[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"ロビー]
[現地時間 AM6:22 天候:豪雨]
《先日までの戦闘で、駐留するUPW軍が他の勢力と協力して撃墜した謎の大型兵器ですが、本日予定されていた残骸の引き揚げ作業は豪雨の為に中止となっています。UPWのタクト・マイヤーズ理事長は本件について「まだ調査中および関係各所との調整中のため回答は差し控える。具体的な話ができるまで時間が欲しい」と述べています…》
「…マイヤーズ理事長か。本当は僕達のせいで、大っぴらに話せないんだろうな…」
遭難4日目。
一応は迎えが来たが、まだ
昨夜フィオナが言っていた通り、エレノアール周辺は都市が丸ごと激しい雨に覆われていた。排水網が整っているはずの都市圏にもかかわらず、歩道に水が溢れ周辺に車の往来が全く無いところを見るに、セルダール政府が外出を規制しているのだろう。
実際、着替えてから一度外に出ようとしたが、部屋の窓には横殴りの雨が叩き付けられ、開けるのが怖くなるほどだった。ロビーに行ってみても、出入口は張り紙付きで閉鎖しており、スタッフの立ち話では帰宅できずに泊まる社員も居るという有り様だった。
今でもロビーには、基地や艦に戻るはずだった軍人達が何もできず、異世界事情の交換を行っている。流石に重役はどこかの応接室にでも行って会議をしているのだろうが…。
「…そうだ、大浴場があるんだっけ。行ってみよう…」
「朝風呂するの?」
「えっ?」
「よっ、エメリアの苦学生君!」
「おはようございます、どなたかと思ったらフィオナさんでしたか」
「まさか似たようなことを考えるとはね。私も風呂に行ってみようと思ったんだ」
「ということは、他のフロアも見てきたんですか?」
「外に出ようとしたら敷地の外は全面閉鎖だし、そもそも道路封鎖で食料が届かなくて朝食すら作れないんだって」
「輸送の麻痺…レストランにスタッフが誰も居なかったのはその為でしたか」
「今はここの通貨も持ってないし、買い物もできるような時間じゃないよね…」
「確か通貨は
昨日自分を連れて空戦に繰り出した娘は、言葉の割には比較的不安げな様子ではなかった。普通なら帰宅が難しくなれば、それなりに不安を覚えるものだが…。
…いや、軍属なら違うのか。特にUGSF、中でも
遭難してからずっとカルチャーショックや強大な敵性種族との戦いに付き合わされ、帰宅もできず心身共に疲弊しているガブリエルとは対照的だ。軍属でもない単なる大学生というのも、考慮すべきなのかもしれないが…。
「という訳でどうしても暇になっちゃうし、そもそも休みだから…大浴場はあっちか」
「開いているでしょうか?」
「ダメならその時は部屋のシャワーで済ませよう」
「とりあえず行ってみましょう」
移動の最中にも、ニュースはあちこちにホログラムとして映し出されている。
昨日撃墜したベルサーとバクテリアンの戦艦は、都市の高層ビルから撮られたと思われる望遠映像があった。途中まで雲が無かったためか、
また同じ日に海上に現れた
ビッグコアも別個体が
「…昨日の戦闘、撮ってたんだね」
「NEUEに来る途中で、敵には遭遇しましたか?」
「少なくとも惑星ガイアの基地から出てセルダールに着くまでは、敵らしい敵は居なかったかな。基地を出る前にベルサーの小型機編隊がちょっと襲ってきたくらいだったんだけど…」
「すぐにベルサーって分かったんですか?」
「ううん、相手の正体が分かったのはセルダールに着いた後だよ。最初は
「やはり居たんですね、UGSF領内にベルサーが…」
「風呂から出たら、その辺も知りたい?」
「調べがつくものなら知りたいですね」
「じゃ、何時でも良いから出てきたらロビーに集まろうか」
「分かりました」
…ダメだ、考えるたびに疑問が増えていっているような気がする。
今は疲れを取ることに集中しなくては…。
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"男湯]
[現地時間 AM6:40 天候:豪雨]
あれほど激しい豪雨で、気温も非常に低くなっているというのに、大浴場は適度な暖かさを持っている。入浴してみても、寒さは全く感じない。露天風呂と繋がる窓の断熱性能が高いのだろう。
リゾートホテルらしく複数の湯船で構成された大浴場は、それでも早すぎる時間が原因でガブリエル以外には誰も居ないようだ。
「…でも、結局ここに流れた原因は不明なままか…」
昨日戦ったベルサーはストレンジリアル経由でNEUEにやってきたが、異世界を渡る技術は持っていない。バクテリアンについても、グラディウス軍の関係者からは異世界往来技術の存在は語られていない。その経緯を聞ける可能性もあるかと思ったが、今の時点ではケヴィンが居ない。
仕方無い…どうせ独りなら、せめて何か歌って気を紛らわすか…。
「何だ、その歌は?」
「!?」
突然声がしたかと思って周りを見回すと、別の湯船にケヴィンが居た。さっきまで誰もいないと思っていたが、自分が気付かなかっただけか?
