[NEUE 惑星セルダール 空軍基地内 会議室]
[現地時間 PM4:22 天候:快晴]
「…まず、君の名前は?」
「ガブリエル・キールです」
「出身地は?」
「エメリア共和国です」
「出身世界は?」
「分かりません、ストレンジリアルと呼ばれているとは聞きました」
「君が今話している言葉は何語かな?」
「オーシア語です」
「戦闘機に乗ってNEUEに来たらしいけど、転移前の戦闘経験は?」
「ありません。遊覧飛行をしていただけです」
「ではUPWの紋章機に乗ったのは、純粋に実験に協力する為だったのかな?」
「はい。少なくとも僕もアジャーンさんも、試験飛行の段階では戦うつもりはありませんでした」
「それで非常事態になったから、一緒になって戦ったと…」
「そうです」
「そうか、分かった。何故この世界に来たのか分かるか?」
「分かりません。タンゴ線付近を飛んでいたら周囲が光って、ここの上空に飛ばされました」
「何か変わった操作はした?」
「何もしていません。そもそも事前に業者に教わった操縦しかできない設計です」
「なら君や機体が原因ではなさそうだな…」
アイアンフォスルを撃沈した後、ガブリエルは諮問官とおぼしき男女に話を聞かれていた。しかも一人はまるで妖精を思わせる小ささだ。
誰を見ても名前は分からないが制服を見る限り、右から順にUPW、時空管理局、UGSF、ダライアス軍、グラディウス軍の各職員と思われる。
別室で待機しているギルバートにも同じ様に話を聞くのだろう。彼は正規の軍人である為、ガブリエルより話が長引くのではないだろうか。
簡単な聴取が一通り済むと、先程の妖精のような背丈の女性が話しかけてきた。
「…キールさん、時空管理局特務六課のリインフォース
「あの
「形状こそ他の世界と比べて異質ですが、やはり異世界に渡れるような装備はありませんでした。あなたが原因でないことは確定しました」
「そうなのですね」
「協力の上でフライトレコーダーを解析していますが、あなたが飛んでいた空域も失踪直前までに異状は無かったそうです」
「空に問題があったわけでも無かった…」
「今のところ、時空管理局としては"事故に巻き込まれた"可能性を見ています。元の世界へ送還するまでに、また色々聞くかもしれません。一応覚えておいてください」
「分かりました」
リインフォース
しかし話を聞く限りでは、ジョニーが言うような好戦的な様子は見受けられない。「特務六課は異様に強く暴力的なセクション」ということだったはずだが、思い違いだったか。
いや、彼女の担当は事務や外務だとしたら…1人を見て組織のすべてをはかろうとするのは無理だろう。
次に話し掛けてきたのは、何故か宝石のようなものを軍服に埋め込んだ男だった。あの軍服は、フォルテ達が着ているものと意匠が似ている。
「ガブリエル君、僕のことは気軽にタクトと呼んでくれ」
「タクトさん…すみません、あなたのご職業は?」
「タクト・マイヤーズ、UPWの理事長をしている。だけど堅苦しいのは嫌いだから、構わず砕けた言い方で良いよ」
「覚えておきます」
「それで、さっき技術部門に手を貸してもらったついでで申し訳ないんだけど…まだ会議に時間が必要なんだ」
「すぐに帰れる見込みは無いのですね」
「そうなんだ、すまない。その間、有事には君にもできれば飛んでもらいたいんだけど、無理かな?」
「僕がですか?民間人なんですが…」
「分かっているよ。だけど…実は今回の一件の後から、他の部隊も戦闘が激化しているんだ。他部隊からの援護を見込めなくて、その辺も相談中なんだけど…」
「…それで民間人の僕の手も借りたいと?」
「マズイことなのは分かってる。でも今は、君の力を頼りたいんだ。頼む!」
「僕に出来ることなら手伝いますが、その敵とは?」
タクト・マイヤーズ。話し方から推察するに、普段はかなりヘラヘラした感じなのだろう。しかし漂流者から話を聞くために、わざわざ連合政府の代表者が来るというのも、事態を重要視する姿勢が窺える。
