アカネアイ   作:青空の夜天

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事細かく描写したりはしないと思います。ですが、ここから先はアニメではまだやっていない話が出たり登場していないキャラクターが出る可能性があります。

重曹ちゃんとあかねちゃんの関係性とかは多分アニメ一期の範囲内ではやらないと思いますが。

一応、アニメ勢へ注意喚起をしておきます。


今日は甘口で編
元・天才子役との現場


 

 電車から降りてしばらく歩いていると学校を()したハウススタジオに着く。ここが今回の現場だ。

 

 流石に学園を舞台にした恋愛ドラマなのもあってか。今回のロケ地であるここは充分な期間押さえてあるらしいので本読みからランスルーまで相応の時間が取れるみたい。軽い顔見せがてら一話の撮影現場を見た時はどうなることかと思ったが。一応しっかり完成させる気があるらしくてちょっと安心した。

 

「ふぅ……まずは挨拶に行かなきゃ」

 

『うん、挨拶は基本だね!』

 

 アイさんの同意を受けながら監督さんにディレクターさん。スタッフさんにカメラマンさんと次々と挨拶を済ませる。少々面倒くさいと思われるかも知れないがアイさんの言う通りこれは基本中の基本。ここを疎かにすると私の未来は狭まってくる。

 

「黒川あかねです!本日からお世話になります。よろしくお願いします!」

 

「ああ、僕はプロデューサーの鏑木勝也(かぶらぎまさや)。よろしくね」

 

 最後にプロデューサーさんへの挨拶を済ませて取り敢えずはひと段落。一旦現場を少し離れてこれからを考える。後は役者さんだけか……

 

『鏑木さん…………』

 

 不意にアイさんがさっきの人について呟いた。私は珍しいこともあるもんだ。と思ったのでアイさんに追求してみる。

 

「アイさんは鏑木プロデューサーの事。知ってるんですか?」

 

『う、うん。私がまだ全然売れてなかった頃いろいろお世話になった人。営業先を紹介してくれたり。美味しいお店を紹介してくれたりね』

 

「ふーん。じゃあ、アイさんにとっては芸能界での恩人。みたいな感じですか?」

 

『うーん、まあ、そんな感じ?あと…………いや、これはいいか……』

 

 なんかあんまり詮索して欲しくなさそうな感じだな〜。それにこの話を広げたそうにも思えない。

 

『でもあんまり信用し過ぎない方がいいよ?あかねのルックスなら目に止まるかも知れないけど。あの人、結構な拝金主義だから。頼りすぎると痛い目に合うよ』

 

「分かりました。気をつけます」

 

 とは言いつつも私は鏑木プロデューサーへの注目度を一段階上げる。その理由は一つ。アイさんが何年も前に会ったきりの人の名前を正しく覚えていると言う事実があるからだ。

 

 アイさんは基本的に顔と名前を覚えるのが苦手だ。だけどアイさん自身が価値を認めた人はべつ。つまりあのプロデューサーは相当なやり手であるということを私に認識させるのには充分な理由。

 

ねぇ!

 

(現場を見た時にも思ったけど。どうも選ばれた役者は顔がいい人が多かった。さっきのアイさんの発言と合わせると……鏑木さんは外見至上主義のキャスティングをする傾向がある?だとしたら……)

 

「ちょっとあんた!」

 

 私が考え事をしていると後ろから声をかけられる。振り向いてみるとそこにいたのは、あどけなさの抜けない顔をしているこのドラマの主演女優であった。

 

「声かけてんだから無視してんじゃないわよ!」

 

 ……はぁ〜〜。どうやらとっても面倒くさい人に見つかってしまったらしい。

 

「それにしても。あいっっかわらず!シケた顔してるわね。そんなんじゃ仕事も幸せも逃げていくわよ」

 

「……ああ、かなちゃんいたんだ?小さくて気づかなかったよ。かなちゃんも相変わらず一部の層に需要ありそうな素敵なお顔をしてるね……」

 

「喧嘩なら今すぐ買ってやるわよ。黒川あかね!」

 

 この煩わしい人の名前は"有馬かな"。童顔なので間違える人も多いが一応高校生で、芸歴は私より先輩である。

 

 実を言うと私はこの人に憧れて芸能界に入った。最初はかなちゃんとお友達になれればいいな。なんて思っていたが実物はコレである。

 

 

 

 

 それにかなちゃんを見るとどうしても初めて合った時の事を思い出してしまって複雑な気持ちになる。確かあの時は──

 

『演技がどうでもいいなんて。かなちゃんホントは思ってないんだよね?だってかなちゃんは──』

 

『分かった様な事……』

 

『何その帽子。私の真似のつもり?馬鹿みたい』

 

『私はあんたみたいなのが一番嫌いっ!』

 

 

 

 

 なんて言われたっけ。あの時はかなりショックだったな〜。もし私が役者一本で行くことを目指していたり。アイさんのフォローがなかったら。かなちゃんへの思いはもっと拗れたものになってたかも……

 

 でもアイさんが芸能界の現実を話してくれたから。あの時のかなちゃんの気持ちが分かる。仕事が減っていって。段々と必要とされなくなって不安だったはず。なまじ昔の知名度がある為いま世間では育成失敗とまで言われているのを私は知っている。

 

 それでもめげずに今日まで女優をやってきている所は素直に尊敬できる。……まあ、性格も昔よりは……すこ〜しだけマシにはなってるし?