しかもグラディウス軍とバクテリアンの動向を知りたいと思った、まさにそのタイミングで彼が現れている。あまりにも話が出来すぎているような気がしないでもない。
「いらっしゃったんですか?」
「すまない、君達が朝風呂の話をしていたのを聞いてな」
「お仕事はよろしいんですか?」
「こんな天気だ、基地にも艦にも戻れない。晴れるまでは全員オフだ」
「問題ないなら良いのですが…」
「それより、その歌は地元の歌なのか?」
「えぇ、まぁ…一時期、大学の周りでよく流れた曲です」
「…羨ましいよ、歌えるのは。俺には出来なかったことだ」
「んっ?歌うのが好きだったんですか?」
「元々な。もうずっと前の話だがね…」
歌の話題を出すケヴィンの顔は、心なしか若干寂しそうであった。何故なのかは想像もつかないが、「歌うのが好きだった」だけでするような表情ではない気がする。
聞いてみようと思った瞬間には、ケヴィンの顔には軍人らしい精悍な表情が戻ってきていた。それを見てしまったら、ガブリエルにはその続きを聞くことはできない。
「…宇宙に居るバクテリアン軍が、元の世界に戻るルートを塞いでいるそうだな」
「ご存知なんですか?」
「雨が降る少し前くらいには通信が入っていた。現地の紋章機部隊なら、撃退自体はできるだろうが…殲滅が出来るかは未知数だ」
「…バクテリアンは、何故NEUEに来たのでしょうか?」
「まだ確実なことは分かっていないが、もしかしたらベルサーと同様に異世界へ渡るテクノロジーを発見したのかもしれないな」
「ニュースを見た限りでは、クロノゲートを制圧しようとしているようでした。こちら側の使おうとするルートを塞いでいましたし…」
「あのゲートは元々、グラディウス軍の支配宙域に突然現れたものなんだ。調査をしている最中、我々が試しにゲートに突入したら、その先にバクテリアン軍が居てな」
「それを追いかけて、セルダールまで来たのですね」
「そうだ。双方共にワープをしたことは確実だが、まさか行き先が異世界だとまでは予想していなかったよ」
ということは、セルダールに来たUGSFも封建王朝国禁軍もダライアス軍もグラディウス軍も、UPWと接触するまで自分達がNEUEに転移したことを知らなかった訳だ。同様にベルサーもバクテリアンも、異世界に来たという認識は無いだろう。
だがこうも立て続けにセルダール周辺に各陣営が集まってしまうというのは、何らかの因縁じみたものを感じる。あまりにも話がうますぎる気がするのは、自分だけではないはずだ。
居ても立っても居られないガブリエルは、フィオナとロビーに集まる約束を思い出した。そろそろ身体も暖まったし、出ても良かろう。
「…ロビーに行きませんか?もう一度、皆さんの話を整理したいです」
「同感だな。よし、行こう」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"ロビー]
[現地時間 AM7:35 天候:豪雨]
「…グラディウス軍にも異世界ワープ技術は無かった、と…」
「まぁキール君の言いたいことは分かった。確かに話が出来すぎてるとは思うよ」
「アジャーン大尉も同感か。どうなっているんだろうな…」
「結果的にここの皆が集まったのも、そのクロノゲートありきだものな」
「でもどうしてそんなに気にしてるの?異世界ワープもそうだけど、都合よく皆が特定の場所に集まるのも、偶然と言えばそれまでだよ」
「異世界ワープ技術って、ある意味ではオーパーツなんですよ。本来その文明にあるはずのないもの…」
昨日までのパイロット達…ケヴィンとギルバートに話を確認してみても、やはり味方のどの文明にも異世界へ渡るテクノロジーが無いようだ。UPWがクロノゲートを使って異世界往来をしているのも、比較的最近らしい。
ベルサーとバクテリアンが異世界ワープ技術を得た可能性はあると言えばあるが、具体的にどんなものか判断するには情報が足りない。回収・分析が進んでいるのは、セルダールの衛星軌道に現れたアイアンフォスルだけだ。
これ以上は何かを推理するにも手詰まりだろうか…
「おっ、キール君。探してたよ」
「あれっ、シュトーレン中佐?」
「昨日までの仕事の報酬を出してなかったから、それを届けに来たんだ」
「報酬?」
「どういうこと?ガブリエルって、UPWから直接パイロットを頼まれたの?」
「一応、そういうことになるのでしょうか…」
「まぁ、まだ身柄の引き渡しが終わってないから仕方ないかな…」
「とにかく、だ…これ、バイト代と言うのは違うかもしれないけど、取っておきな」
その時、フォルテが封筒を持って現れた。わざわざガブリエルを探しに来たのか。
渡しに来たものの名目も「アルバイト代」ということらしい。確かに2度空に上がって、正規軍に混ざって戦ったが…それだけで報酬を用意するほどのことだろうか?
