アカネアイ   作:青空の夜天

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 恋愛リアリティショー。それは若手の芸能人を一箇所に集めて交流させ、誰と誰が付き合うとか、誰が気になっているとか。そういった模様を映し出すバラエティ番組だ。

 

 特徴としてそこには番組からの台本は無く。基本的な判断は各自演者に任されている事だろう。演者の素の実力と、番組側の演出。それらが合わさったリアリティこそが視聴者を魅了する秘訣となっている。

 

 そもそも恋リアと言ってもかなり種類があり、学生生活を思い起こさせる様な甘酸っぱい番組もあれば。恋愛だけではなく、推理などの一つのテーマを主題として織り交ぜたものまで様々。

 

 今回私が受けた仕事である今ガチは高校生という若い人材を集め、主に中高生をターゲットにした所謂(いわゆる)、青春恋愛リアリティショーと言う恋リアの中ではオーソドックスな番組だ。

 

 なので何か特別な才能が求められるものでは無く。ただ普通に、学校で友達と話している時みたいな普段の自分が求められる仕事になっている。

 

 正直な話、私は素の自分が視聴者を楽しませる事が出来る人間だとは思っていない。まあ、そんなの始まってみなければ反応なんてどうなるか分からないし、共演者しだいという所もあったりするので一概には言えないけど。

 

 そもそもアイドルに恋愛はNG。なので私はこの番組で恋が出来ないというハンデがある。そういう理由もあってかこの仕事で目立つ事はとても難しいと言えるだろう。

 

 しかし、引き受けた以上はやり遂げる。せっかくプロデューサーが直々にくれた仕事なんだ。手を抜いては最悪関係を切られる事だってあるだろう。だが逆に、この番組を無事乗り切ればまた次の仕事にだって繋がっていくはず。

 

 不安はあるが兎に角飛び込んで行くしかない。この先に何が待っていようが私は私の為すべきことを為せばいい。

 

 

 

 

 さあ、張り切って行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【今からガチ恋始めます】撮影現場

 

 

 

 私はいま、今ガチの収録現場である学校のハウススタジオに居る。学習机を突き合わせたその中には私以外にも数名の出演者が座っており、撮影が始まる時を今か、今かと待っている状況だ。

 

『あかね、緊張してる?』

 

(そりゃしてますよ。こういう番組は始めてですからね。今日は自己紹介と趣旨の説明だけとはいえ、どうやって乗り越えていけばいいか考えてる所です)

 

 演劇やライブなど緊張感がある場面は何度も経験してきたが、これはまた違った雰囲気を感じる。リアルの自分を出せと簡単に言うけど、それが番組になると言うのはなんとも不思議な気分で自分には想像がつかない。

 

『うーん、乗り越えるか……そうだ!やっぱ第一印象って大事じゃないかな?』

 

(第一印象ですか?)

 

『そうそう、どんな事でも最初の印象っていうのは強く残るからね!インパクトがある自己紹介をした方が良いと思う!』

 

(インパクトがある紹介……ですがどうやれば……)

 

『そんなの簡単だよ!むかし作ったあの自己紹介をやればいいじゃん!ほら、やった事あるでしょ?アイドル時代に』

 

(な、何言ってるんですか!あんなの人前で出来る訳無いでしょ……)

 

『だーいじょーぶだって!今のあかねなら上手くいくよ。平気、平気!』

 

 確かにアイドル時代に自己紹介をするなんてのは山程やってきたけどこれは恋愛リアリティショー。あんな感じでやって大丈夫なのかな……正直苦い思い出もあるから使いたくはないのだけど。

 

「それではカメラ回しまーす!」

 

 アイさんと会話をしながらこれからの事を考えていたら。スタッフさんの声が聞こえてくる。いよいよ今ガチの撮影が始まるみたいだ。

 

こんにちはー!

