【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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後編です


マホウトコロ 後編

 千手ノリヒコは目の前に座る若者を見て一体どれだけの修羅場を潜ってきたのかと内心驚いていた。

 目の前の彼──ホグワーツ出身の魔法使い、リオン・アーデルは三十を過ぎたばかりだと言う。だと言うのにノリヒコの眼に映るのは歴戦の戦士の顔であった。

 

「君は……イギリスを脅かしていた脅威を倒したと聞いていたが」

「ヴォルデモートのことですか? 私は大して何もしてませんよ。実際あの野郎を追い詰めたのはハリー・ポッターですから」

 

 私はその首を刎ねただけです、と苦笑する。だがノリヒコからしてみたら当時まだ学生だった彼らがそんな危険な事を成し遂げたというのだから驚嘆の一つも覚えるというもの。

 

「君のような若者がそれだけの傷を負うなど……あってはならぬことだ」

「私はアーデルです。英国魔法界の剣であり、弱き者の庇護者。傷を負うのは定められているんですよ───ただまぁ、これからの時代、そんなことはさせませんが」

 

 傷を負い続けるアーデルは自分で終わりにするのだと、目の前の青年は笑った。

 

「なるほど……なるほど。私はどうやら君に謝らねばならないようだ」

「それはまた何故?」

「私がダンブルドアの旧友だというのは、先程話したね。故に私は彼の苦悩を一部だけとは言え知っている───そう、グリンデルバルドの事を」

 

 その名前を口にした瞬間に、リオンの片眉が上がって口を引き結んだのをノリヒコは視界に捉えた。

 

「……何故、グリンデルバルドの名前を?」

「当時、グリンデルバルドの名はこちらにも届いていたのでね。実際に一度だけその顔を直に見たことがあったが……いやはや。彼のように何もかもを利用して操ろうとする輩はそうはいまいと思ったものだよ」

「それが()に対する謝罪にどう繋がると?」

「君はゲラート・グリンデルバルドの曾孫なのだろう?」

 

 何てことのないように呟かれたその言葉にリオンは息を詰まらせる。

 

「……ご存知だったとは」

「すまない。驚かせるつもりはなかった……私が謝りたかったのは、こうして君をグリンデルバルドの曾孫として見てしまったことなのだよ」

「ちょ、頭を上げてください!?」

 

 目尻を伏せて心底申し訳なさそうに頭を下げるノリヒコを見て、この人が悪いわけではないと思い出したリオンは慌ててそれを止めにかかる。

 なんとか頭を上げさせ、落ち着こうと湯呑みに注がれた茶を啜り一息ついた。

 

「確かに私は貴方の言うようにグリンデルバルドの血を引いている。いわゆる悪徳の血というものを」

「だが君は正道を選んだ」

「そうでしょうとも。私も父も祖母も──グリンデルバルドの血を引く者は皆正しい道を行った」

 

 最もグリンデルバルドの血を引いていた祖母──ユスティア・グリンデルバルドは自身の夫と共に闇の帝王に立ち向かいその命を散らした。

 気高い祖母だ。気高く美しく優しい人だったのだと、かつて学生だった自分は内に宿っていた祖父に聞かされていた。

 

「私はこの事実を隠し通します……元より代々のアーデル当主も似たようなことはしてきたようですから」

 

 その最たるものこそ五百と少し前に起きた戦争──アーデルとマッキノンが盟約を結ぶ切っ掛けとなった戦争だ。

 その戦争を起こしたのは当時のゴーント家当主。積もりに積もった怨みを爆発させ、アーデルを、グリフィンドールを滅ぼさんと大乱を引き起こした。

 

 結果としてゴーントは戦争に敗れ、栄華を誇っていた彼らは衰退していった。そしてその戦争が終結して、とあるアーデルの魔法使いとゴーントの娘が結び付いたのだ。

 当時のアーデルはゴーントに対する怒りが最も強く、そんな家の娘と結び付いたアーデルの人間を赦さず家系図から抹消した。

 数多あるアーデルの闇の中で最も濃い出来事であった。

 

「清廉潔白な騎士だ何だと言われていても結局は同じ人間。後ろ暗い事だってすることもあります」

「……強いな君は。清濁併せ呑む強さを身に付けている」

「友人達のおかげですよ。私一人ではこんなに強くなれなかった」

 

 改めて、自身はこの上なく恵まれている人間なのだと実感する。

 分かり合える親友達に心底から愛を捧げることの出来る人、アーデルで唯一スリザリンに組み分けされたのに冷遇することなく慈愛を持って接してくれた両親、愛しい我が子達──こんなに幸福なことは後にも先にも無いだろう。

 

 それからの二人は他愛も無い話で盛り上がった。ホグワーツのこと、マホウトコロのこと。クィディッチのこと。ノリヒコの得意な呪文が『プロテゴ・ディアボリカ』だと聞いて卒倒しかけたり、日本魔法界の御山には神がいると聞いたり(八岐大蛇もいるよと言われてリオンは頭に宇宙を浮かべた)……本当に様々なことを話した。

 

「随分長く話し込んだ……そろそろお暇しますよ。件の三校対抗試合の事は伝えたのでね」

「そうか。私も君と話せたこと、大変に有意義であったよ」

 

