雀鬼ドラえもん   作:クリリ☆

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※印は ラストに用語解説を記載しております。


バック・トゥ・ザ・フューチャー

ギアナ高原にてのび太の麻雀修行が始まってから、早くも6ヶ月が経過した。しかし、肝心ののび太はほとんど成長が見られない。雀塊(じゃんかい)(※1)での成績も相変わらず初心と雀士を行き来している。

 

500戦を消化して47勝453敗。平均順位3.67、和了率7.95%、放銃率34.92%という成績が残っていた。(※2)

 

124から4を切るクセだけは改善されたものの、手作りはまだまだドラえもんが期待するレベルからは程遠かった。

 

「ねえのび太くん、何をやっているの…」

 

ドラえもんがPCを覗き込むと、そこには『ネコ娘』の画面が表示されていた。

 

「ああ、これネコ娘だよ。擬人化したネコを育てて可愛さを競うゲームなんだ。ちょうど2周年記念イベントでさ、クエストを20個達成すると特製アバターがもらえるんだよ」

 

「あのねえ、キミは麻雀の練習のためにここにいるんじゃないの?」

 

「まあ、ちょっとした息抜きだよー」

 

嬉々として話すのび太の表情には、全く悲壮感はない。

 

「もう、キミってヤツは…」

 

ドラえもんは大きく溜め息をついた。

 

「いいかいのび太くん、これからキミは自分の脳みそを賭けてドラミと戦わなくちゃいけないんだよ」

 

「でも、タイムマシンがあれば好きなだけ時間が確保できるじゃないか」

 

「だからってねえ、いくらキミが良くてもボクはもう限界だよ。心が折れちゃいそうだ」

 

「そんな事言ったってぇ」

 

「いいかい、今回の勝負はキミだけの問題じゃないんだ」

 

「どうして?」

 

「それは、もし今回の麻雀勝負でドラミに負けたら、ボクは未来に帰ってドラミと毎日麻雀をさせられる。そして、もし対局で一度でも負けたら、ボクだってどうなるか分からない」

 

「どうしてさ?」

 

「未来では麻雀勝負が絶対的な決定権を持っている事は説明したよね」

 

「うん」

 

「ドラミはボクより後から生まれた。つまりは新型で高性能なロボットさ。でも、ボクはその能力の9割強が麻雀に使われているという壊れカスタマイズのために、ここまでドラミには麻雀では一度も負けたことがない」

 

「おおー。さすがはドラえもん」

 

「だからこそドラミは、旧型であるボクを『お兄ちゃん』と呼び敬ってくれている。というか、少し偏愛傾向があるけどね。しかし、もしボクがドラミに一度でも麻雀勝負で負けたら、そのパワーバランスは崩壊するだろう。まあ、具体的にどうなるかは分からない。しかし、少なくとも今の兄妹関係は崩れてしまう可能性が高い」

 

「ええ、そんなぁ・・」

 

「いくらボクがドラミより麻雀が強くても、毎日打ってたらいつかは負ける時もくる。ただの時間の問題さ」

 

「う、うん・・」

 

「つまり、もしキミがドラミに負けたら、ボク達は何もかもおしまいだ。キミの脳は電子頭脳に切り替わり、世話役のボクはもうお役御免となる。しかも、麻雀ロボットとしてカスタマイズされたボクがドラミに麻雀で負けたら、ボクの存在意義は無くなり、どう処分されてしまうかは全く分からない」

 

「そ、そんな、ドラえもんが、処分!?」

 

「事の重大さがやっと分かってくれたかい?」

 

「うん…」

 

「いいかい、改めて確認するけど未来では流れが解析されて、流れを重視するイレギュラー効率を優先する打ち方が常識になっている。ドラミ達は当然イレギュラー効率理論をマスターしているんだ。キミにイレギュラー効率を覚えろとは言わない。でも、せめて牌効率くらいはマスターして、雀塊(じゃんかい)で雀聖クラスになってくれれば、ボクの足を引っ張らずに済むかと思ったんだけどなあ」

 

「ごめんよドラえもん…」

 

「のび太くんと組んでの正攻法じゃドラミ達に勝つのは不可能だ。せめて、未来道具によるイカサマができたら、どれだけ楽だったか」

 

ドラえもんは何となく自身の胸の辺りに手を当てる。その体内には律する薬指の鎖(ジャッジメント・チェーン)が埋め込まれ、イカサマをすると自動的に心臓を貫くようにセットされている。

 

「イカサマかあ。ちなみにどんなイカサマ道具があるの?」

 

「うん、好きな牌をツモれる『ツモールライト』、ドラ表示牌も自由自在の『どこでもドラ』、どんな危険牌もかわせる『ひらりマント』

 

「へえ、ひらりマントってそういう効果もあったんだねえ」

 

