アカネアイ   作:青空の夜天

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今日あま組は語りたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 【今日は甘口で】第四話撮影現場

 

 

 

 

 

 

 

 リハーサルが終わり役者は各々(おのおの)休憩時間となった頃。有馬かなは前話の時と同じ様に鳴嶋メルトへの演技指導にあたっていた。

 

「だ!か!らっ!そこはもっとコンパクトにって言ってるでしょ!」

 

「一応、ここは俺の見せ場なんだから大袈裟にやった方が分かりやすくなったりすんじゃねぇの?」

 

「ふん!素人の考えね。見せ場っていってもここは重要な場面じゃない。あんたタダでさえ下手くそなんだからもう少し場面を絞る努力をしなさい」

 

「おい、もう少し言い方あんじゃね?態度キツすぎだろ……」

 

「あんたが私を驚かす演技でもしたら考えてあげても良いわよ」

 

「て、てめぇ……今に見てろよ!」

 

 お互いに口調は荒々しいながらも本番前の個人リハーサルは順調であった。内容としてはメルトが本番同様カナタを演じ、そこをかなが気になった部分は指摘。足りない部分は自らも参加しながら相手役との呼吸を調整する。口ではどうこう言いながらも短い時間で出来る。最善で為になる方法だとメルトは感じていた。

 

「ふぅ……そろそろ休憩にするわよ。本番前に(こん)をつめすぎてもよくないし」

 

「おう、そうだな」

 

 思ったよりも少しハードになってしまったと気にしていたかなであったが、目を向けてみると彼の表情には意外にも余裕が見える。

 

 

(結構、体力はあるみたいね……)

 

 

 そんな視線にはまるで気づかず。流れる汗を拭きとりながらメルトは休憩に同意し、予め用意してあった物をかなへと差し出す。それはよく冷えた500mlの飲料水。

 

「ほらよ、喉渇いただろ?有馬にやる」

 

「へー、あんたにしては気がきくじゃない」

 

「ったく、素直に礼も言えねぇのか……」

 

 あまりの捻くれっぷりに流石のメルトも顔を顰める。

 

「冗談よ、ありがと」

 

「…………なんかそれはそれで気持ち悪いな……」

 

「締め落とすぞ、くそガキ!」

 

 自身でも珍しく素直に礼を言う事ができたと思ったが、少し引いた顔を見せながら余計な発言をするメルトに対して自分もつい強い口調になってしまう。しかし、少し前まで(うと)ましいとすら思っていた人物との会話を今では心地よく思っているのも事実であった。

 

「プハァー!やっぱ稽古終わりの水は一味違うわねー!あんたもそう思わない?」

 

「ああ、俺も水がこんなに美味いと思ったのはつい最近だよ」

 

「そっ、じゃあアンタも少しは役者に近付いてきたのかもね?」

 

「そうだといいけどな……」

 

 鳴嶋メルトは素人だ。最近は日々の体力作りや先輩達とのレッスンをしているとはいえ実力はまだまだ及第点にかろうじて届いているかという程度。他の男性出演者と比べたら遥かにマシになってきているのかもしれないが。

 

 まだ自身が自惚れていた二話までしか公開されてないという事もあり世間の声は厳しいまま。先輩達を信じていない訳ではない、努力の結果が必ず出る訳でもないのを分かってはいるが、自分の方向性は合っているのか。時々、不安に思ったりもする。

 

「ちょうどいい機会だから聞いておきたいんだけど……あんた、何があったの?どうして急に心変わりしたのかしら?」

 

「まっ、そりゃ気になるよな……」

 

「当然でしょ、前は調子に乗った勘違い野郎だと思ってたけど今は違う。私との稽古も息を切らさないでついて来れるほどの体力、前から持ってたんじゃないんでしょ?あんたがこのドラマにかける思いが並大抵のものじゃないなんて見てればわかる。あんたを変えたのは一体なんだったの?」

 

 鳴嶋メルトは自身を変えた出来事を思い出す。今でも鮮明に脳に焼き付いている空き教室から差し込む光に照らされた彼女の顔。比較された時の衝撃と後悔。

 

(有馬に頼まなきゃならねぇ事もあるし、少しくらいは話すか)

 

 これからの用事を不安に思いながらも自身を変えた出来事を話すべく、仏頂面をしている高校生女優の隣へと腰を下ろす。

 

