アカネアイ   作:青空の夜天

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アニメのピーマン体操可愛かった。


本音

 

 

 

 

 

 今日も憂鬱な気分で私はハウススタジオに足を運ぶ。何故気分が落ち込んでいるのか。仕事だから?天気が曇っていて優れないから?そんな理由ではない。

 

 最初の頃は大好きな原作のドラマ化で久し振りの主演という理由もあり、やる気に満ち溢れていて。私がこのドラマを成功に導いてやる。という一種の責任感さえ持ち合わせていた。

 

 しかし蓋を開けてみたらこれはなんだ。売り出し中のモデルを使う事しか考えていないストーリーに演技の基礎も出来ていない所か、やる気さえもない演者。そしてその演者の御機嫌取(ごきげんと)りをしながら演技をする自分。

 

 私が大人にとって品質貢献に務める都合の良い役者なのは分かっている。私だって使ってもらえるならそれでいいとさえ。だけど、大人達から見放され仕事が無くなっても足掻き続けた末路がこれとは。気分も落ち込むというものである。

 

 いや、それが今まで他人を(ないがし)ろにしてきた私への罰なのかもしれないわね……

 

 

 

 

 

 私以外にもこの現場には演技出来る奴が一人いるけど、彼女が何を考えているのかまでは私には分からない。

 

 撮影現場の現状に納得している様にもそうでない様にも見えた。でもそれは私がそう見えたってだけ。あの子との付き合いはそこそこ長いけど特別、仲がいいわけじゃないし。いや、むしろ悪いと言っていい。

 

 そんな奴でも一つだけ分かっているのは"芝居"が圧倒的に上手いという事実。その才能は長年芸能界を見てきて"天才"と言われていた私でさえも"天才"と言わざるをえない程に。

 

 最初に抱いた感情は嫉妬だ。あの子は私にはない物を、まるで役が彼女に憑依しているかの様なそんな技能を持っている。しかもそれが同い年と言うからには恨めしい気持ちもでてきてしまう。

 

 彼女は私とは違う。真面目で外面が良い性格で大人達からの評価もいい。役者に必要なのはコミュ力というのを体現した存在と言える。そう思っていた私だが、いざ話してみると見当違いだったと気づいた。

 

 初対面の時。私は嫉妬の気持ちもあり。つい、嫌味な事から話してしまったのだがそれに対して彼女は文字通り苦虫を噛み潰した様な酷い顔でこう切り返してきた。

 

『ああ、有馬かな、かなちゃんね……知ってるよ。最近見ないと思ってたけどまだ役者やってたんだ?私がしみったれた顔をしてるんだとしたらそれはあなたが原因かもね。……元・天才子役さん?』

 

 そんな風に返されると思ってなかった私はさらに悪口がヒートアップしてそこからは売り言葉に買い言葉。私達の第一印象はお互いに最悪だったと言っても過言ではないだろう。

 

 だけど、何回も現場が一緒になるにつれて彼女に対する悪い感情は徐々になくなっていった。私は自分でも性格に難があると思っている。だから現場では本心を隠し、嘘をついて人と接してきた。だけど彼女の前ではその演技をしないでいられている事になんとも言えない気持ちがあった。他愛もない話から、ちょっとした言い合い。演技の話では自分でも驚く程に彼女との会話は弾んだ。

 

 こういうのを張り合いがある相手とでもいうのだろうか。いつしか私の中で彼女は憎い相手ではなくなり。本心で話せて、尚且つ負けたくないと思える様な、そう、例えるならばライバルと言ってもいい存在になっているのだと感じていた。

 

 今回の現場で一緒になると知った私の感情は嬉しさも悲しさもない。せいぜい「へーまた一緒なんだー」というくらいのごく普通の感情。

 

 だけど、私は何処か彼女に期待をしている。この現場の意図を理解してもなお、納得はいっていないであろう彼女が現場の雰囲気を変えてくれる事に。人に期待するなんて私らしくもないけど何故かそう思ってしまう不思議な魅力があの子にはあった。

 

 

 総じて私から見た"黒川あかね"は。

 

 何を考えてるのか分からないが、一緒にいて悪い気はしないのにどこか気に入らない。自分の売り方が下手である、不思議な天才役者。

 

 

 もうちょっと器用なら今以上に売れると思うのよね〜。見た目もいいんだしそこを重点的に売り出せばって……それは私が考える事じゃないか……大体私は、他人の心配なんかしてる暇ないっつの。

