アカネアイ   作:青空の夜天

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感想と評価、ありがてぇ


黒川あかねの秘密 下

 

 

『すっごーい!みんなキラキラしててお星さまみたい』

 

『えへへ!それほどでも……あるかな〜☆』

 

 テレビに映るのはとあるアイドルのライブ映像。一人一人の名前は分からないけど、みんなが歌って踊っている様子は小さな私には輝いて見える。その衝撃はテレビでやっていた"十秒で泣ける天才子役"を観た時と同じくらいに思えた。

 

 とつぜん自分の中に知らない人が現れて喋りかけてきた時はすっごく驚いて、怖くて、気持ち悪いともおもっちゃった。だってお姉ちゃんは明るくて自分に自信を持っていて、わたしとは正反対……

 

 お姉ちゃんには何故こんなことになっているのかは分からないみたいだし、離れようと思っても離れられないって言っていた。だったら、わたしがお姉ちゃんを受け入れなきゃ。

 

 でもそう思うにはお姉ちゃんを知る必要があると思った。わたしはお姉ちゃんがどんな姿をしているのかさえわからないんだ。お姉ちゃんは生きている時はアイドルをやってたと言っていたのでわたしはママに無理を言ってお姉ちゃんが入っていたというアイドルグループのライブ映像を買ってきてもらった。中々買えなくてあちこち探し回ったらしい。ごめんねママ。

 

『問題!私はこの中の誰でしょ〜う?』

 

『えっと!えっとね!』

 

 一番踊りが上手な子?それともお歌が上手な子?分からないけどわたしはこの人だったらいいなっていう願いも込めてお星さまの中でも一番かがやいてた子を指さす。

 

『この真ん中で踊ってる。黒い髪の毛の女の子!』

 

『だ〜いせ〜か〜い!!あかねはとってもお利口さんだね!』

 

 凄い。こんな人が今、わたしの近くに居るんだ。

 

 わたしもなりたいこんな風に。いやちがう、テレビで観たピカピカの太陽みたいな天才子役。今観ているキラキラしているお星さまみたいなアイドル。その二つを掛け合わせたようなアイドルに。わたしはなりたい。

 

『わたしお姉ちゃんと違って人見知りだし……こわがりで、なんにもできないけど。なれるかな?アイドルに……』

 

『どうだろう〜?私が売れたのは運がよかったのもあるし……道は険しいよ。だ!け!ど!今やってる演技の練習を頑張れば私とは違う。もっと凄いアイドルにもなれるかもね。でも……』

 

 

 

 最後に少し口籠(くちごも)ったお姉ちゃんだったけど、わたしはそんなのが気にならないくらいに高揚していた。

 

 

 

 

『うん!わたし。もっとがんばってちょうすごいアイドルになる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件の日。私はその場に居なかったので後で聞いた話だが。初めはいつも通りの言い争いから始まった様だった。いつも通りにメンバーが陰口を叩き、いつも通りにリーダーがそれに反応する。だが、いつもと違っていたのはリーダーが放った一言──

 

 

 

「アンタなんか居ても居なくても変わらない!このグループに必要ないんだから!」

 

 

 

 その言葉がキッカケで言われた子は近くにあったハサミを掴み、リーダーに向けて振るった。ハサミはリーダーの頬を切り裂き鮮血が(ほとばし)る。とっさの行動でハサミを振るった子は放心し、顔を切りつけられたリーダーは頬を五針縫う怪我を負った。

 

 これも聞いた話だが。(さいわ)い、リーダーの顔に傷跡は残らなかったらしい。

 

 だけど事件は警察が介入するほどの騒ぎになり怪我をさせた子は事務所をクビに。アイドルの命とも呼べる顔に傷をつけられたリーダーはしばらく活動を休止する事になった。

 

 私がもっと早くに行動できていれば防げていたのかは分からない。陰口が原因とはいえ、リーダーの発言は度々ラインを超える事が多かったので気にしていたけど。

 

 後日リーダーのお見舞いに行く事にした。私はリーダーが心配だったし、言えなかった事を言わなければならないと思ったから。

 

 リーダーの家に行き、案内されるがまま部屋に着き、扉を開けると。そこには後ろからでも分かる程の痛々しい大きいガーゼを顔に貼っているリーダーが自分のベッドに座っていた。

 

 私は「怪我は大丈夫?」とか「みんな心配してるよ」なんて社交辞令にも等しい言葉をならべたけど、それに彼女が何か答えることはない。

 

 こんな話をしていても無駄だと思った私は。意を決して彼女に伝えられなかった言葉を伝えることに決めた。私のただ一つの特技、演技で知った彼女の心情。

 