「俺が変わったのはある先輩に教えられたからなんだ……俺は運がいいだけの駆け出しだって……」

 

「へー、その先輩って人、結構はっきり言うのね」

 

「別に直接言われた訳じゃねーよ。気付かされたっつーの?とにかく不思議な人でさ。最初はなんか気持ち悪くて気に入らない奴だと思ってた。会ったばっかりなのに俺の事はなんでもお見通しみたいな目してやがったし」

 

 思い出すのは自分の演技を見るように頼んできた時のこと。あの時の彼女の目は事情を聞いた今でも何だったのかと疑問に思う。

 

「まあ、それから色々あって。今は俺から頼んで演技を見てもらってるんだけど。これが思った以上に面白い人でな、真面目な完璧超人かと思ったら意外と抜けてるとこがあって。何考えてるのか分からないと思ってたら俗っぽいこと考えてたり。発声練習やってる時にやたら噛んだりしてな。そんな人だけど、俺の為に色々考えてくれて時間割いて付き合ってくれてる。あの人のおかげで演技も楽しいものなんじゃないかって最近は思えてる……」

 

 話している内に始めた頃の自分を思い浮かべる。そういえば自分はこんなハードな稽古に付き合える程の体力が無かったはず。

 

「だから、俺が変わったのはその先輩のおかげなんだろうな。ふっ、尊敬できる凄い先輩なんだぜ」

 

「………先輩か……なんか良いわねそういうの……」

 

「もちろん有馬にも感謝してる。尊敬はできそうにないけど……」

 

「ふふ、あんたも一言余計なのよ……」

 

 

 有馬かなに芸能界で丁寧に教えてくれる先輩は居なかった。物心ついた時から芸能界で好き放題やってきていつのまにか今の立場になっていた。だからかは分からないがキラキラと話をする彼を彼女は羨ましく思ってるのかもしれない。

 

「で、その先輩ってなんて名前なの?芸能人なんだからそれなりに有名なんでしょ?」

 

「あ、えーと。そ、その前に!有馬に頼みがあんだけど!」

 

 当然の質問をしただけなのになぜか不自然に焦りだすメルトに疑問を覚えるかなであったが、一度忘れて彼の頼みに耳を傾けることにする。

 

「なに?言うだけ言ってみなさい」

 

「俺、この撮影が終わったあとその先輩に会って一緒に稽古する約束があんだけどそこに有馬も来てくれないかな〜って……」

 

「は?なんで私が……?」

 

「ほら、有馬って成り行きだけど俺に色々教えてくれてるじゃん?それを先輩にも話したら是非有馬の意見も欲しいってなってさ。俺としても有馬が居てくれるとなにかと助かるんだけど……」

 

「嫌よ、なんでそこまでしなきゃいけないの」

 

 そりゃそうだとメルトは思う。自分と有馬は成り行きで関わっているだけで特別仲がいい友人でもないし、メリットがある訳でもない。彼女がこの頼みを聞く理由がない。

 

(分かってたけど、やっぱダメか……俺も有馬と黒川先輩を交えてあの話をしたいんだけどな〜)

 

 何か方法はないものかと模索していると、前のレッスンで先輩に言われたある策に思い至る。

 

『まず前提としてかなちゃんを誘う時は私の名前は出さないこと。きっと黒川あかねって名前を出したら嫌な顔をして絶対来なくなるから』

 

 黒川あかねと有馬かなにどんな因縁があるのかはわからないが今のところその条件は守っている。大事なのはその後に彼女が発したセリフ。それは秘策というには疑わしい、あまりにも単純な作戦であった。

 

『よく聞いてねメルトくん。かなちゃんが渋ったらとにかく褒めて、褒めて、褒めまくって!おだてておけばチョロいかなちゃんならきっと得意げな顔をして力になってくれるよ!』

 

(なんて言ってたけど……)

 

 他に案がない以上はやるしかないがどうにも疑わしい。この捻くれている高校生女優が褒めるだけで力を貸してくれるとは思えないが……

 

「な、なぁ、改めて思ったんだけど有馬ってすげぇよな!」

 

「なんのつもり?おべっかならやめておきなさい。そんな事したって私からは何もでないわよ」

 

「いやいや純粋な褒め言葉だって。もうかなりの実力をつけてるのに演技に貪欲だし。成り行きとはいえ俺なんかを教えてくれる優しさもあるし。マジで人間できてるよ!」

 

