[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"レストラン]
[現地時間 AM11:17 天候:豪雨]
「…あなた、遭難した割には物凄く行動的なんだね」
「とんでもない、じっとしていたら不安で死にそうなだけです。居たことのない環境なので…」
「まぁ、そういう人も居るのは知ってるから分かるような気はするよ」
魔導師や魔法使いと呼ばれる存在はフィクションなら昔からある題材だが、目の前にいる女性はどう見ても20代、どうかするとガブリエルより年上にも見える。同じように魔法を操る
当人は
「…で、どこから聞きたい?」
「まずは事の発端から…」
「ってことは、別の惑星で見つかった戦闘機からだね」
「
「乗ったことがあるんだったかな?」
「遭難直後の一度だけです」
「あれ、調べてみたんだけど…
「飛ばされた?」
「
「クロノ・ストリング・エンジン、紋章機の基本コンポーネントですね」
「それが変な動作をしたら、例のエンジンと関係者全員が白き月に飛ばされて、代わりにその
「白き月と言うと、EDEN側の
「本で調べたのは本当なんだね。私もイマイチ掴めてなかったから、飲み込みが早くてビックリだよ」
「機体はどこから来たものですか?」
「んー…何だっけ、ボスコニア共和国?」
「ボスコニア…
ボスコニアン…かつてUGSFと幾度も戦火を交えた宇宙海賊。様々な星を襲っては資源を簒奪する過程で、どういう訳か
500年程前、ボスコニアンのうちいくつかの部族がUGSFの軍門に下り、その見返りとして永らく得られなかった安住の星を与えられた。そしてそれに従わない他の部族は敵対し、そのことごとくが宇宙へ散ったという。
なのはの話では、その惑星ボスコニアで自衛戦力として製造された
原因となったクロノ・ストリング・エンジンは不具合の修整が済んでいるが、そもそもあのエンジンは本来
「そっか…とにかく、それがここに運ばれてテストされてたんだね。UPWのパイロット達は上手く乗れなかったらしいけど…」
「その後は?」
「その少し後、クロノゲートを通じてバクテリアンがNEUEに来ちゃった…ってのは、もうフォルテさんから聞いてるんだよね?」
「さっき話したばかりです。
「うん、これはただの偶然だけどね。同じ流れで
「…あれはUGSFがずっと戦っているエイリアンの一部です。まだ残ってたなんて…」
「バクテリアンとギャラガがどの星に潜伏してるのかは、ある程度絞れてるんだ。準備ができたらUPWとグラディウス軍が攻撃するんだってさ」
「それなら良いんですが…」
ケヴィンの話にあった通り、バクテリアンはNEUEに着いてから今日までの1ヶ月間に植民星を確保したようだ。それだけの期間があれば、後を追ってきたギャラガもコロニーの構築はできるだろう。
エイリアンの殲滅にUPW軍とグラディウス軍が動くのは、積極的に敵対種族と戦いに来た両者と違って、UGSFとダライアス連合軍の目的があくまで遭難者の保護にあるからだろう。ギルバートはこれからヅーヌマ星系に戻って、戦線に復帰しなければならないはずだ。ガブリエルも
忘れてはならないが、自分は本来積極的に戦ってはならない立場の、あくまでも遭難中の民間人でしかないのだ。
「その後もあるんですよね?」
「そこから1ヶ月後、つまり今から3日前…ガブリエル君がユージアからセルダールまで飛ばされた原因は、宇宙から地球上に落ちてきた残骸のせいだったよ」
「残骸?」
「あのとき、軌道上ではUGSFの防衛隊がベルサーの小型機と戦ってたんだ。知らなかった?」
「いえ、何の報道もありませんでした」
「やっぱり報道してなかったんだ…情報統制が凄いな…」
「その時には既にベルサーが居たんですね」
「小規模なベルサーの戦闘機隊が1部隊だけ現れて、全機撃墜したんだって。でもその残骸の一部は落下して…」
「…僕の