タクトが…というよりこの基地のUPW軍が援軍を要請できない事態に陥っているのも引っかかる。呼び寄せたUGSFとダライアス軍どころか、居合わせたグラディウス軍に協力を打診するのも、民間人まで使おうという話も、相当な焦りがあってのものだろう。
そこまでして対峙する敵とは何か…答えは先程戦ったパイロットが出した。
「それについては俺から話そう。グラディウス軍のケヴィン・B・ジェイソン、さっき一緒に飛んだビックバイパーのパイロットだ」
「あなたがさっきのビックバイパーに?」
「そうだ。君は慣れない機体に乗って、あんなに鋭い飛び方をした。だから皆君を頼ろうとしているのさ」
「はぁ…」
「実は我々がセルダールに寄っていたのは、その近くに我々の敵対する種族が迫っているからだ。そいつが今、各地のUPW軍と交戦している」
「何者なんですか、それは?」
「我々は奴らを"バクテリアン"と呼んでいる。かれこれ1700年は戦っているな」
「バクテリアン…」
「グラディウス軍としては、他の国にまでバクテリアンの影響が及ぶ事態は避けたい。そこで我々としても、軍事協議に参加している」
「事情は分かりました。でも、僕に出来るでしょうか…」
ケヴィン・B・ジェイソン。今回派遣されたのが1師団のみだからか、グラディウス軍からは重役ではなくパイロットが聴取に来ていた。
彼が腕利きのパイロットであることは先程の戦闘中に分かっている。その彼からしても、ガブリエルの飛び方は見所があるというのか。
嬉しい一方で恐ろしい気もするが、仮に自分も戦うとしても先程は
ところが…
「では我々から提案です、キールさん」
「あなたは?」
「UGSFのイリーナ・スターレンスです。あなたを助けて早々に引き揚げたかったのですが、この状況ではそれも出来ないことはお分かりでしょう」
「僕にも事情は分かりました」
「現在、我々が用意している戦力はほとんどが宇宙用です。艦隊のパイロットもほぼ全員が航宙機専門です」
「エアロコフィンは無いのですか?」
「2機用意しています。あなたが乗ってきた機体や、この基地で保管されている機体をあわせて4機です」
「全部で4機ですか…」
「ただし、あなたは民間人です。積極的な戦闘は避けてください」
「分かりました」
「また、作戦中は先導するパイロットを用意します。彼女の指示に従うように」
「そのパイロットの指示に従うのですね。かしこまりました」
イリーナ・スターレンス。彼女が名将アレクセイ・マイヤーの副官なのか。リインフォース
民間人のガブリエルに対しても全く優しくする様子が無さそうだが、それは恐らく既に自分を戦力として数えているからだろうか。航空戦力の必要性が想定外だったところからも察するに、UGSFもガブリエルの起用を嫌とは言えなかったらしい。
他に聞くことは…まだあった。
「先程バクテリアン軍がUPW領内を攻撃しているという話でしたね。ベルサーはどうしたのでしょうか?」
「ベルサー艦隊は今、同じ領域でバクテリアン艦隊と交戦中です」
「交戦中?」
「あ…失礼、ダライアス軍ヅーヌマ方面艦隊のパイロット、マリンです」
「マリンさん、その交戦中の領域というのは?」
「この惑星セルダールの衛星軌道です。既にUPWが保有する人工衛星が数機、ベルサーとバクテリアンの交戦で被害を受けています」
「そんなところで戦闘を!?」
「そうです。直にどちらか、もしくは両方が上空に現れるでしょう」
「…状況は分かりました」
「我々からも、協力をお願いします」
ダライアス軍のパイロット、マリン。先程共に戦ったハルシオン隊の無線では、彼女とおぼしき声は聞こえなかった。ということは、何らかの理由で出撃しなかったのか。
ヅーヌマ方面艦隊としても、セルダールから戻れなければ本来の持ち場に着けない。手早くバクテリアンとベルサーの包囲網を突破して、ヅーヌマに戻りたいはずだ。
