アカネアイ   作:青空の夜天

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あかねちゃんの過去編


こうして黒川茜は前を向く②

 

 

 

 

 人はなぜ誹謗中傷を繰り返すのか?根拠があろうとなかろうと、気に入らない物をよってたかって追い詰めてく。悪い事をした人には罰を。輪を乱す者には制裁を。歴史を紐解いてもそうやって人間の秩序が保たれてきたと記述がある。きっとそれは人間の本能というやつで絶対に無くなる事が無い物なんだろう。

 

 罪人に石を投げるなんてのは聖書にも記されている表現で少なくとも紀元前にはその恐ろしさが周知されていたのだと思っている。罪人にはいくらでも石を投げていい。人間が一番非情になれる瞬間は自分に"正義"があると思っている時である。その恐ろしさは悪意の比では無い、悪い事をした人間を排除する為なら人は殺人だって正当化してしまうだろう。

 

 しかし、それでは人の世は作れない。人間には自身の欲求を抑える理性と言う機能が備わっている。長い歴史を積み重ね、経験し、学んだ結果。人間は法を作り、文明を作り、常に良くあろう、理性的であろうと変わり続けている動物なんだ。

 

 それでもやはり本能と言うやつには逆らえないもので。歴史が進み、スマートフォンと言うものが作られ、インターネットと言う文化が身近になると。今まで隠されていた、見えなかった後ろ暗い部分が誰にでも見える様になってしまった。

 

 それが良いのか悪いのかはさて置いて。この誰にでもと言うのが重要、まだ精神が成熟していない子供までもが今では簡単にインターネットと言う文化に触れる事が出来てしまう。

 

 中傷と言うのは本当に恐ろしい、自分に向けられている多数の善意と言う名の悪意を目にしてしまうと日常生活で他の事が考えられなくなる程に頭を支配されてしまう。こんなのは大人でも耐えられないのに、未成熟な子供であったらなお耐えられる訳が無い。

 

 そうして人の正義感に晒されて潰れてしまう、潰してしまう子供が今も何処かで増え続けているのだろう。

 

 長々と語ったが、要は誹謗中傷とは人間である限りやめられない物であり、それを気軽に目に出来る今の時代は恐ろしいと言う話しだ。

 

 かく言う私も誹謗中傷に悩まされた一人であった。芸能人である限りは避けようが無いのは分かっているけれど、後にも先にもアイドルなんてやりたくないと本気で思ったのはあの時だけ。

 

 多分、私一人だったら抱え込んで潰れてしまったであろう。もしかしたら「アイドルを辞めたい」なんて気持ちだけでは済まなくなっていたかもしれない。だけど私はそうはならなかった。運が良い事にこんな私でも助けてくれる……いや、違う。立ち直るキッカケをくれた人物が居た。

 

 今から話すのは。私……黒川あかねの失敗談と、私に勇気をくれたある友人の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の時のある出来事からアイドルを目指す様になった私は、両親に頼んで色んな事務所のオーディションに応募した。そして見事、中学一年生の時に合格。そこから半年で見事グループとしてのアイドルデビューとなった。

 

 当時、グループの人気はボチボチと言った所だった。アイドルが好きな人なら知っているけど普通の一般人からの認知度は低い、せいぜいその程度の人気。

 

 しかし、リーダーだけは違った。彼女は持ち前の才能と呼べるものがあったらしく、一人で人気のテレビ番組に呼ばれたり、ドラマで役を貰ったり、CMにも出たりの引っ張りだこ。お陰で私達にもそれなりに仕事がきたけど、当然人気の格差というのが残酷なまでに大きくなっていき。テレビを観た事がある人なら、グループの名前は知らないけど、リーダーの名前は知っている。そう言われる程にリーダーと私たち他のメンバーとの格差は凄かった。

 

 そんな現状であったが為に、常に楽屋の空気は悪い。グループでリーダーの事を好意的に思っている人なんて一人も居ない。そう言える程にグループ内の仲は悪く、それをなんとか隠し通して仕事をする日々が続いた。

 

 そして不満を持っているメンバーの中には当然私だって含まれていた。リーダーを(うらや)んでいたが恨んでいた訳じゃない。だけど、頑張っているのに注目されない、他のメンバーなんて居ても居なくてもいいみたいな扱いを受ける事が私には耐えられなかっただけ。

 