「そ、そうかしら……」

 

「ほんと世間の目って節穴だよな!有馬みたいな凄い女優に注目しないなんてさ!」

 

「そう!そうなのよ!アイツら匿名なのを良いことに好き放題言ってくれちゃって!」

 

「ああ!分かる、分かる!気持ちはすげーよく分かるよ!」

 

 やっていくうちに意外な手応えを感じてきたメルト。徐々に彼女の機嫌が良くなっていくのを確認すると、ここで最後の一押しにでる。

 

「そんな優秀で優しい有馬につけ込むみたいで悪いけど。俺にはどうしても有馬の力が必要なんだ。だから頼む!一日だけでもいい。未来の大女優の力を俺に貸してくれ!!」

 

「……………」

 

 流石に露骨すぎたか。と、薄目で様子を(うかが)うメルトであったが。彼の予想と反してかなは勢いよく立ち上がり、首筋に手を当てながら満面の笑みでニヤけた口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しょ、しょうがないわね〜!!

 

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 

 

 

 

「ま、まあ、相手役がヘボくて困るのは私だし!演者の面倒はしっかり見なきゃいけないしね〜!言っとくけどあくまで座長としてよ!だから勘違いしないでよね!別にあんたの為に教えようってんじゃないんだからっ!!」

 

 

 

 

 

「……ああ……た、助かる…………」

 

(……先輩の言った通りになったけど……有馬、お前はそれでいいのか……)

 

 あまりにも上手くいきすぎてこれから先、有馬かなが悪い奴に騙されないか少し心配になったメルトであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、場所はどこなの?」

 

「ちょっと待ってな……今、先輩に連絡とってる」

 

 メルトはスマホをいじりながら何かを確認している仕草を見せる。

 

「わりぃ、俺撮影終わったらちょっと寄るとこあるから現地集合で頼めるか?時間と場所はあとで送るから」

 

「私は別に構わないわ、もう休憩時間もあまり残ってなさそうだし」

 

 これから本番の準備をしなくてはいけない二人にはもうあまり時間は残されていない。なので細かい取り決めは後にし、台本の確認作業へと取り掛かる。

 

(いっけね、これは忘れないうちに言っておかなきゃな……)

 

 突然、メルトは自身の手のひらが上になる様にかなの前へと差し出す。これがなんなのかはよく分からない彼女は、メルトの手を不思議そうに見つめていた。

 

「何?手でも握ってほしいの?言っとくけど私、そんなにお安い女じゃないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「参加料、百円な♪」

 

 

 

 

 

 

 

「なんでよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影が終わり、特に仕事がない私は今、メルトから連絡があった場所を目指して都内を歩いていた。

 

 我ながら随分と簡単に安請け合いをしてしまったと思っている。元々メルトをそこまで世話する義理なんてないし、他事務所のタレントに入れ込み過ぎるのもよくはない。

 

 だけど、後悔している気持ちは無かった。彼を変えた先輩ってのにも興味があるし、鳴嶋メルトの演技力が上がれば相手役の私の為に、作品全体の品質の為になるというのも本当だ。それと何より……

 

「先輩として頑張ってる後輩に手を貸してあげるくらいは。やってあげなきゃね」

 

 しばらく歩いていると指定された目的地に着く。そこは都内の公民館。公民館がよく売れない役者や芸人などの稽古場として使われているのは知っているし、自分も利用したことはある。

 

 集合場所がメルトの事務所じゃないって事は他事務所の先輩なのかしら?まっ、行ってみればそれも分かるか……

 

 そのまま受付へと進み手続きを済ませる。手続きとは言っても予約はされているらしいので場所を確認するだけだ。

 

「えーと、確か名前は…………」

 

 教えてもらった名前をよく思い出しながら、ホワイトボードを順番に確認していく。

 

「あった、会議室。名前は"今日あま組"様か……」

 

 今日あま組って……確かに私とメルトは今日あまに出演してるけど先輩って奴はそれでいいのかしら?まさかその人も私と同じで今日あまのファンだったりして……

 

 そうだとしたらどれだけ嬉しいか。もしかしたら一緒にやってく内に気が合って今まで話せなかった今日あまの話が人と出来るかもしれない。

 

「今日あま……出演者……」

 

 脳裏(のうり)の隅で感じた嫌な予感からは全力で思考を逸らしつつ、私は会議室の扉の前へと立つ。

 

