【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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決着の時

「………どうなってんだこりゃ」

 

 目を開き飛び込んできた光景に頭を抱える。黄金の光の中にあって見渡す限りの薔薇が咲き誇り、空は黄昏の色に染まり草原を照らしている。

 

「死後の世界……にしては随分豪華というかなんというか」

 

 マジでどうなってんだと頭を抱える……と、気配を感じたリオンは後ろを振り返り、その人物が誰なのかをはっきり確認するより先にその人物がリオンの頭をワシャワシャと撫でた。

 

「無茶をする……だけど良くやったなリオン」

「………お迎えってことかお祖父様?」

 

 その人物……ハッフルパフのローブに身を包んだリオンと同じ背丈に容姿の祖父、エドワードはリオンの呟きにいいや、と首を横に振った。

 

「ここは生と死の狭間の世界。黄昏の地平線。お前は死んではいないよ」

「……死の呪文に貫かれたはずだけど?」

 

 ヴォルデモートがヘマをするとも思えないし……とボヤけばエドワードは苦く笑い、そして言う。

 

「あれが殺したのは魂だ……お前の内にあり、尚且つ消えかけていた俺自身の魂をな」

「爺ちゃんの……?」

「そうとも。そもそもトムは復活する際にハリーとお前の血を取り込んで復活しただろう? それが仇になった。奴の中にそれぞれの血がある限り、奴はお前達を殺せまい……血は最高純度の魔法媒介。それに宿る未知の神秘に奴は気付かないさ」

 

 なるほど、と合点がいった。エドワードの目がリオンの右手に嵌まっている愛護の指輪に向く。

 

「そして愛護の指輪。これは所有者の望む通りの姿に変わることが出来る。奴の首を刎ねるならとっておきだろう……指輪自体に浄化の加護が宿っているからな」

「分かった。やってみる」

 

 リオンが指輪を撫でる。そしてエドワードがリオンを優しく抱きしめた。

 

「すまなかったな。お前やレックス達にはあまりに多すぎるものを背負わせてしまった……」

「気にしてないよ」

 

 やがて身体を離したエドワードは最後にもう一度愛おしい孫息子の顔を見ると、彼の体を反転させてその背を優しく押す。

 

「さぁ───生きるんだ」

 

 その優しい願いに頷き、リオンは光の先へと歩いていった。

 

 

 

 

「………さて」

 

 孫息子を見送ったエドワードはリオンと反対方向の地平線の奥へ奥へと歩いていく。

 薔薇園を歩いていき、一人の少女が見えた。あぁ…と無意識のうちに息を漏らす。

 

 スリザリンのローブを羽織り、白金の長髪に銀色の瞳。焦がれてやまない人の姿だった。

 

「エド」

 

 形のいい唇が動き自身の名前を呼ぶ。残りの数歩をお互いが詰めてエドワードは胸に飛び込んできた最愛を固く抱きしめた。

 

「待たせて悪かった──」

 

 ───ユスティア。

 

 声が湿る。彼女はずっとずっとここで待っていたのだ。命の火が消えたあの日からずっと。エドワードがここにやってくるまで一人ぼっちで。

 

 ───きっともう、一人にはしない

 

 

 

 

 

 

 

 

「……目を閉じていて」

 

 意識が覚醒すると、耳元で女の声がする。ナルシッサ・マルフォイの声だ。そしてリオンは柔らかいものに敷かれて運ばれているらしい……担架だろう。

 気配を探り、ハリーもまた意識を取り戻していることを確認するとその時に備えて息を潜めた。

 

森に向かう道中でリオンはハリーからスネイプとダンブルドアの計画について聞かされた。今ニワトコの杖の所有権がハリーにあるということも。だからリオンはあの時挑発したのだ、ヴォルデモートにこのことを勘付かれる前に死ぬ為に……結果として生き残ったわけであるが。

 

 やがて死喰い人の葬列はホグワーツの門を潜る。そして沢山の悲鳴が聞こえた。

 

「ハリー、リオン……! ああっ!!」

 

 マクゴナガルのそんな悲痛な叫びをリオンは聞いたことが無かった。そしてその声を聞いた死喰い人達がせせら笑う。仮初めの勝利に浸っていることに気付かずに。

 

「ハリー・ポッターとリオン・アーデルは……死んだ!! もはやお前達に勝ち目など無い!!」

 

 ヴォルデモートが歓喜を全面に押し出して叫ぶ。しかし誰かが「まだ終わりじゃないぞ!」と叫んだ。

 リオンは薄目を開けて勇敢な人達が集まっている場所を見る。ロンが声を上げたのだと理解し、気付かないほどに小さく笑みを浮かべた。

 

 そして呼応するようにダンブルドア軍団が吼える。ヴォルデモートが黙らせ呪文を使っても消し去れない。

 控えていた闇祓いや大人たちが死喰い人に向けて閃光を飛ばす。火花が散り、爆発が起こりリオンを乗せていた担架が倒れ身体が地面に投げ出される。

 そして示し合わせたかのようにハリーとリオンはそれぞれ透明マントと透明呪文を使って姿を消す。

 

「お前の蛇なんて……こうしてやる!!」

 

 目の前に落ちてきた組み分け帽子から『グリフィンドールの剣』を引き抜いたネビルが啖呵と共に斬撃を飛ばす。

 美しい銀色の斬撃は真っ直ぐ伸びていき、やがて大蛇の首を呆気なく両断した。ナギニの首を失った身体がドウッ!と地面に音を立てて倒れる。

 