しかしハルシオン隊は先程のアイアンフォスルとの戦闘で損耗しているし、何よりギルバートの居た部隊は全滅している。彼の部隊が何機編成だったのかは不明だが、1部隊の全滅が艦隊にとって痛手でないはずがない。ダライアス軍にとっても、猫の手も借りたいと言ったところか。
「…分かりました、僕でよければ飛びます」
「ありがとう、ガブリエル君。話は以上だ、必要になったら呼ぶから自由にしてくれ」
「あの、僕が使うエアロコフィンはどこでしょう?」
「エアロコフィンは全てこの基地の格納庫に移してあります。場所は現地の作業員に聞くように」
「分かりました」
この様子では、関わった全ての軍がガブリエルを頼りたい状態にある。その良し悪しはさておき、実際に人手が必要なのだ。
民間人が軍関係者に請われて戦うことには気が引けるが、ガブリエルは意を決して会議室を出ていった。
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地内 格納庫]
[現地時間 PM5:00 天候:快晴]
格納庫に来てみると、確かにエアロコフィンが4機並んでいた。そのうち2機は
特徴的な
そして青いボディを前後に貫くように、白い線が描き込まれていた。その先端には、怪鳥のシルエット…エメリアの英雄・ガルーダ隊のエンブレムと同じ鳥が描かれていた。
UGSFはガブリエルがエメリア人であることを知っているはずだが、わざわざ機体にそれを意識させるデザインを施す意味があるのか?
「よっ、お疲れ」
「ジョニーさん?待機中なんですか?」
「まぁな。もうそろそろギルバートの聴取も終わるはずなんだが…」
「アジャーンさんは軍人なんでしょ?長引きそうなイメージなんですけど…」
「それがな、盗み聞きができたんだが…話すことは精々シルバーホーク部隊の再編くらいしかないらしい」
「それだけですか?」
「所属艦隊が来たというのが大きいのかもな。結局
「なんと、民間人じゃないというだけで話は早く済むものなんですね」
「何故NEUEに着いたのか、あっちにも原因が分からないんだろ?聞いても無駄だと思ったんじゃないか?」
隣に来たジョニーは、時空管理局が来ているというのに全く緊張していなかった。上空で"クラフティ"と呼ばれていたときに元々の列機が居たということは、部下もいるはずだ。その人達を放っておいて、自分を探しに来たのか?
漂流者の自分達を気にしてくれたのかもしれないが、そうだとしてもわざわざエアロコフィンの格納庫まで探しに来るものだろうか。
しかし少なくとも、ギルバートが無事にダライアス軍に戻れたことは喜ぶべきなのかもしれない。同時にギルバートを含めて損傷した部隊を再編することも、恐らくヅーヌマ方面艦隊の予定には入っていたのだろう。その意味でも、すぐに帰れない上に民間人のまま空へ上げられる自分よりはマシだ。
…そう考える間に、本当にギルバートがやってきた。その顔は心なしか、若干晴れやかだった。
「…おっ、噂をすればギルバートだ」
「待たせたな。ちょっと話したいことがあってな」
「ふむ、聞かせてくれ」
「艦隊で部隊を再編することになった。部隊名はフォース・アルカディア、俺はその2番機になる」
「2番機?元々は何番だったんだ?」
「15番だから大躍進だな。リーダーはマリン大佐…キール君は話してるよな?」
「艦隊所属の女性パイロットですね」
「あれ、実は人間じゃなくて
「人間が乗れない?それ、相当な高機動とかって話か?」
「多分な。ついていくこっちは大変だぞ」
「大変とか言う割にはウキウキしてるように見えるぞ」
「んっ?あぁ、ようやく俺も
「まさに生粋の飛行機野郎、ってところですか?」
「飛行機野郎か、悪くない表現だ。飛んでる間は楽しいから合ってるかもな」
なるほど、ギルバートが喜んでいたのはシルバーホークにまた乗れるからか。と言っても、それ以外で空に上がったのは
