漢数字がマンズ、英数字がソウズ、〇囲み文字はピンズを表しています。
※は最後に用語解説があります。
分からない単語などありましたら、お知らせいただければ追記いたします。
のび太とワシズとの闘牌はすでに東1局7本場を迎えていた。
のび太が抜かれた血液はすでに800mlを超えている。成人男性の場合でもおよそ1.5リットル程の失血で死んでしまう事を考えると、子供ののび太にとってはこれ以上の失血は致命的だった。
そんな中、ワシズがテンパイする。
「リーチ」
ワシズの手牌
待ちは三六萬
そんな中、のび太が半分意識がない状態で無造作に三萬を切り出した。
「ロン。リーチ、イーペーコー、3900点は6000点じゃ」
「ううぅ・・」
のび太は言われたまま、生気のない瞳で何とか点棒を支払う。もはや失血のため、ギリギリの状態で卓についていて、ほとんど思考する事さえ困難な状態であった。
そこに、ワシズのオヒキの鈴木がワシズに言った。
「ワシズ様、今の和了で8回連続の和了です」
「だからどうした?」
「ですから、
するとワシズは持っていた杖で鈴木の頭を殴りつける。
「バカ者、ここからが面白いんじゃないか。ここで一気に抜いてどうする!」
「は、はあ?」
「いいか、命というのは最後の一滴が最も貴いのじゃ。そこをすっ飛ばしてどうする! ここで役満分も血を抜いてみろ、このガキが即死してしまうじゃないか!」
「まあ、それはそうですが」
「貴様、棒倒しゲームはやった事あるか?」
「ええっと、どんなものでしたっけ?」
「公園の砂場でガキがよくやる遊びじゃ。砂で作った山に、木の枝などの棒を山の中央に立てる。そして、砂を少しずつ取り除いていくんだ。そうすると、砂が減ってどんどん棒が倒れそうになる。その倒れる寸前を見極めて少しずつ少しずつ砂を取り除いていく。倒れそうで倒れない、そのギリギリのスリルを味わうのが
「はい、分かるように精進いたします。失礼いたしましたワシズ様」
(美学というより、ただの狂った性癖じゃないか・・)
内心でそうは思うが、口には出せない。ただ、ワシズに従うのみだった。鈴木はワシズの側近になって10年以上になるが、機嫌を損ねたらためらわずに首が飛ぶだろうと覚悟をしている。
のび太はさらに60ccの血液を抜かれる。そしてもはや椅子に座る姿勢を保っていられず、そのまま床へ崩れ落ちた。卓上で静かに息を引き取ったニセアカギとは対称的に、のび太は床に仰向けに倒れ、「アガガ…」と奇声を発しながら手足を時折痙攣させていた。それをワシズは喜々として眺めていた。
「素晴らしい、最高のショーだとは思わんかね。見ろ、まるで人がゴミのようだ。ワハハハハハハ!!」
「ハ、ハア…」
しかし取り巻きの白服たちは相手がまだ子供という後味の悪さから、ただ苦笑いを浮かべてお茶を濁すばかりだった。そんな状態で一同の視線がのび太に注がれている中、不意に背後から聞き慣れぬ声を浴びせられる。
「のび太くん!!」
皆が反射的にその声の発信源に目を移すと、そこには青い三頭身の奇妙な物体があった。
「なんじゃ貴様?」
「ぼくはドラえもんだ!」
「ドラえもんだと。なんだ貴様、このガキの仲間か?」
「そうだ、のび太くんを返せ!」
そう言うとドラえもんはワシズの応答を待たず、すぐにのび太に駆け寄った。だがのび太は白目を剥いて手足をピクつかせているだけで完全に意識を失っていた。
「のび太くん!!」
ドラえもんはすぐにポケットからお医者さんカバンを取り出し聴診器型のセンサーをのび太の額に当てる。するとカバンに取り付けられたディスプレイにのび太の診断結果が表示される。
『大量失血ニヨルショック状態。危険! 危険!』
『スグニ輸血ヲ行ッテ下サイ!』
診断結果が表示されてから、カバンから注射器型の容器に入れられたビタミン剤が飛び出してくる。ドラえもんはそれをのび太の顔に浴びせるような勢いでそれを飲ませた。のび太は、その薬液を飲んで苦しそうな表情が幾分か安らいだ様子だった。しかし、目を閉じたまままハアハアと浅い呼吸を繰り返している。
「急場はこれで凌げるハズ。でもまだ根本的な原因が解決できた訳じゃない。早く病院に連れて行かないと」
ドラえもんがのび太を担ぎ上げようとした時、呆然と見守っていた白服達が、ハッと我に返って慌ててドラえもんを押さえつける。
「おい、タヌキ人形! そのガキを勝手に連れて行く事はワシが許さん!」
