ちょっと怖いかもしれない話   作:朝人

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最近更に暑くなってきたこともあり、気晴らしにホラー物を書いてみた私。
初めて書いたジャンルでそこまで怖くはないと思うけど、苦手な人は注意してね。
少しでも怖いと感じてくれたら嬉しいです。


旅館の押入れ

 唐突だが、幽霊はいると思いますか?

 ホラー、オカルトが好きな人はその大半が信じていることでしょう。悪霊の類は信じずとも守護霊とかそういった類いのものは信じる人もいるでしょう。

 では、「妖怪」はいると思いますか? 鬼や河童、天狗はいると思いますか?

 正直私は信じていませんでした。物心付く前から『変なモノ』が見えていた私は幽霊はいると思ってましたが、妖怪は別でした。十年以上生きてきて一度もお目に掛かったことがなかった所為か、そんなのは漫画の中だけにしかしないもの、もしくは昔は存在したが今はいないものと決め付けていたんです。

 ですが、その考えを改める日が訪れました。

 それはある夏の日の出来事です。

 

 

 あれは、私がまだ中学生だった頃。

 七月。一般的な初夏の暑さよりも少しばかり過ごし易い日が続いていたある日の事です。

 私はかなり田舎に住んでいます。コンビニは隣町にしかなくバスも一時間に一本という寂れたところです。学校の生徒数も都会に比べればかなり少なく、当時は全校生徒合わせても100人弱しかいない、そんな小さな中学校に私は通っていました。

 生徒の数が少なければ必然部活も少なくなります。私の学校では男子は野球かバレーか卓球の三択しかなく、私はそこそこ跳べるということもありバレーボール部に所属していました。

 私の一つ上の先輩達は身長が高い人が多く、その所為もあってか実際かなり強かったです。県大会では上位入賞することもありましたし、東北大会に出場するほどでした。だからか泊まりがけの練習試合に行くこともあり、あの時もそういった理由で遠出することになったのです。

 正確な地名は伏せますがM市と呼ばれるそこは海沿いの綺麗な町でした。山育ちの私は……いえ私達は興味津々で凄くテンションが上がっていました。

 

 一日目の練習試合が終わり、騒がしくもバスに揺られながらある旅館に着いた私達。

 そこは古すぎず、かといって真新しい訳でもない。失礼な言い方かもしれませんが、至って「普通の旅館」でした。しかしそれ故に下手な不快感も失望感も抱かなかったのでしょう。「好きな部屋に泊まれ」と顧問が言うと私達はわくわくしながら割り当てられた部屋を見ていきました。

 畳が敷かれ布団が入った押し入れがある。至って普通の客室でしたが、中学一年の私から見たらかなり新鮮でした。……というのも私は泊まりがけで旅行に行ったことはありますが基本的にホテルに泊まる為旅館自体が初めてだったのです。だからか異様にテンションが高くなり人数を確認せずに部屋を決めてしまったんですよね。

 その時私は地域の違う二人の友達と一緒だったのですが、誤って二人用の部屋に入ってしまったのです。

 結局顧問の先生が来てそのことをいうまでの間気が付かず、それを言われた時には既に夕食の後でした。時間が経ち、今更荷物を整えて他の部屋に行くのが面倒に感じていた私達は結局三人共その二人用の客室で一夜を過ごすことにしたのです。

 幸いにして自分と友達の一人は当時150cmちょっとしか身長がなかったこともあり、別段狭いと感じることはありませんでした。

 風呂から上がって、布団を敷いて準備完了。あとは寝るだけなのですが、時間はまだ十時を少し過ぎた辺りで眠れる気配がない私達は少し話をすることにしたんです。

 話す内容は身の回りのことや部活の内容、当時放送されていたアニメなどについてです。有り体に言うと世間話ですね。

 よほど余裕がある部屋ではなく、後から友達も来る可能性もあったので私達はスペースを空けることにしました。とは言っても前記した通り本来は二人部屋なのでスペース確保は中々に難しい……そこで目を付けたのは布団が入っていた押入れでした。元々余分に入っていたのか三人分を出しても押入れにはまだ布団が入っています。座るのは難しそうですが、“寝転ぶ”分にはまったく問題がなかったんです。そしてそこ、特に狭い下の方で寝転ぶことになったのは、二人よりは細身の私でした。

