【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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祝!通算100話達成!!


帰還

 グリンゴッツへと続く道を歩く。人の通りは疎らで杖を取られた魔法使いやら魔女やらが物乞い同然にそこにいるだけ。

 

 ───胸糞悪い。

 

 心の中でそう吐き捨てた。彼らを見た人は救いの手を差し伸べるわけでもなくただ見ないふりをするだけ……無論それは今の自分達も同じなのだけど。

 変装したリオンの隣を歩くのはベラトリックス・レストレンジ───に扮したハーマイオニーである。その立ち振舞いときたらまるで本物。

 

 彼女が変装した時なんてあの拷問の日々を思い出して思わず吐いてしまったくらいに完璧だ。当のハーマイオニーも鏡を見て「私も思わず吐きそうなくらい完璧だわ」と辟易したようにこぼしていたが。

 

「俺の杖……人生をよくも……」

「淑女の道を妨げるな阿呆」

 

 飛び出してきた男を杖を振って吹き飛ばした。それに思わず駆け寄ろうとした架空の外国人に扮したロンを視線で制し、ハーマイオニーが冷ややかに告げた。

 

「ただの物乞いだ。剥ぎ取るものもない、捨てておけ」

 

 そう言った彼女の目には自身への嫌悪と罪悪感、今すぐにでも飛び出していきそうな正義感が躍っていたがなんとか堪えていた。

 

 

 横丁はかつての活気が嘘のように静まり返っている。物乞いは先ほどの錯乱した男のようにハーマイオニー扮するベラトリックスに向かって掴みかかるかヒソヒソとこちらを見て囁くだけ。

 やがて大通りを越えて辿り着いたグリンゴッツは、今までの薄汚い横丁と違って清潔に保たれていた。正面階段も、潔白検査棒を剣のように構えて立つ門番も綺麗なものだ。死喰い人達もおいそれとグリンゴッツに手出しは出来ないらしい。

 

 門番を錯乱呪文でやり過ごし、グリンゴッツに足を踏み入れればシン、と静まり返った。咳一つ聞こえず、衣擦れの音も綺麗さっぱり消える。ベラトリックスの姿を恐れてのことだと理解した。

 

「これはこれは……レディ・レストレンジ───」

「黙れ老いぼれ。私はレディ・ブラックだ」

 

 震える身体を抑えながら駆け寄ってきた老いた小鬼にハーマイオニーが侮蔑を顕に返す。いかにも本人が言いそうな感じだ。

 小鬼は体を震わせたあと「申し訳ありません……」と言って頭を下げた。

 

「して、本日はどのようなご用件で?」

「決まっているだろう。私の金庫に通せ」

 

 

 

 

 

「……アルバートさんに感謝しなきゃいけないわね」

 

 金庫に続くトンネルに滑り込み、ハーマイオニーがボヤいた。彼女が手にしているのは一見普通の杖……だが芯が入っていない見せかけのものだ。

 グリンゴッツに侵入する未来は視えていたので何かないかと提案したら、アルバートに「それならオリバンダーに聞いて芯なしの杖を用意してもらいなさい」と言われたのだ。昔、グリンデルバルドもとあるマグルの男性にそれで騙されたからねぇと。

 

 ハリーが透明マントを脱ぎ息を吐く。老いた小鬼──ボグロッドはハリーによる服従の呪文で(禁じられた呪文をグリップフックに言われたからとはいえおいそれと使うあたりもはやハリーに怖いものはないだろう)従順になっていた。

 ボグロッドが口笛を吹けば、やがて音を立ててトロッコがやってくる。どうにかこうにか乗り込めばトロッコが走り出す。そして前方に滝が見えた。

 

「……うわ」

 

 リオンが嫌そうに呟いた瞬間、一行が乗っていたトロッコがレールから外れて投げ出されリオン達は宙に浮いた。

 水に濡れ、口や耳に水が入り込む。やがてリオン達はクッション呪文によって地面に着地した。

 

「死ぬかと思った……」

 

 ずぶ濡れになった身体を杖を振って乾かし、辺りを見回す。そしてリオンは自分たちが浴びた滝を見上げた。

 

「噂に聞く『盗人落としの滝』か。変装も綺麗さっぱり解けてるな」

「あれを浴びればたちまちどんな呪文も意味を成さなくなりますからね」

 

 ハリーがボグロッドに再び服従の呪文をかけるのを見ながらリオンとグリップフックが会話する。ロンは見知らぬ外人から元の赤毛に戻っていたしハーマイオニーは外套に着られているような有様だった。

 

 とりあえず前に進むしかない一行は通路をグリップフックの先導によって歩いていき、目的の金庫を目指す。

 そして角を曲がった途端に見えたものにリオンはこれでもかと顔をしかめた。

 