 そんな扱いを受けながらもアイドル活動を続け、私が中学二年生になった頃。私達のグループは初めて単独ライブをやる事になった。

 

 地方ではあるが押さえられた会場は結構大きく、収容人数もこれだけの席を埋めれたら誇れるという程のステージが私達には用意された。事務所からもかなり期待されている事がそれだけで分かってしまうには。

 

 しかし、私はこれをチャンスだと思った。ここでリーダーにも負けないパフォーマンスを皆んなで発揮すればファンも見直してくれるかもしれない。扱いだって変わるかもしれないと思い、皆んなにダンスの部分でアドリブを入れよう等と様々な作戦を提案してみる事にしたんだ。

 

 だけどメンバーの反応は芳しくなかった。いや、それどころか私が話しかけても……

 

「ウザイから近寄らないで」

 

「何やっても勝てるわけないでしょ」

 

「やりたいなら一人でやれば?」

 

 そんな反応ばかりが返ってきてまともに取り合ってくれたメンバーは一人も居なかった。肝心のリーダーに相談しても。

 

「興味ないわ」

 

 その一言で一蹴(いっしゅう)されてしまい、取り付く島もなくリーダーは個人レッスンへと戻ってしまった。

 

 

 だけど私は諦めると言う選択はしたくなかった。それじゃあいつまでも変わらない。だからこうなったら一人でもやってみよう。グループでも一番目立ってない私がライブで注目され、一時(いっとき)でもリーダーに並ぶ事が出来たのなら他のメンバーも聞く耳を持ってくれるかもしれない。と、そう考え、単独ライブに臨んだ。

 

 

 

 

 そして失敗した。

 

 

 

 

 当時会場に集まったファンはリーダーのお陰か、想定したよりも多く、私としても緊張と興奮が織り混ざった言葉に出来ない気分でステージに立った。

 

 最初にデビュー曲、その次、その次と。曲を重ねる毎に会場のボルテージはどんどんと上がっていき、遂に一番ファンに人気があるメインの曲へと差し掛かる。

 

 ここで私は予定にない独自の立ち位置でアドリブを効かせたパフォーマンスを行なった。これが成功すれば周りの私を見る目が変わる。そう思いながら全力で。

 

 だけど私には周りが見えていなかった。予定にない事をすれば不備が出るのは当たり前のことで、私が勝手な動きをした事で立ち位置が被ったリーダーとぶつかってしまい。私に怪我は無かったが、リーダーは足首を捻る軽傷を負ってしまった為、一度舞台袖へと引っ込むことになってしまった。

 

 当然、ステージに居ても不満の声が聞こえる程に会場は荒れたが私達は何とか場を繋いだ。リーダーが居ない想定なんか今までしてこなかったのにこの時ばかりは不思議と皆んなの息が合ってステージを持たせる事が出来たのは何故だったのか今でも分からない。災い転じて福となすとでもいったらいいのか……いや、それは流石に言い過ぎか。

 

 結果として、最後にリーダーが無理して出てきてパフォーマンスをした事によって場は収まり、どうにか初めての単独ライブは終了。ちょっとしたアクシデントはあったがリーダーが無事に踊ってる姿を見た事で大体の観客は満足して帰っていき。ライブが失敗となることはなかった。

 

 

 私はライブが終わると真っ先にメンバーに謝った。その行為に当然ながら私に対しての罵詈雑言が浴びせられたが、ただ私は受け入れるしかない。あまりの情け無さに涙さえ出てきたがそんな事をしても余計に皆んなの怒りを買うだけで、何の意味もなさないのが更に辛く感じた。

 

 一通り私に罵声を浴びせたあと皆んなは去って行ったので、最後に一言も喋らずに私達をずっと見ていた当事者であるリーダーに深々と頭を下げてぶつかってしまった事を謝罪した。

 

 彼女からは何を言われても仕方がない。そう覚悟し、泣きじゃくりながら頭を下げる私に対してリーダーは……

 

「アンタのミスなんて元々計算に入ってんのよ……分かったらもうこの件で私に謝罪して来ないで、迷惑だから」

 

 と、だけ言い残し。それ以来彼女がこの話を持ち出す事は二度となかった。

 

 こうして私達の単独ライブはメンバー間の亀裂を更に広げる結果となり終了した。

 

 

 

 

 だけど、私の中では終わってはいなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リーダーの歌って踊る姿がもっと見たかったー』

 