 

 まずは第一印象よね。どんな感じで挨拶しようかしら?やっぱり明るく元気に?いや、もしかしたら歳上かもしれないからここは礼儀正しくが無難ね。

 

 息を整えて私は扉へと手をかける。そのまま開くとカーテンが開いているのか部屋は明るく、日差しが差し込んでおり。私の前に二人の人物が姿を現す。

 

「メルトくんに呼ばれて来ました有馬かなです!今日はよろしくお願いします!」

 

 

 

 

「よっ!有馬。来てくれたか」

 

 一人はもちろん鳴嶋メルト。私をここに呼んだ張本人であり、最近なにかと関わることが多くなった人物だ。そして問題のもう一人が──

 

 

 

「あはは……よろしくかなちゃん……」

 

 

 

 ものすごーーーく見覚えのある人物が私の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………帰る」

 

 かなちゃんは来て早々にとんでもないことを口走った。予想はしてたけど、ここまで来て丁寧な挨拶をしたと思ったら二言目に帰るとは余程ショックを受けたらしい。

 

「待って!待って!かなちゃん!少しだけでいいから!何もしないから!ちょっと休むくらいの気持ちでいいから帰らないで!」

 

「そ、そう!何もしなくていいから!なんなら見てるだけでも良いから、ちょっとだけ居てくれ!頼むよ有馬〜!」

 

「ええい!鬱陶しい!てかメルト!!あんた知ってて黙ってたわね!」

 

 今にも扉を開けて帰ろうとしているかなちゃんに私とメルトくんはまとわりつく。ここで帰してしまってはメルトくんの苦労が水の泡だ。今日だけはなんとしても居てもらうよ。

 

「仕方ねぇだろ、黒川先輩の名前を出したら有馬は来ないって……」

 

「ええそうね!あんた達の作戦は成功よおめでとう!今、私は感じている敗北感を無視してでも帰りたくなってるもの!!」

 

「そ、そんなこと言わずにちょっと休んでけよ。なっ!」

 

「そうだよ、この部屋だったら自由に使ってくれていいから。ねっ!」

 

「うっさいわ!どれも引き留める文句になってないのよバカ役者共!」

 

 どんな言葉を投げかけてもしつこく付き纏う私達に観念したのか諦めたのか。ドアノブにかけていた手を引っ込めるとかなちゃんは部屋の中心に座り込む。

 

「はぁ〜。まさかメルトが変わった原因がアンタだったとはね……なんか腑に落ちたって言うか、色々と合点がいったわ」

 

「ご、ごめんね。中々言い出す機会が無くて……」

 

「本当は?」

 

「……言うと面倒くさいことになると思ってかなちゃんには黙ってました……」

 

「正直でよろしい」

 

 

 とりあえずかなちゃんを引き止められてよかった。多少の罪悪感は感じるけど……

 

「時間も勿体ないし、あんた達に何があったのかはまた今度聞くとするわ。そんな事より私を呼んだ理由は?演技指導ならあんたがいれば充分でしょ」

 

 落ち着いている時のかなちゃんはなんだかんだで気配りが出来るみたいで凄く助かる。

 

「えっと、メルトくんも言ってたと思うけど。相手役であるかなちゃんの意見が欲しかったのはあるよ、嘘じゃない。でも本当の理由はね……」

 

 真剣な眼差しで見つめているかなちゃん。多分かなちゃんが予想してるものとは違うから肩の力を抜いて聞いてほしいんだけど。

 

 

 

「私達三人で今日あまの話をしたかったの!」

 

「は、はぁ〜!?」

 

 かなちゃんは驚いているのか目をパチクリとさせながら私とメルトくんを交互に見つめる。

 

「あんた達そんなことの為に私を呼んだわけ!?」

 

「うん、かなちゃん今日あま好きなんだよね?メルトくんから聞いたよ」

 

「実は俺も最近今日あまにハマっちまってな〜。今日はこの漫画の話が出来るってんで楽しみにしてたんだぜ」

 

 良かった〜メルトくんも今日あまにハマってくれて。まだ感想は聞けてないけど。それも纏めて今日は楽しんじゃおう。

 

「あっきれた!そんな理由で私を呼んだなんて。くだらない漫画トークなんてあんた達で好きにやってなさい」

 

 あれ?おかしいな。かなちゃんも友達が少ないから乗り気になってくれると思ったのに反応が薄いぞ。

 

