こちら31Hホロックス! ぷらすみこにぇ! 作:たかしクランベリー
軍服の彼女は、
刹那にして増えた血痕を視認し。
気配の感じる方へ、
その槍を振り回した。
「――そこっ!」
「「「「「―――!?」」」」」
攻撃は命中した。
しかし、命中したその相手は
ラプラス・ダークネスではない。
瓜二つの『虚像』――否ッ!
時の歪みが起こした『幻想』ッ!
集団幻覚!!
雨天のウェディングを
祝う死神のような幻想ッ……!
彼女らが目の当たりにしたのは、
そんな雑駁な情景を
思い浮かべてしまう程に
クレイジーな……『怪異』である!!
(待って。何このナレーション?
吾輩怒られない?
ナレーションさん、
頼むから普通にやってくんない。
吾輩こんな事言わんって。)
落ち着きを持った
holoXの面々とは対照的に、
愕然とする一同。
この異質な光景を目にすれば、
誰もが混乱するであろう。
(お、ナレーションの調子が
元に戻ったな。
じゃあ、主導権の方も
そろそろ返して貰おうか。)
「司令官が司令官を攻撃してる!?
何で!?」
「すまない月歌、あたしにも
何が起きたか分からねぇ。」
観測したいのなら、
好きなだけ観測させてやる。
但し……
「どうした貴様。
観測したかったのだろう?
――吾輩の能力。
態々『観せ』てやったのに……
これでは拍子抜けだな。」
虚像が本体へ吸われるように
溶け込み、一体化する。
あまりに奇妙な現象を
体験してしまい、戦慄したのだろう。
錯乱状態のなった彼女は、
まるで動く気配がない。
(……勝負アリって奴だ。)
プスッ。
彼女に注射器が刺さり、
意識の糸がスッと
切られたかのように倒れ込んだ。
「「「「「………………。」」」」」
そして、
場の空気が凍る。
「……みこ先輩。」
「何だにぇ?」
「こういう時こそいっぱい騒げよ。
全員が全員思考放棄すると
どうしたらいいか分かんないぞ吾輩。」
「ラプたんが
意味不明な事した所為だよ!?」
そうそう、吾輩が欲しかったのは
そのテンションだよ。
「幹部、解説。」
「はい。」
何も知らない一同が固唾を飲み、
幹部の方へ顔を向ける。
「魔力『ブラック・ロード』
その能力は皆様の推察通り、
任意で時を数十秒消し飛ばす能力です。
本来我々がその時間を物理的に
観測する事は出来ません。
ですが、あのような形で
観測させる事も出来るのです。」
いいぞ幹部。その調子だ。
「彼女が先程攻撃をした
瓜二つの虚像は、未来の彼女自身。
消し飛ばされて消滅するだった
時間軸の彼女を『取り残す』と
あのような現象が起きるのです。」
「「「「「…………。」」」」」
何はともあれ勝ちは勝ちだ。
言質を取られた貴様らには最早、
拒否権など無い。
焦燥や憤慨が度を越し、
冷静さを欠いた。
そしてゲームを承認した。
その時点で、
我々の交渉は『完遂』していた。
もちろん、成功という意味合いでだ。
(――いつだってそうだ。
慢心はいずれ、
己の足を掬われる事になる。)
相手の手の内が分かってる上に、
30秒だけ立ち続けられればいい。
こんなヌルゲー、
誰だって有利だと思い。挑むだろう。
自身の腕に絶対的な自信を持ち、
実力のある者であれば……尚更だ。
このような結果になるなんて、
思いもしなかっただろうな。
「分かったかー貴様らぁー。
つーわけで、明日から宜しくなー。」
「クソっ、
まんまと奴らに嵌められたッ……」
「ユッキー…………。」
あの眼鏡の少女が我々から
警戒心を解くのはそれなりに
時間がかかりそうだ。
まぁ、知ったこっちゃ無いが。
4年間の安寧さえ
保障されれば我々はそれでいい。
――それまでの付き合いだ。
「國見、ボサっとしてねぇで
司令官にマントで応急処置をしろ。
それと東城、
お前は救護班を連れてこい。
あたしは現状を蒼井たちに報告する!」
「分かったわ……!
手帳の連絡機能を使えばいいのね!」
「了解です! 和泉さん……!」
*
時は少し戻り。
━━▶︎ セラフ基地内、研究施設。
〜SIDE『蒼井えりか』〜
「観に行かなくて良かったのか?