 

「あかね、今日の現場。わかってるんでしょうね?」

 

「分かってるよ、"抑えれば"いいんだよね?」

 

 そう、このドラマはあくまで売り出し中モデルの為の宣材。世間では名作と言われている【今日あま】がドラマ化されるとなり。結構な話題にはなっているが。一話が公開されればその興味も失せるだろう。

 

 男性の役者は誰も彼も基礎すら出来ていない素人が多く。それは主演俳優ですら変わらない。

 

「流石ね。あんな大根役者どもに混じって私やあんたが全力で演技なんてしてみなさい。あっという間に奴らの大根ぶりが浮き彫りになってぶり大根よ!」

 

 ぶり大根は意味がわからないが。かなちゃんの言っている事は正しい。スタッフは私達に凄い演技を求めている訳ではない。

 

「大方、あんたや私を使ってなんとか観れる作品にはしたいんでしょうけど、メルトを見てたらそれもどうなるか分からないわ……」

 

「そうだね。でも、私としてはなんとか完成させたい気持ちはあるよ。吉祥寺(きちじょうじ)先生のこともあるしね……」

 

「ああ、あんたもあれ見たんだっけ?あの失望した顔はキツかったわね……」

 

 あの心底ガッカリしたであろう顔はまだ出てない私でもかなり堪えた。スタッフも優秀そうだしなんとか先生がドラマ化を受けて良かったと思える作品にしたい。

 

「よう、かなちゃん。こんな所でガールズトーク?」

 

 不意に声をかけられた方を見てみると。とても顔立ちの整った男性が話しかけてきた。

 

「メ、メルトくんこんにちは。今日もいい天気だね」

 

 私はかなちゃんの変わり身の早さに流石は元・天才子役だな。と心底感心する。この人現場でどれだけ猫被ってるんだろう?

 

「えっと、紹介するね。この子は私が演じる子の友達役……」

 

「黒川あかねです!本日はよろしくおね──」

 

「ああ、端役(はやく)の子ね。よろー」

 

 そう言って彼は言い終わる前に私の前を通り過ぎてしまった。

 

「あかね気にしなくていいわよ。向こうも若いし。トントン拍子で売れてる子には良くある事でしょ?」

 

「そうだね。丁度むかしのかなちゃんを思い出したよ」

 

「ごふぅ……!あ、あんたね……的確に心を抉る言葉の刃飛ばしてんじゃないわよ……」

 

 別に彼の名前は知っているので問題はない。確か、名前は鳴嶋(なるしま)メルト。このドラマの主演で今絶賛売り出し中の若手モデルだっけ。

 

「それでは本読み始めまーす!問題なかったら即リハで!」

 

 スタッフさんの声が現場にかかる。どうやらお話の時間は終わりの様だ。

 

「行くわよあかね。あいつらの大根っぷりに度肝抜かれるんじゃないわよ」

 

「一回みたから多分大丈夫だと思う……」

 

 

 

 

 

 

 そして本読みが始まった。私はセリフが少ないので特につっかかる事はなかったが。間近で見ると男性陣の演技力には参ってしまう。まあ、みんな素人同然だからしかたないっちゃないけど。

 

「オマエソンナカオシテテタノシイノ?」

 

『うわー。あの人なんて言うか……下手すぎるね。全部カタカナで聞こえちゃうよ』

 

(あまり言わない方が良いですよアイさん。確かにクオリティは気になりますが主演の人は他の人よりわずかにマシです)

 

 そう、まだセリフだけの段階だが誰も彼もひどい演技である。しかし主演を始めとして皆最低限。セリフを覚えるなどは出来ているらしい。なので本読みは意外とスムーズに終わった。

 

「じゃあ、そのままリハ始めまーす!」

 

 まず役が回ってくるのは私とかなちゃん。かなちゃんが演じる拒食症の主人公と私が演じる。それを心配する友達のシーン

 

 

 

 

「ねぇ、ねぇ。あっちで一緒に遊ぼーよ!」

 

「私に近づかないで……人間は嫌い。自分の事しか考えてないから……」

 

「そんなことないよ。転校生の青野くんだってあなた事心配して──」

 

「話しかけないでって言ってるでしょ!それと青野カナタの名前は出さないで!」

 

 

 

 

 

 

「はい!オッケーでーす!」

 

 

 ふぅ、なんとかものにはなったけど。相変わらずかなちゃんは受けが上手い演技をするな〜

 

「あんた……良く一発でこの空気に合わせられたわね。私も結構苦労したのに」

 

「うん、むかしから合わせるのは得意と言うか……無理矢理やらされてたと言うか……」

 

 アイドルをやってた時はメンバーを上げる役にずっと徹してたからね。経験とは何処で生きるのかわからないものだ。

 

「これならあんたは問題なさそうね」

 

「もしかして心配してくれてた?」

 

「アホ!あんたの演技力なんて心配するだけ時間の無駄でしょ。そんな暇があるなら壁のシミでも数えてた方がマシよ」

 

 この人は素直に褒めるというのが出来ないのだろうか?