「………ドラゴンをこう扱うかグリンゴッツは」

 

 そこにいたのは一匹のドラゴンだ。鱗は剥がれ落ち、目は白濁していてほとんど見えていないだろう。両の後ろ足には足枷も嵌められている。

 グリップフックとボグロッドが鳴子を使ってドラゴンを後退させる。

 

「……小鬼はドラゴンの運用方法をもう少し安全なものに変えるべきだと思うけどな」

「金庫番としてこれ以上の存在はおりませんよ」

「だとしてもだ。惨いことをする……俺は嫌いだ」

「お優しいことだ」

「拷問の痛さはよく知ってるつもりだからな……お前もそうだろうに」

 

 グリップフックの顔から嘲りが消える。リオンは鼻を鳴らし、ドラゴンを見てからハリーたちと共にベラトリックスの金庫へと足を踏み入れた。

 

 金庫の中は山のようなガリオンやら財宝やらで埋め尽くされていた。流石はブラック家にしてレストレンジ家に嫁いだ女というべきか。リオンも二つ三つ金庫を保有していたりするがここまで詰め込んであったりはしない。

 ハリーが杖灯りを灯し、一行は金庫を探る。

 

「どこにあるのかしら……」

 

 ハーマイオニーの手がゴブレットを掠める。ゴブレットが落ち、二つに増えてハーマイオニーが叫んだ。

 

「『双子の呪文』と『燃焼の呪い』だわ…!」

「流石はグリンゴッツ。盗人への対策もバッチリって訳だ……まぁクィレルに侵入されてたわけだが」

 

 皮肉交じりにリオンが呟き、ハリーたちは他の物に触れないよう気をつけながらハッフルパフのカップを探す。しかしロンがうっかり触れ、そこからは爆発的にゴブレットやガリオンが増えていった。

 

「ごめんよ!」

「謝るより先に俺たちが生き埋めになるぞ!」

 

 リオンが叫ぶのと同時、溢れた宝の山に全員が飲み込まれる。ハリーとロンが同時に「レビコーパス!」と唱え、リオン達は天井スレスレまで浮上した。

 そして見つけた、ハッフルパフのカップ。天井近くまである棚の最上段に置かれていた。

 

 しかし取りに行こうにも双子の呪文や増えた宝物が放つ熱波やらで近づけそうにない。

 

 ───動きを止めるほか無いだろう。『愛護の指輪』であれば、一時的にそれが出来るはず

 

 リオンは『愛護の指輪』を増え続ける宝物に翳し、強く念じた。動きを止める……ほんの一時的で構わない……そして指輪から凄まじい冷気が放たれ、下の宝物全てを凍らせる。それによって出来た床を伝ってリオンはカップを手に取った。

 

「君のその指輪、ほんとに不思議だよね……」

「俺も詳しいところまでは分からん。なんとなく凄い指輪でアーデルに伝わる至宝だから付けてるだけだしな」

 

 そしてしっかりとカップを握り、いざ脱出しようとした刹那に氷の床が熱気に焼かれ溶けていく。そしてたちまち襲ってきた宝の川に押し出され、四人と一匹は小鬼の軍団に囲まれていた。

 

「考え得る限り最悪の事態だな……」

 

 リオンがボヤき、ハリーたちが短刀やら他の武器を手に襲いかかってきた小鬼に失神呪文を喰らわせていく。その中でグリップフックが他の小鬼の元に駆け寄っていくのが見えた。

 

「助けてくれ! 脅されたんだ、抵抗できなくて……」

 

 そう言ったグリップフックにリオンの飛ばした失神呪文が直撃し彼は倒れた。

 ドラゴンが吠え、炎を吐き出す。途端、ハリーはそのドラゴンに向かって呪文を飛ばした……正確にはそのドラゴンを縛り付けている足枷に。

 

「……まさかハリー、無茶よ無謀すぎる───」

「登って! これっきゃない!」

「チャーリーに話してやらなきゃ!」

「うーんこれはグリフィンドール」

 

 四人は浮遊呪文を使ってドラゴンの背に乗り、足枷を壊す。そして自由を得たドラゴンが歓喜の咆哮を上げて空へ空へと舞い上がる。

 衝撃で小鬼がふっ飛ばされ、その隙にリオンはオレガノのエキスが入った瓶を壊して気絶しているボグロッドにぶっ掛けた。

 

「きゃぁぁああああ!!!」

 

 ハーマイオニーの絶叫と共に、一行はグリンゴッツから飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

「……俺はもう二度と金庫破りは御免だ」

「誰だってそうよ」

 

