こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
━━▶︎ DAY 4 19:00
迎えた夜。
風真はナービィ広場に
連れてこられた。
呼び出したのは、ラプ殿だ。
木製ベンチの真横に座り、
彼女の様子を伺ってみる。
「いろは、
よく素直に来てくれたな。
敗北を喫したんだ。
ここに来るのも怖かったろ。
吾輩や皆に非難されるだろうとか。
そういう線も頭に過った筈だ。」
怖い……か。
怖いって思いも無いと言えば嘘になる。
それでも風真は、
本気で向き合おうとしてる皆の
気持ちを無駄にしたく無い。
それはきっと全部、
風真の為を思っての事だろうから。
「非難を受けるよりも〝大事なこと〟。
風真は、それを
受け取りに来たんでござるよ。」
ラプ殿は、しんみりと口を開いた。
「つくづく真面目だな。
だが、悪くねェ成長だ。
そんじゃ、
分身介錯の件……話してくか。」
「あれでござるか。」
――でも、一つだけ
感謝させてくれないかな。
もう1人の僕として
手を貸してくれて……ありがとう。――
――バリィンッ!! ――
鮮明に思い出す、介錯の残滓。
胸の奥が、キュッとなった。
「アレはないろは。
今までお前が、吾輩たちに
〝やってきた事〟だ。
恩義を感じる分には構わねェが、
謙虚と臆病を〝履き違え〟ていた。
自分を何度も押し殺してまで
八方美人してるサマは、
見てて苦しいモンがあんだよ。」
知らず知らずのうちに、
風真は皆殿を
心配させていたんでござるな。
「…………。」
「吾輩が最初にお前に課した
『命令』を覚えているか?」
(当然、覚えてるでござる。)
「〝吾輩に遠慮はするな〟
……で、ござるよな。」
「ああ。今日までそれを
守り通してくれたのは、
素直に称賛すべき成果だ。
でも真に我々が求めてんのは、
その先の進歩……
そういう繋がりが広がる事だ。」
――あなたの剣が為す役割は、
〝それだけじゃない〟という事です。――
――そうか、良かったな。
ちゃんとした心の拠り所があって。
その〝繋がり〟……忘れんなよ。――
あ……そうだったんだ。
風真が振るう剣の意味、
その『もう一つ』は……
こんな形で
答え合わせされるなんて、
思っても見なかったでござるな。
「その顔……何かに
気がついたようだな、いろは。」
「うん。見つけられた
ような気がするでござる。
それもこれも、ラプ殿やみな殿が
ちゃんと風真を
見てくれたお陰でござる。」
こつんっ!
刹那、額の一点に集中した
鈍い痛みが奔る。
目の前には、無邪気に笑う
ラプ殿の顔があった。
(これは、デコピンでござるか……。)
「ばーか。本当に我々だけの
手柄だと思ってんのか?
そんだけじゃねェよ。
いろは自身が成長して、
しっかり過去の自分と向き合った。
大部分は、そんなシンプルな答え
だっつーの。」
「え?」
「えもおもねーよ。
吾輩たちは、
花に水と肥料を与えたに過ぎない。
どう咲くかはその花次第だろーが。」
「ははっ……そうでござるな。」
「でも、少し悔しくもある。
我々がholoXという環境に
閉じ込めた所為で、
図らずも風真いろは個人の
精神的成長や視野の拡大……
その可能性を
大きく狭めてしまった。」
「…………。」
「侵略者という視点から、
身近な防衛側への意識改革。
セラフ部隊との関わりや刺激……
そういう出逢いがなきゃ、
こんなに
変わる事も無かっただろうな。」
「……ラプ殿。」
ずっと、心配かけてたんだ。
それなのに、
風真は呑気に勝つ事ばかり考えて。
「そのっ、」
「謝る必要なんざねェ。
我々にも落ち度があり、
事の責任も有る。」
どうしてっ、言葉を
出せないんでござるかっ。
出そうなのに、
喉元で突っかかってばかり。
「まーその、なんだ。
開放的に生きるってのも、
案外楽しいぞ。」
「ありがとう……ラプ殿。」
風真が何かを言わずとも、
的確な言葉を投げかけてくれる……。
なんだかんだ
holoXのみんながラプ殿を
心の底から信用してるのも、
こういう部分が
大きいんでござろうな。
「さーて。明日は一大任務だ。
張り切ってやりきろうぜ!」
「……うん!