ひとまずフォルテから差し出された封筒を、パイロット勢は全員で覗き込む。
「…あの、開けてみても…」
「良いとも、見てみな」
「…紙幣のようだね」
「ギャラクシークレジット…?」
「これがトランスバールの貨幣か」
「すまないね、正式に世界間通商が始まってないからさ」
「UGハイニクスとの為替レートが決まっていないのか…」
中身はかなり厚い紙束だった。印刷状況や書き込まれている文言を見るに、これはトランスバール・ギャラだろうか。正規のパイロットでもないガブリエルに対して、かなり大きな額を渡しているようだ。
しかし、この大学生は紙幣を数え終わるとニヤリと微笑んだ。
「いえ、ありがとうございます。これで欲しいものがありまして…」
「欲しいもの?」
「シュトーレン中佐、この周辺に本屋はありませんか?」
「本屋?」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"土産屋]
[現地時間 AM8:10 天候:豪雨]
「…どうして本屋なんかに?」
「エロ本でも買う気か?」
「止して下さいよ」
「で、本当に欲しいのは?」
「工学系研究の資料です。材料工学とか、次元操作系とか…」
「次元操作?キール君はそういうのを専攻してるのかい?」
「はい、ほとんどは企業の特許なので学校でやるのは基礎だけですが…」
クロノ・ストリングの基礎知識、多世界文明の歴史、白き月と黒き月、紋章機と軍艦に関するマガジン。
買い込んでいるのは、やはりそういった技術に関わる本。コモナ大学での専攻が
しかし今の時点で未知の技術…クロノ・ストリング工学に触れられるのは貴重だ。その意味で、為替を待たずに現地貨幣を入手できたのは非常に運が良い。
「…私、てっきり何か食べ物を買うものだと思ってたんです」
「あたしもだよ。こういうのを機械オタクって言うのかもしれないね」
「…本当に買うのか?」
「そのつもりです。今回のお代で買えると良いんですが…」
購入自体はすんなりと済み、欲しいと思った本はすべて買えた。しかし情報量の多そうなものを重点的に選んだため、紙袋が重くなりすぎて両手でも運ぶのは一苦労。
運ぶ先も宿泊した部屋に置いて良いのか、あるいは空が晴れてUGSF軍籍の艦に乗るまで待つべきか。雨足は全く弱まっていないどころか、むしろ悪化して空が暗くなっているようにも見えるが…。
「キール君?どこへ持っていく気だ?」
「とりあえずロビーに持っていくしかないかと」
「じゃ、とりあえず行ってみんなで読むか」
「あたしは戻るよ。雨が上がったら呼びに行くから、しばらくゆっくりしてると良いさ」
「ありがとうございます、中佐」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"ロビー]
[現地時間 AM8:35 天候:豪雨]
パイロット勢はこれ幸いにと、ガブリエルが買った本の一部を読む。今は各陣営の上官から指示がない以上、暇なのだろう。
しかし現地技術者向けの本だからか、買ったガブリエルにも非常に難しく見える。ケヴィンの顔は非常に険しくなっており、飛行機野郎ギルバートに至っては冒頭数ページでギブアップしてしまったらしい。フィオナは軍事マガジンなら難なく読めているようだ。
「…クロノ・ストリング系の技術は、最近開示されたばかりか、ずっと
「これがクロノゲート?本来こんなに大掛かりな設備なのか」
「…ダメだ、俺にはさっぱりだ…」
「…この世界では旧来型の軍艦構造なんだね。母艦と戦艦と駆逐艦が一緒になってるような感じ…」
これだけで丸一日潰せそうなほどだが、取り急ぎ考えておきたいのはクロノゲートの重要度だ。事前情報では、並行宇宙を往来するゲートであることは間違いないが、それを異世界勢力のバクテリアンとベルサーが何故理解できたのか…。
「…クロノゲートはまだ全部発見されている訳では無い…ゲートの発掘と並行世界のマッピングはまだ進行途中なのか…」
「進行途中?じゃあ見つけたゲートには調査チームが送られるのか?」