 

 

 

 あーあ、ほんとうに……変なヤツ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【今日は甘口で】第三話収録現場

 

 

 リハーサルが終わり休憩になった時間。私は椅子に腰掛け、考え事をしていた。何故考えこんでいるのかというと。前回までにはなかった明らかな違和感を感じていたからだ。それはなにかというと……

 

 

 

 鳴嶋メルトの様子がおかしい。

 

 

 

 彼については相手役というのもあり特に気にしていたけど、その様子は前とは全く違っていた。現場に入る時には真っ先にスタッフへの挨拶を済ませ。リハの演技も前より少しだけ良くなっていて。何よりも演技に対しての情熱を彼から感じる。

 

 一話が公開され予想通りこの作品は酷評されている。あまり気にしない人だと思ってたけど何か思う所があったのだろうか?特に酷評の中でも演者に対しての批判は酷かったから。まっ、私も同意見だけどね。

 

 なんにせよ座長として彼のメンタルが大丈夫なのかは確認しなければならない。嫌な役回りかもしれないけど、演者を(なだ)めたりするのも私の仕事だし。

 

 私はメルトを探して歩き回った。しばらく探しているとちょうど良く一人で居るメルトを発見したので声を掛けてみる。

 

「メルトくんお疲れ様、今日はいつもと違うね……何かあったの?」

 

「ああ、かなちゃんか……」

 

 彼の反応は思ったよりも薄い。疲れているのだろうか?いつもだったら「湿気が多いと髪の調子が……」とか、「撮影ダルくね?」など、相手にするには少し面倒な絡み方をしてくるのだけど。

 

「どうしたの?ちょっと疲れた?よかったら私、お水持ってくるけど……?」

 

「……………」

 

 私の行き過ぎた気遣いにも反応を示さない。いや、顔を見てみると何処か申し訳なさそうな顔をしている。しばらく気遣う様に言葉を投げかけていると彼は意を決したかの様な表情で口を開く。

 

「なあ……かなちゃ…………いや、有馬。俺相手に演技なんかしなくてもいいぞ」

 

 驚いた、彼は昔の私なんて知らないはずだし、私も本音で話した事なんてない。何よりも彼は人の心情を伺う様な人間には思えなかったから。

 

「俺さ……自分がどうしようもない下手くそだってもう分かってるんだ。有馬にも迷惑かけたよな、悪い」

 

「そんなこと……」

 

「気なんか使わないでくれ、自分の駄目さ加減はもう分かってる。見てらんねぇ演技だってのはな……」

 

 まさか彼に自覚があったとは。しかしこれは困った、ここから彼をどう立ち直らせればいいのか私には分からない。このままではドラマが駄目になってしまうかもしれない。そんな風に自身の役割を考えていると彼から発せられる言葉に続けて驚く事になる。

 

「でもさ、そんな俺でも何かこのドラマで出来る事があるんじゃねぇのかって。必死でやりゃ、もっとこの作品は観れる物になるんじゃねぇのかと今は思ってる」

 

「俺、素人だから細かいテクとかはまだわかんねぇけど今は基本的な所から修行中って感じ。だから……有馬もさ──」

 

「駄目な所があったら遠慮なく言ってくれ!絶対直してみせるから!」

 

「…………メルト……あんた……」

 

 彼の中で何が起きたのかは知らない。だけど、間違いなく言えるのは前までの彼とは明らかに違うという事。彼の中で何かが変わったのだ。

 

 次に放った発言は私の悪い部分が出てしまった。ここまで色々溜め込み過ぎてて自分の中でストレスがあったのもあるけど。それとは別に。彼がどれだけ本気なのか気になり、我慢していたありのまま全部を彼にぶつけてみたくなったのかもしれない。

 

「あっそ、じゃあ言わせてもらうけどね!まずあんた演技下手すぎ!どこから言っていいのかわからないくらいに超下手!台詞の抑制の付け方とか無茶苦茶だし!振りとか大袈裟すぎるし!感情なんかまるで乗ってないし!後、なんなの!?いかにも自分は顔がいいですよって言ってる様なあのカッコつけた演技は!こういうの共感性羞恥って言うんでしょうね!あーやだやだ、一緒にやってて恥ずかしいったらありゃしない。そんであんたの話ってなんで面白くないのかしらね!顔にかまけて周りが勝手にちやほやしてくれてたのが話してて分かっちゃうくらいには面白くない!後、態度も最悪だったわね。この前のあかねとの挨拶とか。芸能界では周りの目は必ずどこかにあるんだから気をつけた方がいいわよ。事務所の教育しっかりしてるの!?」

 

 勢いに任せてつい演技以外の自分にもダメージがくる発言をしてしまったけど。概ね言いたい事を言えて私の心は満足感で溢れていた。

 

 あ〜スッキリしたー!…………じゃないわよ私!主演をボッコボコにしてどうすんの!いくらなんでも言い過ぎでしょ!