『黒川あかねだっけ?あいつ居る?』

 

『いらねぇ〜あのグループは一人居れば成り立つから!』

 

『なになに?何の話?』

 

『ああ、あるアイドルグループのライブで出しゃばりが人気の子の出番を潰したって話』

 

『うわぁ〜アイドルって嫉妬とか凄そうだからな。そいつも裏では嫌がらせとかしてんだろ』

 

『ホント楽しみにしてたのに最悪。こいつが消えれば皆んな喜ぶのに』

 

 

 私は部屋の中で私に対する批判意見に目を通していた。事務所の人が最近の私を見かねて休業を言い渡してくれたのはいいけど、どう過ごしていいのかが分からないから。今はこうやって皆んなの意見に目を通すことをしている。

 

 私は悪い事をした。悪い事をしたら責められるのは当然だ。だからこれも受け入れなきゃいけない。私は日に日に寄せられてくる数多の批判意見や、グループの話題が出ている書き込みに目を通す日々を過ごす。

 

 ふふっ、今日は比較的優しめな話題で安心しちゃった。

 

『あかね!あかね聞いてる!?もう見ない方がいい!気にしちゃダメ!』

 

「どうして……?これもファンの意見なんだからしっかり……」

 

『こんなの意見でもなんでもないよ!』

 

 アイちゃんが私にそうやって意見をしてくる。最近はいつもそうだ。私がネットを見るたびに邪魔をしてくる。何かしようとするたびに一々突っかかってくる。本当に、本当に……凄く、すっごく……

 

 

 鬱陶しい。

 

 

「何で見ちゃいけないの!?私はいけない事をした!皆んなが楽しみにしてたステージを私の勝手で邪魔をした!だからこれは当然の報いなんだから!」

 

『違う!ミスは誰にだってあるもので報いなんて受けない!ただ、どっかの誰かが好き勝手言ってるだけなんだよ!』

 

「うるさい!うるさい!何にも知らない、出来ないくせに!」

 

 アイちゃんには分からない。前向きで完璧主義でいつも明るくて自分に自信がある。トップスターのアイちゃんには。

 

 そもそも私みたいな地味で引っ込み思案な子がアイドルをやろうってのが間違ってたんだ。昔の憧れで勝手に盛り上がって勘違いしちゃったただのイタい普通の子。それが私なんだから。

 

 嫌いだ、嫌いだ嫌いだ。一人だけ人気のリーダーも。やる気が無いメンバーの皆んなも。好き勝手に言うネットの人達も。様子を見ることしかしない事務所の大人達も。何も分かってないアイちゃんも。何より……どうしようもなく弱い自分自身も。

 

 全部消えて無くなればいい。

 

 もうあれこれ考えるのは疲れた。アイドルなんかどうだっていい。こんなに辛くて苦しいならやらなきゃ良かった。

 

『あかね!いい加減に目を──』

 

「アイちゃんに……」

 

アイちゃんに弱い人の気持ちなんて分からないよ!!

 

 私が叫ぶと同時に部屋が静まり返る。すると突然私の耳に先程よりも大きな声が聞こえた。

 

『ふざけないで!!私がどれだけ……!』

 

 それは珍しく激しい怒気を含んだアイさんの声。

 

『あっ……いや、ち、違うの。わ、わたし……わたしそんなつもりじゃ……』

 

 しかしその声は一瞬であり、すぐさま言い直すと小さな声で再び私に声をかける。

 

『ごめん……ちょっと頭冷やすね……』

 

 

『あかねも……早く寝なよ……』

 

 その言葉を最後にアイちゃんの気配は無くなってしまった。とは言ってもアイちゃんは私から遠くに離れる事は出来ないので、多分アイちゃんの意識が無い状態に、眠ってしまったかしたんだろう。今は気にする余裕もない。

 

 これが、出会った時から一度もなかった。私とアイちゃんの初めての喧嘩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が午前0時を過ぎた頃。批判意見に目を通すのに疲れた私は。一人、パソコンでゲームをしていた。

 

 これはある人から勧められてハマった、私の趣味だ。ゲームは現実と違ってなりたい自分にいつでもなれるし色々な物語を自分自身を主人公に体験したりもできる。そんな読書や映画等とはまた違った目新しい体験が、私を夢中にさせた。元々私に趣味と言えるものはなく、辛うじて言えるとしたら演劇くらいだったであろう私がゲームの世界にハマるのは必然だったのかもしれない。