「リーダーは私達のことが……嫌い?嫌い……だよね。特に私なんか要領悪くて、臆病で、みんなとも全然話さなかったし」

 

「でも私なりにリーダーの思ってること考えてみたんだ。ホントは……」

 

「ホントはさ!リーダー。誰かに自分を越えて欲しかったんじゃない!?あたしは特別なんかじゃない!みんなもあたしの位置に……いや、あたしより人気に!そんな事を思ってた……違う?」

 

私の問いかけには何も答えない。熱が入っていたのか私の瞳からは涙が溢れていた。

 

「うぅ……ご、ごめんね。私が、私達が不甲斐(ふがい)ないからリーダーにばっかり責任いって。リーダーにばかり負担かけて……私達がもっとしっかりしてたら……」

 

 人気があって中心になるというのは何もいい事ばかりではない。注目される(ゆえ)に失敗はできないし、注目されるが故に結果が振るわなかった時の反動はデカい。それは大人達から期待されるグループとしての価値を一身(いっしん)に背負うのと同義。

 

「リーダーはB小町って知ってる?私の憧れ……いつか私達もあんな風に雑誌もテレビもいっぱいでてさ!ドームでライブが出来るくらいにまで大きくなれたらいいなって思ってた……その時はリーダーを追い越しちゃって私がセンターを飾って歌いたい!だから──」

 

「私はリーダーも!B小町も!どんなアイドルだって越えてみせるよっ!!」

 

 言いたい事はあらかた言った。これから私は彼女から激しい罵詈雑言(ばりぞうごん)を受けるだろう。「分かったふうな口を聞くな!」や「アンタなんかに何が分かる!」それとも「お荷物のアンタが何を偉そうに!」かな?覚悟は出来ている。リーダーに溜まった感情の捌け口になれるならば本望だ。それが何も出来なかった私のせめてもの役割。

 

 言葉聞いたリーダーは私の方を見る。その目は(うつ)ろで正面から見るとガーゼを貼ってある所が嫌に目立つ。生気がない瞳で私を見据えると彼女は不意に、無感情に、小さく、一言だけ呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────もう、遅いよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ以来私はリーダーと話をしていない。しばらくして怪我が治るとリーダーはアイドルも事務所もメンバーには誰一人連絡を取らずに辞めた。リーダーの心はとっくに壊れてたんだ……

 

 メンバーを欠き、彼女一人で持っていたと言っていいほどに頼りきっていたリーダーも失ったグループは程なくして解散。私は解散と同時に事務所を辞めた。

 

 結局何も出来なかった。私は自分の部屋で(うずくま)り。ただ、無駄な時間を過ごす。

 

 そんな私を見兼ねたのか、しばらく仕事に口を出さなかったあの人が私にこれまた珍しく真面目な口調で語りかけてきた。

 

『あかね……よく分かった?これが芸能界、これがアイドルだよ。妬み嫉妬は当たり前。怨み、悲しみ、不満、劣等感、後悔、焦り、人間の悪い感情が渦巻いて重圧に潰されちゃう人だって珍しくない』

 

『今回は当人同士で解決できたからまだいい方だね。世の中にはもっと悪い大人達がいて騙して利用して結果が出なかったら容赦なく捨てる。そんなことを平気でやる人だっている』

 

『あかねの実力は私も認めてる。演技に関しては私なんか全然相手になんないとも思ってる。だけど、演技なんてどうでもいい……有名でお金が稼げる子に仕事をあげる。そんな現場だってたくさんある』

 

 それには覚えがある。むかし、似たような事をあの子に言われたから。確か「アンタみたいなのが一番嫌い!」「私の真似なんかするな」なんて言われたっけ。

 

『注目が集まるとこんなのだってあるよ。見てくれている人達、応援してくれている人もそうでない人も。無責任にあることないことを発信して遊び半分で人の人生を左右する』

 

『それでもあかねは……アイドルやりたいって思える?』

 

 私に語るのは芸能界の見たくない後ろ暗い部分。どれも珍しい話じゃ無い事を私に認識させる様な言葉。私に芸能活動を辞めさせようとしてるかもしれないそんな語り。本当はこの人にも未練があるはずなのに。

 

「わからないよ……でも、あなただってドームに立ちたいって気持ちがあるんでしょ?私が諦めたら叶わなくなる。それに、息子さんや娘さんのことだって──」

 

『それはダメだよ』

 

 私の話にすかさず言葉を被せる。

 

