こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ!   作:たかしクランベリー   

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序章『〜乖離、合縁奇縁の淀み点〜』
1話・吾輩たち、異世界転移した?


 

━━泰野盆地、明け方。

 

赫き巨獣の命が、

燃え尽きる寸前の蝋燭のように

薄く揺らいでいた。

 

セラフ部隊2部隊による

激しい猛襲で、衰弱しているのだ。

 

バリイィィィン!

 

外殻、内殻もろとも

大きく損傷した敵は呻きを上げ、

そのまま倒れると思われた……が。

 

すぐさま立ち上がり、

頭部を開いて

エネルギーを収束させていた。

 

そのエネルギーの塊は、

対峙する彼女らの視覚だけでも

充分に分かる危険な代物だった。

 

「待て! これ以上はもう限界だ。

月歌、撤退するしかねぇ!!」

 

「無理だ! 避けられる距離じゃない!」

 

「死ぬぞ、ここで!!」

「くっ……。

(もう、方法はないのか……。)」

 

「諦めないで下さい!

蒼井がみんなを守ります!」

 

(ダメだ……口だけでもう、

何の力も湧いてこない。)

 

弱音を心の内で吐いたその時、

ある『記憶』が鮮明な映像となって、

彼女の脳裏に過ぎった。

 

――私の場合は、何でしょう――

 

――そうだなぁ。蒼井は盾だから、

『無敵』って思えばいいんだよ。。――

 

(……!! そうだ!

私は……蒼井は無敵!!

もう、一人で立ち尽くさない。)

 

蒼井は進むんです。

 

どんな地獄を目の当たりにしても、

仲間と過ごした『記憶』は、

素晴らしいから……。

 

(もっと、みんなと一緒に居たいから。

だから、必ず救ってみせる……!

誰も死なせない!!)

 

あぁ……力が沸いてくる。

これが、セラフの本当の力……。

 

今なら、やれる!

 

「――インビ……」

 

ズドォォンッ!!!!

 

蒼井が持つセラフの旋回が

始まろうとした、その時だった。

 

「何だよ……あの馬鹿デカい戦艦……」

「わお! ディスイズ宇宙戦艦っ!!」

 

信じられない大きさの戦艦が、

RED Crimsonの頭部に衝突した。

 

そしてそのまま、

数キロ先まで戦艦とRED Crimsonが

大地を削りながら慣性で進み、

停止した。

 

最後の一撃を防ごうと

決死で立ち上がった少女も、

唖然とする他なかった。

 

心と口が、完全一致してしまう程に。

 

(……ぽかーん)

 

「……ぽかーん。」

 

何がどうしてこうなったのか。

 

事は、数十分前に遡る。

 

 

 

 

――秘密結社Holox主力艦・ダークマター

艦内、操舵フロア。 

 

〜SIDE『ラプラス・ダークネス』〜

 

「に゛ぇ゛ぇぇえええっ!

みこを早く解放しろぉぉおお!!」

 

「お断りだ。我々Holoxをコラボ配信で

散々コケにしたツケは、

きちんと払って貰う。」

 

「みこに何する気だよぉ!?

こんな縄で縛ることないじゃん!」

 

縄で縛られたこの口煩い巫女は、

吾輩たちが所属する配信系統の

企業事務所『ホロライブ』の先輩……

さくらみこだ。

 

コラボ企画で何度も活動を

共にし、何度もやらかしや

煽りプレイしまくる常習犯でもある。

 

そろそろお灸を据えないと、

いつまで経っても

このままだろうと判断し、

我々Holoxの総意で行動へと移った。

 

「みこ先輩には、

これからゴブリン星で1ヶ月の間、

炭鉱奴隷として働いて貰う。

因みに貴様を

オークションで出品したら、

奴ら1ヶ月レンタルで

10億スペースドル出してくれたぞ。」

 

「何勝手な事やってんの!?」

 

「いやはや、我々Holoxの軍資金も

結構浮いたし……win-winって奴だな。」

 

「どこが!? みこの人権は!?

みこだけ

思いっきりアンハッピーじゃん!」

 

ウィーン。

 

操舵フロアの自動ドアが、開いた。

 

そこから現れたのは、

鯱モチーフのパーカーを着飾った

陽気なインターン生。

 

(……沙花叉か。)

 

「ばっくばくばくーん♪

ラプちゃん元気してるー!」

 

「どうした沙花叉、

風呂でも行きたくなったか?

忍者、連れてってやれ。」

 

「御意でござる!」

「違ーーう!」

 

「……何が違うのだ。」

「ラプちゃんの意地悪っ!」

 

「総帥、

お取り込み中の所すみませんが……」

「おお。幹部、お前も疲れたか?」

 

舵輪で舵取り中の幹部、

鷹嶺ルイがそわそわとして

吾輩に訊いてくる。

 

「少しだけ、お花を摘む時間を下さい。

その間、舵輪の操作を代行して

貰えると助かります。」

 

「よかろう。

この吾輩が代わってやる。

航路はこのまま直線上でいいか?」

 

「いえ、少し注意する点が御座います。」

「何だと?」

 

幹部が片手間に指を滑らせ、

航路ウィンドウを

吾輩の眼前に表示する。

 

示された航路上右側には、

分かりやすい罰点印がある。

 

「これは……」

 

