こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
風真いろは現行犯逮捕から『11日後』。
━━▶︎ DAY ???
ツンと鼻腔を抜ける
エタノールのような刺激臭が、
否応無しに風真の意識を起こす。
目を開くとそこは……
医務室のようだった。
(医務室? 医務室って……。)
一瞬記憶が錯乱するが、
医務室は医務室だ。
それ以上でもそれ以下でも無い。
自分が今、どういう状況に置かれてるか
思い出せはするものの……
未だその確信には至れない。
麻酔や切開も無しに、背後から
物理的に心臓を抉り出すなんて、
冗談みたいな話だ。
そうだ。生き物が心臓を抜き取られて
生きてるなんてあり得ない。
きっと何かの嘘だと思い。
己の胸に手を当てる。
「――ッ!?」
(……え? 嘘でござるよな。)
心臓の鼓動が、全く感じない。
本当に風真は、心臓を……
「起きたようだな。風真いろは。」
ガシャアンっ!!
平然と言葉をかけるラプラスの
胸倉を掴み壁に叩きつける。
更に、上へ上へと壁に擦り上げる。
頭の中は、怒りでいっぱいだった。
「おいおい、
随分物騒な挨拶じゃあねェか。
風真家っつーのは皆こうなのか。」
「惚けるなァッ!
風真の心臓を返せッ……!!」
「何故心臓を欲す?
貴様は死刑を受け入れてたのであろう。
今になって……"死が怖い"のか?」
「……そっ、それは。」
(死が怖い訳じゃない。
それなのに、風真はどうして……。)
気がつけば手から力が抜け落ち、
ラプラスは床に足をつけていた。
「貴様自身も、分かっているのではないか。
死の間際にして、
魂が叫んだ『未練』を。」
「風真が、未練……?」
「そうだ。吾輩にぶつけた憤慨、
そして、それと同時に見せた
憎悪塗れの顰蹙が何よりの証拠だ。
未練の無い奴が、命綱を切られそうに
なったら……その鋏を壊そうとするか?
そんな矛盾、あっちゃイケねぇだろ。」
「何が、言いたいんでござるか。」
「風真いろは、貴様は何を成したい?」
(風真が、成したいこと……)
「風真は、シオリ殿と世界を
観に行きたいでござる。
そして、『侍』としての自分を
見つけたいでござる……。」
「それ、本気で言ってんのか?
貴様の怒りの矛先は、
何処に充てるつもりだ。
そもそも、そんな曖昧な
未来の見据え方で
本当の自分とやらを
見つけられると思ってるのか。
自分を――『救える』と思ってんのか?」
怒りの矛先、未来の自分。
自分を救う……。
(あ……れ? 風真って、
世界を観て……どうするんだろう。)
ラプラスは見透かした様に
指を差した。
「ほら見ろ。今の貴様には……
何の信念も無い。
夭折を免罪符に、自分と
亡くなった家族を救ったつもりでいる。
己を肯定する閾値を、
満たしたつもりでいる。
冥府への片道切符を買って、
どこまでも逃げようと考えてる。」
「………………。」
「そんで。世界旅行のレールを
見つけたら、
掌を返してすぐに乗り換える。
こんな無様で空虚な生き方を見て、
亡くなった家族は喜ぶのか?
それが『侍』だと、
胸を張ってあの世で言えんのか。」
「…………。」
「……甘えんのもいい加減にしろよ。
脆弱で怯懦な生命は淘汰される。
これが、宇宙のヒエラルキーだ。
それすら自覚できない貴様は、
産まれたての子鹿か何かなのか?
――世界は、
貴様のママなんかじゃねェぞ。」
(うるさい……うるさい。
子供のくせに、一々全部を
知ったつもりで訊いてる。)
「うるせぇええええっ!!
お前みたいなガキに、
何がっ……風真の何が分かるんだよォッ!」
「――知らん。」
「……っ!」
ガシャアンっ!
今度は、拳で壁へと殴り飛ばした。
顔面にクリーンヒットしたのに、
ラプラスは特に怒る様子もなく。
パタパタとコートを叩いて立ち上がる。
「じゃあ、貴様が仮に世界を観たとしよう。
それをしたとして、
"貴様と同じ様な境遇の子"は減るのか?
悲惨な運命を辿る子は、減るのか?」
「…………。」
「――減るのかって訊いてんだよ!