「多分そうでしょうね。ゲートの探査と、その先にある並行世界の探査は、恐らく別の人達が割り当てられているのかと…」
「ふむ…分かった気がするぞ」
「えっ?これだけで?」
「…恐らくバクテリアンは、そうやってこちらの世界に来た
「その通りなら、先にバクテリアンがゲートを発見したことになりますね」
「だが、そうするとグラディウス支配宙域に現れたゲートは何なんだ?バクテリアンならそんな大事なものを、みすみす敵側に放り出すとは思えんが…」
「単純に考えるなら、複製したのでしょうか…」
「UPWでも完全に原理を解明できていないゲートを、バクテリアンに複製できるのか?」
「そう言われると、確かにおかしいよな…」
バクテリアンがゲートを先に発見したのなら、NEUEに居ることは何ら不思議ではない。調査チームを捕虜としているのなら、制圧すべきUPW軍の配置も理解している可能性がある。
もしそうなら、バクテリアンはまとまった数の艦隊をNEUEに差し向けているはずだ。NEUEで遭遇する相手がグラディウス軍ではない未知の勢力であることは分かるはずだし、そうなれば制圧用の戦力を余剰に用意して不測の事態に備えるのは自然だ。
「…いや、待てよ…そもそもバクテリアンが発見したゲートは、今もバクテリアンの支配宙域にあるのか?」
「ケヴィンさん?」
「すまない、もう少しページを進めてくれるか?」
「はい…何か仮説が?」
「今、
「どういうこと?ゲートを手放すとは思えないって、さっき言ったんじゃ…」
「バクテリアンは手放したくないだろう。だが他の誰かがゲートを転移させたら?」
「なるほど、同じ世界でもNEUEからの接続先を変えたのなら、傍目にはゲートが転移したように見えるって訳か」
「そうだ、後はそれを裏付けられる文脈があれば…」
「…あっ、これかな…」
続けて読み進めた情報の中には、ゲートの移動にかかわる話があった。
どうもクロノゲートはインターネットのIPアドレスのように、座標さえ分かれば接続先をある程度自由に操作できるらしい。他のワープ技術と違うのは、指定できるアドレスの範囲に並行世界も含まれることか。
検証の為に観測していた別の調査チームによると、親世界ABSOLUTEからゲートの接続先を変更すると、並行世界側のゲートは跡形もなく消えたという。そして接続先を元に戻すと、再度ゲートが出現したそうだ。消えたゲートはどこにあったかと言うと、本当に変更先の座標に転移していたとまで書かれている。
「…そうか、話が分かったぞ。バクテリアン軍がセルダールに来たのは、ゲートを探して帰る為だったのか。そしてバクテリアン宙域にあったゲートは、接続先の変更でグラディウス支配宙域に現れた訳だな」
「となるとバクテリアンはNEUEに来たのは良いが、帰り道が消えたことになるぞ。実質、航路の封鎖だが…誰がそんなことを?」
「それこそUPWだろう。バクテリアン軍が何かは分からなかったとしても、大規模艦隊を恒常的に差し向けるような軍隊は警戒するはずだ。ゲートを転移させて増援を遮断するのは、宙域の管理者なら誰でも思い付きそうなことだ」
「でも転移させたNEUEのゲートからは、今度はグラディウス軍が来た…どうかすると、UPWに敵だと思われてたかもね」
「だな。その意味では、我々は命拾いをしたのかもしれない。だがUPWの捕虜が本当に居るのかは、情報を集めなければならないな」
ここまでの話を聞く限り、グラディウス側の状況はこうだ。
UPWはNEUEで新しくゲートを発見し、接続先の並行世界を探索する為に旅団を送った。しかし送られた旅団はバクテリアン軍に捕まり、クロノゲートはNEUEへの侵攻に利用された。
UPWはバクテリアン軍の増援を遮断するために、クロノゲートの接続先を変更した。それがたまたまグラディウス支配宙域にあたり、ケヴィン達からは「突然ゲートが出現した」ように見えたのだ。
そしてここまでの仮説が正しければ、今NEUEに居るバクテリアン軍はUPWの旅団を捕虜として連れ回していることになる。UPW…タクト・マイヤーズ総帥も、恐らくその辺りに気付いていることだろう。
