漢数字がマンズ(m)、英数字がソウズ(s)、〇囲み数字がピンズ(p)を表しています。
また、会話の中の牌の種類は、萬はマンズ、索はソウズ、筒はピンズを表しています。
※は最後に用語解説をしております。
未来からの来訪者
「また負けちゃったー」
日曜日の昼下がり、机上に置かれたパソコンの画面を見ていたのび太が、不意に机に突っ伏した。
「また負けたの、のび太くん?」
畳の上にあぐらをかいてマンガを読んでいたドラえもんは、のび太を見上げながら言った。
「どうして僕は勝てないんだろう。もしかしてシステムのせいじゃないの?」
「のび太くん、それを言っちゃあ、お終いだよ。それより君の打ち筋の方に問題があると思うよ」
事のきっかけは数日前にさかのぼる。ある日のび太はドラえもんに言った。
『ドラえも~ん、麻雀が上手くなりたいよぉ。一人麻雀練習機出して~』
『そんな道具ないよぉ、のび太くん』
『でも何かあるんでしょ?』
『もう、しょうがないなあ』
そう言いながらドラえもんは四次元ポケットから一台のノートパソコンを取り出した。
『ノートパソコンー!』
『ノートパソコン? これで麻雀の練習ができるの?』
『そうだよ。これでインターネットに接続すれば一人で麻雀の練習ができるじゃないか』
『なるほどぉ、って、これ現代の道具じゃーんww』
『そうだね。現代も徐々に22世紀に近づいてきてるって事だよ』
『そっかあ、すごいなあ。未来は明るいなあ。ようっし、これで麻雀の練習をするぞー!』
そう言ってのび太は
「それじゃのび太くん、問題点があるか見てあげるから牌譜(※1)見せて」
「うん、お願~い」
間のびするのび太の返事に、何となく溜め息をつきながらドラえもんは横から画面を覗き込む。そして、見始めてすぐにドラえもんの表情は険しさが増していった。
ドラ3索
そして、のび太はここから追っかけリーチをくらい、逆に満貫を振り込んでいた。
「ね、運が悪かったでしょ。せっかくドラ3の勝負手だったのにさ」
「いや、のび太くん、ちゃんと打ってればハネ満ツモってたよ…」
「ええ、どこが悪かったの!?」
「もうさ、何度も説明したと思うんだけど、キミさ、どうして二四萬から一萬ツモで四萬を切っちゃうの?」
「どうしてって、二四ってバラバラより、一二って揃ってた方がキレイじゃない。麻雀ってできるだけ数字をキレイに揃えるゲームでしょ?」
ドラえもんはほんの少し前に全く同じやり取りをした事を思い出す。そしてガックリと肩を落とし、大きな溜め息をつく。
「あのねのび太くん、前に教えたと思うんだけど、12も24も3の受けは一緒でしょ」
「まあ、そりゃそうけど」
「そこから5をツモった時、24から2を切れば、3の受けを残したまま45で両面に変化するよね」
「おおー、さすがドラえもん。頭いいねーw」
「ホラ、実際キミはせっかくの六萬のツモを逃がして、河に四五六萬の一面子できちゃったじゃないか。本当はこれが手に入ってて
「そっかあ」
「そっかあじゃないよ、これだって、説明するの5回目だよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ、本当にキミは物覚えが悪いねえ」
落胆の表情を見せるドラえもんに、のび太は何だか申し訳なくなってくる。
「ごめんねドラえもん。次は頑張るからさ」
「もう、本当に頼むよのび太くん」
その時、不意にガラガラとけたたましい音を立て、のび太の机の引き出しが開かれる。そして、そこからひょっこりとドラミが顔を出した。
「こんにちは、のび太さん、お兄ちゃん!」
二人は驚きつつも突然の来訪者を歓迎する。
「やあいらっしゃい、ドラミちゃん」
ドラミは机の引き出しから飛び降り、畳の方へ移ると、二人に向かってペコリと丁寧におじぎをする。
「どうしたんだいドラミ? 未来で何かあったのかい?」
「うん、朗報よお兄ちゃん」
「朗報?」
「それはね、セワシ君がのび太さんの脳を22世紀の最先端の電子頭脳と取り替えようって言ってくれたのよ」
「ええっ、何だって!?」
二人の会話を聞いていたのび太が口を挟む。
「何々、電子頭脳ってどういう事~?」
「えっとね、のび太さんの脳を、未来の超高性能電子頭脳にする事で、のび太さんの能力を飛躍的に高めようって事なの」
「へえ、電子頭脳になるとどうなるの?」