 リオンの心の底からの呟きにハーマイオニーが同意した。あの後、ドラゴンは湖に着水し、四人もそれに合わせてドラゴンから飛び降りた。

 そして濡れた服を乾かし、夕食を食べて、さてカップを破壊しようとなったとき、グリフィンドールの剣が無いことに気が付いた。

 

「あの野郎……」

「掠め取られたか、流石小鬼。執着心が強くて結構じゃないか」

 

 立ち上がり、とりあえずカリアン家に密かに連絡を入れてドラゴンの保護を頼もうとしたリオンの耳にハリーのうめき声が聞こえた。振り返れば彼は額の傷を押さえていて、どうにもヴォルデモートとの繋がりが影響しているらしいと分かった。

 

「アイツに金庫破りがバレた」

「まぁあんだけ派手にやれば向こうも気付くわな」

 

 今頃は怒り狂ってるだろうなと、その様を想像して鼻で笑ってやる。あの野郎は散々っぱら面倒な手段を講じたのでその仕返しというわけだ。

 

「それで……最後の分霊箱はホグワーツにあるみたい」

「あの野郎がそう考えてたのか?」

「うん。ホグワーツにある品が一番安全だって考えてて、それを最後にして他の分霊箱が安全かどうか確かめに行くみたい」

「なら急いで向かうか」

 

 ポカンとするロンとハーマイオニーを急かし、さっさと準備を整えさせる。そしてリオンはニヤリと笑って言った。

 

 

 

「俺達の家に帰るぞ───決着の時だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とん、と降り立つ。もう五月に入った頃だからか夏の到来が間近まで迫っている。耳をつんさぐ様な声が響き、三本の箒から数十人の死喰い人がゾロゾロとやってきた。

 すぐさま透明マントを被り、様子を伺う。そしてリオンは自身の身体を這う冷気に気が付いた。

 

「死喰い人に吸魂鬼……あの暇人連中め」

「逃げましょう」

「姿くらましも出来ない、突破するしかない」

 

 三々五々に散っていく死喰い人を見たハーマイオニーがそう提案するがハリーが切って捨てる。何にせよ動く必要があるだろう。リオンはアルバートに連絡を取った時に言われたことを思い出していた。

 

「とりあえずホッグズ・ヘッドに向かうぞ」

 

 アルバートさんがそこのバーテンに話を通してくれてるらしい。

 そう言ってリオン達はホッグズ・ヘッドに向けて……死喰い人や吸魂鬼の目を掻い潜りながら……歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

「アルバート・クラウンの遣いです」

「………入れ」

 

 扉をノックし、小さく告げれば返ってきたのはしわがれた声。扉を開けるとすぐさま四人そろって引っ張り込まれて扉を閉められた。

 

「連中に見つかってないだろうな?」

「未来視って便利ですよね」

「…………はぁ、ステラのひひ孫か」

 

 おちゃらけて返せば目の前の老人……驚くほどダンブルドアとそっくりな瞳のアバーフォース・ダンブルドアはリオンを見てため息を吐いた。

 

「高祖母とお知り合いで?」

「昔にな……で、君達か。クソ兄貴に良いように使われてる子供たちってのは」

 

 それに反論しようとハーマイオニーが椅子から立ち上がりかけ、それをアバーフォースが制する。

 

「ダンブルドアはそんなことしないーとかそんなことを言うつもりなら止めとけ。あれは人を駒みたいに扱うからな」

「そんな言い方───」

「俺だから言えるんだ。アイツの……曲がりなりにも弟の俺だからこそだ」

 

 弟なのだと言う時のアバーフォースの目に何か暗いものが宿ったのを四人は敏感に感じ取った。そしてポツリポツリとアバーフォースは今まで誰にも話したことが無いのだろう秘密を語り始めた。

 

「俺とアルバスは兄弟だが……他にもう一人、妹がいたんだ」

「アリアナ・ダンブルドア?」

「なんだ知ってたのか」

「『谷』に寄った時に献花しましたから」

 

 リオンとハーマイオニーの言葉に僅かに表情を和らげたアバーフォースだったが、また直ぐに仏頂面に戻ると壁に掛けられている一人の少女が描かれた肖像画に手をやる。

 

「アリアナが六歳のころだ……小さな魔法を使っていたところをマグルのガキどもに見られて寄ってたかって暴力を受けた。それが原因でアリアナは魔法を上手く扱えなくなり、父はそのマグルのガキ達に呪いを掛けてアズカバンに収監。獄死した」

 

 リオンは唇を噛んだ。惨いの一言で言い表せないほど悲惨だった。しかし現代でも似たような事例はある。ここまで極端ではないがハリーとダーズリー家もある意味では似たようなものだろう。

