリヲの家系能力は、眼に見えない壁を作り出す事らしい。この能力で、爆発の衝撃から身を守っていたらしい。…結局、吐血するので無事とは言い難いが。

 

「しかし、やっぱ難しなあ。見たことないもん作るのは……」

「ですよね。僕しか実物知りませんし……何か見本でもあれば……あっ!」

 

 日頃から数多くの魔具を作ることが出来るキリヲとはいえ、存在しないものを作るのは難しい。入間も分かりやすく説明しているつもりだが、これでは完成はかなり先になってしまう。

 何か見本になるものはないかと考えていた入間は、ある人物の顔を思い浮かべて、声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっ、珍しいな!お前の方から呼び出しとは…」

「急に呼び出してすみません!」

「べっ、別に構わん!」

 

 悪魔学校(バビルス)の談話室。

 入間の呼び出しの連絡を受けてこの部屋にやってきたのは、悪魔学校(バビルス)生徒会長アザゼル・アメリだ。

 急な呼び出しにも関わらず来てくれたアメリに入間が礼を言うと、アメリは顔を赤くして、そっぽを向きながら気にするなと答えた。

 

「で、持ってくるのはこれで良かったのか?」

「はい。確かここに……あった!」

 

 そう言ってアメリが取り出したのは、入間とアメリが放課後談話室で行う読書会で朗読する少女漫画、初恋メモリーの8巻だ。

 入間は漫画を受けとると、パラパラとページを捲る。

 そこには、見開きで夜空に大輪の花火が撃ち上がるシーンが描かれたページだった。

 

「はなびか!あれは良かった!夜空に咲く花とは…実物はさぞ美しいだろうな。はなびの音で台詞が聞こえん演出も見事!」

「あ~。いいですよねぇ、あのシーン!」

「ウム。では早速…始めるか!」

「えぇっ!?」

 

 魔茶とお菓子をテーブルに並べてソファーに座り込むアメリに動揺する入間だが、アメリは気にせずにうんうんと頷きながら語る。

 

「またこの巻を朗読するのだろう?仕方ない奴め。私はいいぞ。一度読んだストーリーでも、何度も読むことによって更に理解が深まるのだからな!」

「いえっ、今日はその本を……貸してもらえないかと……」

「はぁっ!?何を言う!?ダメに決まっているだろう!?」

「そ、そこをなんとか……」

「絶対にダメだ!これは、父から預かった重要な秘伝書。おいそれと貸して言い代物では無いのだ!」

「……そうですよね。すみません。無理言って……」

「うっ……」

 

 シュン…と落ち込みを見せる入間に、アメリは言葉をつまらせる。

 

(いーや!だめだ!ほだされては…)

 

 アメリは後ろをむいて首を降る。

 普段から読書会で朗読をしてくれる入間の頼みは出来る限り聞いてやりたいと思っているが、禁書の貸し出しは流石に容認が出来ない。

 人間界ならば世界中の書店に並んでいる初恋メモリーだが、魔界には2つと存在しない物なのだ。易々と他人に貸し出すことは出来ない。

 

「よし!何とかしよう!見本無しでも、()()()()()といいけど……」

 

 しかし、部屋から出ようとした入間の独り言を聞いた瞬間、一瞬だけ動きを止めたアメリはグルッと入間の方に振り返り、捲し立てるように口を開いた。

 

「つっ、()()のか!?()()()を!?あの夜空に咲く花を!?」

「はっ、はい!師団披露(バトラパーティー)で打ち上げようかと…」

(花火が見られる…!)

「?アメリさ…」

 

 アメリはキラキラと眼を輝かせたかと思うと、突然クルリと後ろを振り返り、机の上にバンッ!と初恋メモリーを叩き付け、伸びをし始めた。

 

「んん~。今日はもう遅い。私も眠い!しかし本当に眠いな~~。こんなに眠いと()()()()本をここに置き忘れてしまうかもしれないなぁ」

「!」

「まぁ、そうしたら明日の夕刻にでも取りに来るがな~~」

「あっ、ありがとうござきます!アメリさん!」

「だから!()()()()だと言っているだろう!!」

 

 独り言を言うように、壁に向かって話しかけるアメリ。

 口では言っていないが『持っていけ』というアメリの意図を読み取った入間は、アメリに何度もお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、漫画をもって魔具研に戻った入間が見せたイラストを参考に、花火の製作が再開された。