さっきのマリンというパイロットは、ギルバートが身構えるほどのトップガンと見られる。アンドロイドということは、人類が耐えられないような高機動も苦ではないということだ。その特徴を活かした戦果は、怖いもの見たさで気になるのが人情か。
「…ガブリエル・キール君だね?」
「えっ?はい、そうですが…」
「…あなたも空に上がるんだって?」
「どうしてご存知なんですか?」
「私があなたを引っ張ることになってるからね」
「ということは、UGSFなんですね」
「そうだよ」
ふと声をかけられた方を見ると、そこに居たのは青いミドルヘアの美女だった。しかしその身体はUGSFで見られる青い
UGSFは今までに話を聞いた他の勢力と違って、宇宙と空中・重力下を自由に往来できる機動戦力はあまり無い。当然、基本的に航空戦力と宇宙用部隊は別個に編成される。だから航空戦力はこの女性パイロットだけで、ガブリエルにも頼らなければならないのだ。
「そちらのお二人は?」
「UPWのジョニー・ウォーカー、クラフティです」
「ダライアス軍のギルバート・アジャーン、バウスですが…あなたは?」
「私のことはインパルとお呼びください」
「インパル嬢、出撃ですか?」
「まもなくベルサーが再度上空に現れますので…」
「マジか!?準備しなくちゃ!」
「やべっ、そうなると俺はまず艦に戻るところからだ!」
インパルと呼ばれたパイロットが敵襲目前と伝えると、2人の異郷のパイロット達は慌てて格納庫を飛び出していった。ホーリーブラッドもシルバーホークも離れたところにあるのだから、急ぐのも当然か。
そして後には、ガブリエルとインパルだけが残された。
「…あの…」
「はい、これ」
「…これは造花ですね…赤い
「どんな花言葉か知ってる?」
「…分かりません。何でしょう?」
「"挑戦"だよ。民間人なのに頑張って飛ぼうとしてるから、その勇気を認めようと思ってね」
「そんな、わざわざ用意したんですか?」
「それに、名前もガブリエルでしょ?だからガーベラなら呼びやすいかと考えたんだ。さっきまで
「緑の戦士?サンドラってそういう意味があるんですか?」
「そう、古いおとぎ話だけどね」
「知らなかった…」
「今後は空ではガーベラって呼ぶから、覚えておいて」
「分かりました」
「そこにあるエアロコフィン、好きなのに乗っていいから」
インパルはガブリエルに赤いガーベラを渡すと、並んでいるエアロコフィンの1機に乗り込もうとする。
わざわざ造花を用意して手渡し、それをTACネームに指定する。変なことを言うパイロットだが、この人がこの後ついていくべき人だ。仮に本当に変人だとしても、我慢せねば。
ふと、ガブリエルは思い出したように呼び掛けた。
「…あの、インパルさん!」
「何?」
「本当のお名前は何ですか?」
「本名?」
「…」
「転移前はどこに居たの?」
「えっ?ユージアのコモナ大学です」
「コモナ…
「あの…」
「じゃ、出身は?」
「出身?エメリアのケセド島です」
「意外だね、グレースメリアじゃないんだ…」
「…あの、一体何を聞いて…」
「…私の名前は、無事に帰れたら教えてあげるよ」
「えっ?」
「そうすれば生き延びる理由になるでしょ?」
「そう…でしょうか?」
「じゃ、上で待ってるから…」
ただ名前を聞こうとしただけで、こうも勿体ぶられるとは。それも理由は「生き延びるよう仕向けるため」と来た。やはり普通の人ではないらしい。
更に聞こうとしても答えてくれそうにないので、仕方なくガブリエルも出撃準備に入ることにした。
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地 上空]
[現地時間 PM5:49 天候:快晴]
まもなく現地時間は午後6時。
もうそろそろ夕焼けが見えてもおかしくない時間だが、空は昼間と全く変わらない青空が広がっている。そして空の彼方には、またしても魚介類の姿が見て取れた。あれはオウムガイだろうか?