「気がついたようですね。

その罰点印は、時空の裂け目です。

もし誤って当艦がそちらに

呑まれればどうなるか分かりません。

ですので、付近に当艦が

差し掛かったら

舵輪をやや左に回して下さい。」

 

「うむ。了解した。」 

「間違っても、右に回すような真似は

しないで下さい。

では、私はこれにて。」

 

幹部は念入りに釘を刺して、

個人的な用へと向かった。

 

「総帥殿は大変でござるなぁ。」

 

「新人の掃除屋はともかく。

忍者、お前にはいずれ操舵して

貰うからきちんと勉強しておけよ。」

 

「そ、そーでござるなー。あはは……」

 

何だその見るからに嫌そうな顔は。

そんなんでいいのか、

我がホロックスの用心棒よ。

 

…………さて。

そろそろ舵を左寄りに切る時か。

 

「あ!」

「何だよ沙花叉、今大事な時なんだよ。

邪魔すんじゃねぇ。」

 

「ルイルイの所為で忘れてた!

沙花叉は面白いオモチャ買ったんだよ!

ねーねーお願い、お願いだから見てぇ!」

 

「……ガキかよ。おい、みこ。

沙花叉のお遊びに付き合ってやれ。

吾輩は操舵で忙しい。」

 

「何当たり前のように

先輩呼びやめて呼び捨てにしてんの!?

にぇ゛ぇええっ! 

みこが何したって言うんだよぉ!」

 

「え! みこ先輩付き合ってくれるの!

ありがとーー♪」

 

よし、これで

沙花叉も大人しくなるだろ。

 

幹部が戻るまでの辛抱だ。

頼む、何のハプニングも

起きないでくれ。

 

「クロエちゃん。それは?」

「ふっふーん! 

聞いて驚かないでよ……

これは、キラキラスーパーボールだぁ!」

 

「凄いにぇ! みこも欲しいっ!」

 

「揃いも揃ってガキかよ!!

吾輩がこの面子で今一番大人してる

状況って何!?」

 

「それじゃあみこ先輩!

いっくよー!!」

「うんうん!」

 

「待て待てお前ら!

今から何するつもりだ!?

おい風間! 

今すぐコイツらを止め……」

 

「ばっくばくばくーん♪」

「それ掛け声だったんかぃいい!

…………あ。」

 

ツッコミに気を取られた時には、

もう手遅れだった。

 

ポンポンポンポンっ! ポンポンっ!

 

操舵フロア内を縦横無尽かつ

素早くバウンドし続ける

スーパーボール。

 

吾輩は目で追えるので、

この手を離せばすぐにでも

回収できるが……

そういう訳にはいかない。

 

(やはり、身動きの速そうな

忍者しかいないな。)

 

「風間ァ! 今すぐスーパーボールを

木っ端微塵に切り裂け!

その刀は飾りじゃないだろ!」

 

「無理でござるよ!

速すぎて狙いが定まらないで

ござるぅうううーー!!」

 

くっ……忍者でもダメか。

ここは、吾輩がやるしかないのか……?

 

「……あ。」

 

目の前のスーパーボールが、

ゆっくりと動いて見えた。

これは、何か取り返しのつかない

事態が起きる予兆だ。

 

幾度となく戦場で、

否応無しに体感した嫌な感覚。ゾーン。

 

――間違っても、右に回すような真似は

しないで下さい。――

 

スーパーボールは舵輪に接触し、

舵を右に切った。

 

「ああああああ!! 沙花叉ァアっ!

何やってんだお前ェぇええっ!!」

 

「……ぽえ?」

「……にぇにぇ?」

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

「――インビ……」

 

ズドォォンッ!!!!

 

ズガガガガッ……しーん。

 

そして。

秘密結社Holox一同の現状は今に至る。

 

ピーピーピーッ!!

 

艦内の警報サイレンが赤く明滅し、

警報ブザーが辺りに鳴り響く。

……最悪の状況だ。

 

『当艦ダークマター、次元の裂け目と干渉。

只今、外惑星の侵略生物と衝突しました。

エマージェンシー……エマージェンシー……』

 

しかも、艦内AIが警報がてら

勝手に暴露まで始めた。

もう幹部に言い訳すら出来ない。

 

『衝突対象分析……

惑星危険度C・大型キャンサー。

対キャンサー用主砲、セット。』

 

ウィーン。

 

慌てた様子で、幹部がやってきた。

あ、一瞬で

スーパーボールキャッチしてくれた。

 

なんか助かる。

まぁ、実は

もう助かってはいないんだけど。

 

――というか、何でだ?

どうして……

どうしてこうなった。

 

さっさとみこ先輩を

ゴブリン星に島流して、

母星のラプラトン星で

Holoxのみんなと

楽しくお誕生日会したかったのに……

 

今日は、吾輩の誕生日だというのに。

 

世界は、あまりにも理不尽だ。

 

(これも、侵略者たる者の運命か……。)

 

「総帥、私が居ない間に

何があったんですか!?」

 

「さっきAIプログラムが

説明した通りだ。すまん幹部。

吾輩とした事が、スーパーボールすら

止められなかった……。」

 

「成る程、これの所為でしたか。

誰がコレを飛ばしたのかは

概ね予想がつくので、

話は後にしましょう。

先ずは目の前の障害物を

始末するのが最優先です。」

 

「……だな。

始末しろ。ダークマター。」

 

『了解ですマスター。

発射カウント開始、3……2……1』

 

 


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