アカネアイ   作:青空の夜天

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最近原作を読み返して気付いたんですけど。

あかねちゃんの本名って黒川茜なんですね。初めて知りました。


気に食わない

 

 

 

 

 

 今日の撮影が無事に終わり、現場も一息ついた頃。私はある人物を探して歩き回っていた。

 

『撮影お疲れ様〜早く帰ってアイス食べよー』

 

「待ってくださいアイさん。ちょっと気になる事がありますので」

 

 それはメルトくんの事だ。あまり現場で接しすぎるのは良くないと思ったから、今日はほどほどに挨拶しただけなんだけど。

 

(なんだかいつにも増して今日はやる気に満ち溢れていてコンディションも好調に見えたんだよね。何かあった?)

 

 それともう一つ、疑問に思った事がある。それは私が密かに気になっていた有馬かなの事。どうにも今日のかなちゃんはいつもと違っていた。いつもの様につまらなそうで苦しそうな顔をしていなかった。

 

 彼女の中で何かが変わったのか……?一度話をして確かめておきたい。

 

『もしかして、アルトのこと気にしてるの?相変わらず心配症だねー』

 

「まあ、それもありますけど今回は別件です。大体、メルトくんはこの後すぐ仕事があるって言ってましたから、話す時間はありませんよ」

 

 アイさんが名前を間違えているのには一々突っ込みをいれない、無駄な労力を使いたくないから。

 

 だけど、これとアイさんの性格もあってか。メルトくんからの扱いが私とアイさんでは違うという事にアイさんは気づいているのだろうか?仮に気づいていたとしてもアイさんに問題があるのでフォローするつもりはないけど。

 

 見つからないならそれでもいいや、という気分で辺りを彷徨(うろつ)いていると。都合よくも、壁にもたれかかって考え込んでいるお目当ての女子高生女優を発見したので声をかける。

 

「あっ、かなちゃんお疲れ様ー」

 

「げっ、黒川あかね……」

 

 「げっ」とは随分と失礼な態度だ。いや、多分私もかなちゃんに声をかけられたら同じ反応をするかもしれないから人の事は言えないけど……

 

「……なんの用?こう見えても私。忙しいんだけど」

 

「嘘はよくないよ、かなちゃん。私と一緒で暇なのは知ってるんだから」

 

「あんた、自分で言ってて悲しくならないの?」

 

 勿論ダメージはバッチリ受けている。けど、この人の前で弱みを見せると散々つつかれるからね。自虐でもいいから張り合わなくてはいけない。

 

「そうだな〜用って程じゃないんだけど聞きたい事があって。かなちゃん、今日は機嫌が良かったね。何かあったの?」

 

 まずは当たり障りのない範囲で聞いてみよう。十中八九メルトくんの事だと思うけどね。

 

「あんたも気づいてるんでしょ、メルトの様子が変わってたの……」

 

 ほらきた。

 

「うん、気づいてるよ。雰囲気変わったよね。スタッフさんとの応対とかも丁寧になってたし」

 

「そうね……」

 

 やっぱり合っていたか、そりゃそうだよね。主演同士なんだから嫌でも顔を合わせて話す。

 

「驚いたわ、まさかあのヘボ大根が少し見ない間に随分マシになってたんだから」

 

「かなちゃんから見て今のメルトくんはどうなのかな?」

 

 まだレッスンを始めたといっても日にちがあまり経ってないから大きな変化はないと思うけど。せっかくだからかなちゃんからの評価も聞いておく。

 

「……全然ダメね。まだ素人に毛が生えた程度。私と張り合うどころか、主演を(まっと)うするにも足りないでしょうね」

 

「そっか……」

 

 あいもかわらず彼女からの評価は厳しい。

 

「だけど……」

 

「あいつの根性は買うわ。口答えが多いけど、言われた事はやり遂げるし、演技に対しての熱もある。もしかしたら、このドラマで化けるかもしれない」

 