『もし誰かの為になんて気持ちで続けるなら今すぐ辞めた方がいい。私はアイドルをやる事で愛がなんなのかを少し知ることが出来た。愛しい子供達に"愛してる"って言えた。それで満足。私がなんでまだこの世界にいるのかなんて分からないけど、これだけは言える。あかねを縛りつける為じゃない!』

 

 彼女らしからぬ強い口調で理解した。ああ……この人は私のことを本当に心配してくれてるんだなって。こんな何も出来なかった私のことを。

 

「きっと何もかも忘れて普通の人生を送った方が楽なんだよね……」

 

『分かんないよ〜普通の人生だって楽じゃ無いかも?まあ私は普通の人生なんて知らないんだけど……でもあかねは私と違って頭いいし、公務員でもなんでも。いいお仕事が出来るよ!』

 

 そうだ、このまま高校と大学良いところに入って安定した職業に就いてそしていつかは結婚して、子供が出来て。家族で幸せに暮らして。老後も子供や孫に囲まれる。そんな人生が幸せに決まってる。だけど──

 

『私はリーダーも!B小町も!どんなアイドルだって越えてみせるよっ!』

 

 アイドルとしての活動は正直辛かった。全国の移動やレッスンで勉強の時間すらまともに取れない。もちろん遊びにも滅多に行けないから学校で仲がいい友達は出来なかった。

 

 だけど辛い事だけじゃなかった。ファンの人に喜んでもらえるのは嬉しかったし、ステージに立つ時はワクワクした。その気持ちは嘘じゃない。ドームで歌いたいのだって今は私の夢だ。だから私はこう答える。

 

「それでも……それでも私はアイドルがやりたい!歌とダンスでみんなを楽しませて。演技だって!女優だとか元天才子役だとかに負けない。超凄いアイドルに私はなりたい!」

 

「私はっ!!」

 

 色々な思いはあるリーダーのことや、今もどこかで芸能界でもがいてるであろう元天才子役のこと。だけど、今から言うのは私にアイドルという煌びやかで素敵な世界を教えてくれたこの人への恩返し。

 

 

 

 

「あなたと一緒にあなたを越えたい!」

 

 

 

 

『……ふ〜ん。私と一緒に私を越えたいか……こりゃまた大きくでたね』

 

「そうかな?意外とすぐおい越しちゃうかも……」

 

『ちっちっち!一つ大事なことを忘れてるよ〜?』

 

「大事なこと?」

 

『もちろん私の娘だよ☆私の娘だから超可愛く育ってることに間違いないし。アイドルを目指して頑張ってると思うし。アイドルになったら絶対人気出ること間違いなし!ひょっとしたら私以上のアイドルになるのは私の娘なのかも!』

 

 いつも思うけどこの人はどれだけ自分に自信があるんだ?トップアイドルになるにはこういう姿勢も大事なのかな?メモしておこう。

 

瑠美衣(るびぃ)さんだっけ?それと息子さんは愛久愛海(あくあまりん)さん。うん、相変わらず凄い名前。芸能活動を続けてればもしかしたら共演できるかもね」

 

『そっか!そっかぁ!それはスッゴイ楽しみ!アクアとルビー元気にしてるかなぁ……』

 

 その声は慈愛と心配に満ちた聖母の様であった。普段の言動から忘れそうになるけどこの人一応は二児の母なんだよね……

 

『なんにしても!あかねがそこまで言うなら私はもう止めないよ。その時が来るまで何としても芸能界にしがみつかなきゃだね。まずはお仕事を取ることから始めよー☆』

 

「待って!まずはオーディションを受けるとか、実力を磨くことから始めても……」

 

『そんなの後からいくらでもついてくるくる!私なんかデビューした時はあかねより素人だったんだし!』

 

 この選択が正しかったのかはまだわからない。だけど私は後悔してない。どんなに辛くても苦しくても耐えて耐えて、チャンスを絶対に掴んでみせる。そして必ず夜空に輝く一番星の様なアイドルに私はなってみせる。

 

 

 

 ────そして時は現代へ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肌寒い季節が終わりを告げ、新しい春の訪れを感じる今日この頃。私はコンビニに立ち寄っていた。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店員さんの心地よい挨拶を聞き流しながらお目当てのコーナーへと足を運ぶ。私の目当てはアイスコーナーにあるちょっとお高めのカップアイス。役者の癖にアイス?プロ意識がない。なんて思わないでほしい。仕事前の密かな楽しみくらいは許してほしいものだ。

 

「うーん、今日は何味にしよっかな〜。定番のイチゴ味?抹茶味もいいよね。これは……新発売のピスタチオミルク?気になる……よし!今日はこの味にしよう!」

 

 頭の中でガンガン鳴り響く声を無視しながらアイスをカゴに入れて会計を済ませて店を出る。

 

 ちょっと品がないかもしれないが今日は歩きながら食べよう。次の現場まで時間ないし。私はカップを開けると貰ったプラスチックのスプーンで中身を口に運ぶ。滑らかな舌触りとピスタチオの香りがマッチしてとっても美味しい。チャレンジしてみてよかった。

 

あかね〜!