「…次はベルサーか。あの魚共が何故NEUEに居るのか…」
「確かダライアス連合軍は、UPWから用意されたゲートで来ているんですよね?」
「そうだ、だから俺の事故以外は正攻法での往来ってことになるな。問題はどう見てもゲートを通っているように見えないベルサーだけど…」
「クロノゲートに関わっていないなら、全く関係のない勢力が何かをしたとしか…」
「
「それは無いと思いますよ、最初ベルサーは封建王朝国に転移してましたから…」
「他にネタがあるとしたら、ダライアス連合軍の提携先か、その敵だろうな…」
「思い当たるのか?」
「連合軍本部と協力関係にあるのが
「
ベルサーの転移ルートを探るには、その
ひとまず今はここまで調べがつき、それ以降の推測が行き詰まる状態となったが…何か忘れているような気がする。
「あれっ、要調査と言えば
「何だ、ウィルって?」
「昨日遭遇したダークエンジェルを操っていた異次元生命体です。フィオナさんはバッツーラなんて言ってましたが…」
「UGSFも似たような存在に遭遇した歴史があるんだよ。
「名前だけなら聞いたことがあります。その相手がバッツーラなのですね」
「とにかく、そのウィルが何者かを知りたい訳か。その本には載ってるか?」
「歴史書の索引を調べましたが、ウィルという名前はありませんでした。接触が最近過ぎるのか、存在が秘匿されてるのか…」
「…マイヤーズ理事長に聞いてみた方が早そうだな」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"応接室]
[現地時間 AM10:30 天候:豪雨]
「…まさか君達の方からこっちを呼びに来るとは思わなかったよ、しかもこんなに早く。申し訳ないんだけど、タクトは今もおたくらのトップと会談中でね」
「いえ、とんでもない…わざわざお時間を下さり恐縮です」
「良いさ、皆には助けられてるんだ。あたしだって質問くらいは答えてやりたいよ」
流石にタクト・マイヤーズを呼べるとは思っていなかったが、フォルテが来てくれたのは非常に都合が良い。軍事系の話題に強いのもそうだが、何より遭難直後から度々話しかけてくれている。謹慎解除前で手が空いているのかもしれないが、結果的に話しやすい。
パイロット4人が揃ってUPW関係者を訪問するというのが、そもそもかなり奇妙な状況であるが…。
「…で、さっきあれほど沢山本を買ってたじゃないか。それでも分からないことがあったのかい?」
「いえ、あれとは違うことで…昨日接触したウィルのことです」
「…そうか、やはりその話題になるか…」
「何かご存知で?」
「アジャーン大尉とジェイソン大尉は直接戦ってないから知らないだろうけど、キール君とアルベルト中尉が戦った紋章機は無人機なんだ。異次元か異世界かは不明だけど、遠隔操作なのは間違いない」
「確かに…パイロットが
「キール君がジョニーと一緒に撃ち落としたダークエンジェルとシルス高速戦闘機…あれも無人機だったんだけど、ウィルと関係してるんじゃないかな」
「えっ?ガブリエル、まさか誰にも許可を取らずに戦ったんじゃ…」
「おっと、責めないでやっておくれ。あのときはむしろ、その独断に助けられたんだ」
フィオナが怪訝な顔でガブリエルを覗き込み、フォルテがそれを制する。
軍属でもなんでもないガブリエルが
肝心の
「…君達はそのウィルが何者なのかを知りたいんだろう?」
「是非教えてください」
「ウィルが何者なのかは、正直あたしらも調べている最中なんだ。UPWに数回敵対していること以外は、ほとんど情報らしい情報が残らなくてね」
「情報が残らない?」
「どういうわけか、破壊した戦闘機や軍艦の残骸が出て来ないんだ」
「…小型バクテリアンと同じか…目的は機密保持?」
「あたしもそう予想してるよ。多分ウィルは、自分達と同じ空間にUPWが来ると困るんだろう。だから痕跡を消して、辿られないようにしてるのかもね」
「他に分かっていることは?」