 有馬かなにしては珍しい素直な称賛だと思った。かなちゃん相手にこの言葉を引き出すとは。なんだかんだで上手くやれてるのかもしれないね。メルトくん。

 

「んふふふふ、ふっふっふ。メルトくん。もしかしたら何か良いことでもあったのかもね〜」

 

「何ニヤついてんのよ、気色悪い」

 

「なっ!?ひ、ひどくない!?」

 

「だったら、そのにやけづらを今すぐにやめなさい。ろくな事考えてないでしょ、透けて見えるわよ」

 

 この人は本当に口が悪い、面と向かって言われると落ち込んじゃうくらいに。だからその対処法となる接し方は下手に出るのではなくて、正面から思いっきりぶつかっていく事。

 

「なんにせよ、かなちゃんがやる気になったみたいで良かったよ。これでピーマン体操で消えていった天才の本領が見られるのかな?」

 

 

 私は自分で思ってた以上に卑怯だった。

 

 

 で、でも仕方ないよね。私がかなちゃんに反撃出来る手札はあまり多くないし、ピーマン体操は今でもスーパーとかで聞く名曲だけど。有馬かなにとってはウィークポイントなんだから攻めていくしかない。

 

 いや、ごめんなさい。取り繕ってみたけど。ちょっとイラッときた。ただそれだけです。

 

「ふ〜ん、あれあれ〜。私にそんな口聞いてもいいのかしら〜」

 

「何ニヤニヤしてるの?気持ち悪いよ」

 

 おかしい、いつもならピーマン体操の話題を出しただけで、しょぼんってなるのに。

 

「今回の私は切り札を持ってきてるのよね〜」

 

 そう言いながらかなちゃんは持っているバックをゴソゴソと漁り始める。なんだろう……すごく嫌な予感がする。

 

「一緒にカラオケに行った事あったじゃない?そん時あんた。無駄に歌がバチくそ上手かったのをこの前思い出したの。それで、そういえば黒川あかねって名前も結構前から聞き覚えあったな〜って思って調べてみたら……」

 

 かなちゃんが取り出したのは雑誌の切り抜きファイル。それを開き私に見せつけると、口に手を当ててわざとらしく煽る様な口調で喋り出す。

 

「えっ!?もしかして!ここに写ってるフリフリの服を着た女の子ってあかねちゃん!?まぁ〜今と違って初々しいわね〜。あなたもそう思わない?ねっ、元・アイドルの役者さん?」

 

 写っていた写真は紛れもなく中学生時代の私だった。

 

「うああぁぁぁぁぁあ!!!な、なんで!?なんで!?」

 

 どうして?どうして?なんで知ってるの?調べたって……普通ここまでする!?どれだけ人を煽る事に全力なんだこの人は。

 

「あらあら、取り乱しちゃってどうしたのかしら?えーとなになに『これからも皆んなの足を引っ張らない様に頑張ります!』ですって!真面目な子なのね〜」

 

『うわ、懐かしい〜。この時のあかねも可愛かったな〜』

 

「やめて、やめて!お願いだからもうやめて〜!」

 

 多方面からの容赦ない追撃。未熟な私を見られるのがこんなに恥ずかしいなんて。初めての経験だ。

 

「とまあ、この様に誰しも黒歴史ってのはあるものなのよ。理解出来たかしら?」

 

「別に、私はアイドルやってた事に後ろめたい気持ちはないよ。かなちゃんの過去と違ってね!私はただ──」

 

「『私も憧れでこの世界に入りました!あ、えっとですね。私の憧れたアイドルっていうのは──』」

 

「分かった!分かったから!お願いしますやめてください。有馬かなさん!」

 

 私は初めてかなちゃんに本気の懇願をしたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はースッキリしたー!今日は溜まりに溜まったストレスが解消されていい一日だわー」

 

「あはは……そうですか……」

 

