アカネアイ   作:青空の夜天

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 アニメ七話が無事放送されたので少し前に思いついたネタを投下します。


プロローグ
黒川あかねの秘密 上


 

 

 

『おーい!聞こえるー?聞こえてたら返事してー?』

 

「だれ?女のひと?お姉ちゃん?」

 

『おお!?よく声だけで分かったね〜。私は二十歳だから確かにお姉ちゃんだぞ〜』

 

「あれ?お姉ちゃんどこにいるの?どうして声だけなの?」

 

『ちょっと待ってね……ヤバっ!まだちょっと苦しいかも……いや、そんなことないや。気のせいだね……うん。ゴメンね。私もなんでこうなってるかは分からないんだぁ。良かったらキミの名前を教えてくれないかな?』

 

「あかね、くろかわあかね……」

 

『あかねちゃんか〜。見た感じ私の子と同じ歳くらい。ちゃんと自己紹介できてエライね〜』

 

「お姉ちゃんは?」

 

『そうだなー。えっと……ちゃんと記憶があるってことはこの名前で合ってるよね。よし!いーいあかねちゃん。私の名前はね────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解離性同一症(かいりせいどういつしょう)というのをご存知でしょうか?多重人格障害。二重人格と言えばもっと分かりやすいだろうか?大抵は子供の時のトラウマや大きな事件が影響し一つの体に多く精神が出来てしまい気付いたら自分が知らない場所に辿り着いていたり。自分という存在が分からなくなり、まるで自分を外から眺めてるかの様に精神が切り離された様な感覚に(おちい)る症状が起こるらしい。

 

 アニメや漫画、創作の世界では二重人格や多重人格と言うのは良くも悪くも目立つ属性として描かれている。例えば一人は気弱な優しい人物、もう一人は強く勇敢な人物など、うまい場面で精神を切り替えたり正反対の性格を利用して苦難を乗り越えたり。

 

 創作の中で二重人格と言うのは強く、美しく、時には残酷でドラマチックなものである。

 

 長々と語ったはいいが、どれもこれも私の話ではない。だけど、全く関係がないかと言うとそれはまた別になる。考えた事はあるだろうか?ある日突然、なんの予兆も脈絡もなく自分の中にもう一人の知らない人物が現れて自分に語りかけてくるなんて……

 

そう……

 

 

 

 私には誰にも言えない秘密がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は黒川あかねと言います、十六歳です。

 

 職業は高校生兼、一応は役者です、アイドル志望の。売れてるとは口がさけても言えないけど……

 

 劇団ララライで演技指導を受けていたこともあるので演技には自信があったりする。

 

 

 

 

 突然かもしれませんが私を語る上で外せないので昔話をさせていただきます。あれは私がとあるアイドル事務所に所属していた時の話。まあ、もう抜けちゃってるんだけど……。

 

 と言っても私に何か問題があったわけではない。いや、ある意味では問題だったのかも知れない。抜ける事になった理由は事務所間のゴタゴタ、引いてはグループ内の問題でいづらくなってしまったというだけ。

 

 そう、私は一年間ほどアイドルをやっていた時期がある。幼少期の経験で女優とアイドル。両方に憧れを抱く様になった私は中学一年生の時にアイドルオーディションに応募して見事採用となり半年のレッスンの末、五人組のアイドルグループとしてデビュー。

 

 これでようやく夢が叶う「あの人が立てなかった舞台に立てるんだ!」と言う期待に満ち溢れた日々であった。

 

 しかし現実とは残酷なものでグループの中で私が売れる事はなかった。元々真面目なだけが取り柄の私なんて誰も見てはくれず、特別ダンスが上手い訳でも歌が上手い訳でもない。見所と言うやつがない私を推してくれる人は少なかった。

 

 もちろんただ何もせずに活動をしていた訳ではない。ダンスや歌の練習は欠かさず行い、あの人の言う通りにどの角度が一番自分を可愛く魅せる事ができるのか、どの様な笑顔がファンにとって一番嬉しいものなのかなどの研究を怠ったことはなかったつもり。

 

 だけど、それを練習したからと言って咄嗟に実行できるかは別で。練習では上手くできてもここ一番の所でミスをしてしまったり。ミスをしないで完璧にやれても注目が集まらなかったり。どうにも私にはあの人の様に特別な何かをしなくても目立つ様ないわゆるスター性というものがなかったというだけの話。

 

 あの人がよく言っていた「嘘はとびきりの愛」アイドルのファンとは綺麗で心地の良い嘘を求めていてそれに縋り、酔うものである。そしてアイドルとはどんな心境であっても笑顔を絶やさず嘘を一番上手くつく。悪く言ってしまえば一流の詐欺師みたいなものである。