「そうとしか思えないって話だったんだ。現地で回収できた破片をダライアス連合軍に渡して、昨日の調査ではヴァイスコアだったらしいんだ」
「ヴァイスコア?」
「うーん…話すと長くなるけど、聞く?」
「是非教えてください」
このヴァイスは異世界へのテレポートが可能であるとのことだが、テレポートの要諦とみられるヴァイスコアがベルサーの戦闘機に組み込まれており、これがUGSFとの交戦時に破片としてユージアに落下したという。そして落下したヴァイスコアの欠片は、あろうことかユージア南東部イスタス要塞…つまりタンゴ線を飛ぶガブリエルの
接触したヴァイスコアは大気圏突入時の摩擦熱をエネルギーとしてテレポートを起こしたが、本来ベルサーかヴァイスの元に行くはずのルートが妨害されてNEUEに行き着いたという。
なるほど、ギルバートの言う「思い当たるのはその辺」とは、
またフィオナはUGSF中央本部のある惑星ガイアからクロノゲートまで来たが、道中でベルサーと接触している。その時点では相手が
「…というのが資料だけど、読んで分かる?」
「…"ルート変更はストレンジリアル特有の粒子技術が原因とみられる"…?」
「思い当たるの?」
「あるとしたら
「スターレンス副司令も同じことを言ってたな…」
「そのヴァイスとベルサーの関係は?」
「ヴァイスはただの機械生命体だから、多分特異な文明はないね。ベルサーがどこかで個体を捕まえて組み込んたって見立てになってるよ」
「ヴァイスコアで異世界に行けるとしたら、それを使ってベルサーが異世界に侵攻することもできるのか…」
「まぁ、そうなるよね」
「アジャーンさんもそうやってNEUEに来たんですか?」
「ダライアスから来た遭難者だね、メカニズムは同じらしいよ。封建王朝国…って言ったっけ?そこの領域にテレポートしたベルサーの艦隊が、ついでに一緒に戦ってたダライアス軍を連れてきちゃったみたいなんだ」
「連れてきた?接触してない機体もテレポートですか?」
「えーと、確か書いてあったはず…"バースト機関との相乗効果"?」
「原因はヴァイスコアとバースト機関が位置的に近い状態で戦ったことか…ということは、ダライアス軍の領域から封建王朝国に来たのも同じ原因…」
「後は皆が知ってる通り、ここで集まって防衛戦ってわけなんだけど…大変なことに巻き込まれちゃったんだね…」
状況はようやく飲み込めた。
ケヴィンの予想通り、バクテリアン軍は最初に大部隊をNEUEに差し向け、かなり早い段階でセルダール周辺のマップデータを入手した。だからこそ多少の抵抗で戦力を削られても尚、領星の獲得を強行できたのだ。
しかしベルサーは事情が違う。入手ルートは不明だがヴァイスコアとバースト機関を使うことで、ゲートに頼らず異世界の目標へピンポイントに侵攻することができた。ところが結果として
異世界に渡る手段として偶然クロノゲートを見つけたバクテリアンは大部隊を差し向け、ヴァイスコアとバースト機関の組み合わせでいつでも異世界に渡れるベルサーは小部隊で済ませた。そうした事情の違いが、セルダール周辺での戦力差として表れてしまったワケだ。
これはギャラガについても同じで、NEUEに来たのがいきなりクイーンギャラガだったので戦力の”繁殖”が可能であった。更に厄介なことに、ギャラガはその進化種も含めてコロニー構築に必ずしも惑星を必要としないので、いくら星系から追い出しても完全には駆逐できない。その為、存在の確認できた宙域をしらみつぶしに当たるしかない。
今の時点ではバクテリアン、ベルサー、ギャラガの三つ巴が成立していることが救いか。
「…経緯は分かりました。資料によると、バクテリアンとギャラガの潜伏予想宙域にはベルサーも向かっているようですね」
「…多分、これで混乱するのは時間の問題だと思うんだ。宇宙に出られたら魔導師は戦えないし、多分相手はそれぞれ大部隊だから…」
「同感です。嫌な予感がしてきました…」
話を進めるなのはの顔は、終始暗そうだった。