 キリヲが漫画から必要な構造を解析し、部室に転がってきた材料を組み合わせてボール大の花火玉を作り上げ、アスモデウスがそれに炎を込め、クララが射出用の筒に絵を描く。

 そして出来た試作品を真夜中の校庭の隅で実験を始めた結果、小さいながらも夜空に花を咲かせることが出来た。あとは大きくすれば完成だ。

 そこで、製作に疲れたのかクララが眠ってしまったことで、花火製作の続きは明日に行うこととなった。

 

(順調みてーだなぁ。こりゃ、本番を楽しみにしようか……)

 

 真夜中の悪魔学校(バビルス)の校舎を、万が一にも人に見つからないようにしながら飛ぶキバット。入間がお泊まりをすると連絡した際、オペラから明日の分の人間の匂いを消す香水を届けるように頼まれた為、人知れず学校に訪れ、入間に香水を渡したのだが、なんとなく入間の様子が気になり、人目につかない場所で成り行きを見守っていた。

 

『てめぇ、掛けたらワンコールで出ろっつったろ、ボケメガネ!!』

 

『おわぁッ!?』

 

 その時、キバットの耳に、とんでもない量の怒声が響いてきた。並みの悪魔よりも優れた聴覚を持つキバットは、思わず翼で耳を覆う。

 キバットは未だにキーンと来る耳を抑えながらも、興味本意で物陰に隠れながら、その音源の方を覗き込む。

 そこには、

 

(アイツは…入間の先輩じゃねーか)

 

 そう、そこにいたのはアミィ・キリヲ。耳にス魔ホを当て、誰かと通話をしているようだ。

 

「や~。後輩達と楽しく作業していて………もちよんですよぉ……」

 

 本来のキバットなら、電話相手の声も聞き取れるのだが、未だに先程の怒声で耳がキーンとしているため、通話の内容を聞き取ることが出来ない。

 やがて耳のノイズが収まってきたかと思うと、キバットの優れた耳に、通話相手の声が聞こえてきた。

 

『──例の装置は、いつでも使えるようにしとけ。いけるな?キリヲ』

「……はいな。すぐにでも」

 

 眼鏡を外して髪をかき上げるキリヲを見て、キバットは背筋に冷たいものが走った。

 それ程までに、彼の瞳は、不気味な冷たさを宿していた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

「アメリさん!この漫画、貸してくれてありがとうございました!」

「だっ、だから!()()()()忘れてしまったといっているだろう!」

 

 談話室で、入間は花火製作に役立ってくれた初恋メモリー8巻を、アメリに返却していた。

 笑顔で何度も頭を下げて礼を言う入間だが、アメリはあくまで置き忘れただけだと言う。だって、私欲で禁書(漫画)を貸し出すなんて、生徒会長として大問題だから。

 

(だがしかし!これで師団披露(バトラパーティー)ではなびを見ることが出来る!イルマと一緒に…!)

 

 アメリの脳内では、魔界の夜空を照らす打ち上げ花火と、それを肩が触れ合いそうな距離で鑑賞する自分と入間の姿が描かれていた。

 入間は花火を打ち上げる側なので、一緒に見れる可能性は限りなく低い。そもそも、入間は「一緒に見よう」なんて一言も言っていないのだが、アメリの中では「一緒に花火を見よう」という言葉が捏造されているらしい。

 

(そして、二人で夜空に咲く花を見ている内に……)

 

 

『綺麗だなイルマ…はなびというのは…!』

『そうですね。…でも、アメリさんの方が綺麗ですよ』

『イ、イルマ…!』

 

 

(…なんて事になるやも!!)

 

 流石にそんな事にはならないと思う。しかし、思い込みの激しいアザゼル家の家系であるアメリはそんな妄想をしてしまい、顔を赤くして頬に手を当てる。

 そんなアメリの様子に、訳がわからず首をかしげる入間。

 

「あの…アメリさん?どうかしましたか?」

「ッ!?い、いや!気にするな!兎に角、師団披露(バトラパーティー)ではなびを(一緒に)見れるのを楽しみにしているからな!」

「はい!」

 

 手と首をブンブンと振って誤魔化すアメリの言葉に笑顔で応え、入間は談話室を後にし、それから少し遅れてアメリも談話室から出て、見回りを開始した。

 

(イルマと二人で花火……いやいや、待て待て!これはあくまでも……そう、確認だ!イルマと距離を縮めることで、キバの目的を探るという確認だ!)

