こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
時は少し戻り。
〜SIDE『蒼井・えりか』〜
(ぽかーん)
「……蒼井っ! 蒼井ッ!!」
「――ハッ!」
意識が覚めた。
周りのみんなは、無事だった。
私を呼びかけて起こしてくれたのは、
いちごさんだ。
みんなは無事で、
どこか安堵した空気さえ
漂ってるように感じる。
けれど……いちごさんだけは、
蒼井に向ける表情が
怒気に染まって見えた。
「蒼井……答えろよ。
さっきの力は何だ?
デフレクタ残量は
ほぼ残っていなかった筈だ。
一体『何』をしようとしていた?」
「そっ……それはっ。」
自分自身でも、何が何だか分からない。
みんなを護りたい一心で。
自分が無敵だと……そう信じた時。
胸の内から、力が湧いてきた。
「……言い淀んでどうした?
そんなに後ろめたい事なのかよ。
ま、蒼井が話す気がねーんなら
別にいいぜ。」
「………………。」
(違う。蒼井は……)
「幸い、こっちには
セラフに詳しい奴が居んだ。
そいつに訊いた方が、話が早ェ。
……なぁ、樋口。」
「ふふ……そろそろ私に訊く頃だと
思っていたよ。水瀬いちご。」
いちごさんが、
彼女の方に身体を向けた。
それを待っていたかのように
樋口さんは眼鏡をクイっとした。
「焦らすな。さっさと答えろ。」
「……良かろう。先程のは、
真価を引き出した『セラフの力』だ。
この力は、心身がセラフの能力に
追いついた時発現する『特殊能力』。
強大すぎる力が故に、そのリスクも
相応且つ甚大なモノとなる。」
「……リスクだと?」
「ああ。本来存在し得ない
デフレクタ量を優に超える
あれ程のエネルギーが、
何を媒体に、どこから発生するか
気にならないか?」
あの湧いてきた力は……
「『生命エネルギー』だよ。
原理は、デフレクタの過剰使用による
鼻部出血と酷似している。
当然、生命エネルギーというくらいだ。
使い過ぎれば死に至る事は
容易に想像できるだろう。
一部ではこれを、
『セラフの真価』だの『秘術』だの
呼称してるようだが……
その本質は変わらん。」
「……そうかよ。
蒼井が黙り込んでいたのは
『そういう事』かよ。」
いちごさんが、
より憤慨し蒼井に歩み寄る。
「ふざけんなよ……蒼井。」
「ふざけてなんかいません!
蒼井はみんなを護りたかった!
その意思だけは、心の底から在る
蒼井自身の本心です。
みんなを護り通す!
それが蒼井の使命なんです!!」
「…………そうじゃねぇよ。
――そうじゃねぇだろ!!
みんなで
生きて帰らねぇと何の意味もねェ!!
それを一番分かってんのは蒼井!
お前じゃねぇのかよッ!!」
「…………」
(どうして……?)
いちごさんが蒼井に
癇癪を起こす事なんてよくある事で。
ただ怒りっぽい人なんだなって。
いつも割り切れる筈なのに……
今は、違う。
(どうしてこんなに……
胸が騒つくの。)
「おい。文句があんなら、
顔を上げて、
もう一度あたしの目を見ろ。
そして反論の1つでも挙げてみろよ。
――挙げてみろよッ!! なぁッ!!」
そうだ。言い返さなきゃ。
まだ足りてないんだ。
ちゃんと蒼井の意思を伝えるんだ。
そしたらきっと、
みんなやいちごさんだって
分かってくれる……!
「蒼井は……――」
――パシィンっ!!
頬が痛い。
じんわりと、ヒリヒリとする
痛みが頬から広がって。余韻が残る。
蒼井は、平手打ちされたんだ。
「何……で……。」
――ぎゅっ。
(いちごさんが、
蒼井を抱きしめてる……?
何で、怒っていたんじゃ……。)
でも。温かい。
それだけは、はっきり分かる。
「心配させんなよッ!