「宇宙に出られたら魔導師は戦えない」と言うが、そのことを気にしているのだろうか。あるいは一連の事件が、特務六課の予想していたものより大規模だったからか。
あまりにも重々しい空気を漂わせる彼女に、それ以上の質問は出来そうになかった。事件の経緯を知れたのは良いが、こんなことなら無理になのはに話をさせないほうが良かったかもしれない…。
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地近郊 リゾートホテル"エレノアール"ロビー]
[現地時間 PM1:35 天候:小雨]
『雨が止んだら、宇宙に上がれるよ。そうしたら帰れるって!』
別れ際、明るい声を振り絞ったなのはの姿が脳裏に残る。
確かに
ここまでに会ってきたイリーナやフォルテ、マリン達と比べても、明らかになのはの顔つきが暗い。自分達には言えない、何か重大なものを隠しているようにも感じられる。あんな姿を見て、みすみす帰る気にはなれないが…。
「良かった、ここに居たのですね」
「…烏丸大尉?」
「雨もまもなく止みます。もう少ししたら、基地に向かう車が来ますよ」
「わざわざ僕を呼びにいらしたのですか?」
「私も同じく基地に向かわねばなりませんので、せっかくならと思ってフォルテさんに代わってお声掛けに参りました」
「事情は分かりました…と言っても、こっちの荷物は服と本だけです」
「あら、フォルテさんから聞いていましたが…本当に専門書ばかりですね」
「帰ったら隅々まで読まなければなりません」
「大学でそういう専攻でしたね」
ガブリエルを呼びに来たちとせの顔は、遭難初日のあの凛とした表情そのままであった。
なのはとは対照的に、大変なことには何一つ直面していないような、ちとせの穏やかな姿。ただそれだけのことなのに、青年の頭に嫌な予感が湧いてくる。この2人の意識の差は、いったいどこから生まれているのだろう?
「他の人達は?」
「小雨になったらどんどん基地に向かってしまったようですよ」
「ということは僕だけが…」
「いえ、後から時空管理局の方々も追うそうです」
「ふむ…」
「お話、されたのでしょう?」
「本当に簡単な状況説明を受けただけです」
「私も話を伺いましたが、非常に込み入った事情で驚きました」
「時空管理局は、今回居合わせた全陣営の技術を把握していましたね」
「最初から分かっていたのではありません。各方面からの情報を交換したのみです」
「であれば合点がいくのですが…」
「…何か気になりますか?」
「さっき話した時空管理局の人間は、ただの状況説明にしては非常に辛そうな話し方だったんです」
「…時空管理局が予想していたのは、異世界にある惑星同士で完結するような事件だったようです。なので宇宙に出られると、手出しができないそうで…」
「それは聞きましたが、それだけで…」
「治安維持に関わる人間は、事件に手を出せないと分かると想像以上にもどかしく感じるものですよ」
「そういうものでしょうか…」
「私も一時期は
時空管理局に関わるちとせの話は、なのはとほとんど変わりがない。
確かに宇宙に出られる魔導師は聞いたことがないが、それだけであれほど表情を曇らせるなのはは相当正義感が強いのだろう。逆にちとせはそういうもどかしさを何度も乗り越えた結果が、あの凛とした態度なのかもしれない。
「そうそう、フォルテさんとミントさんから伝言なのですが…」
「何でしょう?」
「"次は自力でトランスバールにおいで"だそうです」
「自力で?」
「政治的・外交的な話は色々ありますが、私も皆さんにまた会いたいと思っています。心強いですし、何より仲良くできそうですし…」
「…どうやれば良いかは分かりませんが、善処します」
「特にウォーカーさんは喜ぶでしょうね、非常に気にしてましたから」
自力でトランスバールに来い?つまり再度NEUEに渡るか、今度はEDENに来いと言うのか?