 

 そうだ、一応台本や段取りを見ておこう。足を引っぱる訳にはいきませんから。

 

『あかね!』

 

 いい加減無視するのも疲れてきたので私にだけ聞こえる声に対応してあげることにする。

 

「なんですか?」

 

『なんですか?じゃないよ!どうしてラムレーズンを選ばなかったの!?あのカップアイスはラムレーズンが一番美味しいっていつも言ってるよね!?』

 

「ラムレーズン癖強くないですか?たまに食べるから美味しいんであって毎回アレだとすぐ飽きちゃいますよ。それと、いい歳なんですからアイスの一つや二つでギャーギャー騒がないでください」

 

『ぐふぅ……い、痛いとこつかれちゃった。だって私はラムレーズン味が好きなんだもんしょうがないじゃん。あかね最近冷たいよ〜。昔みたいにちゃん付けで呼んでもいいんだよ☆』

 

 この人はいつまでも変わらない、もうかれこれ十年くらいの付き合いになるがあの頃のまま。

 

「それよりアイス繋がりで私の仕事の話です。【今日は甘口で】の二話の撮影があるのでいまから現場に向かいますよ。挨拶は済ませてますが私は二話からの参加で、迷惑はかけたくないんですから。現場ではあんまり騒がないでくださいね」

 

『上手いと思ってるかもしれないけど、あんまり上手くないよ』

 

 少しイラッとした感情を抑えつつも口には出さない。こんな所で激しく言い合いをすると周りから変な目で見られてしまうから。

 

『それにしてもあそこの現場。なんて言うか……酷いよね!私も低予算映画の現場に出たことあるけどあそこまでじゃなかったよ』

 

「ああ、確か息子さんのバーターで出たんでしたっけ?」

 

『グハァ……またそうやってトゲがある言い方しちゃうんだ?』

 

「仕方ないですよ、私達は仕事を選べる立場じゃないんですから。役を貰えるだけありがたいと思わないと」

 

 私、黒川あかねには秘密がある……

 

「えーと確か次の駅を降りて……」

 

 昔存在していた大人気アイドルグループB小町の不動のセンターにしてドーム公演を目前にストーカーに刺殺された伝説のアイドル。

 

『あれ?次の次じゃなかったっけ?』

 

「あっ……ありがとう。私が間違ってたみたい」

 

『ふふん!これくらいは。お安いご用だよ』

 

 アイドルでありながら二児の母である事実を隠し通して活動していた正真正銘(しょうしんしょうめい)の嘘吐き。

 

「準備はいいですか?()()さん」

 

『オッケーだよ!今日も一日頑張ろうね。あかね!』

 

 

 

 B小町のアイ。本名、星野アイの魂が私の身体に宿っている。

 

 

 

 

 

 

 

 





【黒川あかね】

アイが死んだ次の日にアイを宿すことになった少女。

幼少期の出来事がキッカケで演技もできる超凄いアイドルを目指す様になる。

中学一年生の時に五人組アイドルユニットとしてデビューを果たし。雑誌や地方テレビなどにも出る様になるが、当時のあかねが地味で引っ込み思案なのもあり。あかね本人の人気がでないままグループは解散してしまう。

紆余曲折あり現在はフリーランスでアイドル志望の役者をやっている。原作通り役にどっぷりはまり込むタイプの"没入型"演技は天才的だが。売れている訳ではなく仕事がない日も珍しくない。所詮は頑張ってるけど売れない役者の一人。

原作と違い、アイドルとして芸能界を見てきた経験や近くにアイが居た事によって精神的には強く成長。代わりに少し擦れた性格になってしまった。しかし根っこは真面目で努力家なのには変わりはない。

【星野アイ】

ドーム公演を前にストーカーに刺されて死亡した伝説のアイドル。

子供の時から人知れず面倒をみてきたのであかねをもう一人の娘の様に思っている。

誰にも姿が見えない背後霊の様なもので五感と思考はあかねと別々。当然、物に触るなどの行為も出来ない。

地味に大きな事柄としては。あかねを通してあかねの両親。普通の親というものを見てきたので親という存在の考え方。アクアやルビーに対しての想いも変わってきている。

性格は原作通り心に闇を抱えている馴れ馴れしい自信家。しかし、精神年齢を重ねたことによって人間的に成長している??
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