 

 その点で言えばあの人は誰よりもアイドルに向いていると言えよう。あの人が本心を(さら)け出す事は滅多にない、長い付き合いの私であってもだ。誰に対しても馴れ馴れしく、気さくで、愛想を振り撒く様な態度をとる、それがあの人だ。まあ、それは私しか聴いている人が居ないからあんな感じなのかも知れないけど。

 

 私の所属していたグループは五人組のグループではあったが人気があったのはリーダーの子一人だけ。その子は私と違い要領が良く、ファンに対しても愛想がよくて笑顔が素敵な子。それに他のメンバーと同じ画角に写っていても妙に目を引く様な不思議な子であった。

 

 その子のおかげでグループはそこそこの人気を博し、雑誌の取材や、地方ではあるがテレビ番組にも呼ばれるくらいの需要が出てきた。

 

 おんぶに抱っこという状況に嫉妬の気持ちが無かったかと問われれば嘘になる。なぜ、あの子ばかりが注目されるのか?何故がんばってるのに私を見てはくれないのか?私はそれを自分の努力が足りないから、もっと頑張ればいつかはあの子だけじゃなくて私、いや、グループ全員が注目される様になってもっと人気になれる!当時の私はそんなふうに考えていた。

 

 自分の売り出し方について悩んでいた私はあの人に何回も相談した。やっぱり餅は餅屋に相談するのが一番いい。そう思ってたんだけど……

 

 あの人が私と似たようなタイプだったのは知っている。嘘で塗り固められてるからこその計算された努力。だけどそれだけじゃない。天性の才能というものがあの人にはあったらしくて、こういう状態を経験した事はなかったらしい。

 

 売れるまでに耐え難い苦労や工夫があったのも聞いている。だけど、今回の私の悩みとは別なものであった。

 

 それでも色々な改善案を一緒に考えてくれて。今まで以上に自主レッスンを積極的にやり、少ないながらもファンの声に寄り添ってみる。私の評価されてた分野である演劇の部分を全面的に押しだしてみるなど。自分なりにやれる事は大方やったと思う。

 

 しかし(むく)われない。どんなに努力をしようとも一個人が出来ることには限界があり私や他のメンバーに注目が集まることは(つい)ぞなかった。事務所の方針としても一番人気がある子を全面的に押し出したい様で。他のメンバーは添え物、賑やかしの様な扱いを受ける日々が多くなってきた。

 

 その時にあの人が珍しく悲しそうな声で呟いていた言葉を私はまだ忘れられない……

 

 

『あはは……あの時のみんなもこんな気持ちだったのかな……だとしたら…………いや〜まいった!まいった!なんて言うか……その……うん、しんどいね……これ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々を過ごしていたからか、露骨に贔屓(ひいき)されていたリーダーにメンバーの妬みが集まる時間はそうかからなかった。最初は彼女の陰口を言ったり、「人気があるからって調子に乗るな」等の言葉で傷つける行為が密かに行われていただけであった。初めはどんな恨み言を吐かれても無視していたリーダーであったが、ある時期から強気に言い返すようになり──

 

 

 

「アンタ達は誰のお陰でまだアイドルできてるのかわかってるの!?」

 

 

「アンタ達はあたしのサポートしか出来ないんだから雑用くらいはあたしの代わりにやるべきよね!悔しかったらもっと練習でもしたら?」

 

 

 その傲慢ともとれる態度を見た皆んなの嫌がらせはさらにエスカレート。物を隠したりすることなんてのはザラで、時には取っ組み合いにまで発展する事もあり。楽屋や大人の見ていない所では常に罵声が飛び交う様な、そんなグループになってしまった。

 

 流石にこのままでは良くないと思い、あまり喋ることの無かったリーダーに私は話しかけてみる事にした。リーダーは気にしてない素振(そぶ)りを見せてはいるけど、あんな悪意に晒されたら誰だって辛いはず……だからせめて私だけでも味方でいて落ち着いてきたら私が皆んなへの仲立ちになればいい。当時はそんな風に考えていた。

 

 私はリーダーにそっと近づき「大丈夫?」と、声をかけた。心配だったのは本当だけどメンバーに意見したり、こっそり大人に告げ口したりする勇気が私には無い。そしてそんな私にあの子はこう言った。

 

 

 

 

「アンタ……あたしの心配してる場合?言っておくけど、アンタが一番このグループの足を引っ張ってるんだからね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 言葉を告げられた瞬間、私の頭はまっしろになり。ただ立ち去っていく彼女に目を向けることもできなかった。

