こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
風真いろはの現行犯逮捕から『5日後』。
大企業・風真製鐵の社長が
他殺された『風真大伍郎・暗殺事件』は、
様々なスペースメディアを通じて
広く報じられた。
その事実は、世間を大きく震撼させる。
そして――。
〜SIDE『ラプラス・ダークネス』〜
主力艦ダークマター、
ブリーフィングフロア。
フロア内に多数設置されている
モニターに映るのは、
各オペレーションの概要と行軍路。
だがその内一つだけの画面には、
時代劇ドラマが流れていた。
それを嬉々として
視聴している1人の少女を
叱咤する者は、誰1人として居ない。
当然である。
ドラマ鑑賞に浸っているのは
何を言おう……この組織を統括する
『総帥』なのだから。
「いいぞ! やれ弁天丸ぅう!!」
そんな盛り上がりを見せる背後に、
女幹部が歩み寄る。
「盛り上がってる所悪いのですが、
少しお話しても宜しいですか?」
「もうっ! いい所だったのにぃ!」
駄々を捏ねながらも、
彼女は仲間を優先して視聴を止めた。
「ご協力感謝します。」
「吾輩も一総帥だ。
特に鷹嶺、お前の話は聞き逃すと
碌な事になりかねん。
要点だけ掻い摘んでさっさと話せ。」
「ちょっとした世間話です。
時に総帥、
今週の宇宙新聞はもう見ましたか?」
「まだ見てないが……それがどうした。」
「世間は今この話題で持ちきりだと
云うのに、総帥は呑気ですね。」
言って。
鷹嶺は吾輩に新聞を手渡した。
「――"風真大伍郎・暗殺事件"?
おいおい、ビックニュースにも
程があるだろ…………。
我々の仕入れてる武具の
大半が御社なんだぞ。」
「ええ。御社の舵取りである社長が
亡くなっては、風真製鐵そのものの
方針が変わる可能性もあります。
場合によっては、
我々が顧客リストから
外れるなんて事も…………。」
「最悪だな。
こうなってしまってはもう、
ジャキンジャキン星を征服する他ないか。」
「ええ。私もそれが
最も安牌だと思います。
航路の変更はお任せください。」
「……で、そもそも
こんな大事やらかした奴は誰だ。
風真製鐵は提携してる企業も
数多くある。
犯人は宇宙そのものを
敵に回すような事を、
理解した上でやってるのか。」
「総帥、続きを見てください。」
「――ッ!?」
その犯人の正体に、思わず目を疑った。
……風真・いろは。
掲載された顔写真と名前は、
間違いなくそう載っている。
「これはッ……どういう事だよ。」
新聞を持つ手が、震える。
「私も始め見た時は驚愕しました。
宇宙総合剣闘祭で
数々の好戦績を叩き出すような
風真家の箱入り娘が、親を……
一家の大黒柱とも言える
社長を暗殺するなど――
正気の沙汰とは思えません。」
「鷹嶺、お前はコレをどう見る。」
「『不可解』の一言に尽きます。
動機が全く掴めません。」
「奇遇だな、吾輩もだ。」
「「………………。」」
「決めたぞ。
吾輩はコイツを用心棒にする。」
「…………は?」
「聞こえなかったか。
吾輩はコイツを用心棒にする。」
「はぁぁああああああああっ!?!?」
珍しく幹部が叫び、慌てふためいた。
「どうした。」
「どうした? じゃないですよッ!?
どんだけ時代劇ドラマに
感化されてるんですか!
用心棒が必要な程
総帥は弱くありませんし、
なんなら私が兼業しても
良いんですよ!!」
「それではいつもと変わらんだろ。
吾輩はコイツを用心棒にする。」
「天丼botになって
気でも狂ったんですか総帥ッ!」
「勘違いするな……至って冷静だ。
吾輩は天丼botになったつもりはない。」
そう。
時代劇鑑賞に感化された部分もあるが、
吾輩の目的はもっと別にある。
秘密結社holoX。
その軍勢は現段階でも
440万は優に超える一大組織。
であるというのに、
明確な上位権限を有してるのは
吾輩を含めて、幹部と博士の3者のみ。
このまま兵が増え続ければ、
その分上位層3名の負担も多くなる。
故に、上位層内で
役割の細分化と追加が今後……
より重要な課題となる。
できる事ならば、
既存ではなく新規で2名の上層部を
雇いたいというのが本音だ。
それに。
「……何か目的があるのですね。総帥。」
「漸く冷静になったか。」
「ええ。」
「幹部よ。風真いろはが
これからどのような道を辿るか
推測してみろ。」
「はい。
恐らくは見せしめとして
公開処刑されるでしょうね。」
「ああ。各宇宙企業の上層部や
一般市民がそれを見納め。
世間に広まった不安は拭い去られる。
そして主犯を捉えた『黒野警視正』の
株も上がり、宇宙政府の犬と化した
『大空星警』の世間的評価も高まる。」
「………………。」
「――とんだ茶番劇だな。
誰も彼もがそうやって
メディアに踊らされるんだ。
政治のサーカスの中で、誰が夢を見れる?