「人間の意識に侵入して操ったり、逆に意識を奪ったり…分かってるのはそんなところだ」
まるで何かの怪異だろうか。ウィルの動向を聞く限りでは、一方的にこちらに害を為そうとする幽霊や妖怪と認識できる。しかもその目的が分かっていないことも、不気味さに拍車をかける。
これでは歴史書に掲載できないのも無理はない。分からないことが多すぎて、まとまった情報にできないのだろう。それに存在を秘匿しなければ、市民の不安も煽りかねない。
UPW…というよりトランスバールは、こんな厄介なものと戦っていたのか…
「…ところで、昨日の話をするついでに聞きたいんだけど…ミハイって誰なんだ?」
「ミハイ?」
「あの後で記録を分析したら、途中から
「初めて聞いたぞ、キール君?」
「…あの時、本当に誰かに操られてたのかい?」
「ミハイ・ア・シラージ…
「何だと!?」
「話を聞く限りでは、そのミハイは亡くなって数世紀経ってるようだな」
「自分でも信じられません。何故死者が僕とコンタクトを取ったのか、何故死者が一時的でも
「その様子だと、自作自演ではないようだね」
「私もその時の話を聞きました。ミハイはウィルにも言い返して…」
「言い返した?ミハイがウィルに?」
「確かミハイは"異界の暴君よ、私が居る限り好き勝手はさせない"といったニュアンスのことを…」
「…死者がウィルと話せる…有力情報かもしれないな…ちなみに今はどうだい?」
「いえ…今のところ、あれから何も接触がありません」
「ということは、自由に話せるわけじゃないのか」
ミハイ・ア・シラージ。
しかし彼の居たエルジア王国は950年近く前に
今となっても尚、何故ミハイがあの場に介入できたのか皆目見当がつかない。ウィルがミハイを怪物扱いしたのも引っ掛かる。自分達には死者を引き付ける何かがあるというのか?
それ以上は何も分かりそうにないと思って諦めると、今度はガブリエルに代わってケヴィンが質問を投げかける。
「ときに中佐、バクテリアンがクロノゲートに居ますね?」
「おっ、ニュースを見たのかい?」
「報道では所属不明とされていますが、あれがバクテリアンであることは伏せているのですか?」
「まだね。知っての通り報道規制中で、どう発表するのかは政府レベルで考えてる最中だよ。それが何かあったのかい?」
「あのバクテリアン軍は、UPWの人間を捕虜にしている可能性が浮上しました」
「こっちの誰かが捕虜になってる?どういうことか説明してくれないか?」
「彼の買った資料によると、クロノゲートは片方が接続先を変更すると、対になるゲートが転移するとありました」
「確かにそういう機能は確認されてるけど…まさか、あれか…?」
「何か心当たりが?」
「実はちょうど先月、ある世界の探査に向かったチームが全滅して、所属不明の機械がゲートから大量に出現したんだ。現場の判断で急遽ゲートの接続先を変えたそうだが…」
「全滅!?」
「残念ながらね。出現した機械の中に調査チームの船の航行記録があって、それを分析した別働隊が全滅と判断したそうだよ」
「そのときの情報はありますか?」
「分析に当たった別働隊からの映像ならあるよ。ちょっと待ってくれ…」
ケヴィンが聞いたのは、先程立てた仮説の話。やはりクロノゲートはバクテリアンのNEUE侵攻に利用されていたようだ。更に悲しむべきは、UPWの調査隊が捕虜どころか全滅していることにある。
これで出てきたのが本当にバクテリアンなら、彼らは1ヶ月近くNEUEを彷徨っているか、どこかの惑星を領星として制圧している可能性がある。そうなればUPWはウィルとバクテリアンの2正面作戦を強いられることになるが…。
そうこうするうちに、フォルテは件の映像を再生する。空中に浮かび上がった映像を全員で注視するが…やはりケヴィンの顔が曇っていく。
「…これだ。見てくれ」
「…何だこれは…コア級戦艦とデス級母艦の混成か?」
「やはり見覚えがあるんだね?」
「何度も撃墜した敵艦ですが、このおびただしい数は目を疑います」