どれだけっ……どれだけあたしらが
心配してたかも知らねぇで……
勝手に行こうとすんなよ。」
「いちごさん……」
「もう1人で抱え込むなよ。
寂しくなったらいつでもあたしが
手を握ってやるから……っ。
悩みだって、辛い事だって。
全部あたしらが聞いてやっから。
だからっ……
何処にも行くんじゃねぇよ。」
……自分が愚かだった。
蒼井は、みんなを
護りきる事ばかり考えていた。
蒼井以外が生き残ってでも、
周りが助かっていれば
それでいいと。
オペレーション・トレミー
での敗戦から、
ずっと後悔を抱え続け。
引き摺ったままの
自分が……心の奥底に、まだ居た。
誰も守れなかった
あの時の自分を呪い続けて。
守るという行為に、
躍起になっていた。
だからこそ。
『あの夢』が未だ蒼井の眠りに
こびりついたまま訴えてくる。
お前は誰1人守れやしない。
非力で『怯懦な存在』なんだと。
訓練後。何度アリーナで
エミュレートしようとも、
蒼井の望む結果は得られない。
やればやるだけ、
自分の無力さを
突きつけられるだけだった。
結局は、
独りよがりの『考え』だった。
ビャッコは檻から抜けれたのに、
私はまだ、
『檻』から抜けられていなかった。
その場凌ぎの開放感に
酔いしれていただけだった。
あの頃の『あたし』は捨てて、
新しい『私』として。
新しい『蒼井』としての自分を
築いていこうと。
……そう心に決めたのに。
かつての惨めな自分を変える為、
足りないなりに『何か』を
貼り合わせようとしていたけれど。
何一つ変わってない。
蒼井が守りたかったのは、
みんなの命だけ。
それに対し、
みんなが守りたかったのは……
――『みんなと過ごす時間。』
その理想の中に、
蒼井は入っているんだ。
凄く単純な話なのに。
私は、何処かズレていた。
(今になって分かるなんて。
蒼井は本当に、
お馬鹿さんかもしれません。)
「……もう、泣かないで下さい。
蒼井は、何処にも行きません。」
「本当か……?」
「はい。本当です。
だから、一旦私と距離を取ってください。
そして、誓いの握手をしませんか。」
「……おう。」
ふと我に帰ったのか。
いちごさんは抱いていた手を
気恥ずかしそうに離し、
もう一度向き合った。
「いちごさん。そして31Bのさん。
この手に誓ってください。
もう一度、『31Bをやり直す』と。」
私は腕輪をつけた方の
手を差し出し、提案する。
今なら、本当の意味で
『自分』をやり直せる気がするから。
「蒼井……それって……。」
「今までのツンケンした
31Bも、色々と心が引き締まっていく
感じで良かったです。
ですが、今の私たちなら
31A部隊のように仲良くなって。
より強固な連携を取れる
部隊になれる気がするんです。
これは、その為に
必要な『過程』なんです。」
「……あぁ。そうだな。」
蒼井の期待に応えるように、
いちごさんが
手を伸ばしたその時だった。
「――貴様らァア!
そんな馴れ合いは後にしろォ!
来るぞッ! 後数十秒でなァ!」
「急にどうしたんだよ
カレンちゃん!?
折角の甘い雰囲気ぶち壊すなよ!」
「落ち着け月歌。
カレンちゃんが
空気読める奴だってのは
お前もよく分かってるだろ。
本気で危険を察知して
忠告してんだ。話を聞け。」
月歌さんは和泉さんの言葉を聞き入れ、
顔付きをスッと変えた。
「分かった! ……カレンちゃん!
あたしらはどうすればいい!?」
「貴様ら全員
7時の方向に退避せェ!!
今すぐ死にたくなかったらなァア!」
「「「「「――了解!!!」」」」」
トランスポートで一同が退避した後、
数秒で『それ』は起きた。
キィインッ!!
津波のように
高く長い翡翠色の一閃が、
私たちの傍を通り過ぎた。
「……危なかったな。
カレンちゃんの忠告がなけりゃ
あたしらアレで真っ二つだったぜ。」
「ああ。笑えねぇ冗談だな。」
「何なんですかあの斬撃!?
死ぬ!? 私死ぬかと思った!!
縦割れ艦長になる所だった!!」
「何だよ縦割れ艦長って……」
「ええ。正に油断禁物という奴ね。
エリート諜報員のわたしも、
油断してしまったわ……。
……ん? あの『斬り跡』。
斬撃にしては何か『変』じゃない?」
東城さんが
何か違和感を覚えた様子だ。
一同も気になって、
その痕跡に目を向けた。
そこにあったのは、
鋭い斬り跡なんかではなかった。
薄萌葱色に発光する謎の『帯』が、
地面にへばりついているのだ。
「何でしょう……凄く綺麗です。
何かのイルミネーションでしょうか?」
國見さんが興味津々に
その跡へ近寄っていく。
それを、和泉さんが止めに入った。
「待て國見、無闇に近づくな。
キャンサーの放った毒液の可能性がある。
こっちへ戻ってこい。」
「ご、ごめんなさい。
私が不注意なばかりに……」
國見さんが謝ってこちらに戻ってきた。
月歌さんは彼女を責める事なく、
落ち着いた面持ちで口を開いた。
「まぁ……勝ちは勝ちだ。
それ以上でもそれ以下でも無い。
RED Crimsonも撃破できたし、
この痕跡の事も、司令部に
伝えてさっさと帰ろうぜ。」
「記憶損失のポエマーかよ。」
「……そうですね。
では蒼井が報告しておき――」
「待て蒼井! 『痕跡』の中から
誰か出てくるぞ!!」
月歌さんの言う通り、
痕跡から6人の人影が姿を現し始めた。
ズズズズズッ……!