 

 やってしまったと思った時にはもう遅い。彼も幻滅した事だろう。

 

 私は恐る恐るといった感じでメルトに視線を向けると。流石に彼も引き()った顔で──

 

「おまえ……マジで悪りぃのな……」

 

「そうよ、これが本当の私。どう?幻滅したでしょ?」

 

 私は自分が人に好かれる様な性格ではないのを自覚している。面倒で、捻くれていて。口を開けば嫌味ばかり。こんな性格だから友達なんてまともに出来ないし、会う人、会う人が気付けば離れていく。

 

 今回もいつもと同じ。私が好き勝手言っていつのまにか離れていく。別に主演同士無理に仲良くする必要はないが悪すぎるというのもよくはない。ここからなんとか挽回出来る方法があればいいのだけど……

 

「別に、それが有馬なんだろ?」

 

「は……?」

 

「まあ、聞いてた以上に口が悪くて若干引いたけど。言われてる事は全部覚えがあるっつーか。仕方ねぇなって部分もあるし。俺も言われなきゃ気づかなかった事なんだよな……それに、よく現場を見てる人間じゃねぇと言えないことだと思う」

 

 

 

 

「だから、正直に話してくれてマジでサンキューな!」

 

 

 

 

 おかしな奴だと思った。普通これだけ言われたら嫌な気持ちになるでしょ、ありえないって思うでしょ。あんたはなんでそんな笑ってられるの?訳わかんない……

 

「あんた……ほんとに変わったわね……」

 

「かもな、俺が変わったのは多分、この芸能界(せかい)で本音を話せる奴が増えたからなのかもしれねぇ……」

 

 本音で話せる人か……私とは縁のない言葉だと思ってたけど。一人、気の置けない人物がいるのを思い出した。そういえば今日はあいつと話してない。メルトが変わったのも、もしかしたらあの子が関係してたりして…………なんてね。

 

「それよりさ、ここの部分だけど。有馬は何を思って演技してるんだ?俺にはどうも主人公の心情ってやつがわかんなくて」

 

「ああ、ここはね、簡単に言えば嫉妬してるのよ。ファッションショーに出演して人気者になってるカナタにね」

 

 演技の素人に演技指導か……そういえば私って誰かに何かを教えた事なんてあったかしら……?

 

「なるほどなー、つまり俺はその主人公を気遣う様な気持ちで演技すれば……」

 

「馬鹿!それに気づくのは早すぎるでしょ!まだその段階までいってないのよ!ここから生まれるすれ違いが視聴者をヤキモキさせたりするんだから!」

 

「なんだよ!じゃあこいつは主人公の気持ちに気づかない鈍感野郎だって言いてぇのかよ!」

 

「あら、よく分かってるじゃない。だからここはあんたお得意のカッコつけ鈍感演技を生かせるシーンでもあるのよ。原作を読んでる私の話はちゃんと聞いておいた方が身のためよ〜」

 

「お、お前は素直にアドバイスするってのが出来ねぇのか……」

 

「普通にしてるんですけど!あんたがもっと理解力高ければこっちも苦労しなくてすむのにね〜」

 

「こいつ……先輩と全然違うじゃねぇか……」

 

 先輩?事務所の先輩だろうか?誰のことかは分からないけど。大方、その先輩って人に態度が悪すぎてこってり絞られたのかしらね。

 

「メルト!こうなったら本番まで台本の確認するわよ!付き合いなさい!」

 

「おう!望む所だ!聞きてぇこともまだまだあるしな!」

 

 いつの間にか、私の中で燻っていた憂鬱な気分が吹き飛んでいることに気づく。今日まで、どうしようもないドラマだと思ってたけど、頑張ってる奴が一人でもいるなら諦めるのはまだ早い。この作品だって捨てたもんじゃないのかもしれない。

 

 気遣いの必要がない人間関係か……

 

 

 

 

 ふふっ、こういうのも案外、悪くないのかもね。

 

 

 

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