 

 そうやって頭の中で馬鹿馬鹿しい言い訳をしながら数分ほど廊下を歩いていると、人気なのない廊下までやってきたアメリはス魔ホを取り出して数秒間だけ操作したかと思うと、不意に後ろに向けて声をかけた。

 

「……隠れていないで出てきたらどうだ?」

 

 威圧感のある声でそう言うと、廊下の柱の後ろから、一人の悪魔が姿を現した。

 

「……気付いていたか」

「呆れたな。気配がまるで消せていないぞ……貴様、学園の生徒ではないだろう。何者だ?」

 

 その瞬間、その男の顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がったかと思うと、その姿が一瞬で化け物の姿に変貌する。

 

「貴様、ファンガイアか…!」

『…悪魔学校(バビルス)生徒会長、アザゼル・アメリ……貴様の命、貰うぞ!』

 

 そう言うと同時に、変貌した男……ファンガイアの手に銃が生成され、ファンガイアとアメリは同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 人気のない廊下を歩く入間の元に、キバットがバサバサと翼を羽ばたかせながらやって来て、入間の回りを飛ぶ。

 

『なぁ…入間。お前の部活の先輩……』

「部活じゃなくて師団(バトラ)だよキバット。それで、キリヲ先輩?優しくていい悪魔(ひと)だよね」

『そうじゃねぇ!…あれはちょっとヤバイぞ!ファンガイアじゃあなさそうだが、普通の悪魔とは何かが違う…!』

「気のせいじゃないの?キリヲ先輩は魔力が少ないだけで、別にそれ以外で変わったことなんてないよ?」

 

 昨晩の様子から、キリヲから何か危ないものを感じ取っていたキバットが彼を危険だと伝えるも、短い期間ではあるがキリヲと仲良くしてきたイルマはそれを笑い飛ばす。

 そんな風に話していると、中庭の方角から、何かが破壊されるような轟音が聞こえてきた。

 

 入間とキバットはハッと表情を変えてその轟音が聞こえてきた方を振り替える。そしてお互いに頷き合い、駆け足で現場である中庭に向かう。

 物陰に隠れながらその場を見てみると、そこには羊のような姿をした【シープファンガイア】が、手に持っている銃を使い、シープファンガイアと対峙するアメリと生徒会の部下二人を発砲している姿があった。

 

「キバット!」

『分かってるよ!キバッて行くぜ!ガブッ!』

 

 それを見た入間は直ぐ様キバットをキャッチし、キバットは入間の手に噛み付く。入間の体にステンドグラスのような模様が浮かび上がり、入間の腰に鎖が巻き付いてキバットベルトが出現する。

 

「変身!」

 

 キバットをベルトにぶら下げて、入間は仮面ライダーキバに変身すると、シープファンガイアに向けて走り出した。

 

「はぁああああッ!!」

『ウォオオオッ!?』

 

 キバはシープファンガイアの首根っこを掴み、そのまま足を止めずに走り、シープファンガイアをアメリ達から引き離す。不意を突かれたシープファンガイアは対応する暇もなく、まるで荷物のようにキバに引っ張られていく。

 

「ハッ!」

 

 やがて中庭にある森の中まで辿りついたところで、キバはシープファンガイアを投げ飛ばす。シープファンガイアは、大木をへし折りながら倒れるが、直ぐに立ち上がったかと思うと、手にした銃でキバを発砲した。

 

「フッ!…はぁあああああっ!!」

『グァアアッ!?』

 

 しかし、過酷な人生の中で銃で追い回された経験もあるキバ(入間)からすれば、そんな銃撃を避けるなんて造作もない。キバはその場で背面回転ジャンプをして直ぐそばにある木の枝に足を引っ掻けると、シープファンガイアに拳のラッシュを御見舞いする。予想外の攻撃に、シープファンガイアは堪らず殴り飛ばされる。

 枝から足を離して着地したキバは、そのままシープファンガイアに止めを指そうと走り出した瞬間、

 

『フッ!!』

「うわっ!?」

 

 シープファンガイアが、残像を残すスピードで走り出し、キバに向かって突進する。それを第六感で察知したキバは、攻撃を中断して横向きに転がることで、何とかそれをかわす。

 フゥ、と軽く息を吐くキバだが、立ち止まったシープファンガイアが銃口を此方に向け、引き金を引いて銃弾を連続で放ってくる。キバは慌てて立ち上がって銃弾を避けるが、何発か肩のアーマーに掠り、摩擦熱で煙を上げる。

 先程の優勢から一転して苦戦を強いられるキバは、木の影に隠れて銃弾を防ぐ。

 

「スピードに銃…遠近に隙がない…!」

『よし、こういう時はアイツの出番だ!!』

「うん…これでッ!」

 

 キバはベルトのホルダーから、緑色のフエッスルを抜き、キバットの口元に持っていく。

 

バッシャーマグナムッ!!