 立ち上がり、扉へと向かうリオンの背を座ったままノリヒコは見送る。そして扉の取っ手に手をかけたリオンがふと思い出したように振り返り、右手を胸に当てて軽く頭を下げる……魔法騎士の礼の簡略版を目の前の老人に捧げた。

 

「ではまたホグワーツでお会いしましょう。千手ノリヒコ校長先生」

「楽しみにしていよう魔法騎士……リオン・アーデル殿」

 

 

 

 

 

 

 マホウトコロの木造の廊下を歩く。周りでは生徒たちの無邪気な声が響いているが、リオンの前を先導する篠原晴菜はどこか申し訳なさそうに時折こちらを見てきた。

 

「申し訳ありませんこんなに騒がしくて……」

「いやいや。子供は騒いでなんぼ。これくらいホグワーツでも日常茶飯事さ」

 

 爆発音もしないしまだ大人しいものだとは、口にしなかった。それを聞いた晴菜はホッとしたように肩の力を抜く。どうやら何か言われやしないかと不安だったらしい。

 と、マホウトコロから帰還するための道を歩いていると、敷地の端で一人の影を捉えた。

 

「ん?」

「どうかしました──あぁ、あの子ですか」

 

 目に止まったのは、必死に杖を振って何かの呪文を練習しているらしい、黒髪黒目の至って平均的な日本人の少年。その少年の顔は中々呪文が成功しない苛立ちで歪んでいる。

 

「あの子は」

「同年代の中では優秀な子です。物覚えも悪くはないのですが……」

「何か問題でも?」

「悪戯好きなので……偶に教師や風紀委員会の子達の手を焼かせていると」

「ハハハ。そうか、悪戯好きか!」

 

 困った困ったと笑いながら、リオンはその子がいる方へと歩いていく。一体あの子の何が英国魔法界きっての英雄殿の琴線に触れたか分からない晴菜は「え? え?」と困惑しながら、スタスタと歩いていくリオンの後を追う。

 やがて件の少年はやってきた見知らぬ大人の男性とマホウトコロ始まって以来の秀才との呼び声高い女子生徒が同時にやってきたことで杖を振る手を止めて困惑したような表情になる。

 それにクスクス笑いを起こしたリオンは膝を地面について少年と目線を合わせ、穏やかに問いかけた。

 

「何の呪文を練習していたか聞いてもいいか?」

「え? うん、失神呪文」

「そうか失神呪文か」

 

 まだ十一歳くらいだろうに凄いなぁとリオンは少年の頭を撫でる。その、まるで兄か父親のような態度の見知らぬ男を前にして少年の脳内ははてなマークで埋め尽くされ、晴菜はコホンと咳払いをしてから「リオンさん?」と声を掛ける。

 

「おっと。いやすまない、将来有望な若者を見るとどうしてもな」

「それだけではなかったように思えますが……この子が気に入ったのですか?」

「頑張ってるなぁって思って」

 

 いよいよ菩薩のような笑みを浮かべ出したリオンに晴菜はより一層困惑したがなんとか持ち直して再度咳払いをすると目の前の英雄を促す。

 

「そろそろ行きましょう。この時間から出発しないとお土産を買えずにイギリスに戻ることになりますよ」

「それは避けたいな……あぁ、そうだ少年。君の名前は?」

 

 だから戻らないとお土産買えませんってば!と叫びたい己をなんとか律し、晴菜はリオンの行動を見守る。そしてそんなリオンに話を振られた少年もまた、困惑の顔を隠さないながらもその質問に答えた……なんか悪い人じゃ無さそうだしと思ったからなのもあるが。

 

「えっと、僕は神使 廻(かみつか めぐる)

「そうかそうか……廻、友達は大事にな」

 

 少年の名前を聞いたリオンは笑みを深くして廻の頭を撫でると立ち上がって、「遅くなってすまない。行こうか」とスタスタと歩き出す。それを晴菜が追い、一人残された廻は「何だったんだろうあの人」と首を傾げた。

 

 

 

 

 

『お客様にご案内します。当機は間もなく───』

 

 飛行機のアナウンスが鼓膜を叩く。それにゆっくりと目を開け、窓の外に広がる雲を眺めながら小さく笑みを溢した。

 

「まったく……人生ってのはホントに不思議で溢れているよ」

 

 『この世界』ではこうなのか、と男は何かを思い出してまたクツクツと笑い、男の横に座っていた乗客が突然笑い出した不審者に怪訝な顔をする。

 

「………『お前』は、幸せになれよ」

 

 誰にも聞こえないくらいに小さく呟いてから、男はもう一度微睡みに身を委ねた。




神使 廻:マホウトコロ五年生。十一歳。同学年の中では優秀だが一番というわけではない。だがリオンはそんな彼に目をつけ言葉を交わした。
短い会話ではあったが、廻はリオンを見て何か不思議な感覚に陥ったと言う。そしてリオンもまた廻に何かを感じたのか兄のような、父のような不思議な態度で接していた。
傍から見ていた晴菜はそんな二人を見て目の色も住んでいる国も違うのにこの二人が実の兄弟のように見えたと言う。


 お前のこれからの人生に幸福が訪れるよう祈っているよ、廻
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