 

 まずは皆んなの挨拶から始まり、そこからスムーズに各々の紹介へと移っていく。

 

「えと……"鷲見(すみ)ゆき"です。高一です」

 

 最初に名乗った人物はモデルであり、今回のメンバーで最年少でもある鷲見ゆきさん。年下だと言うのにとても落ち着いており、その発言からも真面目そうな印象を与える。気が合うかちょっと心配。

 

「"熊野ノブユキ"です!ダンスが得意です」

 

 次に名乗ったのは私と同い年である高校二年生のダンサー。熊野ノブユキさん。こちらの第一印象としては表裏の無い明るい人物。近い所で言うとメルトくんみたいな感じだろうか?彼の様な明るい人物はリアリティショーでも受けが良く。もしかしたらこの番組の中心になっていくのかもしれない。

 

「高三の"MEMちょ"です。YouTubeで配信してまーす。よろしくね!」

 

 明るい挨拶と共に名乗ったのは高校三年生でユーチューバーのMEMちょさん。配信業をしているとの事なのでこういった場は慣れているのだろうか緊張は見受けられない。あの明るさがあれば番組のムードメーカーとして機能するのかも。

 

「"森本ケンゴ"。バンドやってます。よろしく」

 

 静かに名乗った人物は高校三年生でバンドマンの森本ケンゴさん。先程のノブユキさんとは対照的に物静かな印象を感じた。私はあまりコミュニュケーションが得意な方では無いので実はこういった人の方が落ち着く。番組として絡むなら彼が無難なんだろうか……

 

 

 

 

 そしてとうとう私の番が回ってくる。まだ自分の方針を決めかねているのに順番が回ってきて、頭が真っ白になってしまった。なのでアイさんに相談してみる事に。

 

(どど、どうしよう!?アイさん!やっぱりここは普通にやった方がいいのでは?)

 

『あかね、アイドルは度胸だよ!元気よく思いっきりやっちゃえ!』

 

(わ、分かりました!)

 

 私は息を整えるとしっかり周りを見渡す。すると見えてくるのは皆んなの視線が私という人物に注がれてるという事実。みな私がどういう人物なのかと注目している。

 

 よし、声の調子はバッチリ。頭の切り替えも大丈夫。こうなったら久し振りにやってみるしかない。

 

(ええい!ままよ!)

 

 

 

 

「ちょっぴりドジな真面目ちゃん!高校二年生の十七歳!黒川あかねです!皆んなは気軽にあかねちゃん!って呼んでね♪」

 

 

 

 

 

「うわっ……はは……よ、よろしくね……」

 

「おう!よろしく!」

 

「…………!?」

 

「えっと……よろしく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ…………死のう…………

 

 

『ぷっ!あっはははは!あかね完璧!すっごくいいよ!お、お腹!お腹痛い!苦しいっ!』

 

 失敗した。失敗した。やかましく笑う元凶を無視しながら周りを見てみるとノブユキさん以外は血の気が引いた様な青い顔をしている。端的に言うと私は自己紹介の仕方を間違え、皆んなから引かれていた。

 

(うぅ……アイさん!?どうしてくれるんですか!!見てくださいよ!あんなに笑顔だったMEMちょさんが、開いた口が塞がらないって顔をしてますよ!)

 

『わ、私やさっきの配信者の子みたいにキャラが周りに浸透してるならいいけど。ふふっ、あ、あかねみたいな子が初対面であんな挨拶したら引かれるに決まってるじゃん!』

 

 冷静に考えればそうだった。いくら緊張してるとはいえ、よく考えずに行動をしてしまったのは私のミスだ。

 

『あはは!!だ、ダメ!笑いすぎて死んじゃう!!』

 

 そして私の最大にして最も愚かしいミスはこんな元アイドルの愚物(ぐぶつ)幽霊に頼ってしまった事だろう。

 

(いい加減にしないと顔殴りますよ……)

 