 溜まっていた物を吐き出して上機嫌なかなちゃんが私の目の前にいた。もしかしたら、今日機嫌が良かったのはメルトくんにも我慢してた物をぶち撒けたからなのかもしれない。

 

「で、ついでに聞きたいんだけど……これってマジなの?」

 

 かなちゃんが指さしたのは多分私がアイドルを辞める前に答えた最後のインタビュー。

 

「『今は出来ないけど、いつの日か必ず!超すごいアイドルになって戻ってきます!』って書いてあるけど。あんた……今でもアイドル。目指してるの?」

 

 やっぱりそうだ。かなちゃんが言っているのは解散前に答えた最後のインタビュー。解散時にはグループの注目度も低くなって小さい記事になってたから、探すのも大変だっただろうに。よく見つけたものだ。

 

「そうだよ、今でも私はアイドルになるのが夢。アイドル志望の売れない役者……それが私。といってもオーディションも結構落ちててまだ受かってないし。先は長いんだけどね……」

 

 もちろんアイドルを辞めてからもレッスンは欠かさず行なってる。それでも私が報われる事はない。アイドルとして人気になる道が険しい事だって分かってる。何度も挫けそうになったけど。私はまだ昔の誓いを忘れた訳じゃない。諦めるなんて絶対に……

 

「かなちゃんは……こんな私がアイドルなんておかしい、出来る訳ないって思うよね?」

 

 彼女はいつも通りの返しをしてくるのだろうか?もっとも、かなちゃんはアイドルなんて興味ないかもしれないけど……

 

 

 

 

 

 

「思わない」

 

 

 

 

 

 

 予想と違って聞こえてきたのは。芯の通った真っ直ぐな声であった。

 

 

 

「この芸能界(せかい)に居ると。『芸能界に夢を見るな』なんて言葉はごまんと聞く。でもね、私に言わせればそんなのは大人達の戯言よ、切り捨てなさい」

 

「確かに芸能界ってのは醜くて真っ暗で先が見えない恐ろしい場所よ。私だって大人の言葉に助けられた事もある。そんな世界で皆んなが食い物にされない様な『夢を見るな』『そんなの出来る訳ない』っていう言葉は。現実を捉えた素晴らしい言葉なんでしょうね」

 

「だけど私はこうも思う。芸能界が人に夢を見せる職業である以上。そこに勤めてる人達が人の夢を笑う資格なんてない!ってね」

 

「諦めろって言うのは簡単よ。叶わなかったら、ほら見た事かって言えるものね。でも、私はそんなの聞きたくないし、言いたくもない。だって────」

 

 

 

 

 

 夢は見なきゃ叶えられないでしょ

 

 

 

 

 

 何故だか、かなちゃんが今言った言葉は私の中にスッと入ってきた。もしかしたらこれは、芸能界で頂点と底辺を味わった彼女だからこそ言えた台詞なのかもしれない。

 

「だから私は、あんたの夢を笑わない。馬鹿な夢を見てるのなんてお互い様!」

 

「かなちゃん……」

 

「ふん!むしろ叶ったら精一杯笑ってやるわ!あんたが大人気アイドルになる頃には私は大女優!そん時はどっかの番組であんたの恥ずかしい話を暴露してやるんだから!」

 

 全くこの人は……

 

「その時は私も、かなちゃんの恥ずかしい話を暴露しちゃおっかな〜?」

 

「いや、本当にやめてください。私の方がやらかしは多いんだから受けるダメージはこっちの方がデカイぃぃ……!」

 

 流石は未来の大女優だね。子供の時に比べて失った物は多かったかもしれないけど、得た物も大きかったみたい。

 

「ありがとね。お陰で元気が出てきたよ。まあ、元気が無くなったのはかなちゃんのせいなんだけど……」

 

「仕掛けてきたのはそっちよ」

 

 かなちゃんが目指しているのはあくまで女優だ。だけど今の話を聞いた私はある妄想をしてしまう。彼女の夢に対する姿勢。それを見ていると。かなちゃんも……

 