「タ、タヌキ人形だって?! 違う、ボクは猫型ロボットだ! って、そんな事はどうでもいい、早くしないとのび太くんが死んじゃうじゃないか!」
「それはそのガキの勝手じゃろ。ワシの知ったことか! それよりも麻雀の続きが残ってる。生きてるんだったらそいつを卓に着かせろ!」
「ま、麻雀だって!? こんな状態で麻雀なんて打てるハズないじゃないか!」
その時、ふとドラえもんの目に注射器型の容器に入れられた大量の血液が目に入った。それがすぐにのび太のものであろうと気付く。
「まさか、その血液はのび太くんの…?」
「そうじゃ、このガキが血を賭けて麻雀を打った。そして負けて代価を支払った。それだけの事じゃ」
「そうか、ならば、のび太くんの代わりにボクが打つ。ボクが勝ったらのび太くんの血を戻してもらおう」
するとワシズはニヤリと笑う。
「ほう、代打ちか。本当にいいのか?」
「構わない」
「代打ちするって事は、ここまでの持ち点まで引き継ぐって事だぞ」
「それがどうした!」
「いいか、現在の状況を教えてやる。東1局8本場、ワシの持ち点は15万点超、一方そのガキの持ち点はハコ下7万点。すなわち、現在の点差は20万点強はあるんだぞ。それでもいいのか?」
「ええっ!?」
さすがのドラえもんも点数を聞いて思わず驚きの声を上げた。だが次の瞬間にはすぐに冷静になって答えた。
「いいよ、受けよう」
「グッド」
「・・・・・・」
(何点差あろうが、問題ない。22世紀の最新の麻雀技術があれば十分取り戻せるさ)
「さて、麻雀牌は4枚中3枚が裏から透けて見えるガラス牌を使う。そしてレートは…」
ワシズはドラえもんに特殊ルールであるワシズ麻雀を説明した。そうしてドラえもんは先ほどまでのび太が座っていた席に着いた。また、ドラえもんの下家の位置にはオヒキにミニドラが務める事になった。
「さあ始めよう」
今まさにワシズ麻雀が開始されようとする瞬間、ドラえもんは山がない事に気がついた。
「あれ、山がないよ?」
「山? ああ、山は無いぞ」
「山が無いだって!?」
「そりゃそうじゃろう、ガラス牌で山を積んだら先々のツモが見えてしまう。興ざめじゃろ。麻雀は牌をツモる瞬間が一番楽しいんだ」
「それじゃ、牌はどこからツモるの?」
するとワシズは卓の中央にある穴をアゴで指す。
「ほれ、そこの穴から掴み取りじゃ。そして盲牌できないように手には革手袋を嵌めてもらうぞ。もちろんここは手が丸い人用の特殊丸グローブを装着してもらう」
すると白服の一人が言った。
「何と言うご都合主義…」
「馬鹿者! こんな事もあろうかとあらかじめ準備しておったのだ! ワシが巨万の富を築いた要因はこの先見の目があったからこそじゃ! それをご都合主義だと? それだから貴様は凡夫なのだ!」
「はい、申し訳ありませんワシズ様」
ドラえもんは白服の男の一人に否応なしに丸いグローブを装着された。その表情は非常に険しい顔をしていた。
22世紀の未来では“流れ”が科学的に解明されていた。その流れは通称“イレギュラー効率”と呼ばれていた。そして、22世紀では牌効率はすでに時代遅れとされ、イレギュラー効率に沿って打つのが主流となっていた。
ドラえもんはそのイレギュラー効率に加え、麻雀プロの牌譜1千万局の他、雀塊、麻雀一丁目、麻雀格闘委員会、JK(※2)などのネット麻雀の最上級レートでの牌譜1億余のデータがインプットされている。さらに22世紀のスーパーコンピューターによる裏ドラ測定では、その的中率99.6752%を誇る。そうして今までどんな困難な状況も乗り越えて来た。しかし決められた牌をツモる通常の麻雀と違い、自由に好きな牌を掴み取るワシズ麻雀ではそのノウハウの全てが役に立たない状況に置かれてしまったのだ。
「どうした青ダヌキ、今更怖気づいたか?」
「う、うるさい。早く始めよう。早くしないとのび太くんが持たない!」
「ククク、死相が見えてるぞ貴様」
そうしてドラえもんはのび太の代打ちとしてワシズ麻雀が再開されたのだった。
続く☆
※1 八連荘(パーれんちゃん)
同一プレイヤーが8回連続で和了すると、どのような和了形であっても全て役満扱いとなる。また、9回目以降も全て役満となる。
※2 ネット麻雀
雀塊(じゃんかい):雀魂(じゃんたま)に限りなく近い本作オリジナルのオンライン麻雀。
麻雀一丁目:麻雀一番街に限りなく近い以下同文w
麻雀格闘(ファイト)委員会:麻雀格闘(ファイト)倶楽部に限りなく近い以下同文w
JK(雀鬼):MJに限りなく近い以下同文w