『ご、ゴメンって謝るから。……でも半分くらいは本気のアドバイスだったんだよ?それにほら!インパクトって意味では充分だったでしょ?』

 

 確かにこの場で一番目立っている出演者は私かもしれない……いや、これは悪目立ちというやつだろう。私はもう恥ずかしすぎて皆んなと顔を合わす事なんて出来そうもないし、さっきまで満ち溢れてたやる気は粉々に砕かれて何処かへ飛んで行ってしまった。今、私の頭はなんとも言えない無気力感が支配している。

 

(あー、そういえば新作のアレ。まだ手をつけてなかったなー。鏑木さんには申し訳ないけど。さっさと仕事を終わらせて早く家に帰りたい……)

 

『あかねしっかりして!まだ始まったばっかりだよ!?』

 

 大体誰のせいでこんな目に……いや、人のせいにするのは良くないか。(そそのか)されたとは言え選択をしたのは私だ。それにアイさんがこんな風に笑える様になったというのも昔から接している身としては嬉しいと言うか、感慨深いものがあったりする。仕方ない、今回はアイさんが九割、私が一割悪いという事で手を打とう。

 

 私が顔を伏せながら沈黙していると、ガラッという音と共に教室の扉が開け放たれる。どうやら今ガチ最後のメンバーが到着したらしい。

 

 最もその最後のメンバーは私の顔見知りだ。なので彼がどんな性格なのかは分かっているし、どんな挨拶をするのかはある程度予想出来る。

 

 彼がさっき見てなくて正直助かった。もし見られてたら気恥ずかしさと絶望感でホントに私は帰っちゃったかもしれない。いや、仕事を投げ出すなんて事はしないけどね。

 

 ともかく彼が入ってきた事で私が作ってしまった微妙な空気は一旦リセットされ、皆の視線が最後のメンバーへと注がれていた。多分彼は無難な自己紹介をするのだろう。そんな事は分かっているが、私も釣られて視線を教室のドアへと向ける。

 

 注目を物ともしてない爽やかな笑顔で、今ガチ最後のメンバーが口を開く。

 

 

 

「アクアです!なんかめっちゃ緊張するわ〜!皆んな!よろしくね♪」

 

 

 

 良かった……仲間が居た……!

 

 

 

『アクア……流石にそれは……私もどうかと思う……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアくーん!おひさー!」

 

「げっ……あかね……」

 

 何とか無事?に今日の撮影を終えた私は校舎で歩いているアクアくんを見つけたので声をかけた。

 

「今日あまカフェに遊びに行った時以来だよね?あれは楽しかったなー。良かったら今度また皆んなでどっか遊びに行こうよ」

 

「あれは仕事だと言うから付き合っただけだ。お前達とまた遊ぶ予定なんて無い」

 

 そう、当初のアクアくんは今日あまカフェへ行く事に乗り気じゃない所か断っていた。しかしそこは私の後輩であるメルトくん。咄嗟に仕事の一環という口実を作りだし何とか誘うことに成功したというのがアクアくんを誘った時の事の顛末(てんまつ)だ。

 

「うーん残念。どうせならアクアくんが計画してくれても良いんだよ?」

 

「だから行かねーって」

 

 この通り。一緒に遊んだ事で最初に会った時よりは距離が縮まったと思うけど。まだアクアくんとしては私達と積極的に関わるつもりは無いみたい。

 

「大体……お前はなんでこんな所に居るんだ?」

 

「私?私は鏑木さんにこの仕事を勧められたから受けただけなんだけど……」

 

「そうか……全く何考えてるんだあの人は。何故あかねの名前が資料に無かった」

 

「あー、私が参加するって言ったのは結構ギリギリになってからだからね。それでアクアくんが持ってる資料には書いて無かったのかも?」

 

「……チッ!そういう事か。それにしても一言あっていいだろ……あかねが参加してると知っていればあんな演技はしなかった」

 