答えろよッ! なぁッ!?」
「……減らないでござる。」
「あぁそうだッ! 減らねぇよなぁッ!
じゃあどうすりゃ良い?
折衷案を片っ端から
焼却炉に投げ捨てるような世界を、
根本から変えるしかねェだろ!!」
世界を、根本から変える?
「何を……」
「吾輩はな。"世界の都合"で
爪弾きにされる存在たちを、
余す事なく救たい!
その為であれば、世界や世間に
『絶対悪』だと言われたって構わん!
世界のルールは、
"吾輩が決める"ッ……!!
虚偽の膾炙に浸る悪人共を、
上座から引き摺り落としてやる!!」
「そんなの、
世界を敵に回す行為でござるよ。」
「……分かってる! それでも、
同じ悲劇の連鎖を断ち切りたい。
この吐いて捨てるような現実を、
正していきたいんだ!!
だから……風真いろは!
貴様の刀が必要なんだッ……!!」
ラプラスは、土下座した。
『総帥』という肩書きを背負いながら、
その責任を最も知る当人が。
必死になって。本気で。心から。
風真に――懇願していた。
「その苦しみを知る
貴様だからこそ分かるはずだ……!
ダメなら貴様の心臓も返す!
シオリの所にも返してやる……!」
「………………。」
「でも聞いてくれ!
吾輩は必ず貴様に道を示す!
本当の『侍』へ導いてやる……!!
だからっ、どうか……
吾輩の下に就いてはくれないだろうか!!」
(どうしてこんなに、
必死になれるんだろう。
風真の振るう剣に、意味なんてないのに。)
何回トロフィーを取っても、
家族は大して風真を褒める事はなかった。
……祝福なんてしない。讃えもしない。
むしろ、扱いなんて酷い方だった。
生まれながらにして剣道の名家。
"結果を残して当然"の世界。
――いろは! 何だこの成績はッ!!
お前は"本家"なんだぞ!?
分家に劣る成績を出して何がしたい!?――
――体罰はやめて下さい師範代!
私の大事な娘なんですっ……!――
――黙れっ、コイツは
数千年かけて風真家が築いたキャリアに
傷をつけてしまうんだぞ!
そんな重罪を
黙って見過ごしてどうする!?――
――母上、いいでござるよ。――
――陁禍王山の山頂を日没までに
100往復しろ。出来ないなら、
3日間食事は抜きだ。――
記憶に残る、苦い鍛錬の日々。
トロフィーの飾られた
自室の棚を何度眺めても、
いくら竹刀を振るおうとも。
親代わりに弟を沢山褒めようとも……
風真の心は満たされなかった。
空っぽの自分を否定する為に、
見て見ぬふりをしていた。
鍛え続ければ見えてくるだろうと、
自分自身を騙し続けていた。
風真家の歴史、求めるハードル、重圧。
生まれながらにその磔刑に
張り付けられているという事実。
一つずつ増えてく杭に、
流血のように流れ落ちる"自尊心"。
足元から上へ上へと燃え移り、
広がってく劣等感、疎外感……。
期待に応えなければ、
心身に刺さる杭が増えるだけ。
薪を焚べられるだけ。
――本当は、
何の為に振るっているのかも
……見失っていた。
違う。
見ないようにしていたんだ。
目を瞑っていたんだ。
自分が擦り切れ、爛れ。
徐々に消えてくようで、"怖い"から。
『何の信念もない』。
……正に、その通りだった。
そんな風真に対し、ラプラスは言った。
同じ苦しみの連鎖を断ち切る為に、
その刀を振るえと。
正直、嬉しかった。
彼女は、何も見えなかった
風真に刀を振るう意味を見出してくれた。
侍としての道が、
ほんの少しだけ見えた気がした。
だから。
その希望に、手を伸ばす事にした。
「――顔を上げるでござるよ。
"ラプ殿"。」
「……いいのか?」
風真は、頷いた。
「ラプ殿の望んだ世界の果て。
風真も、見てみたいでござる。」
ラプ殿は瞼を裾で擦ると、
立ち上がって笑顔で答えた。
「あぁ! 吾輩の理想の世界、
見せてやんよ!!