「見ての通り、こんな大艦隊が相手じゃ調査チームはあっさりと殲滅させられる。残骸は抱えられたままゲートを通過して、艦隊が通過しきったところで放棄されたんだ」
「マップデータだけ頂戴して捨てたってのかよ…」
「ついに異世界人まで手に掛けたか、バクテリアンめ…」
「…ジェイソン大尉、これについてはあたしからもタクト達に話してみるよ。規模から考えても、どこかでバクテリアンが根城を構えていても不思議じゃないだろうし…」
「…あれ…何だろう、これ?」
「フィオナさん?」
続きが再生される映像を見ていたフィオナの表情が、一瞬固まる。
そこにはバクテリアンとは明らかにフォルムの違う、まるで巨大なトンボと思しき物体が映っていた。
宇宙で活動できる虫と言えば、
意味が分かったガブリエルも、途端に顔から血の気が引いていく。
「…何ですか、これ…」
「
「何だ、そのギャラガって?」
「UGSFがずっと頭を悩ませている
「
「待てよ、そのギャラガはバクテリアンと同じゲートから出てきたんだろう?つまり同じ世界から来たんじゃないのか?」
「ということは、そのギャラガはバクテリアンかグラディウス軍とも接触してる可能性があるな…だが俺は知らないぞ」
「…アルベルト中尉とキール君が分かるのは、そのくらいかい?」
「私から話せるのは以上です。他のことはマイヤー司令が詳しいかと」
「ふむ…分かった、話してみよう。アルベルト中尉が警戒するってことは、相当な脅威だろうね。タクトはもちろんマイヤー司令も無視はしないだろうさ」
当初はガブリエルの送還だけだった筈なのに、調べていくうちにあれよあれよと敵対種族が確認されていく。これでは無事に帰れるのかという以前に、そもそもセルダールから出してもらえない可能性すらある。そして駐留するUGSF、グラディウス軍、ダライアス連合軍もNEUEから離れられないかもしれない。
こんな状況では、もはや何が起こってもおかしくない。ベルサーとバクテリアンがクロノゲートとセルダールに到達しているなら、セルダールに集まった各勢力がギャラガと遭遇するのも時間の問題だ。しかもUPW軍は宇宙に昆虫が生息できるとは考えも及ばない。となれば対応が上手く行かない可能性だってある。
「…これ以上考えても仕方ないだろう。そろそろ部屋に戻ったらどうだ?」
「同感ですね。我々も戻ります」
「キール君、とりあえずロビーに行くか?」
「そう…ですね…」
「ではシュトーレン中佐、失礼します」
「あ…アルベルト中尉、ちょっと待った」
「はい?」
異常事態に対して戦慄するパイロット達を帰すフォルテは、何故かフィオナだけを呼び止めた。
戻ろうとしたフィオナは呼ばれるままにフォルテのもとへ向かうが、そのフォルテの表情はどことなく憔悴していた。
「…ちょっと気になったんだけど、UGSFで空中戦が出来るのは、今のところ君とキール君だけなのかい?」
「はい、他の者は全員宇宙に居ます」
「気の毒だな…ああは言ったけどキール君は素人だから、アルベルト中尉にとっては単独飛行みたいなものだろう?苦労するんじゃないか?」
「確かに素人を連れての作戦行動は慣れませんが、今は居るだけでも貴重な戦力です。それに本件では、彼の護衛も兼ねてますから…」
「護衛だって?」
「私も詳しくは知りませんが、マイヤー司令は"元いた土地に送り届けるまで、何があっても随伴せよ"と…」
「そうなのか…」
「彼に空へ上がるよう口添えしたのは
「ということは、早く彼を帰さないと君の休みは無い訳だ…」
「気にしていません、仕事ですから」
「なら良いんだけど…君の為にも、早く送還できるようにしないとね」
一通り話し終わったフォルテの顔は、ようやく緊張がほぐれた様だった。昨日飛んでいたUGSF所属パイロットがフィオナしか居なかったことを、割と気にしていたようだ。
ようやく解放されたフィオナも他のパイロット達と合流しに向かい、フォルテはその様子を見送った。そしてフォルテはタクトに向けて、先程の話題を書いて送るのだった。
「…タクトのヤツ、会議中だと読まないかもな…会議室の全員に回覧させるか…」