ジャキンジャキンと
解決してやるでごさるよ!」
『第31A、31B並びに
31H、30Gは
至急ブリーフィングルームへ。』
「え?」
各所に設置されたスピーカーから
呼び出しが入る。
ラプ殿も、予めそれを
知ってたかのように上を見上げた。
「提供データの確認も済み、
作戦が整ったか。
……わざわざ今招集するってことは、
明日は即刻作戦を
執り行うつもりなのだろうな。
行くぞ、いろは。」
「了解でござる。」
*
――ブリーフィングルーム。
四部隊同時の招集もあってか。
いつも空き気味な
この部屋も、僅かな空席しか
残らないほど詰め詰めになっていた。
「司令官、入室。」
士官の宣言で、
司令官殿が壇上にやってくる。
すると一帯の空気にも、緊張が走った。
「自由時間を削るような真似を
してすまないわね。
けれど明日は、一分一秒たりとも
無駄にする訳にはいかない。
あなた達には、
それは理解して欲しいわ。」
「構わん。アイツは疾く屠らんと、
より危険な個体に成りかねん。
それにまだ、
歯止めの効かない範囲では無い。」
ラプ殿にここまで言わせるって……
薄々感じてはいたけど。
あのキャンサー、
そんなヤバいんでござるな。
「ええ。
それは我々司令部も同様の判断よ。
故に、現段階で
組み込める集団戦力を動員させた。
七瀬。」
「はい。」
士官がリモコン操作し、
モニターに映るスライドを変える。
そこには、ドラゴン化した
Scrap wingの3DCGモデルが
表示されていた。
「第31H部隊の提供データにより。
Scrap wingは鉄屑を纏い、
自らの破壊力や頑丈性を
増長している事が判明しました。
当該キャンサーの外殻に
纏われた〝鉄屑の鎧〟は、
破壊しても電磁力で
すぐさま再生する為。
再生の隙を与えない波状攻撃が
討伐の要となります。」
「それで四部隊動員という訳か。
確かに、理に適っているな。
吾輩も丁度、数を欲してた所だ。」
司令官が帽子を整えて向き直る。
「分かったかしら。
Scrap wingが持つ能力の都合上、
護送車両を呼び出しての撤退は
まず出来ないと思いなさい。
夜も遅いから、
翌日行うオペレーション概要の
詳細については、
司令部が纏めた計画書を
読み込んで明日に備えなさい。
以上よ。……解散。」
士官が各々に
分厚い冊子のようなモノを配り、
目紛しい今日という波乱の波は
静かに引いた。
そして…………
*
━━▶︎ DAY5 5:30
「トッ、トワ様ぁぁあっ❤︎
むにゃむにゃ……」
「あっ、そこはダメですよぉ〜❤︎❤︎
シオン先ぱぁ〜い。むにゃ……」
「マヨが1本、マヨが2本……54本。
へへっ……幸せこよー。」
「にぇへっ……にぇへへっ!
むにぇー。」
「ハッハー↑」
『Can you feel madness
この世界の全t……カチャッ。』
早めに起きれるよう設定した
起床タイマー(音楽)を止め、
身体を起こす。
楽しそうに寝言を
唱える熟睡中の
みこ先輩やholoX面々を置いて。
洗顔、デンタルケア、髪梳かし等の
朝支度を済ませ、
一人エントランスへ行く。
清掃員が転々と清掃をしてる中で
風真は、ある人物と
電子軍人手帳のメールツールで
やり取りをした。
数十分後。
風真はメールでアポを取った相手と
ナービィ広場で合流した。
「お弟子さん、こんな朝早くに
わたしを呼び出すなんて……
一体何の用でしょうか。
敗北の悔しさから、
稽古でも乞うつもりですか。」
「違うでござる。
風真、見つけたんでござるよ。
剣を振るう〝もう一つの理由〟……」
「では、聞かせてもらいましょう。」
「それは―――。」
「正解です。様々な困難に
己が剣を振るい、
漸く見つけ出したようですね。
しかし、単なる答え合わせであれば
この早朝にわたしを
呼び出す意味はありません。
何か、別の目的がありますね。」
流石お師殿。
全部お見通しでござるか。
「驚くほど、図星でござるよ。」
「最強剣士に、
読めぬ未来はありませんのでね。」
それは多分嘘だ。
「風真の持つ12の剣術を、
全て捌ききって欲しいでござる。
もちろん、出力は
最小限で放つでござるよ。」
「要するに……〝全ての役〟を
揃える必要が、件のキャンサーには
あるわけですね。
良いでしょう。お付き合いします。」
…………。
――キィンッ。
「良い剣です。この後お弟子さんと
共闘するのが、
楽しみになるくらいです。」
「そのお世辞、
風真にはまだ早いでござるよ。」
「まったく、
素直じゃないお弟子さんですね。」
ザッ。
剣技を全て捌いた風真らの前に、
眼帯をつけた
少女が歩み寄ってきた。
……柊木梢殿だ。
「これが剣の世界。あたしには
何が何だか分かりませんが、
どこか情熱に満ち溢れていて。
素人ながら、
少し憧れちゃいますね。」
「柊木殿?」
ニコッと笑顔を向け、
彼女は口を開いた。
「おはようございます。
風真さん、いきなり押しかけて
悪いのですが……あたしと
数十秒、握手してくれませんか。」
「……え?」
「お弟子さん、行きなさい。
あなたの勇姿を讃えてくれる人が
少なからず居るんです。
応えなければ、剣士の名が
廃るというものです。」
「わ、分かったでござる。」
お師殿の力説に流されて、
柊木殿の握手に応じる。
すると、謎の違和感が
身体中を駆け巡った。
まるで未知のエネルギーが、
雪崩れ込んできたような…………
「ふふ、驚きましたか。
これはあたしの『術式』です。
触れた対象にあたし自身の
〝呪力を伝染〟させる。
本日限りの一時的なモノですが、
きっと、あなたの役に
立つかもしれません。」
「なるほど、
力の贈呈というコトですか。
いいファンに巡り会えましたね。
師匠であるわたしも、
鼻が高いです。」
未来、読めてないじゃん。
「Scrap wingの討伐、
共に頑張りましょう……!」
「師匠であるわたしも、
尽力致しましょう。」
「2人とも、ありがとうでござる。
それとお師殿。
もしもに備えて一つ。
風真の言伝を残して良いでござるか?」
「はい。何でしょう。」
風真は、大事な言伝を残した。
「――承知しました。
この言伝は、
師匠であるわたしが心の内に
仕舞っておきましょう。
……叶うことならば、これを
言わずに済むのが理想ですね。」
「ははっ、そうでござるな。」