どういう訳かUPWの人間は、たかだか満3日間遭難していただけの異世界人に対して随分と友好的だ。まだ
フォルテとミントがクロノゲートの機能と安定性を根拠にして、異世界人がEDENやNEUEに渡れると考えていることは想像できる。しかし相手側の世界も同様にクロノゲートを扱えるかどうかは別問題だ。ただでさえ
「来ましたね。さぁ、行きましょうか」
「はい…」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地内 格納庫]
[現地時間 PM2:10 天候:小雨]
「お疲れ様です、烏丸大尉。ガブリエル、待ってたよ」
「アルベルト中尉、この度のご協力に感謝します」
「フィオナさんは何故
「昨日の件もあるし、まだ
「ウォーカーさんもお越しだったのですね」
「心配だったので…キール君の荷物はどうした?メチャクチャ沢山本を買ったって聞いたけど…」
「あの本なら輸送艦に移してもらいました」
「なら大丈夫だな。一番かさばるだろうし…」
基地内ではUGSFとダライアス軍の撤収作業が進み、グラディウス軍の物資補給も並行していた。この格納庫も
格納庫から運び出される
「とりあえず、これでしばらくキール君ともお別れか。インパル嬢も、あの飛び方は是非ご教授いただきたかった…」
「大丈夫ですよ、UPWとしては皆さんとの交流が続くように努力しているところです」
「原因は外敵ですか?」
「主にはそうですが、皆さんとの接触が我々にとっても広範に役立つと考えています」
「であれば嬉しいのですが…」
「マリン大尉も話してましたよ、また集まりたいって…」
「マリン大尉…
「異世界との接触で得るものがあるのは、ダライアス軍も同じようですね」
確かに
そういう高度な政治性を持つ事態に遭遇したという意味では、非常に貴重な機会だったのかもしれない。その経験が良い方に機能すれば文句はないが…。
《総員戦闘配置!繰り返す、総員戦闘配置!》
「何だ、こんなときに敵襲か!?」
「ウォーカーさん、出撃準備です!単騎でも良いので上がってください!」
《当基地上空に昆虫型の不審物が多数接近中!》
「ギャラガだね…」
《ストライダー隊、出撃を要請する!》
これから脱出しようという時に敵襲か。しかも相手は昆虫、となるとギャラガしか思い当たらない。各機体の再配置の最中だから、動かせる戦力が少ないという意味でも非常にタイミングが悪すぎる。
こんなとき、即時にでも空に上がれる機体があれば…
「ガブリエル、行ける?」
「でも機体が…あれ?」
「まだ運ばれてないんだよ、
「…準備します」
「アルベルト中尉、キールさん、よろしくお願いします!」
「お任せください、烏丸大尉」
[NEUE 惑星セルダール 空軍基地上空]
[現地時間 PM2:39 天候:小雨]
離脱準備中のダライアス軍はシルバーホークを出せず、補給中のグラディウス軍もビックバイパーの緊急発進ができない。辛うじて先行するルナ・アンジェラス隊の
慌てて準備をしたガブリエルが乗り込んだのは、ボスコニアからアジートに転移した
一方フィオナが乗り込んだのは、別の異世界からUGSF管内に持ち込まれたという
「グラスコクピット機なんて、もう残ってないと思ってたのに…」
《意外だった?》
「教科書で見ただけなので、ちょっとしたカルチャーショックです」
《そっか。あとはこの機体がきちんと動けば良いんだけどね》
《クラフティからインパル、続けて離陸されたし!》
《ストライダー1、了解。ガーベラ、ついて来て!》
「ストライダー2、離陸許可を得ました」