 それを呆気にとられて眺めていたヴォルデモートは最大の殺意を瞳に宿してネビルを葬ろうと動く───が、それより早くマクゴナガル、スラグホーン、キングズリー、レックス、アルバートがヴォルデモートを阻止する為に立ちはだかる。

 

 やがて周りでもそれぞれの戦いが始まっていた。マークとランスが二人掛かりで複数の死喰い人を相手に優位を保ち、ダフネ、パーキンソン、トレイシー、ブルストロードのスリザリン女子四人が大柄な死喰い人三人を相手に戦っている。

 フレッドとジョージ、リー・ジョーダンが悪戯グッズで死喰い人を翻弄し、そこをパーシーとチャーリー、ビルに狩られる。

 さらに戦闘続行は不可能と判断されていた筈のリーマスとトンクスもどうやってか傷を治して戦場に紛れていた。そんな二人を援護しながらエレインが死喰い人三人を同時に沈めた。

 

 そして外国の魔法使いやホグズミード村の住人達も杖を構えて大広間に飛び込んでくる。

 

「お前……何度でも邪魔するかシリウス!!」

「そりゃお前相手にするなら俺だろうよ。なぁ親愛なる従姉妹様?」

 

 そして忌々しげに叫んだベラトリックスにシリウスがニィと悪童のような笑みを浮かべながら対峙する。その四、五メートル先ではヴォルデモートがマクゴナガル達を相手にしているが、それなりに手間取っているようだ。

 ハリーとリオンは姿を隠しながらも仲間たちの援護をひっそりと行う。

 

 

 やがてシリウスによってベラトリックスが沈められ、事切れた闇の副官の亡骸がバタリと倒れる。それを見て激昂したヴォルデモートは相手していた五人を吹き飛ばしてシリウスに向けて呪文を飛ばす……が、横合いから飛んできた『盾の呪文』に防がれた。

 

 ヴォルデモートの目があちこちに動く。誰が防いだのか探しているのだろう。それを見たハリーとリオンは同時にマントと呪文を解いてヴォルデモートの前に姿を晒した。

 

「馬鹿な……」

「かつてのハリー同様、今回も殺し損ねたなぁトム?」

 

 目を見開き、唇を震わせる哀れな道化にリオンが鼻を鳴らす。二人が杖を構え、同時にリオンの魔法騎士としての血が騒ぐ───悪なるものを断罪せよと。

 

「決着だ、トム」

「小僧ども……!」

 

 言い切ったハリーにヴォルデモートが忌々しげに呟く。それを見てリオンはさらに口元を三日月に歪めた。

 

「ガキはどっちだろうなぁ愚かなリドルジュニア? 間諜の存在に気付けなかった時点でお前の負けみたいなものだ……スネイプはこっち側だしな」

 

 その一言ですべてを理解したのだろう。ヴォルデモートの顔が青くなったり白くなったり赤くなったりだ。だがヴォルデモートは自身の手にあるニワトコの杖を掲げて吼えた。

 

「愚かな……俺様にはまだニワトコの杖がある、最強の杖が! これがある限りお前達には負けぬ!! アバダ・ケダブラ!!」

「エクスペリアームス」

 

 烈火のごとく唱えたヴォルデモートと反対にハリーの声は落ち着いていた。紅と緑の閃光がぶつかり、やがてヴォルデモートの手から宿命の杖が離れた。

 

「確かにスネイプはダンブルドアを殺した……でもその前にマルフォイがダンブルドアに武装解除を掛けて、そのマルフォイから僕は杖をもぎ取った。だから今のニワトコの杖の所有者は───」

 

 ───僕なんだ。

 

 その言葉とともにハリーが飛んできたニワトコの杖を掴み取る。

 大広間に静寂が広がる。リオンは武装を解かず注意深くヴォルデモートを見つめ──その起こりを察知した。

 ヴォルデモートの魂が消え失せた肉体から奴が溜め込んできた淀みの魔力が顔を覗かせる。あらゆる穢れ、負の感情を破壊として具現化したそれが。

 

 それと同時にリオンは地を蹴り、その魔力へと飛び込んでいく。

 愛護の指輪が一際強く輝き、主の命に応えてその姿を剣へと変じた。あらゆる混沌、邪悪を斬り裂く破魔の力を宿して。

 

 

「ヴォルデモート。お前はもはや死ぬことも蘇ることもなく永遠の孤独の中で───終わるんだ」

 

 

 リオンが剣を振りかぶる。刃は黄金の軌跡を描きながらヴォルデモートの首を刎ね、飛び散る血を光の粒子へと変えていった。

 

 一瞬の静寂の後、大広間が歓喜の叫びで満たされる。リオンは剣を指輪に戻すと緊張が解けたからか倒れ込もうとして──それを傍にやってきたハリーに肩に腕を回されて止められた。

 それに礼を言い、大広間の空を模した天井を見上げる。太陽の光が優しく差し込み辺りを照らすのを見てリオンは万感の思いを込めて呟いた。

 

 

 

 

「───長かったなぁ」

 

 

 

 

 長い時の果て、魔法界を覆っていた夜が明けた。




次回、最終話───





『何も知らなかった転生者』
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