 

 だけど今私がやっているのはFPSと呼ばれるもので、銃でプレイヤーを倒しては一番を目指していくという少々物騒なゲーム。これを選んだ深い理由はなく、今はとにかく何もかも壊したい気分だったのでこれを選択したまで。

 

 何戦か終わった後、少し休憩をしようと思ったところで。パソコンのコミュニュケーションツールから私宛へのメッセージが届いた。

 

『珍しいねAI(アイ)ちゃん。こんな時間に一人ですか?もし良かったら一緒にカジュアルでもやりません?』

 

 AIと言うのは私のネット上でのハンドルネーム。そしてチャットを送ってきたのは私の二人しか居ないフレンドの一人である男性。

 

 彼の名前はISI(イシ)。今私がやっているゲームをあの人が勧めてくれた時に連れてきた人だ。このゲームは基本的に三人一組なので私とあの人では一人足りない。そうなってくると当然私に誘える友人なんて居ないので彼女が連れてくる事になり。それで知り合ったのが彼だ。それ以来FPS以外にもたまに三人で集まっては色んなゲームをするようになったけど、彼から誘ってくるのは今日が初めての出来事だったりする。

 

『いいですよ、vc繋ぎますね』

 

『よろしくお願いします』

 

 ホントは一人でやりたい気分だったけどせっかくの誘いを断ることが出来なかった私は、何となく了承をしてしまった。

 

『あーあー。AIちゃん聞こえてますか?』

 

「はい、ちゃんと聞こえてますよISIさん』

 

『よっしゃ、キャラ何使います?』

 

「私は特に……そっちに合わせますよ」

 

 彼は少々不思議で奇妙な人だった。結構物事をハッキリと言うタイプの人で、私の周りには居ないタイプの人間。そうであるのにも関わらず、何故か私に対しては物腰が柔らかと言うか敬語まじりの丁寧な口調で話す。

 

 ISIさんはあの人のクラスメイトだ。よって彼は高校生であり、私よりだいぶ歳上ということになる。それなのに私にはいつも丁寧な対応をとる。あの人とは普通に喋っていたので敬語が癖というわけではないのだろう。最初はお互いに人見知りなのが原因だと思っていたが、最近になってその理由がなんとなく分かるようになった。

 

 多分、彼は私の事が苦手なのだろう……何が理由なのかは分からないけど、私と話す際に時折見せる。彼の息が詰まった様な声色でなんとなくそう感じてる。日頃、人の機嫌を伺う様な生活をしているからこんな風に思ってしまっただけかもしれない。けど……そんな生活をしている私だからこそ分かる、確かな事だと感じている。こうやって彼の方からも誘ってくれているので嫌われてはないと思うが、人に苦手意識を持たれているというのは。少し、寂しくも思う。

 

 そうこう考えてている内に早くも試合が終わる。一戦やった結果は惨敗。別に珍しくもないよくあることではあるけど。何を思ったか、ISIさんは私に疑問を問いかけた。

 

『AIちゃん……何かありました?』

 

「ど、どうしてですか……?」

 

『なんか動きがいつもと違うっていうか。変だなって……』

 

 確かに今日の私はいつもの力が発揮できなくて、惨敗を繰り返していたけど、一戦やっただけで分かるものなのだろうか?

 

 ふと私は、何処かで聞いた言葉を思い出す。親しい人に相談するのは難しいが、関係がない他人だからこそ相談ができると言った様な話を。カウンセリングなどがいい例であろうか。

 

 しかし、急にこんな事を話したら迷惑ではないかという思いも私の頭を駆け巡る。いや、そもそも彼は真面目に聞いてくれるのか?私が相談しようとしている人は医師でもカウンセラーでもなく。普通の高校生だ。急に炎上やら何やらを話したとしても迷惑でしかないに決まっている。その結果更に人が離れていくのならもう私は耐えられない。だったらやっぱり……

 

「あ、あのっ……!」

 

『ん?どうしたの?』

 

 

 

 

「人生相談が……あるんですけど……」

 

 

 

 

 どうやらこの時の私は相当参っていたようで。誰でもいいから話を聞いて欲しかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 






一応この作品は育つ環境が変われば人も変わるでやってきてましたが。原作でも重曹ちゃん虐めるのたっのしーがあったので、元からあかねちゃんにはそういう気質が隠れてたんだと安堵した次第です。

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