 不自然な彼女の反応を変に思った私は、目の前にいるかなちゃんを観察してみる。よく見てみると組んだ腕の指先が世話しなく動いており表情もどこかソワソワしている様に見える。

 

 はは〜ん、分かったぞ〜。多分かなちゃんは恥ずかしがってるんだ。ほんとは誰よりも今日あまの話をしたいはずなのにプライドかなんかが邪魔をして上手く表に出せないんだよね。

 

 そうと分かればこっちにも考えがある。私はかなちゃんに気づかれない様にメルトくんに目配せをする。すると彼も私の考えに気づいたのかすぐに行動に移す。流石は後輩くん。

 

「そっか、なんもしなくていいって言ったのは俺達だし有馬は好きにしててくれ。俺は先に先輩に用事があるから」

 

 そう言うと彼は持ってきた紙袋を私の前へと差し出す。

 

「これ、借りてたやつ返すよ。ありがとな先輩」

 

「随分早かったね、で、で?感想は?どうだった?」

 

 ハマったとは聞いているものの彼がどんな影響を受けているのかはまだ分からない。なのでちょっと不安に思っているとそんな私の心配を他所にメルトくんは明るく私に話しかける。

 

「すげーよかったよ!ドラマと全然違くてさ!気付いた時には全巻買っちまった!電子書籍版だけどな!」

 

「でしょ!でしょ!色んなシーンがあって泣けたでしょ!」

 

「マジ泣けるーーー!!」

 

「恋したくなったでしょ!!」

 

「素敵な恋したくなったーーー!!」

 

 んふふふふふ、私は分かってたよ〜。メルトくんはきっと面白さを分かってくれるってね。

 

「やべー。思い出すだけでドキドキがとまんねぇよ。今の俺は油断したら有馬でさえ好きになっちまうかもしんねぇ……」

 

「あははは!もぉ〜それは言いすぎだよー!」

 

「好き放題言ってくれるわね。本人目の前にいんぞコラ」

 

 かなちゃんからの苦情を聞き流しながら、私達は話を続ける。結構効いてきてるみたいだね。後もうちょい。

 

「せっかくだから今日はいっぱい話そうよメルトくん!かなちゃんの目の前で!」

 

「おう!望むところだ。有馬には悪いけどくだらないって言うならしょうがないもんな〜」

 

「くっ……あ、あんたら……」

 

 

 まるで恥ずかしめを受ける前の女性の様な表情をするかなちゃん。素直になれば楽になれるのに。

 

 

 

「……わ、私も………………」

 

「え?なになに?聞こえないよ?」

 

「いつもみたいにもっと大きな声で言ってくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

「………私も混ぜなさいよ!原作の今日あまだったらあんた達より絶対詳しいんだからっ!」

 

 

 ふふ〜ん。ようやく素直になれたみたいだね。かなちゃんはいつも何かを我慢してる様に見えたから凄く心配だったけどこれで少しは良い方向に繋がるかな……

 

「もちろん!今日は楽しもう!」

 

「有馬にしては素直に言えたな!」

 

「こうなったら遠慮しないわ!覚悟しなさい!」

 

 

 そういえば、同年代とこんな風に話す事なんて今までなかったかもしれない。それになんだか皆んなと居ると私の中の心が暖かくなっていくような気がする。こういうのを"友達"って言うのかな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから!主人公をストーカーから守るシーンが一番いいって言ってるでしょ!!一歩も引かないカナタに初めて涙を見せる主人公が最高なんだから!」

 

「待てよ!俺はカナタの病を主人公が初めて知るシーンを推すぜ。俺が役をやってるから贔屓してるのもあるかもしんねぇけど。隠していた真実を打ち明ける時のカナタの気持ちを考えると心にくるものがあるよな!」

 

「それは聞き捨てならないなー。やっぱり最終話の名シーンは欠かせないと思うよ。カレーを食べた時のセリフに涙!ここまで積み上げてきたものもあってこっちも涙なしじゃ見られないよ!」

 

 

「ふん!確かに外せない名シーンだけど。ここは──」

 

「いや!カナタが──」

 

「私は作品全体を通して見てるのであって──」

 

 

 

 

 

 意外にも私の初めての漫画トークは白熱を極めた。

 

 

 

 

 

 

 






原作でもっと同年代のわちゃわちゃが見たかった……
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