……つくづく、後味の悪い話だな。」
「一連の事件は、
宇宙政府や大空星警が
絡んでいると……?」
「いや、厳密には"黒野警視正"だ。
多額の依頼金を積まれたアイツなら、
喜んでやってのける。
自ら仕組んだ『捏造』を
必ず『真実』だと『審判させる』。
不利になる綻びは、
砂粒程度だろうと
徹底的に『始末或いは抹消』する。
――そういう奴なんだ。」
「………………。」
吾輩とかるびがツーマンセルで
ストサバ星支部署の
大空星警に勤めていた時期、
奴は直属の上司だった。
だからこそ、嫌と言う程
彼の残虐さを目にしている。
彼の悪行を偶然知ってしまった者……
果てには、不都合と判断した
クライアントさえにも牙を向く。
あそこまで几帳面で気味の悪い奴は、
そうそう居ない。
否、居ては『ならない。』
「まぁ要するに……
吾輩の見立てでは、
風真いろはは『白』だ。」
「まさか総帥……助けるおつもりで?」
「客観的に考えてみろ幹部。
親殺しと民衆に罵られて
命の終わりを迎えるか。
奇跡が起きて偶然生き残り、
生きた心地のしない未来の中で、
自害を選ぶか。
どの道最悪の2択だ。」
「そんなの、あまりに酷すぎます。」
「そうだ。我々が見殺しにすれば、
それは奴ら宇宙政府と同類の
下等組織だと……暗に認める事になる。
吾輩はな、死んでもそのような
無様な存在にはなりたくない。
だから、holoXを設立したんだ。」
「……分かりました。
あと総帥、一つ質問いいですか?」
「何だ?」
「総帥は、どうして
黒井警視正という男に
そこまで詳しいのですか?」
「元仕事仲間だからだ。」
「でしたら尚更です。
告発されるリスクだって、
大いにある筈なのに……
彼が襲って来る気配が
まるでありません。」
「襲う理由がないからな。
ついでに言えば、
奴にとって吾輩の告発など
リスクでもなんでも無い。
寧ろ、承知の上で
野放しにしてると言っていい。
反社会組織のボスが、
"優秀な警官を貶めるような虚言"をした。
世間には、そう知れ渡るだけだ。」
「それもそうですね……
考えが浅くてすみません。」
「気にするな。
吾輩も奴の真意は知らん。
だが、奴の思い通りに事が進むのも癪だ。
手遅れになる前に、動くぞ。」
「……はい。」
主力艦ダークマターの航路は、
ジャキンジャキン星へと切り替わった。
*
風真いろは現行犯逮捕の『5日"前"』。
宇宙の秩序を守る一大自警組織が存在する。
その名も――大空星警。
現在も世間から熱い信頼を受けている
当組織は正に……
"宇宙平和の象徴"そのもの。
そんな組織の中にも、
『闇』はひっそりと存在していた。
警視正を務める彼、
黒野・右京もその1人である。
今から語られるのは、
風真大伍郎暗殺事件の真相と……
血塗られた倒叙。
〜SIDE『黒野・右京』〜
大空星警、本部署。第七通路。
ウシャアッ!
通路を素早く這う錦蛇が、
1人の男に飛びかかり首根っこを掴まれた。
瞬間、蛇の身体がうねり始め。
その形を変えていく。
ものの数秒でそれは、一枚の紙となった。
(ほう……ジャキンジャキン星で
面白い催しがあるようだな。
…………実に興味深い。)
書面をまじまじと見て。
彼は内心で静かに微笑を浮かべた。
「――おい、黒野警視正!」
黒野は背後から呼ぶ声に
反応し、振り返った。
「おっと。これはこれは……
"大空・スバル様"。こんにちは。」
爽やかな笑みで挨拶をするも、
彼女は不満気な顔つきなままだった。
「さっきの紙凄く怪しいぞ!