「もしかしたらかなちゃんも、アイドルに向いてたりして……ね……?」

 

「は?やる訳ないでしょ。あんな消費が激しい職業。それに、私が女優を辞めたら……どっかでまだ頑張ってるはずの、私を負かした天才にも顔向け出来ないし……」

 

 かなちゃんを負かした人か……私は心当たりがあるかもしれない。

 

「でもやってみたら案外、人気になったりして……」

 

「あんた馬鹿なの?アイドルってのはね。黒川あかねみたいな素直で可愛い子が売れる職業なのよ。私みたいに面倒で捻くれた女じゃなくてね……」

 

 かなちゃんは意外と自己評価が低い。多分それは売れない時代に大人達の期待を次々と裏切ってしまったからなのだと思う。だけど今は、そんな彼女の実力を私は認めてる。きっとメルトくんだってそう思ってる。個人的にちょっと気に食わないって気持ちはあるけど。

 

「そ、そんな事ないよ……かなちゃんだって充分……」

 

「じゃあ試してみる!?………………どう?私、可愛い……?」

 

 そう告げるとかなちゃんは目元でピースサインしたアイドルっぽいポーズをとる。いきなりの事に驚くが、私はしっかりと有馬かなを観察してみる。

 

 艶のいい髪に。あどけなさの抜けない童顔。こんなポーズに慣れていないのか少々照れている。演技力は抜群で歌も上手い。子役時代から散々やってきたであろうから自分の魅せ方も分かっているはずだ。毒舌な事を気にしているみたいだけど、それもキャラとして売り出していけば……

 

 

 

「…………うん、まぁ……及第点はあるんじゃない……?」

 

 

「私も大概だけど、あんたも相当よね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "有馬かな"は太陽の様な存在だ。日陰に居る物もそうでない物も明るく照らしてしまう、そんな人間。生まれた時から演技の才能を与えられてそれを十全に使いこなす。

 

 今はもう枯れた存在だと囁く者も大勢居るが。その声を受けても尚、折れずに努力を続けてまだこの場に立っている。私はむしろ、昔の周りを食う演技よりも周りと合わせる事を覚えて、あらゆる経験を積み。成長して。周りすらも輝かせられる様になった今の方が素晴らしい演技を魅せてくれると思っている。

 

 確かに傲慢で皮肉屋なところはあるが、彼女が楽しそうに演技をすると誰もが魅了される。その姿はまるでアイドルの様だ。

 

 自分も周りも輝かせるのはアイドルにとって強い武器になる。自分も周りもなんて私には出来ない……両方を輝かせる事はきっとアイさんだって出来ない。夢を語る時に見せた彼女の確固たる精神。それが、かなちゃんの実力が変わった起因になっているのかもしれない。私はその実力が……羨ましい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "黒川あかね"は月の様な存在だ。どんなに燻っている物でも星々と共にその優しい光で静かに照らしてしまう、そんな人間。彼女は私には無い演技の才能を持っているだけでは飽き足らず。真面目で素直な性格をしている。少し擦れたところはあるかもしれないが……彼女を見ているとまるで自分が醜く写ってしまう程に。

 

 彼女と関わると誰もが(ほだ)される。どんな人間でも彼女を慕う。面倒すぎる性格をしている私が言うのだから間違いはないだろう。私が前と少し変わったのも……あの子が放つ光のせいなのかもしれない……

 

 演技に対しても一生懸命で好感が持てる。彼女が真の力を見せた時のまるで役が憑依しているかの様な演技は誰かが真似できる代物ではない。そして驚くべきはその精神力だ。あんな演技を続けているのに自我を失わずに強く自分を保てて。自然に周りにも気を遣える。何よりもその精神が私は羨ましい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には有馬かな(あなた)が眩しすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 私には黒川あかね(あなた)が眩し過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから私はあなたが気に食わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






重曹ちゃんに必要だったのは同じ目線で真正面からぶつかってきてくれる友達だったのかも……
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