 私が押入れの中で寝転んだ体勢になり、もう一人の小柄の友達は上に、そして一人は押入れの近くに座りこむ。そんな感じの図が出来ました。

 それから話を始めたんです。ええ、本当に普通の話です。夏だからと怪談をした覚えは一切ありません。ただ楽しい一時を過ごしていた……そんな時でした。

 自分の上にいる友達に呼びかけようと顔を上げると『それ』はいたんです。

 

 よく出来た鬼の面、その表面“だけ”を剥ぎ取って“顔に縫い付けた”ような恐ろしい形相を浮かべた『何か』が。

 既に男か女かすら判断できない、角も見えない。しかし直感とその恐ろしさから『鬼』としか言い表せないそれは、顔だけしかなく、ただ私を見下ろしていました。

 時間にして三秒も経っていなかったと思います。しかし私にはその数倍の長さに感じられました。あまりの恐ろしさに指一本どころか呼吸すら出来ない。……いえ、恐らくその時にはやり方を忘れていたのでしょう、恐怖のあまり文字通り凍り付いていたんです。今にして思えば、あれは金縛りだったのだと思います。

 その顔がふっと視界から消えると同時に息を吸うことができました。それから体もいうことを利きはじめ、心臓もドクドクと脈打ちます。止まっていた世界から急に投げ出されたような感覚に陥った私はいまいち自分の状況を判断できずただ荒い呼吸を続けるだけ。

 その様子に不安を覚えた友人に「大丈夫か?」と心配されるも、流石に「鬼のようなモノを見た」と言えるほどの気力はなく、思い出したくもなかったのでただ「大丈夫」としか返すことが出来ませんでした。

 忘れよう、忘れよう、忘れよう。

 一心不乱にそれだけを思い、ただ平常心を保とうとしていると……。

「あ、神が見えた」

 押入れの近くにいた友人が発した言葉に心臓が跳ね上がりました。

 私の影響かどうかはわかりませんが、どうやらこの人その頃は見え始めていたらしく時折そういうことを言う出すと聴かされていました。何故「神」と呼称するのかは分かりません、彼にはそう映っていたのかもしれませんし。ただ、その言い方に問題があったのか、あまり信用されてはいないようでしたが。

 それを知っている小柄な友人の方は「ふーん」と淡白に返事をした後、「お前何か感じた?」と私に訊いてきました。

 ひょんなことから「見える人」認定されてしまった私はそれ関係の話題が出ると事あるごとに確認させられていました。正直見えるといっても私の場合は一瞬しか認識できないタイプなのでただ大雑把に「ああ、いるね」くらいしか言えなかったのですが、今回もそんな感じで訊かれました。

 

「え、いや、別に……」

 ただ今回は今まで見てきたのとは気色が違い過ぎた上にここでその存在を肯定はしたくはありませんでした。タイミングが良過ぎたこともあり歯切れ悪くもそう返すしかなかった私ですが、友達は気にした様子もなくただ「そっか」と言って談笑を再開します。

 流石に私にそんな元気はなく先に眠りました。

 

 それからは特に何事もなく(海に行った際に怪我はしましたが)合宿も終わり、あの『鬼』がなんなのかも分からないままその旅館をあとにすることになりました。

 あれからかなりの年数が経っていますが危ないことには遭っておらず、私が本当に怖いと思った体験もこの一回だけです。

 結局あれはなんだったのか? 大人になった今でも正体や真相は分からぬままです。

 ただ一つ言えることは、本当になんの突拍子もなく怖い思いをすることはあるということです。

 

 ほら、何気なく視線を上げると貴方の目の前にも……。




数少ない実体験を下地に書いたのでオチはないです、すいません。
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