……蒼井。」
樋口さんが、
PCをカタカタとタイピングしながら
私に問いかける。
確かに気になりはする。
けれど……
「ラプラスさん達と
手塚司令官の直接対決……
私も、出会ったばかりの
彼女らがどう戦うのかは気になります。
でもそれは、
樋口さんも同じじゃないですか。」
「……あぁ、同じだ。
だが見ての通り、私も多忙なのだよ。
こんなタスクさえなけりゃ、
今すぐにでも観てたさ。」
「…………。」
「蒼井、今気付いのだが……
私の問いの答えになってなくないか?
手を貸してくれるのは
素直に有難いがな。」
あ、そういえば……答えなきゃ。
「蒼井、彼女たちが
悪い集団だと思えません。
だからきっと、誰の犠牲も出ない。
それに今は……目先の興味よりも、
仲間の事を大事にしたいんです。」
「根拠もない信用で
座して待つ……お前らしいな。」
樋口さんが、見たこともない
優しい微笑みを浮かべた。
「じゃあ、作業に戻りましょうか。」
「そうだな。
私も一旦作業に没頭したい。
蒼井、パシるような真似で悪いが
そこの戸棚に入ったエネルギーバーを
手渡してくれないか。」
「分かりました。」
私は戸棚を開き、陳列する
エネルギーバーを一本掴んだ。
掴んで……
ザクっ! ザクザクっ……。
「……ふむ。作業の合間に摂取する
糖分は五臓六腑に染み渡るな。
おっと、お礼を言い忘れていたか。
助かったよ、蒼井。」
「…………!!」
(え……?)
私は確かに戸棚を開けたはず……
なのに今は、戸棚が閉まってる。
それだけじゃない。
手渡してもいないのに、
樋口さんが既にエネルギーバーを
齧っている。
戸棚を閉めた記憶も、
エネルギーバーを手渡した記憶もない。
……あり得ない。
数秒前の出来事すら
全く『記憶できない』なんて。
蒼井は『ハイパーサイメシア』なのに。
「狼狽えてどうした。
私がエネルギーバーを齧る絵面が
そんなに不自然か?」
「……違うんです。
何か、奇妙なんです。
進んだ時間が抜け落ちた様な……
そんな不思議な感覚が…………。」
「お前がよくやる『ぽかーん』って
奴じゃないのか?
RED Crimsonと交戦したきり、
特に休む事なく、こうして共に
デスクワークをしている。
……結果、蓄積した任務の疲れが
表面的に現れた。
そうは考えられないか。」
「そう……ですね。」
(だよね。
蒼井の気のせい……だよね?)
私は何かの間違いであると認め。
顳顬から滴る一筋の冷や汗を、
ハンカチで拭き取った。
「少し私語が多かったな。
蒼井、また頼るようで悪いが
戸棚下段に仕舞ってある万年筆で、
私から受け取った書類の記入欄に
氏名を綴ってくれ。」
樋口さんは申し訳なさそうに、
纏まった書類を手渡した。
「蒼井の氏名で通るのですか?」
「私用のモノは別にある。
今渡したのは
部隊長権限で通る書類だけだ。」
「ごめんなさい。余計な事を
訊いてしまって…………。」
「構わん。手さえ動かしてくれれば
それで助かるのだからな。」
よーし、気を通り直して
デスクワークしよう。
先程の異常は疲労の類い。
そう自分に言い聞かせ、
筆を取り席に座る。
書面に目を遣り、万年筆を構える。
インクを先端に溜め。
黒い雫が落ちないよう、素早く記入を……
「――!?」
あまりの恐怖に手が震えた。
握る手から、万年筆が落ちる。
「どうした蒼井?」
書面の記入欄には、
滴り落ちたであろう
5つの黒い雫跡が滲み出ていた。
――『2度』だ。
何かが可笑しい。
……意識だってあった。
こうも時間が連続して
抜け落ちるなんて……
ハッキリ言って異常そのものだ。
これ以上同じことが続けば、
セラフ部隊全体に
危害が及ぶ可能性がある。
(蒼井が行かなくちゃ……!!)
バッ……ダダダダ!
「おい蒼井! 何を走っているッ!