 

 わからなかった……何故自分がそんな事を言われたのか……自分の努力が足りないのはもちろん知っている。言われたこともその通りだと思った。だけどあなたは辛くないの?苦しくないの?私はただ……仲間からあんな言葉を投げられてもいつも通りにファンに笑顔で手を振るあなたが、心配だっただけなのに……

 

 私はリーダーの事を調べた。徹底的に。わからない……彼女の心が。わからない……彼女の思いが。何故あんな事を言ったのか。何か理由があったんじゃないか?ホントにメンバー(かん)の仲が悪くなっていく事を気にしてないのか?わからなかったらわかる様になるまで調べる。役を作る時と同じように情報を集めてその人をプロファイリングする。私にはそれしか出来なかったから。

 

 いつもの様にメモと写真をぺたぺたと壁に貼って準備をする私を見ていたであろうあの人は……

 

『うわっ…………張り切ってるね!こうなったあかねは怖いからな〜』

 

 なんて他人事の様に言っていた。失礼ですよ!これが私のやり方なんですから!役に入りきる為に徹底的に調べる。努力するしか取り柄がない私にはそれ以外の方法がない。

 

 この時期のあの人は私の仕事に対して色々言ってくる事がなくなり口数も少なくなった。いつもは親身になって話を聞いてくれて。時には──

 

『あかねはホントに売れないね〜。いったい何が原因なんだろうね?やっぱり私と比べると地味でオーラが無いのかな♪』

 

 なんてグサッとくる一言を言ってきたりしていたのに。もしかしたらあの人には何か考えがあったのかも知れないし、単に私にかける言葉がなかっただけなのかもしれない。

 

 

 

 まあ、今はいいや。

 

 

 

 

『利き手は右手だけど利き足は左……』

 

『何か思わぬ接触があった時には目をつむる癖がある……』

 

『好きな音楽のジャンルはオーケストラ……』

 

『よく食べるのは青魚、特にイワシが好き……』

 

『行儀が良く、食べ方は綺麗……』

 

『アイドル活動があるにも関わらず小中学校と進学校。親の教育レベルは高いのかな?』

 

『肩に手を置かれることを極端に嫌う……』

 

『何を言われても強く言い返す……』

 

『強く言い返す時には必ず左の後ろ髪をいじる……』

 

『ペンを回すクセがある……』

 

『アイドルで女の子なのにおしゃれに興味がない?いや、興味はあるけど表に出さない、出せないのかな?』

 

『座る時は足を組まない……』

 

『大人と話す時は僅かに視線が泳ぐ……』

 

『コーヒーを常飲(じょういん)している……』

 

『眠りから覚める時は必ず時間を確認する……』

 

『頑張るという言葉を嫌う……』

 

『なのに上昇思考は強め……』

 

『ファンへの対応は素直で丁寧……』

 

『中学生にしては大人への礼儀を弁えている。芸能界にいるとこういう子はよく見るけど、彼女も慣れてるみたいだね……』

 

『聴力に関しては人並み以上……』

 

『メンバーで彼女の親を見たことがある人はいない……』

 

『歌はメンバーの中でピカイチだけど、ダンスに関してはメンバーでも下の方……』

 

『料理は苦手な模様、包丁の持ち方もよくわかってないみたい?』

 

『思い返してみたら前から情緒(じょうちょ)が不安定な時があった。思春期少女の不安定さとは少し違うね?何かしらの精神疾患(せいしんしっかん)(わずら)っている可能性アリ?』

 

そして……

 

『期待している。という言葉を聞いた時に瞳孔が大きく開く……』

 

 

 

 

 断片的な情報からリーダーの心理を分析し、私は答えを導き出した。恐らくだけど彼女は期待をされるという行為に対して相当な重圧を抱えているんだと思う。そしてそれを悟られない様に強い言葉で自分の心を守っている。よしっ……

 

「みんなあたしに期待してくれている。だから応えないと!」

 

「期待に応えられなかったらパパとママも!みんなも!あたしから離れていっちゃう!」

 

「どうしてみんなあたしを頼るの!?悔しいのに嫌がらせなんて小さい事ばっかりしてるの!?」

 

「あたしは完全でも完璧でもない!お願い……お願いだから誰かあたしを……」

 

 部屋で私はリーダーを演じる。演技をしていると段々と何を考えているのか分かってきた気がした。間違いない、リーダーは誰かに自分を────

 

 そうと分かった私は次の日に早速行動を起こそうとした。私の考えが正しければあの子に直接、宣言をするだけでも効果はあるはずだ。だから早く行動を起こさないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな私の考えとは裏腹に事件は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

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