今回は遭難以来、最も分が悪い状態での空戦になる。大型戦闘機サイズとは言え軽く100体も居るギャラガに対し、迎撃に上がれたのは紋章機1機と型落ちのグラスコクピット機1機、素人の乗るエアロコフィン1機。しかも今回ばかりはガブリエルも積極的に戦わねばならない。
遭難直後から久々に乗った
先行するジョニーのホーリーブラッドも、昨日まで無かった武装が装着されている。機体前方のアームは元々のニードルに、ミサイルコンテナを思わせる箱状のユニットが外付けされている。
《クラフティ、拡張装備の調子はどうだ?》
《ハイパーキャノンと
《よし、弾切れになったら遠慮なく戻って来い》
《ガーベラ、何とかなりそう?》
「UAVの使用方法は分かりました。指示を待って攻撃します」
《今回だけは私を待たずに撃って大丈夫だよ。多分積極的に行かないと、押されちゃうと思うんだ》
「分かりました、やってみます」
ギャラガの編隊がセルダール、それもこの基地の上空に居る。ということは、恐らくギャラガはUPW軍の包囲網をくぐり抜け、最初から自分達を狙ってこちらに向かっている可能性がある。
だとしたら、ギャラガは容易く自分達を宇宙に上げさせてはくれないだろう。早く帰るためにも、手早く殲滅せねば。
先行するフィオナの
《ストライダー1、
「ストライダー2、
《クラフティ、突撃する!》
《敵個体、10%減少。増援の兆候は無い》
(ベルサーみたいに亜空間を展開する訳じゃないんだ、落ち着いてやれば切り抜けられる…!)
ひたすら攻撃を続けて個体数を減らしていくと、編隊の最後尾とおぼしき部分に大きな個体が2つ現れた。
大学の講義内容によると、ギャラガ族の中で唯一のオスがボスギャラガだと言う。リング状のトラクタービームであらゆるものを捕獲し、持ち去っていく。
あんなに大きな図体で、一体何を持ち出すことができるのか正直気になるところだ。万一にも自分達が捕獲されても、抜け出せる方法が思い浮かばない。
ところが件のボスギャラガは、何故か自分達ではなく何も無い海上に向けてリングレーザーを放ち始めた。その意図が全く分からないこともあって、ガブリエルは混乱する。
「…あれ?どういうことだ…?」
《どうしたの?》
「あの個体、ボスギャラガですよね。どうして海に向かって攻撃を?」
《分からないけど、あれってトラクタービームだね。海中の何かを狙ってるのかな?》
《そこには何も無かったはずなんだが…今は他を潰そう》
ジョニーに声をかけられ、意識は戦闘に引き戻される。続けて全機がUAVを射出し、まだ大量にいる小さな個体を続々と撃墜していく。
今回の敵はギャラガの中ではありふれた、比較的脅威度の低い個体ではあるという。しかしそれは
それでも機銃やミサイル、パルスレーザーが効くこともあって、楽に敵を減らし続けている。反撃があると言っても、避けられないものではない。大型個体ですぐに倒せそうにないボスギャラガを除き、敵を殲滅するまでに時間はかからなかった。
ところが…
《クラフティからタワー、見えるか?敵が何かを海中から引き揚げ始めた!》
《何だと?解析する、そのまま敵を捉え続けてくれ!》
《さっきのトラクタービーム?》
「随分長い時間照射すると思いましたが、一体何を?」
《こ、これは…1つはベルサーの
「ベルサーの戦艦の構造体を!?」
《もう一つも見えた、バクテリアンのビックコアの中核部分だ!》
《今度はバクテリアンの戦艦!?》
《ギャラガがセルダールに来た理由は、あれを鹵獲する為だったみたいだね》
《持ち帰られたらマズイ、全弾撃ち込んで阻止しろ!》
2体のボスギャラガが引き揚げたのは、アイアンフォスルの頭にあたる構造体と、ビックコアの中核部分。いずれも昨日までに撃破したものだ。