「そうね、たとえば全然勉強しなくても東大に主席合格もできるし、運動神経の調整も完璧だから、スポーツも含めてあらゆる分野で超々一流の活躍をする事ができるわ」
「へえ、超一流の活躍かあ。それって二刀流の大谷翔平選手や、七冠王の藤井聡太棋士みたいになれたりするのかなあ?」
「もちろんなれるわ。いや、プロ野球選手をしながら、その片手間で将棋をすればプロ野球選手とプロ棋士の二刀流にだってなれるわよ。しかも、どちらも超一流としてね」
「ええー、本当に!?」
「本当よ!」
「うわあ信じられない。僕がプロ野球選手とプロ棋士の二刀流かあ。あ、それと麻雀も強くなれる?」
「もちろんよ。22世紀の最先端麻雀研究理論や過去の牌譜データを億単位で電子頭脳にインストールすれば、恐らく生涯無敗の伝説の雀士になって歴史に名前を残せるんじゃないかしら」
「わーい、すごーい!!」
ヘラヘラと喜ぶのび太とは裏腹に、ドラえもんは険しい表情をする。
「どうしたのお兄ちゃん? そんなに恐い顔して。のび太さんが優秀な人間に生まれ変わるの、嬉しくないの?」
「嬉しい訳ないだろ」
するとのび太も不思議そうな顔をする。
「どうしてだよドラえもん。これでもうキミに迷惑をかけずに済むし、勉強しないで昼寝だけしていても、ボクは超天才児になれるんだよ」
「いいかいのび太くん、脳を電子頭脳に取り替えるって、どういう意味だか解っているのかい?」
「どういう意味って?」
「つまり、今の君の脳を破棄してしまうんだ。それは、実質的にはキミの死だよ」
「ええ、ボク死んじゃうの!?」
すると、ドラミが小さく肩をすくめながら言った。
「死んじゃうなんて大げさよ。ちゃんとのび太さんの記憶は全て電子頭脳にコピーするし、呼吸や心臓の拍動、その他全てを電子頭脳が管理してくれる。生命維持も全く問題はないわ。しかも、将来認知症になる心配もないし」
「じゃあさ、今ボクの頭の中にある、この脳みそはどうなるの?」
「そうねえ…。確か、人間の脳は高タンパクで栄養満点だから、豚か何かの家畜のエサにする事が多いって聞くわ」
それを聞いてのび太は驚きのあまり、その場に飛び上がってしまう。
「エエー!? ボクの脳が豚のエサだってー!!」
驚愕するのび太とは正反対に、ドラミは冷静な表情で言った。
「心配ないわのび太さん。電子頭脳のおかげであなたの生涯はパーフェクトに彩られるのよ」
「いやだいやだ、絶対いやだー!! ボクの脳はボクだけのものだー!」
「まあ、困ったわねえ。せっかくのび太さんにとって素晴らしい事だと思ったのでセワシ君に提案して採用してもらったのに」
するとドラえもんが言った。
「ドラミ、この提案はお前がセワシ君にしたのかい?」
「そうよ、その方がのび太さんとお兄ちゃんのためだと思って」
「のび太くんのためなのはともかく、ボクのためって、どういう意味だい?」
「だって、のび太さんが頼りないからお兄ちゃんは21世紀の不便で原始的な生活を強いられてるんでしょ? だったら、のび太さんにとってお兄ちゃんが必要無くなれば、お兄ちゃんは未来の世界に帰ってこれるじゃない」
「それはそうだけど、でも・・」
「私はね、もうこれ以上お兄ちゃんがのび太さんに独占され続けるのが耐えられないの。ズルいわよ、私のお兄ちゃんなのに、私の方がずっとずっとお兄ちゃんを愛してるのに。ねえお兄ちゃん、早く未来に帰ってきてよ。そして私と毎日毎日毎日毎日、ずーっと一緒に麻雀をしましょうよ。ね、お兄ちゃん!」
ニコッと笑うドラミちゃんだが、その瞳は狂気に満ちていた。その瞳を見て、ドラえもんはゾッと背筋に悪寒が走る。
「確かにのび太さんの脳を電子頭脳に入れ替える提案をしたのはこの私よ。でも、セワシ君もその提案に賛成してくれたわ。もはや、たとえお兄ちゃんでもセワシ君の意向には逆らえないのよ」
「じゃあ、それがたとえ麻雀勝負で決めたとしてもかい?」
「麻雀勝負?」
「そうさ、22世紀では麻雀の勝敗が絶対的な決定権を持っている事は知っているだろう? こうなったら、麻雀で話をつけようじゃないか」
「そうね、麻雀勝負だったらセワシ君も口出しできないわね。いいでしょう、受けるしかないわね」
「グッド」
そうして、ドラえもんとドラミはのび太の脳を賭けて麻雀勝負をする事になったのだった。
続く☆
※1 牌譜(はいふ)
将棋でいう棋譜。手牌や切った牌など、闘牌の展開が記録されたもの。
中級者と上級者の差は牌譜検討の差で顕著に表れる。