こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
10話・ござるパワーが溜まってきただろ?
剣。それは敵を討つ刃であり、
仲間を守る鋼。
振るう者の信念であり、
魂そのものでもある。
とりわけ、
一本の腕で一本の剣に己を託す姿は
心技体の顕現である。
「……なればこそ、その一閃を以て
最強を証明したいと思うだろう!」
眼帯をつけた教官が、
ギャラリーを奮い立たせるように
大声で言い放った。
「そんな頂きを目指す、
剣型セラフ使いの精鋭がここに集ったッ!」
「やったれぇタマぁあーー!」
「すもも、遠慮はいらねぇぞ!」
「ニ似菜ーー!
ケガには気を付けてねー!」
「吹雪ちゃん。くれぐれも
無理しないくださいね〜。」
「祈ぃ! しごうしちゃれ!」
「白河部隊長、
先輩部隊として格の違いを
見せつけてやってください!」
「わっくわくわくーん♪
頑張ってね! いろはちゃん!」
「………………。」
(セラフ部隊に入隊して早々、
風真は何を
やらされてるのでござろう。)
そう考えてる自分に続き。
精鋭と豪語され召集された
セラフ隊員たちは、
各々自信に満ちた発言を連ねている。
(剣闘武術祭……か。)
――見て見ていろは姉!
僕、剣闘祭の優勝トロフィー貰ったよ!
僕ね、いつかお姉ちゃんみたいな
立派な侍になりたいな!! ――
弟に向けられた
その真っ直ぐな笑みが、
いつからだろうか……。
全く別のモノに変わってしまった。
――姉ちゃん。答えてよ。
本当に大伍郎おじいちゃんを
『殺めた』の? ――
思い出したくもない過去が、
脳裏に過ぎる。
それを思い出す度、
言葉に出来ない不安が頭の中で
渦巻いてしまう。
「……いろはっ。
――いろはァアッ!!」
「――ッ!?」
自分を呼ぶ声に目を遣ると、
ラプ殿が観覧席から名前を呼んでいた。
「ラプ殿……。」
「今日はお前のお手製クッキー
食わせろ! 吾輩からは以上ッ!!」
この総帥、
励まし方がいつも雑すぎる。
でも、ラプ殿らしくて……
そんな所が風真は。
っと。
今は試合に目を向けよう。
余計な思考は
実戦に支障をきたしてしまう。
(やってやるでござるよ。
なにせ風真は……)
holoXの用心棒だから。
「さぁ、2人のお弟子さん!
わたしの教えが最強である事を
示すのです!!」
((何故、
流派の違う師を持つことに……))
一瞬、参加者の誰かしらと
気が合ったような感じを覚えるが。
その疑念すらも吹き飛ばす勢いで
教官が言葉を続けた。
「観客達よ、大いに盛り上がれッ!!」
「「「ぉぉおおお!!!」」」
「剣士達よ――覚悟はいいか?
今ここに、
第5回・セラフ剣闘武術祭の
開催を宣言するっ!!」
*
時は遡り。
━━▶︎ DAY1 ???
〜SIDE『風真・いろは』〜
武術祭前日。
セラフ基地、ブリーフィングルーム。
風真たち第31H部隊が、
突如として呼び出された。
司令官は重たい面持ちで
こちらに指示を告げる。
「旧杉並区周辺に
新種のキャンサーが発見されたわ。
第31H部隊は、
この新種キャンサー『Scrap wing』の
討伐任務を命じます。」
「ふっ、ようやく我々にも
マトモな任務を
くれるようになったか……。」
全く……この総帥は。
事あるごとにイキらなきゃ
気が済まないのでござろうか。
「そうよ。
では早速、その討伐対象の姿を
目にして貰うわ。七瀬。」
「はい。」
司令官、ラプ殿を流すのが上手い。
まだ出会って間もないのに。
「皆さん、
モニターに目を向けて下さい。」
言われた通り目を向けると、
画面には異質なキャンサーが
映し出されていた。
「うっわ! ナスカの地上絵に
描かれたハチドリに
そっくりじゃねぇか!
すげェ……カッケーー!!
見て見て幹部! ヤバくね!?」
「はい。私も同感でございます。」
「にぇっ、あれって
みこも乗れるかなぁ。」
「はいっ! みこ姉さん程の
エリートなら、すぐ乗りこなせますよ!」
なんて事だ。
よりにもよってholoXの頭脳派2人が
崇拝する存在を煽てるだけの
保護者になってる……。
「盛り上がってる所悪いのだけど、
これを討伐するのが
あなた達の任務よ。
くれぐれも油断しないように。」
「了解した。話は以上か。」
「いいえ。
注意して欲しい点が一つあるの。
派遣した斥候部隊から、
当該キャンサーは特殊な力を
持っているとの報告があったわ。」
「特殊な力……でござるか。」
「ええ。報告によると、
周囲の鉄屑を自在に操作したり、
圧縮して放つ事も出来るそうよ。」
「ふっ、中々面白いではないか。
初陣にうってつけの刺客って訳だ。」
「……ええ。
あなた達の活躍に期待しているわ。
では、解散。」
痛々しい総帥の発言がまた軽く流され、
今日の作戦指示は幕を閉じた。
この後、何をしようかと学舎内を
ほっつき歩いていると。
凛としたセラフ隊員が声をかけてきた。
「失礼する。お前が
31Hの風真いろはで
間違いなかっただろうか。」
「間違いないでござるが、
何故風真を……」
彼女は申し訳なさそうな表情で答えた。
「うちの部隊に所属している
小笠原という剣士のことでな……
君の力を貸して欲しいんだ。」
力……?