 

 フエッスルを咥えたキバットは、笛を吹き鳴らし、トランペットのような音を響かせた。

 

 

 

 

 【ドランプリズン】と呼ばれる部屋の中で、だだっ広い部屋にポツンと置かれたテーブルを囲み、3人の男の姿があった。そして、彼らの直ぐ側には、紅い猫耳を生やした悪魔の姿もある。

 

「どうぞ」

「ご苦労…」

「いただきまーす」

「いただき、もす…」

 

 赤い髪の悪魔──オペラがテーブルに並べた魔界の料理に、強面の男──【次狼】と、中性的な少年、そして大柄な男が、カトラリーを手にして、食事を始めようとする。

 その時、キバットが吹き鳴らしたフエッスルの音が、部屋に響き渡った。

 

「あっ、呼ばれた」

 

 それに反応したのは、中性的な少年──【ラモン】だ。

 カトラリーをテーブルの上に置き、椅子から立ち上がって部屋を出ようとするラモンに、オペラは声をかけた。

 

「いってらっしゃいませ。どうぞお料理が冷めない内に」

 

 オペラが一礼すると共に、ラモンの体が緑色の光と共に、緑色の半魚人のような姿に変わり、直ぐ様緑色の彫刻に変わる。

 そして光を纏って浮かび上がったラモンは、キャッスルドランの口から射出された。

 

 

 

 

 

 

 

 キバは緑色の彫刻を、右手で掴む。

 手の中で緑の彫刻が特徴的な3枚のヒレを持つ銃──“魔海銃バッシャーマグナム”に変形する。

 同時に、キバの右腕と胸部が鎖に包まれていき、水飛沫のようなエフェクトと共に鎖が弾け、緑色の鱗やヒレを模した身体が露になる。

 半魚人の幻影がキバに重なり、キバとキバットの目が緑色に染まることで、変身が完了した。

 

 姿を変えたキバは、バッシャーマグナムのトリガーを引き、銃口から水流弾を放つ。

 

『ッ!!』

 

 咄嗟に避けたシープファンガイアも銃の引き金を引き、キバが隠れている木の幹を撃ち抜き、木を半ばから追ったことで、緑色に変わったキバの姿が露になり、シープファンガイアは驚いて動きを止めた。

 緑のキバ──【仮面ライダーキバ・バッシャーフォーム】は、そんなシープファンガイアに気を遣うことはなく、バッシャーマグナムの銃口を向け、引き金を引く。

 銃口から放たれた水弾を目にして、シープファンガイアは高速移動を発動させる。バッシャーマグナムから放たれる水の弾丸はかなりのスピードを持っているが、シープファンガイアはそれ以上のスピードで走ることでその全ての水弾をかわしていき、空振りになった水弾が近くの木々をへし折り、地面に爆発を起こす。

 

『無駄だ。銃なんかで僕のスピードをとらえることは出来ない』

 

 立ち止まったシープファンガイアが嘲笑すると同時に銃を放つ。

 キバがバッシャーマグナムでそれを撃ち落とすと、ベルトにぶら下がった緑目のキバットが得意気な声を上げた。

 

『ふっふーん!それはどうかな!?』

 

 その言葉に応えるように、キバはバッシャーマグナムをキバットの口元にやり、キバットはバッシャーマグナムに噛み付いた。

 

バッシャー・バイトッ!

 

 バッシャーマグナムに“アクティブフォース”が注入され、大気中の酸素と水素を強制的に水へと変える事で、擬似水中環境“アクアフィールド”が生成・展開され、水面に半月が写る夜が訪れる。

 バッシャーマグナムのフィンが高速回転し、キバを水の竜巻が包み込む。水流の中で、キバはバッシャーマグナムの照準をゆっくりとシープファンガイアへと定めると、銃口に一際大きな弾が生成されていく。

 

 先程自慢のスピードでキバの乱射を避け続けたシープファンガイアだったが、凄まじいエネルギーが込められた魔弾を目にし、本能的に『死』を感じ取ったことで、踵を返して逃げ出したのと同時に、キバはバッシャーマグナムの引き金を引いた。

 

