シャロン准将は金でしか動かない――地球防衛軍は地球を守らない 作:むーんしゃいん
小雨が降る土曜日。
シャロンはお姫様のように上品に、身動きもせず死んだように寝ている。
シャロンは目覚ましのスマホがなる15分前に目が冷めた。時間は5時半である。
起きてすぐベットをびっちり整えてた。
今日のシャロン准将は機嫌がいい。
朝食は食べず、重ね着キャミワンピに着替える。
朝は、そのまま白湯を飲むと、経済誌をペラペラと見ていた。
午前中は、私的な用事で市役所に行った後、大きな文房具屋に寄って来た。
シャロンの唯一の楽しみはポストカード集めだった。
10歳の時に亡くなった実母の入院先から送られた絵葉書が始まりである。
高校生の生活必需品を引いたバイト代で気楽に買える絵葉書を一枚ずつ買うのが楽しみだった。
惑星外遠征の度に寄港地で、1枚ずつ買っていたので思い入れはある。
シャロンは正午になってからそそくさと宿舎に帰ってきた。
「ねえーねえーアウラぁ~」
家の扉のカギを閉めてから、ウキウキ気分のシャロンがアウラに甘える。
『はい』
カバンからポストカードを取り出し、シャロンはずーっと絵柄を見ていた。
「これ。見て見てー。可愛くない?」
准将閣下が言うのだからそうなのだろう。アウラには良さはあまり伝わらない。
『カワイイです。何故いつも一枚しか買わないのですか?』
「お金は大事だから。怖くて一枚しか買えないよ」
「そうそう。アウラでも買ったんだ~」
シャロンのものすごく貴重な趣味の時間である。
シャロンの蒼い瞳が、
シャロンは絵葉書コレクターだ。衣装ケース一つに目一杯の絵葉書とポストカードが入っている。シャロンは、アルバムで区切られたその一冊一冊に、どの絵葉書を、何のアルバムに入れたかは全部把握していた。
「これー。アウラがスゴイ美人に描かれている」
アウラは自分の絵葉書をジト目で、じーっと見ている。
『私はこんなに美人ではありません。これはかっこいいです』
アウラは美形ではあるが美人という雰囲気ではない。
「そうだね~。たしかにキャラではないかな。でも、こういう突拍子がないのも面白いでしょ」
シャロンは、アウラに絵葉書を見せるのも楽しかった。アウラに見せていたかと思うと
シャロンは一心不乱にアルバムをめくり、一つ一つを
准将閣下の中で大事なモノなんだな。アウラはひしひしと感じていた。
玄関のピンポンが鳴る。
シャロンの体がビクッと反応した。すぐにアルバムを全てをすぐに仕舞う。
シャロンはこの大切な弱みを見せる訳にはいかないのである。
この事を話して良いのは、本心を晒しても手の出しようがないアウラだけだった。
ニヤけた顔をいつも通りのシャロン准将に戻す。シャロンは玄関に向かった。
実妹の次女アリエルは、長女シャロンは似て、ぼーっとシャロンを見ている。
「アリエルじゃん。よく来たねー」
実妹である次女アリエルは、黒髪の美人で、良い歳の女性である。
本来なら、長女シャロン准将もそれ以上の歳を歩んでいるはずだった。
「それに合鍵持ってるんだから入ってくればいいのに」
シャロンは今朝作った麦茶と自分の分をアリエルに淹れる。そして、タオルをモニカに渡した。
「温かいほうがよかったかな?」
アリエルは首を横にふる。そして、手話で「今日はあったかい」と伝えた。
「エアコンとめる?」
アリエルは首を横にふる。
「それで話というのは、アリエルの結婚の話だよね?」
アリエルとシャロンは、手話と口の動きで会話をしていた。
しばらくしていると、シャロンのスマホが鳴った。
「ごめん。ちょっと電話を取らせて」
アリエルは付いていたテレビを見ている。
ふとした拍子に倒れたクリアケースからシャロンの遺書が見え、アリエルはビビった。
アリエルの心は遺書に囚われ、封書を開いた。
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拝啓。
私の死亡が確認された天気は、どんな日でしょうか。