 

「あんたの出番は終わりでしょ?じゃあ、私が大根共と演技するのをそこで見てなさい。こっからが辛いとこよ」

 

「主演さまは大変だね!」

 

「そうね、あんたにも分けてあげたいくらい。あっ!?ごめんなさ〜い!私が主演とっちゃって!優秀すぎて申し訳ないわ〜!」

 

「プクーーーッ!」

 

 もう、もう、もう。いっつも一言多いんだから!あの恐ろしい現場の中でもっと苦労しろ、もっと苦しめ。有馬かな。

 

 

 

 その後クオリティには心配が残るものの。リハーサルはつつがなく終了した。役者は休憩の時間となり。かなちゃんは疲れたのかどっかに行ってしまった。なので私は暇つぶしも兼ねて、その辺を散歩してみることにする。

 

 

『何か不満そうだね〜?』

 

「よくわかりましたね。アイさん」

 

『まあ、伊達に長年見てきてないからね♪』

 

 そう、アイさんの言う通り不満はある。それは自分勝手な願いだから口にだす様なものではない。だから心の中で言葉を吐く。

 

 あーあ。せっかくかなちゃんの久しぶりの主演なんだからもっと本気のかなちゃんを見たかったな〜。ファンとしても役者としてもどれくらい演技が上手くなったのか気になるな〜。何かいい方法ないかな〜。

 

 

 そんな事を思いながら散歩をしているととある空き教室に着く。そこから僅かに声が聞こえる。誰かいる?あそこにいるのは……鳴嶋メルトくん?

 

 バレない様に静かに覗いてみるとある光景が私の目に入ってくる。それは役者であればごく普通の光景。皆んな誰もが目にしたことがあるはずのなんてない光景。

 

 ふーん。なるほどね〜。……そうだ!いい事思いついた!アレをこうしてアレすればもしかしたらやりようは……

 

 

『あかねなんだか悪い顔してるよ?何か企んでるの?』

 

「えっ!?そんな顔してた?べ、別になにも考えてないよ……?」

 

『分かりやす過ぎ……その様子だと何か私に頼みがあるんじゃない?』

 

 くっ!流石は嘘の達人。もう大体察しがついているのかもしれない。

 

「ねぇ、アイさん……どうにかあの子に私の演技を見せて上げる事って出来ないかな?」

 

『別に普通に言えばいいじゃん。わたしの演技みてくださ〜いって』

 

「む、無理ですよ!もしそんな事言って鳴嶋くんに『は?つかお前だれ?』なんて言われたら気まずくなって現場に出れなくなっちゃいますって」

 

『う〜ん、相変わらず陰のオーラ全開だね。強くはなっても根っこは変わってないか……』

 

 ぐはぁ!だって想像してみて欲しい知り合いでもない男の子からしかも一応、仕事仲間の子からそんな事を言われて平気な顔して「いいから私の演技を見ろ!」なんて言えるだろうか?私は言えない。

 

『わかったよ。要するにあの子の時間をちょっと拝借してあかねの演技を見て貰えばいいんだよね?』

 

「……はい、お願いします……」

 

『じゃあ時間もそんなにないし。早速始めよう!集中してね』

 

 

 ふぅ〜っと息を吐きながら私は目を閉じる。そこから両手をピースサインの様な形にしてそのまま自分の(ひたい)くらいにまでもっていく。そして舌を少しだけだす。このポーズは今やろうとしてる事に対するルーティンの様なもの。恥ずかしいので人前では絶対やりたくない。

 

 そのまま息を吐きながら意識を身体から切り離すために集中する。これは私が演技をする時に近い精神。自分という存在を一旦身体から追い出し、他のものを取り憑かせる様なそんな感覚……

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 …………………

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぇい⭐︎」

 

 

 

 

 

 

 





【有馬かな】

"10秒で泣ける天才子役"として一才を風靡した高校生女優。

才能と長年の努力もあり。周りの演技を器用に受ける"適応型"の演技は他の追随を許さない程の出来栄え。しかし世間ではもう終わった存在だと言われていてその事をかなり気にしている。

とにかく口が悪いのが特徴的でラインを超えた失言をしてしまう事もしばしば。

度々現場で一緒になるあかねとの関係性は原作通り険悪で相性最悪。ただ、アクアの事もなくお互いに女優としての底辺を味わっている似た立場なのもあって言う程の確執がある訳ではない。売り言葉に買い言葉をしているだけ。むかしあかねに放った発言は今もあかねの中に残っているが本人は覚えていない。

原作との違いは。あかねの実力を純粋な気持ちで認めており。なおかつそれでも売れていないあかねに対し自身を重ねていて同情の気持ちがある。なのでこれでも悪口を抑えている。

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