【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
「知ってるかい? リオンって大胆そうに見えて結構慎重なんだよ。君との恋とかがそれに当てはまるかな」
そう言って笑う男の顔を思わずジッと見つめた。
学生時代と違って長く伸びた金の髪は後ろで纏められ、その碧眼は蒼の色彩を帯びている。
「嫌味? それとも自慢かしら」
「まさか。リオンとの関係なんて君と比べたらそこまで踏み込んだものでもないさ」
親友を踏み込んだ関係でないと評するのは無理があるだろうと軽く睨んだが目の前の幼馴染はミートパイを頬張っていた。食べ方に品があるのが余計ムカつく。
魔法省の唯一の食堂はお昼時ということもあって人で溢れかえっている。席について食事をしていたら目の前の幼馴染がやってきて「やぁ。相席良いかい?」と尋ねてきたので了承したらこれだ。
「……そんな嫌味を言うために同席したの?」
「だから嫌味じゃないって。純然たる事実だし久しぶりに再会した幼馴染と話をしたいっていう僕の真心さ」
そう言って彼──幼馴染のマーク・カリアンは肩を竦めて笑う。私もこれ以上追求するのも面倒だとオリーブオイルの掛かったトマトをフォークで突き刺して口に運んだ。
「どうだい執行部での仕事は。慣れた?」
「まだまだよ。やることが多くて覚えるのも一苦労。貴方こそどうなの最年少の理事様?」
「若輩がやる仕事の量なんてたかが知れてるからね。予想よりは暇だよ」
本当だろうかと訝しむ。
理事会はホグワーツの運営を担う場所だ。あの戦争の後、解任されたルシウス・マルフォイの後任として選ばれた目の前の男のやる仕事量が少ないなんて全く考えられない。
「何を考えてるのかは察するけど、本当に少ないんだ。ほら、シャックルボルト魔法大臣代理が色々改革を行ったからそれであまり仕事がこっちに回ってこないのさ」
「良いことじゃないの……その分執行部の仕事は増えるのだけどね」
「僕に愚痴られたって困るよ」
ジロリと睨めばカリアンは苦笑してミートパイの最後の一口を飲み込んだ。
「そういえば、リオンとはどうなんだい?」
「どうって?」
「ホグワーツを卒業して四ヶ月……まともに会えてるかって思ってさ」
その言葉にほんの僅か逡巡する。ホグワーツを卒業してから私の最愛はシャックルボルト魔法大臣代理に請われて闇祓いとしてあちこちで死喰い人の残党を狩っている。
彼は卒業したらマクゴナガルに打診されていた変身術の教師になりたいと言っていたがそれはまだ先の話になりそうだ。
「手紙や両面鏡を使ってのやりとりはしてるわ。ただ直接顔を合わせたのは卒業式の日が最後」
言ってて笑いが込み上げてくる。なんともまぁ一般的な恋人同士の関係にしては淡白なものだ、と。
突然笑った私を見たカリアンは訝しげな顔をして私を見つめる。
「あぁ、ごめんなさいね……ただ少し可笑しくて。だって七年生の頃は全く連絡も取れなかったのに今は三ヶ月直接顔を合わせていないだけでこんなにも胸に穴が空いたような気持ちになるなんて……随分弱くなったなと思って」
「相変わらずの相思相愛ぶり、僕も見習いたいね」
カリアンがクツクツと愉快げに笑みをこぼす。
そんな彼を見てあの天文台の夜のことを何故か思い出した。己の抱えていた秘密を全て打ち明け、別れようと切り出したリオン。それにどうしようもなくムカついてほとんど勢いのままに、彼がもうそんな事で自分を卑下することのないようにと肌を重ねたのだ。
あれ自体に後悔など全くないし、これからも無いだろう。そして彼のそんな弱さを打ち明けられたのが私だけであるということに微かな喜びもある───のだけど。私だけが知っているリオンの一面があるように、この目の前のカリアンやパーシヴァルという同性の親友たちにしか知り得ないリオンもまた存在するのだろう。
私はそれが、どうしようもないほどに妬ましい───
「………浅はかね」
「何が……?」
「こっちの話よ」
疑問符を浮かべるカリアンに内心で舌を出してアイスコーヒーで喉を潤すと、両の耳に着けたイヤリングに触れた。
私の瞳と同じ色であるアイスブルーダイヤモンドが同じく私の髪色と同じ白金色の装飾に嵌め込まれたそれはリオンが卒業祝いにと私にプレゼントしてくれたものだ。
それ以来私はこのイヤリングに保護呪文や盗難防止呪文などを掛けて絶対に失くさないようにしている。
そして私はアイスコーヒーの最後の一口を飲むと立ち上がる。「戻るのか?」というカリアンの問いかけに頷いてから、そういえばこれを伝え忘れていたなと思い出して彼の方を向く。
「ねぇ。今度のクリスマス空いてるかしら?」
「んー……特に予定は無いと思う。スーザンも今は忙しそうだけど」
「ならボーンズも纏めていらっしゃい。今度我が家でクリスマスパーティをするのよ」
私の考えを見抜いたのかカリアンは「なるほどね」と穏やかに微笑む。こういうところは長年の幼馴染の感というものだろうか。
「君のことだからリオンと二人きりで過ごすのかと」
「どうせこれからいくらでも彼と二人きりの時間なんて取れるわ」
「………参った、降参」
カリアンがフラフラと両手を上げる。そもそも勝ち負けどうこうの話ではないのだが……まぁ良いか。
「パーシヴァルやエミリーにはもう話をしてあるわ。他にも色んな人が来る予定だけど」
「了解。また改めて手紙でも寄越してくれ」
「そうするわ」
「………リオンから何かクリスマスプレゼントで貰うのかい?」
ほとんど囁くように呟かれたその言葉に一瞬考え込み、やがて浮かんだその考えを口許に笑みを浮かべながら返した。
「そうねぇ……指輪とか頂こうかしら。今は婚約者ではあるけど、そろそろ身を固めても良いと思うの」
「今のうちに鎖で繋いどこうって?」
「失礼ね、純愛よ」
おどけたカリアンに真顔で返す。「自信満々なお姫様だ」と力無く笑った幼馴染に私は踵を鳴らして身を翻すと背を向ける。
「当然。だって私の一番で未来の旦那様だもの」
そして今度こそ私は食堂を後にした。
アイスブルーダイヤモンドの石言葉:永遠の幸せ、絆を深める、誠実、清らかさ、 希望