まだ信じられないと言った顔つきで、のび太はふぅっと息を吐く。そして一呼吸おいてドラえもんに言った。
「それにしても、ツキの月なんて、よく気がついたね」
「ああ、あれが偶然さ。のび太くんがモーデル(下剤)を飲まされて、ボクはその瞬間慌ててしまった。ボクはテンパると取りたい道具がとっさに取り出せないからね。その時たまたま手に取ったのがツキの月だった。その瞬間、ボクは思った。これに賭けるしかないと…」
「そっかあ。それにしても危なかったなあ」
「どんなにツイていても、天和と地和くらいしかアガれないキミが悪い。本当なら楽勝でゲームセットだったよ」
「そうだね…」
するとドラミはミニドラと雀卓を四次元ポケットにしまいながら言った。
「まさかこんな結果になるなんてね。完敗よ、お兄ちゃん、のび太さん」
「ドラミ…」
「ツキの月は偶然の産物としても、暗記パンの発想はお見事だったわお兄ちゃん。もう少しで私、あのまま押し切られるところだったもの」
するとドラえもんは小さく笑う。
「いや、あれはボクじゃなく、のび太くんのアイデアさ」
「えっ、考えたの、のび太さんなの!?」
「ああ。未来道具でのイカサマは封じられていても、僕自身の雀力を上げる事は制限されてなかったからね」
するとドラミはのび太を改めてマジマジと見つめた。
「ふぅん、どうやら私、のび太さんを過小評価してたかしら」
「ドラミちゃん」
「いいわ、麻雀の結果は絶対だし、今回の一件の事はセワシくんに報告しておくわ」
「ありがとう、ドラミちゃん」
「それに、のび太さんは何の才覚もないけど、人を惹きつける何かを持っているのかも知れないしね。決して社会的な評価はされてないけど、今まで地球規模の危機を救う冒険では常に中心人物だったし、きっと私たちには見えない何かを持っているのかもね」
するとドラえもんが言った。
「それは優しい心さ。だからこそ、のび太くんが絶望的に駄目人間だけど、ボクだってここまでのび太くん について来れたのさ」
「ドラえもん、それは褒めてるのかバカにしていているのか分からないよぉ」
「もちろん褒めているに決まってるだろ」
「うーん、そう感じないんだよなあ」
するとドラミが小さく笑って言った。
「優しい心、ね。確かに電子頭脳では倫理的で模範的な行動を取るように設定できるけど、あくまでも打算的な行動しか取れないしね。もしかしたら電子頭脳に変えられたのび太さんじゃ、仮に世界が危機に陥っても、きっと誰かを救う事よりも、自身が生存する最も効率の良い行動を取るかも知れないわ。もしかしたら世界が本当に必要としているのは、本物ののび太さんの方なのかも知れないわね」
そう言うとドラミはトコトコと歩き、のび太の机の引き出しを開ける。そしてタイムマシンに乗り込んだ。そして、そのまま顔だけを机から出して言った。
「それじゃお兄ちゃん。引き続きのび太さんをよろしくね」
「うん」
すると、最初に来たときと同じようにペコリと丁寧におじぎをして去っていった。それを見届けるとのび太は大きく、安堵のため息をついた。
「終わったねドラえもん」
「ああ、よく頑張ったよのび太くん」
空を眺めると、日差しがいつも以上にキラキラ輝いて見えた。
エピローグ
ドラミとの戦いから数日が経過したとある昼下がり。ドラえもんが無線のノートパソコンで雀塊のアカウントにログインする。そして自分の麻雀データを見て、「ああっ!!」と大声を上げた。その声で、横で昼寝をしていたのび太が目をこすりながら起き上がる。
「どうしたんだよドラえもん。人がせっかく気持ち良く昼寝してたのにさ…」
「のび太くん、ボクの雀聖だった雀塊アカウントが雀士になってるんだけど!」
すると、のび太はペロッと舌を出して笑う。
「ごめ~ん、ちょっと雀聖になった気分を味わってみたかったんだよぉ」
「ごめ~ん、じゃないよぉのび太くん。2ヶ月かかって、やっと雀聖になったばかりなのにぃ。それにしても何戦くらいしたの?」
「ええっと、30戦くらいかなあ。全部ラスだった…」
「もう、キミは一番底辺レベルの部屋でも十分過ぎる腕前なのになあ…」
ドラえもんはふと、いっそのび太の脳を電子頭脳に替えてしまった方が良かったのではないかという考えが一瞬頭をよぎり、小さくため息をついた。
【VSドラミちゃん編】 おわり☆