≪敵艦は目視圏内まで降下、
≪降りてきたのはベルサーだけか?≫
≪その後方からコア級戦艦が追撃中、バクテリアン軍です≫
≪もつれたままおいでなすったか!≫
≪どっちも打たれ強い。消耗を待っていては周辺への被害が拡大するぞ≫
結局
なるほど、
≪そのコフィン、ガルーダを描いてもらったんだ?≫
「知らない間に描かれてました」
≪エメリア人だよね。やっぱりガルーダ隊は知ってるの?≫
「ケセドの住民はよく話題にしましたから」
≪グレースメリアなら首都だから分かるけど、ケセド島でもかぁ…≫
≪フォース・アルカディア、全機発艦を確認≫
≪ルナ・アンジェラス隊、離陸完了!≫
≪サイファー、パトリオットは?≫
≪全機正常だ。パトリオット隊はこのまま交戦する≫
≪UGSF、先陣はみんな上がった!離陸できるぞ!≫
≪インパル了解、離陸許可を得た≫
≪ガーベラ、臨時編成を実施する。君のコールサインは
「了解!ガーベラ、離陸します!」
ゆっくり話す間も与えられず、ガブリエル…サンドラ改めガーベラは空に上がっていく。
スロットルを全開にした瞬間、今までに感じたことの無い強いトルクが、ガブリエルの身体をシートに押し付け、その脳を激しく揺らした。しかし機体はパイロットを襲う危険などものともせず、翼を動かさずとも揚力だけで勢いよく離陸していった。
≪ストライダー隊、離陸成功。そのまま迎撃行動に入れ≫
「うぅ…何だ今のは…」
≪やっぱり耐えられなかったんだね≫
「来たときとは全くの別物ですよ」
≪アップデートをずっとサボったまま使ってた機体だからかな≫
「ということは、これが最新の仕様なんですか?」
≪一応はね。どんどん行くからついて来て!≫
「あ…
インパルの
置いていかれないように追うガブリエルだが、やはり先のアイアンフォスル戦のように小型機の追尾が激しい。自分が反撃に回るのは、かなり困難なように思えた。
そもそもこんな状況が予想できていながら民間人を起用する時点で、この青年には囮としての役割しか期待されていないのかもしれないが…。
≪大丈夫?ついて来れてる?≫
「辛うじてです」
≪それだけで上出来だよ。追っ手はこっちに任せて≫
「はいっ!」
そう言うと、インパルの
あっさりと
そういう空戦は昔のエルジアの
「流石です!」
≪そっちこそ、よく逃げ切れたね。さぁ、まだまだ行くよ!≫
「
≪ストライダー、こちらパトリオット1・サイファー。これよりビッグコアを撃破する、援護を求む≫
≪ストライダー1、了解≫
「んっ?
パトリオット隊はケヴィンの部隊、つまりグラディウス軍のビックバイパー部隊。先程ガブリエルを聴取した男が隊長だ。見たところ2機ずつの
そのパトリオット隊は巨大戦艦の片割れ、ビッグコアの中心部分を集中的に攻撃している。本体のレーザーと周囲の
しかしマッドホイールとの距離が近いためか、部隊はバクテリアンとベルサー両軍の小型機の最前線に飲み込まれていた。
≪アルカディア1 エミリファイからルナ、ベルサーを押し上げたい≫
≪クラフティ了解、援護に向かう≫
≪紋章機隊はルナ隊ってコールするんだね≫
「アルカディアということは、バウスが?」
≪サンドラ、生きてるか?≫
≪インパルからバウス、ガーベラって呼んであげて!≫
≪覚えとくよ≫
多数のシルバーホークで編成されたフォース・アルカディアは、先の防衛戦と同様にバーストビームとウェーブショットで小型機を薙ぎ払う。記憶違いでなければ、指揮しているのはケヴィンと共に聴取に来ていたマリンのはずだ。マリンが本当に