確かあの2つは、UPWも分析の為に欲しがっていたはずだ。ギャラガに奪われたら、何に使うのか皆目想像がつかない。とにかく持ち出しを阻止しなければ。
指示通り、3機はありったけのミサイルとUAV、レールガンを撃ち出して攻撃する。だが流石に図体が大きい分頑丈なのか、全く足止めできている気配がない。ボスギャラガは撃たれていることにも気付いていないようで、アイアンフォスルとビックコアを引き連れたまま空に上がっていく。
《ドライブ!ドライブ!》
「スラッシュ!…かなり撃ってるはずなのに!」
《全機、そこから離れろ!敵がワープ反応を起こした!》
《アイツ、このままワープで逃げるつもりか?》
《撃破できないのは惜しいが、命を賭けてまで追うことはない。ここは離れよう。全機帰還、ストライダー隊はそのまま母艦に機体を載せてくれ》
結局、小型の個体を殲滅しただけでボスギャラガの離脱は止められなかった。基地からの指示で攻撃を止められた一同は、一応は無傷での防衛には成功したが、ベルサーとバクテリアンの兵器の残骸は鹵獲されてしまった。
まさかセルダールから離脱する直前に、こんな不穏な騒動に直面するとは思っていなかった。今回の戦闘は、居合わせたどの勢力からも危機感をもって捉えられたはずだ。
《インパル、ガーベラ、大丈夫か?》
《私なら何ともないけど…》
「大丈夫…だと思います」
《後はこっちで引き継ぐ。元の世界への送還はそっちにしか出来ないから、後は頼むよ》
《インパル了解。さぁ、帰ろうか》
《ガーベラ、無事に帰れよ!またどこかで会おうな!》
「ジョニーさんもご無事で!」
…悩んでいても仕方ない。これでようやく自分はパイロットの任を解かれ、遭難者らしく家路に就けるのだ。そのことは素直に喜ぶべきではないのか。
帰還指示のあった通り、2人はジョニーを残して地上へ、そして輸送艦へと戻ることにした。後は首尾よく
[NEUE 惑星セルダール軌道上 ケストレル級航宙機母艦Ⅰ型"アルタイルⅣ"]
[現地時間 PM5:38]
「…あっという間に宇宙か…」
「お疲れ様。くたびれてない?」
「正直ヘトヘトですが、まだ着くまで気が抜けません」
「もう大丈夫だよ、後はルートが決まってるからね」
「だと良いのですが…」
地上の輸送艦に乗り込んでから、軌道上で待つ航宙機母艦に着くまでに大した時間は掛からなかった。
輸送艦が離陸と同時に一気に加速して、モニターに映る空が青からどんどん黒に変わっていくのは非常に新鮮だった。そして地上を見ると、さっきまで自分がいたはずの大地はどんどん小さくなり、数分もせずに大きな球体の中へ埋もれていった。
宇宙特有の無重力という環境も、ガブリエルにとって初めての経験だ。いくら足をバタつかせても全く前に進まず、手すりを掴むか壁を蹴らなければ行きたい方に行けない。艦内のクルーは地上と同じように歩いたり走ったりしているが、そういう動きができる設計の服装なのだろうか?
「邪魔が入らなければ、1日で地球の衛星軌道まで戻れるはずなんだけど…」
「でもさっきはギャラガが居ましたから、きっと近くにも…」
「かもね…とりあえず寝てきたら?部屋はあるんでしょ?」
「そうですね…少し寝ておこうかな…」
思えば
ただの遊覧飛行が、とんでもなく大掛かりな遭難劇…いや、災害にまで発展してしまった。しかもこの間に、異世界人どころか異次元人や死者との交信もしている。買って読んでいるときは思いもしなかったが、セルダールのホテルで買った専門書は異世界往来の立派な証拠だ。
こんな状況に身を置いた後で、自分はどうやって事情を周囲に説明するべきなのか。あるいはどうやって元の生活に戻るのか。
ただの大学生の頭がパンクするネタとしては、十分すぎた。