シャロン准将は金でしか動かない――地球防衛軍は地球を守らない 作:むーんしゃいん
ついにこの時を迎えてしまった。シャロン准将はエレベーターの中、かすかに汗を感じ
ていた。地上1Fから乗りついだエレベーターは地下15Fで止まった。
ジュラルミン製のドアが開くと、蒸し暑い空調がシャロン准将を包み込む。
ここ、旧地球防衛省庁舎の地下倉庫とされる諜報局区画では、法律や空調すら治外法権地域なのである。
頭痛が痛いよ...。シャロン准将は、エレベーターの中でピルケースから一錠の薬を取り出しかじり、一歩踏み出した。
薄暗い青い間接照明が照らす廊下をスマホとファイルケースを持ち、テクテクとヒールを鳴らしたシャロン准将は静穏を破り、行き交うアンドロイドと諜報部員たちが最敬礼でシャロン准将に道を喜んで譲る。ただ、その視線は、決して歓迎することはなく。ここはあなたのような高官が来る場所でもない。と告げている。
『次の十字路を右に30mです。准将閣下』
胸ポケットのアウラが告げる、そうだ、君がいるね。シャロン准将は、少し、躊躇しつつあるのを意識した。
真正面からシャロン准将に一人の秘書が駆けよってきて、シャロン准将の階級章とネームタグを一瞥する。
「これはシャロン准将。どのような用件で?」
諜報部員の秘書がにこやかな笑みを浮かべつつ、シャロン准将の行き先に立ちふさがる。
ペコペコはしているが、やはり、この秘書も外様のシャロンを歓迎してはいない。
「エルダ局長に会いにお会いしたのだけど」
シャロン准将は鉄仮面を維持し、ツンツンとした表情で返答する。
「エルダ局長はただいま席を外しています。代わりにご用件を伺っておきますが」
予想通りの返答。シャロン准将は相手に考える猶予を与えることはさせない。少し大げさに肩をすくめた。
「失礼だけど、その階級じゃ、この件は話せない」
シャロン准将は、情報士官の秘書のくせに「Need to Knowの原則」を知らんわけではあるまい?という瞳で見つめる。焦ったような秘書が、道を開け、壁掛けの内線電話へと手を伸ばす。
「...かしこまりました。エルダ局長に取り次ぎますので、少々お待ちください」
シャロン准将は秘書に、すぐに局長室に通された。
青髪の竜みたいな角の生えたエルダ情報局長が、すでに応接間に待っていたと座っている。
ちなみに階級は大佐で、シャロン准将の大学の後輩であった。
「これはシャロン准将。前任地でお会いした時以来なので、こうしてお会いしたのは四半世紀ぶりでしょうか? 相変わらずお元気そうですネェ~…」
「絶賛PMSですが?」
シャロン准将が、お前のペースには飲まれんぞ。と同時に情報を開示する。
「諜報部の手前、存じ上げております。どうぞ」
エルダ局長がシャロン准将席に促す。
現代戦において情報が全てだ。
その点で、EDFの諜報部局は何よりも強い。そんな不条理な世界である。
「シャロン准将は、何を怒ってらっしゃるんですかぁ?」
良いエルダ大佐の隣に、悪い情報士官が立ちすくみ、腕組みをしている。
「准将ならアポイントメントぐらいしていただけないか?それすらできませんか?」
見え透いたエルダ大佐の甘い罠に、シャロン准将は自動拳銃を引き抜き、体躯の良い情報士官に向ける。
「なにを…!?」
エルダ大佐の冷たい瞳が、怯える情報士官に向けられる。
あ、こいつ上司に査定されてる。ということは生身の人間か。アンドロイドなら撃ったのに。とシャロン准将は把握する。
「感情のラベリングも、共同尋問も不必要。ましてや、アンドロイドはなおさら不要…」
ある程度狂ってないとこの世界やってらんない。そんな、シャロン准将の嘘に、エルダ大佐は、情報士官に退出するように促す。
二人を静寂が包み込む。ほんと、ここは無音。ある種の拷問か?暴れたシャロン准将も、エルダ局長もお互いに気まずくなる。
「それで、何の用でしょうか?」
で、お前、銃まで振り回して何しに来たんだよ。エルダ局長が話しかける。
「RAMIA計画について、来月の定例議会で告発する」
知らんとは言わさんぞ?とシャロン准将プチキレる。
「ほう。RAMIAねぇ…」
エルダ大佐の藍色の瞳がシャロン准将を見つめ、シャロン准将の蒼い瞳と絡みあう。
「EDGFを見逃してきた情報局と貴方には、それ相応の責任を取っていただく」
「まあ、そうでしょうねぇ…」
「なお、本件とは別に、アンドロイドの暴動の件に関しての嫌疑もある」
ははーん、こいつ。すべて俺に被せて。パブリックエネミーに仕立てるつもりか?エルダ局長が怪訝な顔をする。
「大統領府の代表。また、上級監査委員として。現時点をもって貴方の更迭を勧告する」
更迭という言葉に、別にエルダ大佐は少し驚くが、まあ、これには裏があるはず。と探る。
「それで、ご用件は?」
「表向きはこの要件かな」
あ、更迭はされるんだ。とエルダ大佐は慈悲の無い現実を突きつけられた。
「…ほう」
「ふふ…。定例議会での資料を情報提供を行えば、私は貴方に味方することもやぶさかじゃない」
シャロン准将が口角と上げて喜び、一筋の希望の糸を垂らす。
「はは…。まあ、いらない因縁をつけられても面白いものではありませんからねぇ…」
それを見てエルダ局長も軽く笑みを浮かべる。
「了承しました。本件に関しては資料を提供します。ただし無償というわけにはいきませんねぇ…」
「何が欲しい?」
「貴方がほしいですねぇ…」
エルダ局長が深刻な顔でささやく。
「情報士官の長に収まる趣味はないわ」
その無情な一言に、エルダ局長は肩をすくめた。恋心は通じなかったが、彼女の中にわずかな情が芽生えたのも確かだった。