しかし彼女はジョニーの指揮するルナ・アンジェラス隊を援護として呼んだ。素人目にはあまり分からないが、先の
「よし、こっちも出来ることを…」
≪サイファーからストライダー2、君はまだ実戦に慣れていないだろう。積極的には仕掛けず、通りすがりの敵に銃撃が当たれば上出来だ≫
「やってみます。ガーベラ、
≪おっ、撃つの?頑張ってやってみなよ≫
どことなくインパルの反応がそっけないのは、自分を戦力として数えていないからだろう。ほぼ単騎で戦線に出られるようなパイロットにとっては、精々素人に毛が生えた程度でしかない大学生の腕などアテにならなくて当然だ。それでもまだ列機にしてもらえるだけ、パイロット冥利と言うべきなのかもしれない。
ところが、数分も経たないうちに事態は変化した。
≪タワーから全機、交戦圏内に不明機が侵入!数は6、機種は…ダークエンジェルだ!≫
≪何だって!?≫
≪ダークエンジェルとは?≫
≪かつてEDENを苦しめた
≪誰が行ける?パトリオットは行けない!≫
≪アルカディアも動けない!まもなく
≪それじゃルナ隊も動けないぞ、援護が要る!≫
「んっ?それじゃベルサーが優勢?」
マリンの言う通り、周囲は黄色い雲に包まれ始める。マッドホイールが追い詰められた証拠だ。であればベルサーはここから猛反撃に移行するはずだ。
強化されたマッドホイールの攻撃が、ビッグコアを相手にどこまで通用するのかは未知数だ。しかし潰し合いに持ち込む意味では、これは少なからず有効かもしれない。
そうなれば、ダークエンジェルと撃ち合える。今の
「ストライダー1、敵艦の様子はどう見ますか?」
≪ガーベラ?急に何を言い出すの?≫
「ビッグコアとマッドホイールを殴り合わせて、潰し合いに持ち込みたいです」
≪それ、無理だって話じゃなかった?やり合わせる間に被害が広がるって…≫
≪クラフティからガーベラ、さてはダークエンジェルとやり合う気だな?
「ジョニーさんにはバレましたか」
≪そうか、ダークエンジェルから見ればガーベラは異世界人なのか。戦法が違えば素人でも勝機があるかもしれん≫
インパルは反対するが、ジョニーとケヴィンは妙に乗り気に聞こえる。特にジョニーは
≪よし、そういうことならパトリオットの援護も引き受ける!やっちまえ、ストライダー!≫
≪ここまで削れば、戦艦同士を潰し合わせるのもできるだろう。提言をした勇気、見せてみろ!≫
≪頼られてるじゃない、ガーベラ。インパルもこっちはアルカディアに任せて!≫
≪仕方ないな…方位090、行くよガーベラ!≫
「ありがとうございます!」
半ば全員をその場の勢いに乗せる格好で、バクテリアンとベルサーの戦いから離れるUGSF機。話が通じるかも不明なダークエンジェルを迎撃する役目は、1人のエースと1人の大学生に委ねられた。
戦線から離れる最中、ふと冷静になってガブリエルはインパルの
≪どうしてあんなことを言ったの?遭難初日に迎撃できたから?≫
「まぁ…そうです」
≪…実は私も、そのダークエンジェルが何なのか気になったんだ≫
「そうなんですか?」
≪ちょっと理由があってね…≫
「…見えてきましたね」
機体のカメラが捉えた映像には、確かに遭難初日に見たものと同じ紋章機が映っている。本当にダークエンジェルが飛来したのか。
すかさずインパルはガブリエルの前に出て、無線での勧告を行う。口調を聞くにかなり慣れた様子だが、彼女にはそういった経験が多いのだろうか?