晴れているのか曇っているか。多分、晴れ晴れとした地球なのだと思います。
私は大丈夫。こんな事になったけど。きっと良い世界にいます。
不出来な私。そんな私の妹で居てくれて、ありがとう。
あなたの事を本当に感謝しています。心のそこから愛しています。
いつも、連絡してくれて、孤独の寂しさが薄らぐのを感じています。
幼い頃は、私は父に捨てられたも同然の仲。神社のつらい巫女修行で精神を減らし続けました。
そんな時期にあなたが亡くなった母の中に宿ったと知りました。
それがどれだけ嬉しかった事か分かりません。世界がとても明るく見えました。
でも、厳しい現実は変わらず。私と父で母を一緒に看取りました。
日々、鎮痛剤も効かず、弱々しくなっていく母に、私は母の死を理解していました。
しかし、あなたには、母の死は突然のことだったかもしれません。
葬儀で泣くあなたを見て、私が守らなければいけない。そう誓ったのを今でも覚えています。
昔も今も、私のかけがえのない存在はアリエルと母しかいません。
今では、私がとやかく言えるほど、あなたは軽い人生は歩んでいなく。
十分通用する素養があり。周りの理解もある。その点は安心している自分がいます。
ずっと見守るって言った約束を破ってごめん。
私のことは忘れて下さい。
あなたの中から、私との記憶が一日も早く消える事を
何より、あなたが幸せになれるよう。心から願っています。
ごめんね。
敬具。
四月十六日
EDFcode OF-6 シャロン・アルタール・チェンバレン。
アリエル・アルタール・チェンバレン様へ。
遺産分割協議書別紙参照。
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次女アリエルの封筒からは、さらにもう一枚。財産分与の書類が出て来た。
それを見ると長女シャロンのほとんどの遺産が次女アリエルに支払われることになる。
親族はまったく協議などしてないのだが、この2枚はEDFの承認印が押されていて公式文遺言としての効力を成していた。
EDFでは、全隊員に遺書の提出を義務化した。
これにより、殉職率は確実に上がり。何も考えず死ねるロボットは完成しつつあった。
この遺書を総務では、毎年、この時期に書かせるのであった。
シャロン准将も例に漏れず、返還された去年の遺書を家に一度持ち帰り、新しくするつもりで
持ち帰っていた。
「…はい。しかし。その点はお互い了承しましたよね?」
「…ぅぅ」
シャロンが廊下で話していると、居間から
え、アリエル何で泣いてるの。ドアを少し開けて様子を見た。肩を震わせて泣いている。
「休暇をとっております。他の者に取り次ぎますね。はい。失礼致します…」
とりあえず、業務の取次をするためスマホを掛ける。
3分ほどで取次を終えたシャロンは、泣いているアリエルの肩を叩いた。
「アリエル、大丈夫?」
遺書をアリエルが見ている。シャロンは恥ずかしすぎて顔が真っ赤になった。
「え。え…。あれ、出てたっけ…」
切なげなアリエルはシャロンを求め抱きしめた。
「おうふ…。アリエル、大丈夫だよ」
シャロンは、子供を寝かしつけるようにアリエルの背中を擦る。
「まだ死んでない。生きてるから安心して」
先に死なないから安心してね。とは言えない。
「ごめんて…」
そんなに泣かなくてもいいじゃん。しばし抱きしめられシャロンは呆然となすがままになっていた。
EDSF隊員として不死化インプラント処置をしてる身には、この家業をやめる事も出来なかった。
不死化インプラントを持つものは周りはいずれ死んで過去のものになる。
その時。シャロンは宇宙で孤独になる。
シャロンが選んだ人生だ。それは甘んじて受け入れるつもりであった。
空気を読まないシャロンのスマホがなる。
「ごめん。アリエル。電話取るね」
抱き合いから開放されたシャロンはスマホを出た。
「…もしもし。これはフェンリル中将。いつもお世話になっております」