 自身の高速移動を駆使し、森の木々を障害物にして逃げ延びようとするシープファンガイア。しかしキバが放った弾丸は、まるで意思を持つように障害物の木々を避け、シープファンガイアへと迫っていき、数秒後に弾が直撃した。

 着弾したシープファンガイアにバッシャーの顔の幻影が浮かび上がり、罅割れて硬質化した。

 

「………チョン」

 

 硬質化したシープファンガイアにゆっくりと歩み寄ったキバは、動かなくなったファンガイアに指先で軽く触れる。その瞬間、シープファンガイアは音を立てて四散し、辺りにステンドグラスの破片のようなものが飛び散らばった。

 

『ギャオオオオオッ!!』

 

 そして、何時のようにキャッスルドランが飛来し、シープファンガイアから飛び出した光の球体を飲み込み、咆哮を上げながら何処かへと飛び去っていく。

 キャッスルドランの後ろ姿を眺めていたキバは、フゥと息を吐いて、返信を解除するために人気のない場所へ歩きだそうとするが……

 

「ハッ!」

「!」

 

 突如、背後から鋭い蹴りが繰り出された。

 だが、キバは研ぎ澄まされた第六感によりいち早くそれを察知し、体を回転させながらその蹴りを避け、下手人に向けてバッシャーマグナムの銃口を突きつけた。

 

「…ッ!」

 

 だが、その顔を見て、キバは仮面の下で顔を歪ませる。

 蹴りを放ってきたのは、シープファンガイアに襲われていたアメリだったのだ。キバは思わずバッシャーマグナムを引っ込めそうになるが、キバ(自分)という存在が魔界において最悪の存在として語られていることを思い出し、なんとかそれを阻止した。

 弾丸を当てる気はないし、撃つ気もない。しかし、相手に隙を見せるわけにはいかない。

 

「……やはり、撃たないのだな」

「……?」

 

 アメリが唐突に口を開く。キバは疑問を抱きつつも、バッシャーマグナムを下ろさない。

 

「……貴様は、これまで何度も悪魔学校(バビルス)に現れているが、悪魔を一度も襲わず、()()である筈のファンガイアと戦っているだけだ。ファンガイアを束ねる存在であるキバ(お前)がだ」

「……」

「生徒会長として、悪魔学校(バビルス)に害をもたらす存在は排除するのみだ……だが、()()()()()()が学校の治安を守ろうとしているのなら、一度話を聞く必要がある」

「…ッ!?」

 

──正体がバレてる…ッ!?

 キバは仮面の下で目を見開き、バッシャーマグナムを下ろして、一歩、二歩と後退る。

 

 その時、悪魔学校(バビルス)から騒がしい声が聞こえてくる。シープファンガイアの騒ぎを聞き付けた生徒会や教師達だろう。

 

「……ッ!!」

「ッ、おい!!」

 

 咄嗟に、キバはアクアフィールドを形成し、その上を滑るように高速移動をしながら森の奥へ姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 一跳び20mのジャンプ力で、植物塔で入間が咲かせた桜の木の上に着地したキバ・バッシャーフォーム。丸太のような木の幹に腰かけたキバのベルトからキバットが離れると同時に、変身が解除されて人としての姿に戻ると、入間は大きく溜め息を吐いた。彼の直ぐ隣で、キバットが木の幹に留まる。

 

『……入間、面倒なことになってきたかもな』

「そうだね……」

 

 入間と名指しされたわけでないが、キバの正体が悪魔学校(バビルス)に在籍している誰かであるという事がアメリにバレてしまった。

 アメリは、自分が悪魔学校(バビルス)に害をもたらす気がないのなら話をすると言っていたのだが……

 

(そう言うわけにはいかないんだよなぁ……)

 

 入間は、話すことが出来なかった。

 キバである自身の事を話すとなると、芋づる式で自分が人間界から来たことや、サリバンの孫になった経歴まで話さなければならなくなる。更に言えば、自分の命の危険だけでなく、知らぬとは言え魔界にとってタブーである自分を孫にしたサリバンの経歴にも傷が付くかもしれない。

 

(僕は、これから悪魔学校(ここ)で無事に過ごせるのかな……)

 

 正体がバレそうに(実際には何人かにバレている)なっている現状に、入間は深いため息を吐いた。

 処刑玉砲の経験を経て、魔界で家族や友達と一緒に過ごしてにいたいと思うように思うようになったが、それが壊れてしまうかもしれないと言う不安を感じながら、入間は思い足取りで校舎へと戻っていった。

 

 




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