町内ライダー   作:田島

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プロローグ

 世界の融合を加速させていたスーパーアポロガイストは倒した、融合は緩やかになる筈、だった。

 だが、目の前で、ワタルとアスムが消え去った。

 ディケイド――門矢士と、ディエンド――海東大樹は、突然の事態に呆然としていた。

 周囲は急に、薄闇に包まれ、次の瞬間、士は、あの旅立ちの日見た、夜のビル街にいた。

「お前は……あの時の」

 そこにはやはり、あの日士に旅立ちを告げた青年が立っていた。

「僕の言葉を覚えていますか」

 青年は、ゆったりと微笑みながら口を開いた。士は、訝しげに彼の笑んだ顔を見つめた。

 

 ――あなたは全ての仮面ライダーを破壊する者です。

 ――創造は破壊からしか生まれませんからね。

 

 覚えていない筈がない。士は、その言葉を頼りに、九つの世界を回る旅に出発し、数多くの世界を巡ったのだから。

「あなたは全ての仮面ライダーを破壊しなければならなかった。だが、仲間にしてしまった。それは、大きな過ちでした」

 青年の言葉は想像もしていない内容だった。士は驚きに息を飲んで、呻くように、掠れた声で言葉を喉から押し出した。

「どういう事だ……」

「今から僕の仲間が、あなたの旅を終わらせます」

 青年の顔つきは、徐々に厳しいものへと変化していた。そこにあるのは明確な敵意。

 青年が右手を掲げると、そこには黄金の蝙蝠――キバットが飛来し収まる。

「ガブッ!」

 キバットを左手に噛み付かせると、青年の左手を通じ、その首筋、頬へと、毛細血管が浮き出るようにステンドグラス模様が刻み込まれていく。

 青年は、キバットを腰の、止り木たるベルトへと収める。

「変身」

 硝子は割れ砕け、士の眼前に、夜を闇を司る者――仮面ライダーキバが現れる。

 キバは両腕を振り上げ構えると、一直線に士へと向かっていく。

 その攻撃を避けようとすると、急に周囲は明るさを取り戻し、先程までスーパーアポロガイストと戦っていた岩場へと戻されていた。

 周囲を見回し、士はまた、驚きに息を呑んだ。

 ファイズ、龍騎、電王、響鬼、カブト、アギト。そして、キバ。

 彼の眼前には、仮面ライダー達が立っていた。

「ディケイド、お前を倒す。変身」

 そして、剣崎一真――仮面ライダーブレイドが現れ、既に装着していたブレイバックルのレバーを引き、ブレイドキングフォームへとその姿を変えた。

「……結局こうなる運命(さだめ)か…………変身」

 戻ってきてしまった(・・・・・・・・・)のだ。

 士も腰に装着したディケイドライバーへとカードを挿入、セットし、ディケイドへとその姿を変える。

「これじゃあ夢と同じに……」

 悲しげに、夏海はその様を見つめた。このままでは夢と同じ事が繰り返されてしまう。だが、夏海に出来る事などない。

「……ユウスケ…………ユウスケ! 起きて下さい、ユウスケ! ユウスケ!」

 自分では止められない。夏海は、先程スーパーアポロガイストの攻撃に倒れ起き上がらない小野寺ユウスケに駆け寄り、倒れたままの彼の体を揺さぶった。

 だが、ユウスケはぴくりとも動かない。

「あたしが、蘇らせてあげる」

 突如声がして、夏海は斜め上を見上げた。キバーラがいた。

「ふふふっ、かぁぷっ」

 キバーラがユウスケの頬に噛み付くと、ややあってユウスケは、ゆっくりと目を開いた。

「但し、アルティメットクウガとしてね」

「えっ」

 キバーラの言葉に、夏海は不審げな声を上げたが、すぐに腕を掴まれ、力任せに跳ね飛ばされた。

 起き上がった小野寺ユウスケに。

「……ユウスケ!」

 ユウスケは夏海の声に反応せず、真っ直ぐに一点を見つめていた。

 仮面ライダーディケイドを。

「変身」

 ユウスケの体は闇に包まれ、夏海が見たこともない、禍々しく刺々しい、黒い姿へと変貌した。

 否、夏海は見たことがある。夢の中で。最後まで立ち、ディケイドと殴り合っていた姿を。

「きゃはははは」

 キバーラの笑い声が響く。アルティメットクウガもまた、ディケイドを取り囲むライダー達の中へ加わった。

「ぬあああぁぁっ!」

「……ユウスケ!」

 声に、ディケイドは振り向いてクウガを見た。そこには、全く知らない友の姿があった。

 

「ディケイドが全ての世界を滅ぼす。全ての仮面ライダーを。そして門矢士をも滅ぼすのだ!」

 崖の上から、その光景を見守る鳴滝が、誰に告げるともなく叫んだ。

 

「来るなら来い! 全てを破壊してやる……!」

 右腕を握り締め、ディケイドは叫んだ。それが今、自分が為さなければならない事だった。

 それを合図に、九人のライダー達は一斉にディケイド目掛け走り出した。

 ディケイドは攻撃を捌き躱し、怯む事なくライダー達はディケイドを狙い攻撃を繰り出す。

「きゃっ!」

 夏海はうずくまった。彼女のすぐ横で、爆発が起こる。どこからか、夢で見たのと同じビーム砲のようなものが、幾筋も飛んで地面を抉っていた。

 それにも構わず、ライダー達は戦い続ける。

「やああああぁぁぁぁっ!」

 駆け込んでくる者があった。シアンと黒のボディ、頭と胸に、ディケイドに似たライドプレート。

 ディエンドは、ディケイドの前で立ち止まると、ディエンドライバーを目の前のディケイドに向け、構えた。

「士」

「……海東!」

 ディエンドの銃口が、ぴたりと眉間に当てられる。

「ディケイドーっ!」

 夏海の絶叫が、響いた。だが、海東大樹の動きは止まらず、そのまま引鉄が引かれた。

 次の瞬間、士も夏海も、息を呑んだ。

 

 

 ぱぁんっ!