あの人も非番だろ。何のようだろ。EDF統合幕僚部幹部のフェンリル中将だ。この団地の違う棟に住んでいる。
「はい…?」
「…息子さんが事故。ええ。ああ…、なるほど」
「…かしこまりました。そちらに伺います。どちらの病院でしょうか?」
「近いですね。15分ほどで着きます。では」
「ごめん。出かけてくる」
アリエルはコクコクとうなずいた。アリエルは甘えん坊だが、場をわきまえた大人である。
少しさみしげにアリエルは、シャロン准将を再び病院へと送った。
また、病院に来たな。待合室でポロシャツのフェンリル中将が焦っている。
シャロン准将は、軽くお辞儀をして診察室に入った。
フェンリル中将の息子さんのB型RH-は限りなく少なく。この医療地域で2000人に1人の血液型である。
「先生。献血します。どうかお子さんをお願いします」
「B型RH-ですか?」
シャロン准将はいつも首にしている
近所にいるとは聞いてたが、この人がそうなのか…。医者はビビっている。
シャロン准将の血液は、この世のすべての人間に点滴が出来る。
そのうえ、RH抗原を持たない。1万人に1人だけの黄金の血液型だった。
「本当に居るんだ…」
看護師からも声が漏れた。献血のドナーとしてはRH/NULLは完璧な素体である。
シャロン准将の血液型は、世界で、まだ30名しか確認されていない。
どこかに居るはずの献体も、医療後進地区では確認すらされないのだ。
シャロン准将は別室の献血室へと案内されていった。
「体重を測って下さい」
ああ、やばいね。52kgしかないや。シャロンは体重計に乗る。
「限界まで取って構いません。お願いします」
シャロン准将は看護師に伝える。
「ありがとうございます!」
あ、前に400ml献血したのは確か1ヶ月前だ。よし、黙っていよう。
O型RH/NULLのシャロン准将は、相手には血液を差し出せるが、本人に対してはほとんどの血液型に適正がない。
つまり、日々、自分の血液をストックしておかないとやばいことになる。
不死化処置では、血がなくなっても体が腐ることはない。
体内の細胞が死ぬことがないのでただ意識を消失する。
昏睡状態のまま、目を覚まさない状態もありえるのでそれは怖い。
ふと、シャロン准将の一瞬、意識が飛ぶ。
あ、やばいかも。しかし、止めてくれとも言い出せない状況であった。
はぁ…はぁ…。と吐息も絶え絶えのシャロンの顔が土気色になる。胸が鉄板を乗せたように痛い。
「シャロンさん、気分が悪くなったら言って下さい」
「…大丈夫。まあ…少し眠たいので寝ます」
シャロン准将の血液がないと子供は死ぬので、医者も看護師も黙って見ていた。
痛いことがあったら目をつむるのは、シャロンの悪い癖である。
まだ涙や悲鳴を挙げないだけマシではあった。
「シャロンさん終わりましたよ」
「…ああ、そうですか」
やっぱ、体が動かない。シャロン准将は、しばらく献血の椅子に腰掛けている。
しばらくして、フラフラと立ち上がり献血用の休憩室に入っていった。
フェンリル中将と奥さんは、手術室の待合所に手術を終えた看護師が姿を見せた。
「手術は成功しました」
「…ありがとうございますッ!」
フェンリル中将の奥さんが看護師に頭を垂れる。
「シャロンさんの血液のおかげです。あれがなければ命は危なかったです」
一方のシャロン准将は献血用の待合室で、やたら甘いスポーツ飲料のパックを必死にチューチュー飲んでた。
シャロン准将のいる献血用の待合室に、フェンリル中将だけ入ってくる。
「息子の命の恩人だ。本当にありがとう」
「えへ。それはよかったです」
シャロン准将は不安を打ち破る屈託のない笑みを浮かべた。
シャロン准将は自分のトートバックを探っている。
「フェンリル中将。これを。どうか気をしっかりお持ち下さい」
シャロン准将は御見舞金をフェンリル中将に差し出す。
「実に…君らしい。私も、君が体現する通りに無事に退院出来ると信じている」
鼓舞されたフェンリル中将は、早すぎる御見舞金で受け取った。
「EDFcode OF-6」准将のこと。