我々のタスクはま――だ!?」
「「――ッ!?」」
私と樋口さんは、外に居た。
樋口さんは追う為に
席から立ち上がったばかりで、
私は走り出した直後だ。
……なのに。
この研究施設から
一瞬で抜け出して『外に居る』。
その結果だけが、
私たちに突きつけられる。
『3度目』だ。
「ふふ……ふははははっ!
蒼井、どうやらお前の突拍子のない
発言は『事実』だったらしい!」
樋口さんが、突然大笑いして叫んだ。
「……樋口さん?」
「ようやくだよ。3度目にして、
私の疑念は『確信』に変わったッ……!!」
「…………。」
「奴ら宇宙人は、任意で
『時を消し飛ばす力』を使えるらしいな。
ふふ……益々興味が湧いてきた。
予定変更だ。蒼井、
私もアリーナに同行させてくれ。
懲罰なんざ、この際どうでもいい。」
「はい。行きましょう。」
意を決して2人で
アリーナへと走り出したその時だった。
ピリリリリリッ!
(こんな時に、電子軍人手帳が鳴った?
どうして……)
「止まれ蒼井、もしもの事がある。
今は気持ちを抑えて応答しろ。」
「はい……!!」
走る足を止め、
電子軍人手帳を耳に当てる。
手帳越しに来た声は、和泉さんだった。
『こちら和泉。
蒼井、応答出来るか?』
「はい。なんでしょう。」
『いいか。
最後まで落ち着いて聞いてくれ。』
「はい。」
『手塚司令官が、
ラプラス・ダークネスに敗北した。
結果は惨敗だ。全て奴らの
思惑通りに事が運んでやがる。』
「……え?」
あの、手塚司令官が……?
『落ち着けと言った筈だ。
もうなっちまった事は変えられねぇ。』
「……分かりました。これから
彼女たちはどうなるんですか?」
『司令官の敗北によって、
奴らが正式に
軍に雇用される事が決定した。
士官の七瀬曰く、
新たに第31H部隊として
明日から軍に加わるそうだ。』
どうも、たかしクランベリーです。
総帥、登録者100万人突破
おめでとうございます!
りさママイベも、最高でした。(完走済み)
さて、ここからは新章の予告に入ります。
それではスタート!
━━【断章予告・〜Green Scapegoat〜】
(※次回からスタートではありません。)
(※風真いろはが主役の物語なので、
いろは視点が主軸です。)
(※残酷な描写が含まれます。
ご注意下さい。)
(※セカワーの予告ではありません。)
(※予告の為、台本形式の
ダイジェストでお送りします。)
浅見教官
「剣士達よ――覚悟はいいか?
今ここに、
第5回・セラフ剣闘武術祭の
開催を宣言するっ!!」
沙花叉クロヱ
「わっくわくわくーん♪
頑張ってね! いろはちゃん!」
風真いろは「…………。」
風真の沈黙。
そして降り掛かる、新たな難題。
手塚司令官
「旧杉並区周辺に
新種のキャンサーが発見されたわ。
第31H部隊は、
この新種キャンサー『Scrap wing』の
討伐任務を命じます。」
いきなりちょっかいを
かけてくる、自称天才剣士。
小笠原・紅雨
「風真いろはさん。
あなたの剣には『迷い』が見えます。
今一度己の過去を振り返り、
剣の在り方を再確認してみて下さい。」
思い出されるのは、彼女の黒い過去。
モブA
「お前の所為で国宝鍛治師の
『風間・大伍郎』は死んだッ!」
モブB
「償えいろはァアッ!!」
モブC
「到底許されない罪だッ!
それもこれも全部っ……」
モブ集団
「「「――お前のせいだ、お前のせいだ
お前のせいだ、お前のせいだ
お前のせいだ、お前のせいだ!!」」」
執行官A
「静粛にッ! これより
風間・大伍郎を暗殺せし大罪人、
風真いろはの公開処刑を執り行う!」
モブ集団
「「「ぉぉおおおお!!!」」」
刻まれた過去は、重く、辛く……
のし掛かる。
ラプラス
「風真……お前がこの先どうなろうと
吾輩の『用心棒』だ。
もう、お前は許されていいんだ。
他の誰がなんと言おうと、
この吾輩が許す。」
風真いろは「…………。」
ラプラス
「吾輩に『4文字』で言うべき
事があるだろ?」
無邪気な笑みを向ける総帥。
武術祭を通し、風真いろはが
見つけた
剣の在り方とは……。
――Coming soon