 どうやらあの演技は他人の前ならともかく、知り合いに見られるのはアクアくんでも恥ずかしいらしい。分かるよ。私もさっき同じ失敗をしたからね。

 

 とは言えごめんなさい。今日は味方じゃないの。

 

「ねぇ、ねえ。私相手にもさっきのやってみてくれない?ほら、『めっちゃ照れる……』ってやつ。これから一緒に仕事をするにしても、もっと近くで見ときたいな」

 

「しねーよ。あんなのはもう絶対にやらない」

 

 面白かったのに残念。

 

『あかね……あんまりアクアを虐めない方がいいよ。さっきのがオンエアされたらダメージはあかねの方が大きいと思う』

 

 そ、そうか……よく考えてみたら番組も共演者の皆んなもアクアくんの演技には難色を示してなかった。だから私の方がダメージが大きい所か下手したら私だけやらかしたというのがバレてとっても痛いカウンターを喰らってしまう。

 

 アイさんから受けた屈辱をアクアくんで発散しようとしたけどここまでかな……アイさんと違ってアクアくんは頭がキレるからね。イジるにはちょっとリスキーなのだ。

 

「ごめんねアクアくん。ちょっと言い過ぎたかな?」

 

「別に気にしてない。有馬に比べれば優しすぎるくらいだ」

 

 あれ?アクアくんとかなちゃんってそんなに絡みあったっけ?ってそうか同じ学校なんだから会話の一つや二つするのも当然なのか。

 

「あの〜ちょっとよろしいですか?」

 

 アクアくんと話していると声をかけられたのでそちらの方へ振り向く。そこに居たの金髪でツノのカチューシャをつけている私達の共演者。

 

「えっと……確かMEMちょさん……でしたっけ?ユーチューバーの」

 

「は、はい!ユーチューバーのMEMちょです!覚えててくれて嬉しいです」

 

 意外だった、今ガチの時とは違ってとても丁寧な挨拶をする彼女に私は少し驚く。

 

「つかぬことをお伺いしますが、()()黒川あかねさんで間違いないですよね!」

 

 あの?どういう事だろうか。いまいちピンと来ない。

 

「ねぇ、アクアくん。あのってどういう意味だろう?」

 

「俺が知ってる訳ないだろ」

 

 小声でアクアくんに相談してみるが、心当たりは無い模様。まあ私が無いのだから当たり前なんだけど。

 

「め、MEMちょさん……私どういう事だか……」

 

「三年前にアイドルをやっていた黒川あかねさんですよね!名前を見た時、もしかしたらそうかな〜って思ってたんですけど。さっきの自己紹介で確信しました!」

 

「お前、アイドルだったのか!?」

 

「うぐっ……昔の話だけどね……」

 

 まさか今ガチにアイドル時代の私を知っている人が居るとは全くの予想外だ。どうしよう……一気に凄くやりにくい現場になっちゃった。

 

「MEMちょさん……くれぐれもその事とさっきの自己紹介のことは──」

 

 

 

 

「ファンです!握手してください!!」

 

「ええっ!?」

 

 これが私、黒川あかねとMEMちょの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと長くなるかもしれませんが聞いてくれますか?握手をした後にそう言って語り出したのは彼女の過去だった。

 

「私、実はアイドルが好きで子供の頃から気になるグループをチェックしてはグッズを買ったり。テレビの前で応援したりしてたんです」

 

「ですが私の家は母子家庭で決して裕福とは言えませんでした。ライブに行くにはそれ相応のお金がかかります。だからアイドルは好きだったけど、ライブには一回も行った事がありませんでした……」

 

「でも、私はそれで満足だったんです。現地に直接応援はいけなくても、私が好きだって気持ちに変わりはない。いつか大人になったら自分のお金を貯めて行こう。そう思って日々を過ごしていました」

 