≪退避勧告空域から方位090の不明機に次ぐ。所属と飛行目的を明かせ≫
「…声がしますね。応答みたいです」
『…我らは虚の存在ウィル、世界の支配者なり…』
「…ウィル…?」
『お前達は世界を揺るがす新たなイレギュラー要素…消えよ』
≪虚の存在?あなたは
「
『バッツーラ…かような種族など、この世界には無い。そんなものを知るのは、やはり異世界より来たるイレギュラー…』
≪タワーからストライダー、そいつは最近NEUEを破壊しようとした、姿のない悪魔だ!敵と認定し攻撃せよ!≫
≪…素性は後でUPWに聞くべきみたいだね。やるよ!≫
「
相手はウィルと言ったが、話を聞く限りではそれが国家なのか非常に怪しい。
インパルがウィルをバッツーラに例えたのも妙だ。ガブリエルはそんな種族が
少なくとも彼女には、両者に共通する何らかの特徴を見出したのだろうが…それを考える前に、ダークエンジェルが一斉に襲い掛かってきた。
『行くぞ、異界の悪魔よ…』
≪悪魔とはよく言う!≫
「…やるっ、流石に大口を叩くだけはある!」
自らを世界の支配者などと言うのは戯言かと思ったが、ウィルのダークエンジェルはこちらに対して積極的にヘッドオンを仕掛けてくるので上手く背後を取れない。ドッグファイトにおいてヘッドオンは上策ではないのだが、それが主たる戦法なのだろうか。
とにかく背後を取れなければ、
その時、聞き慣れない声がガブリエルの脳裏に"聞こえた"。ウィルと同じ聞こえ方だが、ウィルが中性的な声なのに対して新しい声は老練のエースといった感じだ。しかも口調にどことなく聞き覚えがある。
『だが隙はある。相手から目を離すな』
「えっ?その声は誰?」
『私のことは気にするな。ヤツの突撃主体の動きは、恐らく海を使えば封じ込められる』
「…海…もしかして?」
『逃がさぬぞ、イレギュラーよ』
≪ガーベラ?≫
『低空飛行と水飛沫で動きを制限し、ヤツを追い抜いて墜としてみるがいい』
謎の声に指示されたガブリエルは、
しかし波が立っているということは、低空飛行で水飛沫を上げることはできるだろう。そうすればダークエンジェルは突撃して海中に飛び込むか、下方向への飛行を制限されてドッグファイトに持ち込みやすくなる。
なるほど、声の主はそれで敵を誘い込めと言うのか。危険ではあるが、遊覧飛行で慣れた今のガブリエルにとって不可能な飛び方ではない。
≪よし、1機墜とした!≫
「ならこっちも…来い、ダークエンジェル!」
『小細工をしても無駄だ…』
『君なら出来るだろう。集中力を切らすな』
インパルが正攻法でダークエンジェルを墜としたことで、ガブリエルの腹も決まる。
急降下する
こうなると、速度差を活かした
「…そこだ!」
『民間人にしては上出来だ、その調子でやってみたまえ』
≪おっ、やるぅ!≫
『やってくれたな…』
ガブリエルにとって謎の声は、ウィルの戦法どころかダークエンジェルの機動も読み取っているように見受けられた。それほどに撃墜までの指示が的確だった。
元々ホーリーブラッドでも、加減速に関しては頼りないような印象を持っていた。それより年式が古いと見られるダークエンジェルでは、更に
その予想通り、急加速で追い付こうとしたダークエンジェルは、急減速した
命中してすぐには機体を焼き切れなかったが、それでも上昇して逃げ行くダークエンジェルに狙いを合わせるのは容易く、当て続けて1秒も経たずに2機目が爆散していった。
「よしっ!
≪意外とやるじゃん!民間人にしては上出来だよ!≫
『その機転が身に付けば、エースになることも容易いだろう。異世界人に怯えるな、エメリアの青年よ』
≪よし、私も負けてられない!≫
『やはり異世界人は脅威度が高いと見える…』
エメリアの青年…どうやら老練の声の主は、ガブリエルの出自を知っている。ということは
少なくともこの老練のアドバイスは、ウィルの強気の態度を突き崩すには十分らしい。既に正攻法でダークエンジェルを3機墜としたインパルも、エースの面目躍如と言ったところか。
『最後の1機は私の飛び方で仕留めよう。一旦操縦を意識せず、強いGに備えたまえ』
「一旦操縦を放棄…」
『行くぞ…相手を見極め、敵を理解するのだ』
≪ガーベラ、今度はどこへ?≫
声の主の言うままに、ガブリエルは操縦の意思を放棄する。すると失速するはずの
しばらく上昇したかと思うと、今度は急激に失速して背面から下を向いていき…
[
『…もらった』
後を追っていたダークエンジェルを、すれ違い様に
ウィルの操る
『…お前は何者だ?』
「僕は…」
『憎むならこの私を憎みたまえ、異界の暴君よ。ミハイ・ア・シラージが居る限り、私の子供達に敵うと思わないことだ』
『ミハイ、まさに異界より来たる悪魔…お前こそ、我が世界を蹂躙できると思うな』
「…ミハイ…?」
≪ガーベラ、その声は誰?≫
「分かりません…ミハイ・ア・シラージと聞こえました」
≪あの声がシラージ王国の
あれが亡国シラージの大天使?950年近く昔の灯台戦争の、エルジア側の切り札?
