【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
とんでもなく短いですがこんな感じの番外編を書いています
愛の檻
背に伝わる体温と腰に回された腕にどうしても意識が持っていかれる。
時間はまだ夜明け前、午前三時を回った頃だ。
「……まさかこんなに積極的になるだなんて」
あの学生時代の日々からは想像もつかない。何かとアプローチするのは自分の方が多かったように思う。だけど闇の帝王が斃れて、戦争が終結してからしがらみが全て消えた彼は事あるごとに私への愛を囁いた。
その頻度と来たらあのカリアンでさえ「よーしちょっと落ち着こうか」と抑えにかかったほどだ。
「嬉しくないわけではないのだけど……」
ホグワーツ最後の年は戦争が始まるまで会えず仕舞いだったのだ。闇の陣営から逃れるために、帝王の力を弱めるために奔走していた彼。不安でなかったわけではない、もし彼が死んだなどと知らされたなら自分はきっと壊れていただろう……あの時、担架に乗せられたリオンを見て心臓が凍りついたのだから。
「生きている……えぇ、生きているのよ」
請うように、内に染み込ませるように呟く。
彼は生き残り、闇の帝王を打倒した。彼を苛んでいた予言はもはや意味を失いあらゆる枷が消えた。
そうして表に出てきたのが今の積極的なリオンである。特に戦争が終わって一ヶ月経った頃のリオンなんてもう凄かった。
それまではホグワーツの修復やら怪我をした人たちの治療費の捻出、犠牲になった人たちを家族の元へ返し謝罪などなど……禄に休むこともなかった彼がようやく纏まった休みを手に入れてそれに自分も付き合って……ホグワーツの森の中でしちゃったりしたのだ。
………まぁパーキンソンやザビニ、カリアンには森から帰ってきた自分たちが互いの香水が混じった匂いを漂わせていた事で何があったのか気付かれたのだけど。
というか夫も夫だ。まさかあんなに上手くなっていたなんて知らなくて……逃亡生活の中で歓楽街にでも行ったのかと邪推したほどだ……まさか接吻だけで気を遣るなんて思いもしなかった、私の旦那が床上手なんて。
「なんだか私の方が依存度が高いみたいじゃない……」
学生時代の殆どは自分からアプローチをして、そして戦争が終わってからは積極的になった彼が執拗な蛇のように絡んできた。
しかし二十歳を過ぎた辺りでパタリと落ち着きを得た彼はあの二年のあらゆるものを灼くような熱を鎮め、包み込むように接してきた。
そんな落差にコロッと落ちてしまう自分が気恥ずかしい……が、そんな彼の熱と想いを全て注がれて受け止められるならそれも良いかと思っていた───こういうところが依存度が高いと言われる原因だろうか。
「それに子供だって───」
そこまで言って急速に顔が火照るのを自覚した。この薄暗い寝室の中でうっすらと見えた夫の裸体を思い浮かべてしまい、頭を振って煩悩を追いやった。
以前、魔法省のお茶会───いわゆるお貴族様の集まりに参加した際に周りの御婦人方から言われたのだ。
『ご当主様とアーデル夫人の御子様もきっと素敵なのでしょうねぇ』
悪意あっての言ではないと分かっている。分かっているが自分は上手く答えられず、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
『別に子供を産まなきゃいけないなんてわけじゃないわよ』
以前、家を訪れた義母───エレインに悩みを打ち明けたところそう返されたことがある。
『私がリオンを産んだのだって戦争真っ只中よ。明日生きているかすら分からない日々の中で産んだのだもの。でもね、貴女には沢山時間があるじゃないの』
血の呪いで死ぬかもしれないのにですか。
知らず口から溢れた言葉は冷えていた。それを聞いた義母は───プルウェットとブラックの血を引く女はキョトンとした後で一層優しげな眼になってダフネに告げた。
『リオンが───貴女の夫が治療法を見つけようと奮闘しているのでしょう。あの子なら成し遂げるわ……自慢の息子だもの』
そう言って穏やかに笑う義母にこれが母の強さかと思い知った。私の母もまた似たような言葉を返してくるのだろうとダフネは直感していたし、後日本当に似た言葉が返ってきた。
抱きつかれた格好のまま、体を反転させて顔を愛しい夫と向かい合わせる。規則正しい寝息を立てながらも自分を抱く力に油断を見せない男にダフネはクスリと笑みを溢し、その額に口付けた。
「時の流れに身を任せましょうね───それでももし叶うのなら」
私は貴方との子供が欲しいわ。
呟いて何度も彼の額にキスをする。しつこいかもしれないがこれが私なのだからどうか許容してほしい。そして自身もリオンの背中に腕を回して朝が来て魔法省に仕事に行く時間になるまで眠ろうと目を閉じる。
ダフネ・グリーングラスは───
───リオン・アーデルという愛の檻に囚われているのだから。
もしかしたらこっちの番外編を書くより先に呪いの子編が始まるかもしれない