 

 

 それはそう、丁度、誕生日を祝うクラッカーの音のような、可愛らしい炸裂音だった。

 数瞬遅れてディケイドの頭の周りに、なんともファンシーな、ミントグリーンやらピンクの、パステルカラーの紙吹雪がひらひらと舞った。

 そして、銃口からは、竹串のような棒が出て垂れ幕が下がっている。

 それには、『ドッキリ☆成功』と、墨痕も鮮やかに書かれていた。

 

「な、な……なな、何じゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁあっ‼

「どうだい士、スリルあったろ?」

「なななななななななな、何を、何を言ってるんだお前は‼ 全く意味が分からん!」

 あまりといえばあまり。理解不能。ディケイドは海東に詰め寄るが、海東は勿論、周りのライダー達も、おめでとうと叫びながら手を上げ下げしている。何やら和やかな雰囲気だった。

「戦いなど虚しい事だ……戦わなくても手を取り合って生きていけば、それでいいんだ」

 気付けば、右横に、トレンチコートに伸ばしっぱなしの髪の、知らない男が立っていた。

「あんたがそれを言うな、あんたが‼」

「人は変わる、変わっていけるんだ」

「なんとなくいい感じに纏めるな!」

 龍騎がぴしりと男を指差して文句を付けているが、男は悪びれない。

「そうです、人は皆愛すべき我が子。どちらかといえばディケイドよりアギトを排除すべきか……なんて」

 それとなく剣呑な事を言う、黒いタートルネックに黒いスラックスの、美女と見まごうような美しい青年。

「そうですよっ、皆仲良くしてくれないと、お姉さん泣いちゃいます! えーん!」

 ボブカットに、体にぴったりとした黒とシアンの衣装を身に纏った女性は、どうしようもないほど大袈裟に泣き真似をした。

「……だから、一体、何だっていうんだ」

 全く、事態が掴めない。士はただぽかんとして、周囲の陽気な人々を見回した。

「ごめんなさいね、番組の企画上、どうしてもここまではやらなきゃいけなかったんです。でも、後から辻褄を合わせるために黒歴史化されますから安心して下さいねっ! 冬の宮殿に封印して、選ばれし者しか目にできなくなりまーす!」

「レディ、そういうメタ発言は慎みたまえ。あとガンダムネタ自重」

 レディと呼ばれた、ボブカットの女性の発言は全く意味が分からなかった。海東が窘めると、レディはえへっ、と笑った。

「ディケイド、お前によってディケイドもついに、破壊されてしまったのだ!」

 鳴滝が叫ぶ。

「おめでとう! おめでとう!」

 仮面ライダー達はまだおめでとうを唱え続けている。

「……そうか、俺はここにいてもいいんだ! ……って、違う!」

「……世界は融合してしまったんだ。九つの世界……いや、十九の世界が」

 いつの間にか、黒いタートルネックとレディの横に、鳴滝に似た格好をして、皮のトランクを持った男が立っていた。

「いやだからどういう事なんだそれは……」

「いいんだよ、細けぇ事は!」

 士の疑問に誰も答えてくれない。とうとう黒いタートルネックの青年からは、開き直りとも取れる言葉が発せられた。

「ブラックエンジェルス&マーダーライセンス牙なんて購読層を選びまくるネタも自重。あれは松田さんだから許されるんだ」

 それにしても海東のツッコミは細かい。というか松田って誰。

「まあとにかく、そういう事なんでよろしくね」

「そういう事ってどういう事だ!」

「じゃあね~、士」

 尚も食い下がる士に、海東は手を振った。

 

 

 目が覚めると、士はベッドに寝ていた。

「……夢オチ…………か」

 見慣れた天井。昨日脱ぎ捨てた服が乱雑に散らばった、光写真館で士に割り当てられた部屋。

 嫌な汗をたっぷりとかいていた。寝間着に使っているTシャツの脇がぐっしょりと濡れている。

 シャワーでも浴びなきゃならんなこりゃ……。

 寝た筈なのにかえってぐったりと疲れた体を起こして引きずり、士はシャワーを浴びた後、朝食を食べる為に台所へと向かった。

 ドアを開けると、ユウスケも夏海も栄次郎ももう起きていた。三人は、背景ロールを見ていた。

「……どうした?」

 士も背景ロールを見た。絵が変わっていた。

 何という事はない、普通の街角がそこには描かれていた。

「……ライダー大戦は、どこへ行ってしまったんだ?」

「……さあ」

 ユウスケが、困惑した表情で、肩を竦めて返した。士の疑問に答えられる者など、ここにはいなかった。

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