 

「母は俺たちを連れてゴドリックの谷に越した。周囲の目に耐えられなくなったんだろう……そんな時に俺たちを気にかけてくれたのがアーデル家……ステラだ。当時はアーデル家も谷に住んでいてかなりの地主と言えたから、そんな彼らの援助を受けられたならまだマシだったのかもな……だが母はその申し出を断った。まともな人間ならアリアナを見て聖マンゴにやるだろうと考えていたからだ。

 そして俺とアルバスもまた、そんな母に倣ってアリアナを聖マンゴにやらないようにしていた。そんなある日、あのクソ兄貴は可笑しな考えに染まっていった。マグルの支配、大いなる善の為にだのなんだのとな」

「………グリンデルバルド………」

「そりゃお前は馴染みがあるか」

 

 低く呟けばアバーフォースは同情的な目をリオンに向けた。しかしそれも一瞬のことで再び語り出す。

 

「とんだ詐欺師で扇動家……ある意味じゃ闇の帝王とやらより厄介だ。そんな奴と共謀してアルバスのやつは可笑しな考えを正義だと思い込んだ。そしてアリアナの世話を全くしなくなった……これに関しちゃその思想を知る前からだろうがな。あいつにとっちゃアリアナは自身の素晴らしい歴史に燻る影同然だったんだろうよ───ともかくだ。そんな日々が続いたある日、アリアナが魔力の暴走を引き起こした事故で母が死んだ。そしてアルバスはさらにグリンデルバルドと共にいるようになり……あの日が来た。

 アリアナが十四になった頃だ。夏休み、俺がホグワーツに戻る日が差し迫ったその日に俺は辛抱たまらなくなって二人に言ってやった……アリアナをお前らのばかみたいな夢物語に付き合わせられるかってな。そうしたら怒ったグリンデルバルドが杖を抜いて俺に磔の呪文をかけた。それを止めようと兄が動き、三つ巴になった。そして気が付けば妹は死んでいた、三人のうち誰かの呪文が当たって死んだのだと分かった」

 

 アバーフォースは項垂れた。椅子に座り込み、シワだらけのその両手を眺めていた。そしてダンブルドアと全く同じ目がハリーに向けられる。

 

「あの大馬鹿者の与太話に付き合うな。命がいくつあっても足りない……君達は安全な場所に逃げて全てが終わるまで海の外にいればいい」

「先生は……」

 

 アバーフォースをその若草の目で見つめながらハリーが決然とした声で呟く。

 

「あの日、毒薬を飲んだ時に幻覚を見たんです。きっと貴方と妹さんがグリンデルバルドに襲われているところを。そして言ったんだ、『その者たちを傷つけないでくれ……代わりにわしを傷つけてくれ』って」

 

 アバーフォースの目がリオンに向く。リオンもまた当然のように言葉を返した。

 

「アーデルは騎士だ。なら俺がどうするかなんてよく知ってるんじゃないですか?」

「………頑固者共め」

 

 重苦しく息を吐いたアバーフォースが一転して優しい目と声で少女───アリアナの肖像画に「呼んできてくれ」と告げるとアリアナはニッコリして奥へと消えていった。

 そして戻ってきた時、アリアナの後ろに一人の青年が付いてきているのが見えた。やがてその人物の顔と肩で肖像画が埋まった時、まるで扉のように肖像画が開いてそこから顔や体のあちこちに傷を付けたネビル・ロングボトムが満面の笑みでそこに立っていた。

 

 

 

 

 アバーフォースに別れを告げ、ネビルに連れられて四人は薄暗いトンネルの中を歩く。

 途中、ネビルの傷の原因やらカロー兄妹の蛮行やら……リオンはこれを聞いて卑しいクソ兄妹と罵っていた……の話をしながら、やがてトンネルを抜けて一つの部屋に辿り着く。そこには大勢の生徒がいてやってきたハリーたちを見て歓声を上げた。

 

「ハリー・ポッターだ!」

「ロン!」

「ハーマイオニー!」

「リオンだ!」

 

 生徒たちが騒ぎ、ハリーたちに群がる。その中で手を叩く音が聞こえて全員がそちらを向く。ネビルとマークがそこに立っていた。

 

「皆、嬉しい気持ちは分かるけど静かにね。僕も最高の親友に再会できて心の底から嬉しいし勢い余って抱き着きかねないけど……とりあえずこれだけは言っておこうかな」

 

 マークが言い、ネビルと顔を見合わせてからリオンたちに二人揃って告げた。

 

 

 

 

「「ようこそ必要の部屋へ。お帰り、みんな」」

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