風真いろは! 今日から貴様は……
――吾輩の『用心棒』だ!」
その時に彼女が向けてくれた
破顔一笑が、眩しかった。
曇天に閉ざしてた風真の心を
快晴に変えてしまうほどに。
矛先の分からない怒りも、
強く抱いていた敵対心も。
彼女が心に吹かせた優しい花吹雪が、
全てを凪いで。
心の外に連れ去ってくれた。
自分を縛る磔柱が、
崩れ落ちた気がした。
殺風景な荒野が、
瞬く間に花畑となった気がした。
……そう錯覚してしまうほど
純粋無垢で、希望に満ちた明るい笑顔。
それが一瞬にして
瞳の奥さえ通り過ぎ、脳裏に焼き付いた。
この景色を……
心の底から、護り続けたいと思った。
手を繋げて彼女と色んな所を歩けたら、
どんなに幸せなんだろう。
世界の暗がりに
怯えて苦しんでる子たちを
一緒に救っていけたら、
どんなに嬉しいんだろう。
天国でその様子を
見た大伍郎お爺ちゃんは、
笑ってくれるでござろうか。
いつか、胸を張ってお爺ちゃんに
話してみたいでござる。
これから始まる、
風真家の武勇萬葉集には遺らない。
――"風真いろは"と彼女たちの武勇伝を。
(あぁ……そうでござる。風真は。)
風真はあの日から、ずっと。
*
「――風真の剣の在り方。
なんとなくだけど……
ほんの少しだけ、思い出せた。
見えてきたでござるよ。」
「左様ですか。
わたしは静聴しただけですが、
力になれたようで良かったです。
それにしても……」
「?」
「風真さんは、部隊長さんの
事が大好きなんですね。
彼女の話をしてる時、
すごく幸せそうでしたよ。」
「なっ……なぁっ、ななな!
風真がぁ!?
そっ、それは無いでござるよ!」
「でも、重たく語ってた声音が
一段二段くらい上がってましたよ。」
あり得ないあり得ないあり得ないっ!
小学生って文字をそのまま
擬人化したような子供に……!
(ラプ殿を、風真が……!?)
「無い無い無いでござるぅーー!
部屋で四六時中
菓子と炭酸飲料貪って
コメディ番組ずっと見てるような
ガキでござるよぉ!?」
「お弟子さん。
必死に取り繕っても無駄ですよ。
それだけ顔と耳を真っ赤にしては、
わたしでなくとも
分かってしまいますから。」
「違うってばぁぁああ!!」
そうそう、これは何かの間違い。
顔が熱いのも、耳が熱いのも。
心臓の鼓動が
急激に速くなったりするのも。
たまたま今日が熱帯夜なだけで、
風真がラプ殿をそういう目で
見てるとかでは決して…………
「――お弟子さん。
気を確かにしてください。
目が渦巻き状になってますよ。」
「ござーるござーるストップっ!!」
「…………は?」
「精神統一の一環でござる。」
「であれば、いいでしょう。」
「緑茶、飲んで良いでござるか?」
「構いません。」
ゴクゴクっ……。
「ふぅ、一息つくには
お茶が一番でござるな。」
「落ち着いたようですね。
では、心の一振りを刻んで
今日の反省会は締めとしましょう。」
「心の……一振り?」
お師殿は、ナービィ広場に
聳え立つ一際大きい樹木に指を差した。
「そうです。あの樹木に、
心の一振りを刻むのです。
しかし、真っ二つにしてはダメです。
布地に刺繍を入れるような丁寧さで、
樹皮だけに心の声を刻んでください。」
「それ、司令官殿に
怒られないでござるか?」
「全ての責任は、師匠である
このわたしが負います。
心置きなく刻んでください。」
お師殿がそこまで言うなら、
やるしかないでござるな。
「参るでござる……!」
「どうぞ。」
――キィンっ!
風真は大きな樹木に、
刀を素早く振るった。
その切り跡を見た彼女は、
普段の冷静な師匠像を捨て去るほど、
いつになく驚きの反応を示していた。
「これは……」
どうも、たかしクランベリーです。
ホロサマ感謝祭、最高でした。
ラプ様、フローズンいろは、
グラサンみこちの芸人力が高すぎる。
と、思いつつ。
……お待たせしました。
やっとヘブバンの方に戻れます。
ええ。いろは過去編と言っておきながら
ワンピネタ、呪術ネタ、
セカワーネタとか散々盛るペコしました。
悔いはないです。
さて。今後はいつも通り、
ヘブバンキャラとholoX&みこちの
交流をまったりコツコツと
更新してく予定です。
よろしくお願いします。