「だけど……ある日母親が倒れて、これからは親に頼らないで生きなきゃいけない。そんな状況に立たされた」

 

「私には夢があったけど、それも諦めるしか無くなっちゃって……」

 

 私とアクアくんは静かにMEMちょさんの話を聞く。どうやら小さい頃から苦労している人物の様だ。この丁寧な態度もその経験を裏付けるものなのかもしれない。

 

「それで三年前。急にぷつっと糸が切れたみたいに全部が嫌になってどうでも良くなっちゃって……もう夢とかなんとか考えるのが面倒くさい。そんな思いで家に帰ると弟から封筒を渡されたんです……その中にはあるアイドルのライブチケットと十分な額のお金が入ってました」

 

「それは母が密かに用意した物でした。どうやら母は私の様子がおかしい事に気づいていたみたいで。まだ退院したばかりの体にムチを打って、私に内緒でお金とチケットを用意してくれてたんです。そのチケットが当時私の好きだった黒川さんが居たアイドルグループの物で……」

 

「素敵なお母さんじゃないですか……」

 

「ははっ……無茶しすぎるのがたまに傷ですけどね……」

 

「それで、私は初めてライブに行く事にしたんです。そのライブが……黒川さんには辛い思い出かもしれませんけど、あのライブでした……」

 

 MEMちょさんも居たんだ……私の失敗談とも言えるあのライブに……

 

「あのライブ?」

 

 アクアくんが知らないのも当然だろう。別に事件って程の事でも無いのだから。

 

「あ、すいません。やっぱりいい思い出じゃ無いですよね……」

 

「大丈夫ですよ、もう終わった事ですから。なんならそれについては私が説明します」

 

「俺が聞いてもいいのか?」

 

「うん、アクアくんも聞いて。とは言っても実際はなんて事は無い普通のライブだったよ。ただ私が振り付けでミスしてリーダーの子とぶつかって怪我させちゃってね……大事には至らなかったんだけど、そのせいで人気者のリーダーの出番がゴッソリ減って怪我をさせた私が盛大にネットで炎上したってだけの話」

 

「あかね……お前……」

 

「うん?どうしたの?芸能人なら炎上の一つや二つよくある事でしょ?」

 

「…………」

 

 私達のグループは二流もいいとこだったけど、リーダーは紛れもなく一流だったからね。当時は本当に大変であった。後にも先にもアイドルを辞めたいなんて本気で思ったのはあの時だけだ。

 

「あ、邪魔してごめんなさい。続きを話してくれますか?」

 

「は、はい。黒川さんの言う通り。その件があったからか会場の様子は酷いもので、一番人気だったリーダーさんの出番を失った事で会場の八割は居たであろうリーダーさんのファンは不満爆発。そして、その思いは…………私も同じでした……」

 

 とても言いづらそうにMEMちょさんは続きを語る。

 

「『せっかくママがくれたチケットなのに最悪だ。黒川あかねって子が余計な事をしなければもっと楽しめたのに』そう考えていたのは事実です。ですがそんな思いはネットの反応を見た瞬間に吹き飛びました……」

 

「ネットに書かれていたのは黒川さんに対する数々の誹謗中傷。それは当事者で無い私から見ても恐ろしく、こんなの中学生である彼女が耐えられる訳がない。そう思わせる程に残酷な言葉が並べられていました。中には……これこそが正義の行いだと(うた)っているものだって……」

 

『……あかね……大丈夫……?』

 

 心配になったのかアイさんが声をかけてくれる。私にとって辛い記憶ではあるが問題ない。もう終わった事だし、辛いだけの思い出では無いのだから。

 

「だけど、黒川さんは()()()()()()。いや、それどころかテレビに映る黒川さんのパフォーマンスは炎上前よりもずっと上手くなっていて。まるで心無い言葉を浴びせる人達に『うるさい黙れ』とでも言いたげな……そんな力強い姿に……私は勇気を貰ったんです!」

 