シラージ王国を併合したエルジア王国は、後の
そんな国の伝説の撃墜王が、何故9世紀以上後の世代の
ウィルがミハイを認識し敵視したところを見る限り、ウィルもミハイと同じ次元に居るか、どちらかが他方の領域に来られることは間違いなさそうだが…。
≪ストライダーからタワー、敵紋章機隊を撃墜した≫
≪見事だ、ストライダー!そのまま戦艦撃墜に復帰せよ!≫
≪了解≫
「了解」
≪今の感じ、忘れずに行こう!生きてエメリアに帰ろう!≫
「同感です!」
あまり考えても仕方ない。考察は後回しにするとして、今度はビッグコアとマッドホイールを何とかしなくては。
バクテリアンとベルサー双方の戦艦は、艦載機も艦の艤装もかなり剥がされていながら、依然として墜ちることなく互いに激しく撃ち合っていた。
撃破された小型機や艤装は、踏み留まったパトリオット隊やフォース・アルカディア、ルナ・アンジェラス隊の功労が大きいようだった。いずれも
≪無事か、ストライダー?≫
≪何とか墜としてきた!このまま削りきる!≫
≪よし、もう一息だ!≫
声をあげて周囲を鼓舞するギルバートだが、明らかに疲弊の色を隠せない。
確かギルバートはアンドロイド・マリンの2番機になったはずだ。出撃前は「これから大変になる」と楽しげに言っていたが、今となってはとても余裕があるようには聞こえない。それだけ艦隊戦が激しかったのか、あるいはマリンについていくのが大変だったのか。
≪あと少し…もう少し!≫
「もう砲台も外装も全部剥がれてるのに、堅すぎる!」
≪距離を取って撃て、格闘戦に巻き込まれるぞ!≫
マッドホイールがオウムガイの形状をしているからか、あるいはビッグコアがマンボウのような飛び方をしているからか。もはや互いに体当たりとアームの差し合いを繰り返し、激しい噴煙や火災に包まれながらゆっくり降下していっている。戦艦の戦い方とは到底思えない肉弾戦だ。
そして、ついに…
≪よし、爆発閃光を視認!ビッグコア、まもなく着水!≫
≪マッドホイールも撃破を確認!墜落する!≫
「やっと…墜ちた…」
≪頑張ったね、これで完了だよ≫
≪全機、
まるで刺し違えるかのように両者は動かなくなり、静かに落下していく。激しい爆発がそれぞれの外装で連鎖していき、その船体をズタズタに引き裂いていった。素人目にも分かりやすいほどの、バクテリアンとベルサーの共倒れである。
ひとまずパイロットの自分達には、ここまでしか出来ない。後は何が分かるにしても、調査に任せるしかない…。
「…本当に…何をやってるんだろうな、僕って…」
≪何を言ってるの?頼まれた仕事を全うしたんじゃない?十分立派だよ≫
「…エミリファイは…それで良いんですか…?」
≪…どういうこと?≫
「民間人に頼る国防と、それに乗っかる民間人と…」
≪…そこを気にするのか、ガーベラは…≫
ここまで色々と戦っておきながら、ガブリエルにはやはり疑問が湧いてくる。
本当にこの方法しか無かったのか?UGSF側のパイロットは、本当に
いや、元を正せばそもそも何故自分もベルサーもバクテリアンもNEUEに来てしまったのか?
疑問に頭を押し潰されるまさにその感覚が、ガブリエルの思考を少しずつ止めていってしまうのであった…。