「他にも、『桃印のステルス団子』(※3)」

 

「桃印? 桃太郎印のきび団子みたいだね」

 

「まあ、製造・販売元が同じメーカーだからね」

 

「それはどんな効果があるの?」

 

「石ころ帽子の麻雀版みたいなものだよ。そこらに転がってる石を気にしなくなるみたいに、一時的に存在感を完全に消してしまうんだ」

 

「それで?」

 

「そうなるとどんな危険牌を通してもロンされる心配もないし、牌すり替えも自由自在。何でもやりたい放題だよ」

 

「それ、今回の勝負に使えないかな? いくら秘密道具で存在感を消しても牌のすり替えさえしなきゃイカサマにはならないでしょ? ボクが相手にロンされないだけで、少なくともドラえもんの足を引っ張る事はなくなると思うよ」

 

「いや、相手が人間ならともかく、ロボット相手だと卓上の情報は全てデジタル処理されちゃうからさ。存在感を消しても全く意味がないんだよ」

 

「そっかあ」

 

のび太は再びガックリと肩を落とす。

 

「それか、いっそのび太くんの頭脳を電子頭脳に改造しちゃえば牌効率どころか、イレギュラー効率もあっという間にマスターできるんだけどなあ…」

 

「おお、それだー!」

 

「うんうん、そしてのび太の脳はブタのエサにw」

 

「って、それじゃドラミちゃんと戦う理由がなくなるじゃないかー!」

 

そして、ついにのび太は大声を上げて泣き出してしまう。

が、泣き出してから数秒後、のび太の頭に稲妻の閃光のように、あるアイデアが突き抜ける。

 

「あっ!!」

 

「どうしたののび太くん?」

 

「しっ!!」

 

のび太はドラえもんを制すると、右手の人差し指を一本立て、自身の口唇に当ててキッと口元を結ぶ。その威圧感に、ドラえもんは言葉を発せないまま、ただのび太を見守る。

 

「ある! 抜け道が!」

 

「何だって!?」

 

漠然と浮かんだアイデアを具現化する思考を終え、のび太は叫んだ。

 

「あったよドラえもん。常識の枠外! ドラミちゃんの隙が!」

 

「でも、ボクらはイカサマを完全に封じられてるんだぞ!?」

 

「だからこそ抜け道なんじゃないか。イカサマ封じが逆に隙を生んだんだよ!」

 

するとのび太はドラえもんに閃いたアイデアを伝えた。それを聞くと、ドラえもんの表情がパッと輝く。

 

「おお、さすがはのび太くん、そういう悪知恵だけは働くんだねえ!」

 

「それ褒めてるの?」

 

「勿論じゃないか! いや、むしろその方法に賭けるしかない!」

 

「うん!!」

 

「さあ、これでドラミと決戦だ。未来へ帰るぞ!」

 

「オオー!」

 

そうしてドラえもん達は、それから数日をかけて準備を整え、タイムマシンに乗りドラミと別れてから30分後の未来へと帰ってきた。すなわち、ドラミと闘う30分前である。

そこでドラえもんとのび太は作戦の最終確認を済ませ、ドラミを待ち構える。

 

そして30分後、前触れなくのび太の机の引き出しが開かれた。時間キッカリにドラミがやってきた。

 

「さあ、心の準備はできたかしら?」

 

「ああ、覚悟はできたさ」

 

「グッド。それじゃ始めましょうか!」

 

そうしてドラえもん&のび太 VS ドラミ&ミニドラのチーム戦による麻雀勝負が開始された。

 

 

続く☆

 




※1 雀塊(じゃんかい)
雀魂(じゃんたま)に極めて近いオンライン麻雀ゲーム。
初心から始まり、最上級ランクは雀聖。本作オリジナルのもの。


※2 平均順位の目安
基準値は2.5。(1位から4位までを1回ずつ取ると2.5となる)
2.0~2.1:頂点の強さ。モンスター。麻雀で一生メシが食える。
2.1~2.2:最上級の強さ。同卓する場合は最優先で警戒しなければならない。
2.2~2.3:上級者。人に麻雀を教えられるレベル。
2.3~2.4:中級者と上級者の中間。一人で雀荘に出入りできる。
2.4~2.6:中級者。全体の3~4割を占める。
2.6~2.8:ルールは覚えたが、押し引きはよく分かってないレベル。
2.8~:入門者。ルールを覚えてる途中。

ちなみに筆者はネット麻雀では2.2代と、雀荘でギリギリ勝ち越せているレベル。


※3 桃印のステルス団子
麻雀漫画『咲』に登場する、鶴賀学園高等部1年、『東横桃子』をイメージした、本作のオリジナル秘密道具。
作中ではあまりに存在感が薄く、闘牌中であっても相手から気付かれにくい事から『ステルスモモ』の異名を持っている。
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