 

 そっか……大変だったけど頑張った甲斐ってあったんだ……私の頑張りによって救われた人が目の前に居る。それはなんて幸せな事なんだろう。

 

「長々と話してごめんなさい。だけど最後、どうしても黒川さんに──」

 

 

「あかね」

 

「え…………?」

 

 

 

 

 

 

「これから一緒に仕事するんだからあかねでいいよ、私もメムちゃんって呼ばせてもらうね!」

 

 私がそう言うとメムちゃんは目元を(うる)わせる。そのまま私を真っ直ぐ見つめると……

 

 

 

「あかね……私に勇気をくれてありがとう!お陰でまだ、夢を捨てずに芸能界にいるよぉ!!」

 

 

 

「ふふっ、そっか。こっちこそ応援ありがとね♪」

 

 嬉しくなったので。むかし声援を受けた時にやっていた目元でピースをしながらのウインクをメムちゃんにもやってみた。

 

「でたぁー!ファンサービス!間近で見れるなんて超あがるぅ!」

 

 どうやら丁寧な姿じゃ無くて、こっちが本来のメムちゃんらしい。

 

「なあ、メムお前は……」

 

「……あれ?キミ居たんだ?」

 

「話にも参加してただろ!」

 

 なんとメムちゃんにはアクアくんが目に入ってなかったみたい。しょうがないここは私が一肌脱いであげよう。

 

「紹介するねメムちゃん。この人は私の友達のアクアくんだよ!ちょっと気難しい子だけど、仲良くしてあげてね!」

 

「いや友達じゃないけど……」

 

 なんで否定するのだろう?一緒に遊んだのだから友達でいいと思うんだけど。

 

「なんか撮影の時と雰囲気ちがうねぇ〜」

 

「実はね……キャラ、作ってたみたいだよ」

 

「おい、言うなって!あれはもう二度とやらない!アンタも忘れてくれ」

 

「えー、MEMちょ的には最初の星野くん。結構ポイント高かったんだけどなぁ〜」

 

 あの面白いアクアくんがメムちゃんのツボだったとは。今からでも演技をすればアクアくんだっていい線いくんじゃ……

 

「メムの好みなど知らんし、興味も無い」

 

「にゃはは〜とてもこれから恋リアに出る人とは思えない発言だねぇ」

 

 結構バッサリ言われたというのにメムちゃんは笑顔のままだ。

 

「そうだ!そんな可愛げが無い星野くんの為に私があだ名を付けてあげよーう」

 

 なにそれ面白そう。

 

「いらん。そんなもん付けるな」

 

「まあ、まあ、遠慮しなさんなって。そうだね〜…………"アクたん"、はどうかな?」

 

「ぶふっ!!あ、アクたん……ふふっ、良かったねアクアくんとっても可愛い名前だよ」

 

 メムちゃんには名付けのセンスがあるようだ。付けられた本人はと言うと、呆れてる様な凄く渋い顔をしてるけど。

 

「はぁ〜もう勝手にしろ。呼び方くらい好きに呼んだらいい」

 

「やったー!これからよろしくね、アクたん!あかね!」

 

「こちらこそよろしく!メムちゃん!アクたん!」

 

「あかね、お前はダメだ」

 

「ど、どうしてかな!?」

 

「さっき笑ってただろ。それと演技の事をバラしたのもムカついた」

 

「そんなぁ……」

 

「あははは!残念だねぇー」

 

 

 

 こうして色々あった今ガチの初日は終わりを告げる。自己紹介をミスした時は辞めたくなったけど……メムちゃんと言う友達が出来たので万々歳(ばんばんざい)と言えるだろう。とは言っても本来の仕事であるカメラの回ってるとこではやらかしただけで、私が何か番組に貢献出来た訳じゃないんだけどね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






黒川さん呼びに星野くん呼びと、珍しいMEMちょが見れたMEMちょ回
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