「彼女の能力は秀ていて、
小笠原自身も自負しているほどの
天才剣士なのだが……
――セラフが銃なんだ。」
「……?」
銃。それと一体何の関係が。
「それ故。剣闘武術祭に
参加する事が出来ず、その……
とても拗ねているのだ。」
そんなセラフ隊員も居るのでござるか。
セラフ……考えれば考えるほど
不思議な武器だ。
「そこで風真。今夜、
夏目隊員と共に小笠原を
慰めてやってくれないだろうか。」
なんか、面倒ごとに
巻き込まれそうでござる。
「入隊したての所悪いのだが、
頼む。お前の背に携えてるソレは
飾りじゃないのだろう?
同じ一剣士として、
助力してくれると助かる。」
うーん。
風真が剣士として話せる事なんて、
大してないでござるがなぁ。
日々の筋トレと、
我儘で自由奔放な
ラプ殿の面倒見てるだけで
時間があっという間に過ぎてくし……。
「他の部隊の者に頼むのは筋違いと
分かっているが、頼むッ!
士気に関わる程
拗ねてしまっているんだッ……!」
うわっ、急に必死さが凄いでござる。
こ、これを断るのはあまりに酷過ぎて
出来ない……。
「分かったでござる!
この風真が、ジャキンジャキンと
解決するでござるよ!」
「……感謝する。」
……………………。
…………。
――夜。
街灯が薄暗く照らすナービィ広場。
その場内で、
ぽつりと例の隊員は佇んでいた。
背を向いていて表情は見えないものの、
彼女の放つズーンとした
重たい空気は
肌に伝わってくる。
風真の横にいるもう1人の
臨時カウンセラー。
夏目殿も、憐れといった目で
彼女の後ろ姿を見ていた。
ただ見ているだけじゃ始まらない。
ルイ姉には及ばないが、
風真だって拗ねた子の機嫌を
戻す事には自信がある。
実際、うちの総帥は
感情の起伏が激しいから
嫌でも
そういう時の対応力が育まれた。
「行くでござるよ。」
「……ああ。」
「ニルヴァーナ……。」
「「――!?」」
(想像より遥かに
追い詰められてるでござるぅううっ!)
「……31Fの夏目祈さん。
並びに、31Hの風真いろはさん。
わたしに何かご用ですか?」
この人、振り向かずに気配を
感じ取ったのでござるか。
「振り向かずに気付いた事が
不思議ですか?
この程度のこと、
天才剣士には余裕なんです。ふふふ。」
別に不思議でも何でもない。
ラプ殿とルイ姉はあと
数十m離れてても視覚外から
飛んでくる弾丸を普通に躱せる。
「もっとも、剣闘武術祭に出られない
この世で最も情けない
剣士でもありますが。」
何を悔しがってるのでござろうか。
出ても出なくても、
剣士である事には変わりないのに。
「笑うなら笑ってください!
天才剣士と名乗っていたわたしが
剣術の祭典に出場できないこの状況を!
ははははっ!」
「………………。」
「「…………。」」
こりゃ、相当参ってるでござるなぁ。
「それで、天才剣士であるわたしに
何かご用ですか?
それとも笑いに来たんですか?
ははははっ!」
もう手段を選んでる暇はない。
風真流のメンタル回復ストレッチを
ここでやるしかない……!!
「わーっはっはっはぁ!」
「ほぉら! やっぱりわたしを
笑いに来たんですね!
良いですよ!
愚かなわたしをもっと笑っ……」
「ござるパワーが
溜まってきたようでござるなぁ!!」
「「……は?」」
「ちゃんと真似てね!」
両腕を横に広げ、
プールで行う蹴伸びを意識し。
上半身で三角を描くよう
その腕をゆっくり上に伸ばす。
「ござーる……ござーる…………
――ストップっ!!」
手が頂点に達した時、
頭に溜まった有象無象の思考は
天に昇華され。心がリセットされる。
その合図こそが『ストップ』である。
これが、風真道場に脈々と
受け継がれてきた秘伝のストレッチだ。
「「……は?」」
「貴殿らは疑問符botでござるか!?
剣士たる者、しのごの言わず
やるでござるよ!
ほらっ、せーーのっ!!」
「「「ござーる……ござーる…………
――ストップっ!!!」」」
みんなでやると、楽しいでござるな。
「「…………。
((え、何の時間?))」」
「偉いじゃん……やるやん。
えらい!!」