スバルにも見せろ!!」
「見たければお好きにどうぞ。」
なんの躊躇いもなく、彼は紙を差し出す。
その内容は、
既に別の物へと改竄されたものである。
「これは……?」
「再度捜査中の関連書類で、
五目並べ事件の容疑者リストを
纏め直したモノです。」
「……そうか、疑ってすまない。」
「気にしないで下さい。
警察というのは、
疑う事が『仕事』なのですから。
若い内は、誰でも失敗しますしね。」
「…………持ち場に戻る。」
「ええ。お仕事頑張ってください。」
彼女が立ち去ったのを確認すると、
黒野は口角を上げ。踵を返した。
「行くか――ジャキンジャキン星。」
…………………………。
…………。
2日後、丑三つ時。
ジャキンジャキン星。
商会議事堂――『裏の間』。
存在が秘匿された地下講堂には、
裏社会の重鎮らが多く足を運んでいた。
そして、黒野警視正も
その催しへと出席していた。
壇上へと上がる企画者を
彼らは目で追い、
遂にそれは始まろうとしてた。
壇上から照明が降り、
企画者が教卓に両手を置いた。
「――裏社会からお越しくださった
来賓の方々! 今宵は私の催しに
付き合って下さり誠に感謝致します!!」
心の底から
この時を待ち望んでたとばかりに、
企画者は両手を上に広げた。
「では早速、本題と移りましょう!」
彼の背後。
その上から液晶が現れ、
スライドが開かれた。
映し出されたのは、
グラフ化されたジャキンジャキン星の
企業シェアであった。
「ご覧下さい、当ジャキンジャキン星の
置かれている経済的惨状を!
風真製鐵の圧倒的な独占社会を!
そのシェア率は約8割強と……
大変由々しき事態です。
このままでは、当惑星全土の
経済成長は下降の一途を辿る……!」
星の未来を慈しむように
彼は嘆き、次のスライドへ移る。
「競争なき社会に未来は無い!
全ての企業が足並みを揃え、
切磋琢磨する事こそが
社会のあるべき姿なのです!
この惨状を覆す為、
我々は一度社会の『再構築』を
する必要があるッ!!」
畳み掛けるように、彼は訴える。
「そこで我々が取るべき最善策は、
――風真製鐵の"特大スキャンダル"。
世間から信用を失った貴社が、
現在の経済力を維持するのは不可能!
結果、数多の企業が対等に
経済活動できる土俵が出来上がるッ!」
「具体的に、どうするつもりだ?」
「いい質問です。――黒野警視正。
お望み通り、答えるとしましょう。」
スライドが切り替わった。
「現在風真家邸宅に残ってる人物は
風真・大伍郎と風真・いろはの2名のみ。
そして、当該2名を除く風真家らは
家族旅行によって不在。
なんとその期間は1週間と半日。」
「まさか……
この機会をずっと窺ってたのか?」
「ええ。風真家の孫娘には悪いですが、
風真大伍郎暗殺の容疑者に
なってもらいます。
――風真製鐵を潰すには、それだけで充分。
たった2人の犠牲で多くの
企業……或いは市民が救われるのです。」
「なら、致し方無しって訳か。
……面白い。で、いくらだ?」
「………………。」
「その案件は
いくらだって訊いてるんだ。
答えられないのか。」
「まだ私は演説中です、
私語は慎んで頂きたい。」
「じゃあ、私は帰るとしよう。」
黒野が席から立つと、
企画者は焦って呼び止めた。
「――お待ち下さい黒野警視正ッ!」
「……?」
……そう、万一に彼を敵に回せば
自身が『捕まる側』になる。
それを知っている企画者は、
意地でも止めに入った。
「――5億スペースドルだ。」
黒野は口角を上げ、再び着席した。
「良いだろう。その話、乗った。
詳しく聞かせてくれ。」
【月歌とholoXのおまけバスタイム】
(※本編にヘブバンキャラが出ない為、
設けられたヘブバン専用コーナーです。)
(※軽い小話みたいな構成なので、
台本形式でお送りします。)
〜part2・博士とルカ〜
月歌
「シュワシュワっ♪ こよこよっ♪」
こより
「何その適当なアカペラ。
なんかデジャブ感じるんだけど。」
月歌
「そう? んじゃ、やめとこっかな。」
こより
「ありりゃ、もっと引き摺ると思ったよ。
ラプちゃんからダル絡みのヤバい奴って
言われてたし…………。」
月歌
「えぇ!? あたしラプちゃんに
そんな人だと思われてんの!?」
こより
「……まぁ、こよは
月歌ちゃんのそういうフレンドリーな部分
長所だと思うし、悲観的に
捉える必要はないんじゃないかな。」
月歌
「――天使だ。天使と言わせてくれ。」
こより
「あ、今日は
月歌ちゃんがイタい日なんだ。」